経済産業省は10月30日、製品安全に優れた取り組みをした企業を表彰する令和8年度の「製品安全対策優良企業表彰」(PSアワード)で、9社の受賞を決めたと発表した。最高位の経済産業大臣賞は、福岡市のシェアサイクル運営会社、チャリチャリの1社だった。あわせて、消費者の誤使用や不注意による事故の危険を減らした製品を表彰する製品部門「+あんしん」で、5製品の受賞を決めた。表彰式は11月12日、東京都千代田区のイイノカンファレンスセンターで開く。
平成19年度に始まり今年で20回目
PSアワードは、企業による製品安全の取り組みをたたえ、事業活動や消費生活の中で製品安全を重要な価値として定着させることを目的に、経産省が平成19年度から実施している。今年度が20回目にあたる。
審査は有識者でつくる審査委員会が行い、委員長は消費生活アドバイザーの釘宮悦子氏が務めた。審査の視点は4つで、安全な製品を製造・輸入・販売するための取り組み、製品を安全に使ってもらうための取り組み、出荷後に安全上の問題が分かったときの取り組み、製品安全文化を築く取り組みを見る。部門は製造・輸入事業者と小売販売事業者に分かれ、それぞれ大企業と中小企業で審査する。このほか団体やネットモール運営事業者などを対象にした特別賞がある。
今年度の受賞は、経済産業大臣賞1社、技術総括・保安審議官賞4社、審査委員会賞の優良賞2社、同特別賞2社の計9社。部門によっては「該当企業なし」とされた賞も多く、大企業の大臣賞は製造・輸入、小売販売の両部門とも該当がなかった。
| 賞 | 受賞企業 |
|---|---|
| 経済産業大臣賞 | チャリチャリ(中小・製造輸入) |
| 技術総括・保安審議官賞 | アシックス、パナソニック エレクトリックワークス(大企業・製造輸入)、ジャパネットホールディングス(大企業・小売販売)、セリオ(中小・小売販売) |
| 優良賞(審査委員会賞) | 東芝ライフスタイル、ライオン(大企業・製造輸入) |
| 特別賞(審査委員会賞) | ボーケン品質評価機構(団体)、楽天グループ(ネットモール運営) |
出典: 経済産業省「令和8年度 第20回製品安全対策優良企業表彰 審査結果報告」
大臣賞のチャリチャリは利用データを事故分析に使う
経産省が公表した審査結果報告によると、大臣賞のチャリチャリは2019年設立で、従業員は43人。利用ログや走行軌跡、速度などのデータを事故原因の分析に使い、保守点検や事故対応で分かった不具合を、スマートロックの構造変更や前輪の泥よけの廃止のように次のロットや仕様に反映している点が評価された。車体は中国の製造工場での全台点検と、国内倉庫での出庫前点検の2回の全数点検を経て投入し、新車は約1か月で初回点検をした後、車体ごとに半年単位で点検の指示を出している。事故対応の専門チームを置き、全社員が入社時に運営現場を経験する仕組みも挙げられた。
技術総括・保安審議官賞と優良賞の選出理由には、「サイレントチェンジ」への対策が目立った。サイレントチェンジは、部品や材料の供給元が発注側に知らせずに仕様を変えることを指す。アシックスは10数か所の工場に赤外分光(IR)装置を入れて靴底の素材を分析し、指定した材料との違いがないかを確かめている。審査結果報告は、検査そのものが抑止力となり、材料の無断変更にあたる事例は「ほぼなくなっている」と記した。パナソニック エレクトリックワークスは、購入した電子部品をX線や断面観察で解析し、過去のサンプルとの違いを定期的に調べている。
東芝ライフスタイルは、株主である中国の家電大手、美的集団(Midea)と品質包括契約を結び、新しい供給元の導入や途中変更を原則禁止として、同社の承認なしには変えられない体制をとる。冷蔵庫の戻入発生率は2022年の1.64%から2025年の0.82%に下がったという。
小売りは問い合わせの変化から無断の仕様変更を探す
小売販売事業者の部門では、ジャパネットホールディングスが、自社のコールセンターに寄せられる問い合わせの急な変化を分析し、メーカーに確認している点が評価された。エアコンの異常音の問い合わせが増えたことからホースの素材が変わったことを、除湿剤で体調不良になったという訴えから乾燥期間が短くなったことを突き止め、報告のなかった仕様変更の是正につなげた例が挙げられている。新商品の取扱説明書や構造をAIに入力し、予想できる誤使用を洗い出す取り組みもしている。
