政府は10月30日の定例閣議で、令和8年度一般会計の「中東情勢等対応予備費」から1兆1481億1341万円を使うことを決めた。財務省が公表した閣議決定の資料によると、内訳は経済産業省所管の「燃料油価格激変緩和対策事業に必要な経費」が1兆1458億6201万8000円、国土交通省所管の「タクシー事業者に対する液化石油ガス価格激変緩和対策事業に必要な経費」が22億5139万2000円。ガソリンなど燃料油の価格を抑える補助の財源を補うもので、高市首相が前日の記者会見で使用を指示していた。
この予備費は、6月の補正予算で2兆5000億円を計上して設けた。使用は9月1日の6160億1060万1000円に続いて2回目で、累計は1兆7641億2401万1000円と予算額の約7割に達した。残額は7358億7598万9000円となる。
決定の中身 燃料油の基金とタクシーのLPガス
燃料油の分は、経済産業省が10月29日付で財務大臣に出した予備費使用要求書に使い道が書かれている。一般社団法人全国石油協会が実施する燃料油価格激変緩和対策事業の「基金の造成に要する費用を補助する経費」で、補助率は定額。要求理由は「中東情勢に伴うエネルギー価格高騰の現下の状況に鑑み、燃料油価格の抑制により国民の命や暮らし、経済活動に支障が生じないようにするため」としている。
同省が同日公表した事業の説明資料によると、補助は国から基金を通じて石油元売事業者などに渡り、元売りが卸価格を抑える原資になる。対象の油種はガソリン、軽油、灯油、重油、航空機燃料の5つ。目標は「レギュラーガソリンの全国平均小売価格を想定価格水準に抑えること」としている。資料の冒頭には「令和8年度予備費予算額 1兆1,459億円」とある。
タクシーの分は、国土交通省の要求書によると、民間団体が行うタクシー事業者向けの液化石油ガス(LPガス)価格の激変緩和対策に対する補助で、地域公共交通確保維持改善事業費補助金の枠で出す。要求理由は燃料油と同じ文言で、対象が液化石油ガスになっている。
閣議案件の一覧(首相官邸)では、一般案件として「令和8年度一般会計中東情勢等対応予備費使用(2件)について(決定)」と記載されている。2件は、この経産省と国交省の2事業を指す。
9月1日の初回と比べると
中東情勢等対応予備費からの支出は、9月1日の閣議決定が初めてだった。このときは燃料油の補助に6136億3909万4000円、タクシーのLPガス補助に23億7150万7000円を充てた。今回は燃料油の額が初回の約1.9倍に増え、タクシー分はほぼ同じ規模になった。
| 決定日 | 燃料油の補助(経産省) | タクシーのLPガス補助(国交省) | 合計 | 決定後の残額 |
|---|---|---|---|---|
| 9月1日 | 6136億3909万円 | 23億7151万円 | 6160億1060万円 | 1兆8839億8940万円 |
| 10月30日 | 1兆1458億6202万円 | 22億5139万円 | 1兆1481億1341万円 | 7358億7599万円 |
出典: 財務省「令和8年度一般会計中東情勢等対応予備費使用」(9月1日・10月30日閣議決定)
2回分を合わせると、燃料油の補助には1兆7595億円、タクシーのLPガス補助には46億円を予備費から出したことになる。2兆5000億円の使い道は、ほぼ燃料油の補助に向かっている。
中東情勢等対応予備費(予算額2兆5000億円)の使用と残額(億円)
数値で見る(単位: 億円)
| 項目 | 億円 |
|---|---|
| 9月1日 | 6,160 |
| 10月30日 | 11,481 |
| 残額 | 7,359 |
予備費とは 6月補正で2.5兆円を別枠に
予備費は、予算を組んだ時点で見込めなかった支出に備えて、使い道を決めずに積んでおくお金だ。財政法24条は「予見し難い予算の不足に充てるため」に内閣が予算へ計上できると定める。使うときは各省庁が理由と金額、積算の根拠を示して財務大臣に要求し、財務大臣が調整して閣議の決定を求める(35条)。国会の議決は事前には要らないが、内閣は使った額をまとめて次の常会に出し、承諾を求めなければならない(36条)。
令和8年度は、6月3日に閣議決定し6月5日に成立した補正予算(第1号)で予備費を積み増した。財務省の資料によると、補正の歳出は3兆1135億円で、うち3兆135億円が「今後への万全の備え」として、一般予備費5135億円と中東情勢等対応予備費2兆5000億円に充てられた。財源は全額が特例公債(赤字国債)の3兆1135億円で、補正後の一般会計の総額は125兆4228億円になった。
中東情勢等対応予備費は、使い道に枠がはめられている。補正予算の資料の注記は、中東情勢に伴うエネルギー価格の高騰などへの対応や、国際情勢の変化に伴う「緊急を要する経費以外には使用しないものとする」としている。一般予備費とは別の財布で、一般予備費は10月27日の閣議決定の時点で予算額1兆5135億円に対し、残額が7089億1430万円だった。
首相の会見と「1日100億円」
高市首相は10月29日の記者会見で「当面のガソリン支援に必要な『基金規模』を確保するため、『中東情勢等対応予備費』の使用を指示いたしました」と述べた。今回の閣議決定はこの指示を受けたものだ。関連する首相の表明は「ガソリン補助、12月から基準価格を毎月5円上げ 首相表明 電気・ガス支援は12月に前倒し」で詳しく伝えている。
首相は同じ会見で、ガソリンの補助単価が1リットル当たり50円を超え、2022年1月の措置開始以降で最高の水準にあると説明した。「国民の皆様の貴重な税金を、1日あたり100億円を超えるペースで使用して価格を抑えている」とも述べ、燃料油支援の基金への支出は開始以降の累計で約9.6兆円、高市内閣では約1.4兆円に達したと明らかにした。
そのうえで、12月以降は原油価格の動向を見ながら、春先に向けて「基準価格」を毎月5円ずつ引き上げることを基本に対応すると表明した。基準価格が上がれば、同じ原油価格でも補助単価は小さくなり、1日あたりの支出も減る。
今回積み増した1兆1458億円を、首相の言う1日100億円で単純に割ると、約115日分に当たる。ただし12月以降は補助を縮める方針で、原油価格によっても1日の支出は変わる。基金がいつまで持つかは、縮め方と原油価格の動き次第で、政府は見通しを示していない。
今後の焦点
予備費の残りは、中東情勢等対応予備費が7358億円、一般予備費が7089億円で、合わせて約1兆4400億円になる。中東予備費は2回で7割を使った。残りの7358億円は、今回燃料油に充てた1兆1458億円を下回り、同じ規模の支出をもう一度まかなうことはできない。
予備費の残額は国会の論戦でも材料になっている。立憲民主党は10月7日に発表した政府の消費税減税・支援金への対案で、年度内の給付は予備費で賄えるとし、資料に予備費の残額として中東情勢等対応予備費1.9兆円、一般予備費0.7兆円を挙げていた(「立憲民主党、食料品減税から「給付中心」へ転換の対案 2026年度内に住民税非課税世帯へ給付、2027年4月に簡易版、2029年4月に給付付き税額控除 政府案には反対」)。今回の決定で中東予備費の残額は1兆8840億円から7358億円に減り、残りの使い道をめぐる議論は前提が変わる。
12月から2月の電気・ガス料金の支援や、輸入灯油への財政措置について、首相は会見で実施を表明したが、財源の手当ては今回の閣議決定には含まれていない。これらの財源をどう手当てするかは、決まり次第、閣議決定などで示される。予備費で使った額は、来年の通常国会で承諾を求める手続きに入る。
