日本は石油を使う量を減らしてきたが、原油をどこから買うかは中東に集めていた。内閣官房の資料によると、国内のエネルギー供給に占める石油の割合は、第1次石油危機前の1972年度の74.1%から2024年度には34.5%まで下がった。一方で、原油輸入に占める中東の割合は80.7%から95.9%に上がっている。2月末に中東情勢が緊迫し、原油タンカーがホルムズ海峡を事実上通れなくなると、この偏りがそのまま弱点になった。国は石油備蓄を取り崩し、補助金でガソリン価格を抑えて時間を稼いでいる。そのうえで、平時から中東以外の調達を支える法案を国会に出した。本稿では、依存の構造、危機で起きたこと、価格の抑え方、調達先の切り替えと制度の整備を順に追う。

石油は減らしたが、買う先は中東に集めた 中東依存度は95.9%

まず、依存の形を確かめる。内閣官房GX実行推進室が8月26日のGX実行会議に出した資料は、半世紀の変化を5つの年度で並べている。エネルギー供給に占める石油の割合(石油依存度)は1972年度74.1%、1978年度72.9%、1987年度56.2%、2013年度42.8%、2024年度34.5%と下がり続けた。原油の輸入量も1972年度の2.47億キロリットルから、2024年度は1.36億キロリットルに減っている。2度の石油危機の後、原子力や再生可能エネルギー、省エネを進めてきた結果である。

ところが、原油輸入の中東依存度は同じ期間に逆の動きをした。1972年度80.7%、1978年度77.9%と高かった比率は、1987年度に67.9%まで下がったが、2013年度に83.6%、2024年度には95.9%に達した。資料は、アジアの産油国が自国の経済成長で輸出の余力を失ったことや、ロシアのウクライナ侵略で調達先の選択肢が狭まったことを理由に挙げ、「一度低減していた原油の中東依存度は、近年、再び高まっていた」と書いている。

石油依存度と原油の中東依存度(%)

石油依存度中東依存度

025507510074.180.772年度72.977.978年度56.267.987年度42.883.613年度34.595.924年度
出典: 内閣官房GX実行推進室「エネルギー需給構造の強靱化に向けた我が国GXの加速について」(第17回GX実行会議資料1)
数値で見る(単位: %)
項目石油依存度中東依存度
72年度74.180.7
78年度72.977.9
87年度56.267.9
13年度42.883.6
24年度34.595.9

使う量は減ったのに、買う先は一点に寄った。高市首相が9月にパワーGX戦略の取りまとめを指示した場面では、この95.9%という数字が政策の出発点として示されている(「高市首相、「パワーGX戦略」を年末までにまとめるよう赤澤経産相に指示 原油輸入の中東依存度は95.9% 原子力の最大限活用と次世代地熱・ペロブスカイトが柱」)。

偏りは原油だけではない。同じ資料によると、プラスチックなど化学製品の原料になるナフサは、ホルムズ海峡に依存する原油を精製した国からの輸入も含めると、ホルムズ海峡経由の調達が約5割を占める。これに対し、発電や都市ガスに使う液化天然ガス(LNG)は調達先の多角化が進んでおり、資源エネルギー庁によると中東依存度は約1割にとどまる。同じ化石燃料でも、原油と石油製品の側に弱点が集まっていた。

ホルムズが止まり、弱点が表に出た 原油もナフサも詰まった

その弱点が、2026年に表に出た。赤澤亮正経済産業相は10月16日の会見で、対応の起点を「2月28日の中東情勢の緊迫化」と述べている。経済産業省は10月13日の発表で、この情勢変化により「長期間にわたって原油タンカーが事実上ホルムズ海峡を通ることができない状況が生じました」と説明した。ホルムズ海峡はペルシャ湾の出口にあたる海峡で、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)、クウェートなど日本の主な調達先の積み出し港は、この内側にある。