浜松市で電動車いすなどを扱うセリオは、利用者の自宅を訪ね、通院先や買い物先など実際に使う経路で安全運転の指導をしてから納品している。指導は販売・レンタルの条件で、実施率は100%。安全を確保できないと判断した場合は、家族らと相談のうえ納品を見送ることもある。
特別賞の楽天グループは、5万以上の店舗が出店する楽天市場などで、ガイドラインに違反した店舗に段階的な措置をとり、理解度試験付きのeラーニングを課している。官公庁の担当者を講師にした法令勉強会を年4回程度開いている。団体部門のボーケン品質評価機構は、既存の規格がない新しい商品について、構造や実際の使われ方を踏まえた試験方法を一から提案している点が評価された。優良賞のライオンは、年間約6万件の顧客の声を全件確認し、年間1億本を超える歯ブラシを全数目視で検査しているほか、誤飲の事例を受けてボタン電池を使う製品を扱わない方針をとっている。
「+あんしん」は誤使用の事故を減らした5製品
製品部門の「+あんしん」は、特定の誤使用や不注意を防ぐ対策をとった製品について、事故の危険がどれだけ下がったかを評価し、効果が認められた製品に分かりやすい表示をする制度だ。経産省は、重大製品事故の発生要因の約3割を消費者の誤使用や不注意が占め、若年層や60歳以上の高齢者層では6割を超えると説明している。
| 製品(事業者) | 主な対策 |
|---|---|
| 車いす用電動昇降機(いうら) | 昇降の途中では遮断棒やスロープを開けられない連動機構で転落を防ぐ |
| 半固体モバイルバッテリー(エレコム) | 半固体電池を使い、落下や圧迫でセルが傷んだときの発火を防ぐ |
| 蒸気レスVE電気まほうびん(タイガー魔法瓶) | 蒸気口をなくし、沸騰時の蒸気を冷やして水に戻す構造でやけどを防ぐ |
| 苦み成分塗布コイン形リチウム電池(パナソニック エナジー) | 電池本体に苦み成分を塗り、乳幼児の誤飲を防ぐ |
| 電気カーペット・電気毛布(パナソニック) | ヒーター線を二重構造にするなどして断線による発火を防ぐ |
出典: 経済産業省「令和8年度『PSアワード』受賞企業及び『+あんしん』受賞製品を決定しました」、同「審査結果報告」
パナソニック エナジーの電池(型番CR2032E)は、電池本体の9か所に苦み成分を点在させて塗り、通電性能を保ちながら誤飲を防ぐ。審査結果報告によると、1〜6歳の乳幼児30人を対象にした検証で、86%が口から吐き出すか吐き出そうとし、飲み込んだ子は一人もいなかった。コイン形リチウム電池は、飲み込むと体内での化学反応で食道などに重い損傷を起こすおそれがある。
エレコムのモバイルバッテリーについて、審査結果報告は、令和6年に全国で起きたリチウムイオン電池関連の火災982件のうちモバイルバッテリーによるものが290件と最も多く、原因は不明・その他を除くと「外部衝撃」が最多だと記した。第三者試験機関で、500回の充放電を経た満充電のセル5個を最大20キロニュートンで押しつぶす試験をしたところ、いずれも発火や爆発、液漏れはなかった。持ち運び中の発火をめぐっては、消費者庁も鞄やリュックに入れたモバイルバッテリーから出火 9月に報告の3件はいずれも持ち運び中 リコール対象の40万1771台、回収率は55.3%という形で事故を公表している。
パナソニックの電気カーペット・電気毛布では、2014年から2025年に同種の暖房機器で157件の製品事故があり、うち42件がヒーター線の断線に関連していたという。
11月12日に表彰式、11月は「製品安全総点検月間」
受賞製品には、対策の効果を説明する文言を添えたマークを表示する。たとえば苦み付きの電池には「この製品は誤使用・不注意をきっかけとした誤飲のリスク低減が図られた製品です。」と付記する。文言は審査・運営委員会が示し、事業者が受け入れた。
11月12日の催しは、PSアワードの20周年を記念したもので、午後1時からの表彰式に続き、「製品安全から考える“価値創造”」と題したトークセッションや、「製品安全を選ばれる力に変える」をテーマにしたパネルディスカッションを予定する。会場の別室では、これまでに受賞した企業・団体の取り組みを紹介する展示を午後0時30分から6時まで開く。
経産省は11月を「製品安全総点検月間」としており、家庭にある製品をいま一度確認するよう呼びかけている。