影響は原油にとどまらなかった。GX実行会議の資料は、今回の混乱で原油に加えてナフサなどの石油製品にも「供給の偏りや目詰まり」が生じたと記す。ナフサは石油備蓄の対象になっていなかったため、ナフサ由来の化学製品で流通の目詰まりが起きた。資源エネルギー庁は燃料油や潤滑油、石油由来の化学品・製品について、買い占めや売り残しの情報を事業者や消費者から受け付ける窓口を設けた。

国際エネルギー機関(IEA)が10月14日に公表した石油市場報告によると、2026年の世界の石油供給は前年より日量580万バレル減って1億70万バレルになる見通しだ。9月は湾岸産油国の原油輸出が日量1390万バレルまで戻り、開戦前の75%を超えた。ホルムズ海峡を通る石油の流れも日量1090万バレルに増えた。一方で、中東からの石油製品の出荷は日量190万バレルと、開戦前の470万バレルの半分に届いていない。原油が戻り始めても、製品は戻りが遅い。IEAの9月時点の見通しは「IEA、今年の世界石油供給を日量570万バレル減に下方修正 湾岸の回復は2027年へ先送り 米軽油は開戦前の1.94倍」で追った。

打撃を受けたのは日本だけではない。GX実行会議の資料によると、ホルムズ海峡を通る原油の約9割はアジア向けだ。3月時点で、フィリピンは原油のホルムズ依存度が94%で、原油と石油製品の備蓄は53日分、ベトナムは81%で30日分だった。日本より備蓄の薄い国が、同じ海峡に頼っていた。

時間を稼いだのは備蓄 国家備蓄は146日分から102日分に

供給が止まった間をつないだのは、石油備蓄である。資源エネルギー庁によると、日本は2026年2月時点で約8か月分の石油を備蓄していた。備蓄は、国が持つ「国家備蓄」、石油備蓄法に基づいて石油精製業者などが義務として持つ「民間備蓄」、UAE・サウジアラビア・クウェートと共同で持つ「産油国共同備蓄」の3つからなる。

政府は3月下旬に国家備蓄原油の第1弾の放出を始め、5月に第2弾を出した。民間備蓄の義務量も引き下げた。資源エネルギー庁が毎日公表している推計値の速報によると、3月14日時点で146日分あった国家備蓄は、4月14日時点で138日分、5月12日時点で120日分、6月16日時点で106日分に減り、10月13日時点では102日分になっている。3つを合わせた備蓄の合計は、242日分から201日分に減った。

石油備蓄の日数(日分)

合計国家備蓄

501001502002503002421992011461021023/145/127/149/1510/13
各日時点の推計値。合計は国家・民間・産油国共同備蓄の合計出典: 資源エネルギー庁「石油備蓄の状況(推計値の速報)」
数値で見る(単位: 日分)
項目合計国家備蓄
3/14242146
4/14220138
5/12208120
6/16201106
7/14203103
8/18205103
9/15199102
10/13201102

国家備蓄の減りは6月以降ほぼ止まったが、元の水準には戻っていない。夏以降は国家備蓄が102〜103日分、民間備蓄が90日分台で推移し、合計は200日分前後で横ばいになっている。GX実行会議の資料は、日本が「世界に先駆けて石油備蓄の放出を決定」したと記している。

備蓄の取り崩しは各国で続いている。主要7か国(G7)の首脳は10月2日の声明で、国際エネルギー機関を通じた1億バレルの協調放出で合意した。4か月かけて放出し、最初の20日間は軽油を前倒しで出す。IEAによると、世界の石油在庫は9月時点で2月末より5億900万バレル少ない。詳しくは「G7、石油備蓄1億バレルの協調放出で合意 最初の20日は軽油を前倒し 日本の国家備蓄は3月の146日分から102日分へ減っている」にまとめた。

価格は補助金で抑えている ガソリンは1リットル43.0円の補助で170円程度

備蓄が量を支える一方、価格は補助金で抑えている。高市首相は3月11日、ガソリンの全国平均小売価格が170円程度を超えないよう、170円を超える部分を全額補助する緊急措置を指示した。軽油・重油・灯油にもガソリンと同額を補助し、3月19日出荷分から支給が始まった。首相はこのとき、原油が1バレル120ドルに迫る局面があったとし、ガソリン価格が1リットル200円を超える可能性に触れていた。資源エネルギー庁の資料によると、指示の直前、3月9日のガソリン全国平均価格は161.8円だった。

その補助は、いまも大きい。10月15日以降の支給単価はガソリン・軽油・灯油・重油がいずれも1リットル43.0円、航空機燃料が34.4円である。資源エネルギー庁の石油製品価格調査によると、10月13日時点のレギュラーガソリンの全国平均は1リットル170.1円、軽油は159.6円で、灯油の店頭価格は18リットル2563円だった。店頭の価格は170円の目安に張り付いているが、それは毎週見直される補助で支えている。

税の面では、もう一つの変化が重なる。ガソリンの暫定税率は2025年度中に廃止され、軽油の暫定税率も2026年4月1日に廃止された。財務省の税収の集計によると、2026年度の揮発油税収は8月末までの累計で2402億円となり、前年同期の49.0%にとどまった。2026年度の予算額は9720億円で、2025年度の決算額1兆8479億円のおよそ半分である。この推移は「揮発油税の収入、8月末までに2402億円で前年同期の49.0% ガソリン暫定税率の廃止が反映 地方揮発油税は87.1%で国と地方の減り方に差」で追った。税を下げたうえに補助を積んで、店頭の価格を保っている。

冬を前に、灯油にも手当てが広がった。赤澤経産相は10月16日、国内で必要な量は確保できているとしたうえで、国際的な精製能力の低下で輸入灯油の価格が高止まりしていると説明した。石油元売りや輸入商社、卸売業者に前年同月と同じ量の販売・注文を求め、流通が詰まった場合に元売りが直接販売する「灯油直販スキーム」を新設し、輸入価格と国内卸価格の差額を「輸入灯油調整単価」として補助する。IEAは10月の報告で、軽油の需給の逼迫が2027年にも続くとの見通しを示している。

迂回の費用も補助に上乗せ 中東産は3割減り、米国産は7倍に

中東以外から買えば、その分だけ費用がかさむ。資源エネルギー庁によると、中東情勢の変化以降、元売りや輸入業者が国際市場価格を上回って支払う金額が増えた。7月には「前年平月比で約10割の代替調達が実現する見通し」だとして、政府は補助の計算方法を改めた。代替調達の割増し分から、国家備蓄を前月の公式販売価格で譲り渡したことによる支払いの減少分を差し引き、「調整単価」として支給単価に足している。7月の調整単価は1リットル4.9円で、10月分は3.7円だった。

調達先の入れ替わりは、貿易統計に表れている。財務省の8月分の貿易統計(速報)によると、8月の原油の輸入量は1159万4000キロリットルで前年同月より3.6%多かった。このうち中東からは725万5000キロリットルで30.9%減り、米国からは365万9000キロリットルで前年同月の7倍に増えた。量の上では、中東の穴を米国産で埋めた形になる。月ごとの動きは「8月の貿易赤字1兆1056億円、前年同月の3.8倍 米国産原油の輸入量は7倍に 中東産は3割減り、調達先が入れ替わる」に詳しい。

ただ、遠い調達先は輸送に時間がかかる。GX実行会議の資料は、主要な積み出し港から日本までを時速約22キロメートルで走った場合の参考日数として、UAEやサウジアラビアなど中東の積み出し港からは21〜23日、米国からは55日と示している。資料は、ホルムズ海峡内からの調達に比べ、代替調達は輸送費などが割高になり得ると指摘する。危機の間は、その割高分を補助金が肩代わりしている。

電気とガスは比較的持ちこたえた LNGの中東依存は約1割

石油に比べ、電気と都市ガスへの打撃は小さかった。先に見たとおり、LNGの中東依存度は約1割にとどまる。資源エネルギー庁によると、3月1日時点で電力・ガス会社は400万トン弱のLNGを在庫として持っていた。これはホルムズ海峡を経由して届くLNG輸入量の1年分にあたる。中東からの供給に支障が出る場合は、他の供給国やスポット市場からの調達を増やして対応するとしている。

それでも、電気・ガス料金への支援は実施された。資源エネルギー庁は、料金が「今月や来月に直ちに大きく上昇する可能性は低い」としつつ、その後は燃料輸入価格の上昇が電気料金に反映されていくと見込み、使用量が多い7〜9月使用分の料金を値引きした。値引き単価は、家庭などが使う低圧電力が7・9月使用分で1キロワット時3.5円、8月使用分で4.5円、都市ガスは1立方メートル14.0円と18.0円だった。

備えも重ねている。エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は9月11日、マレーシア国営石油会社ペトロナスのLNG部門と、電力・ガスの安定供給に支障が出るおそれのある緊急時にLNGの供給確保を図る連携枠組みに合意した。内容は「緊急時のLNG、マレーシアから融通 JOGMECがペトロナスと枠組み合意 マレーシアは日本のLNG輸入先2位で15.7%」で伝えた。調達先が分かれていたLNGは、在庫と融通の枠組みで持ちこたえる形になっている。

国は「平時から迂回する」制度へ 資源3法案と特定タンカー法

危機の後始末から、平時の仕組みづくりへ移り始めた。高市首相は10月5日の所信表明演説で、原油などの特定経路への依存を減らし、調達先の多角化とリスク低減を徹底する制度を整備すると述べた。政府は10月13日、資源確保関連の3法案を閣議決定した。開会中の第222回国会に提出される予定だ。

中心となる原油等調達多角化法案は、ホルムズ海峡のような特定の水路(指定水路)への依存を減らす取り組みをする事業者に、その費用を交付金で支援する。原資は、指定石油製品の製造・輸入業者から集める納付金で賄う。経済産業省は狙いを「危機時と平時のリスク・コストを平準化する」と説明している。危機のたびに補助金で割高な代替調達を肩代わりするのではなく、平時から迂回の費用を業界全体で負担しておく考え方である。

残る2本は、運ぶ手段を守る。原油等輸送保険法案は、外国政府などが自国の保険会社に再保険の引き受けを禁じ、原油の海上輸送の保険が結べなくなった場合に、政府が国内の損害保険会社に交付金を出す。JOGMEC法の改正案は、原油などの輸送事業への出資・債務保証や、バイオ燃料の製造事業への出資などをJOGMECの業務に加える。3法案の内容は「原油調達多角化など資源3法案を閣議決定 ホルムズ迂回に交付金、再保険停止は政府が肩代わり」にまとめた。国土交通省も10月16日、タンカーの船主責任保険の再保険が止まった場合に国が肩代わりする特別措置法の対象を、原油に加えてLNGと石油製品へ広げる改正案を閣議決定した。

GX実行会議の資料は、このほかに、国家備蓄でナフサの国内精製分にあたる原油を確保することや、ホルムズ海峡を通らない代替パイプラインの建設支援を検討項目に挙げている。対外的には、赤澤経産相が10月11日にサウジアラビアで開かれた国際エネルギー・フォーラム(IEF)閣僚会合にオンラインで出席し、アジアの石油備蓄制度の整備や産油国との連携を進める方針を説明した。

結論 備蓄と補助は時間稼ぎ。次は平時に迂回の費用を払う段階

日本の石油の弱点は、使う量ではなく、買う先の偏りにあった。石油依存度を半世紀で74.1%から34.5%に下げても、原油の95.9%を中東に頼る構造は、ホルムズ海峡が止まった瞬間に供給と価格の両方を揺さぶった。

これまでの対応は、備蓄と補助金による時間稼ぎである。国家備蓄は146日分から102日分に減って戻っておらず、ガソリンの補助は1リットル43.0円に達している。米国産原油を7倍に増やして量は埋めたが、遠い調達先から運ぶ割増しも補助で賄っている。いずれも危機の間をつなぐ手段で、備蓄は取り崩した分だけ減り、補助は国の財政から出ている。

国会に出る資源3法案は、その割増しを危機のたびに税金で埋めるのではなく、平時から業界の納付金で負担して調達先を散らしておく仕組みである。日本のエネルギー政策は、石油を「減らす」段階から、石油を「どこから買うか」を分散させる段階に入った。