総務省は10月30日、都道府県や市町村の長が病気などで意識不明となり、回復の見込めない状態が長く続くと見込まれる場合の扱いについて、各都道府県と政令指定都市に通知を出した。医師の診断書などから、客観的に「意識不明で近い将来に回復の見込みがないような場合」と判断できるときは、地方自治法と公職選挙法の上で長が「欠けた」と解して差し支えないとした。秋田県八郎潟町で、意識不明となった町長が自ら辞職を申し出られず、町議会が不信任議決によって失職させるほかなかった事案を受けたもので、総務省は法律による制度化も視野に検討を続ける。
「欠けた」と扱ってよい、判断の前に議会へ報告を
通知は自治行政局行政課長の名で出された「総行行第507号」で、地方自治法第245条の4第1項に基づく技術的な助言にあたる。法的な拘束力はなく、現行の法律を前提にした当面の運用を、問いと答えの形で整理している。各都道府県には、政令指定都市を除く管内の市区町村へも周知するよう求めた。
1つ目の問いは、首長が意識不明で回復の見込めない状態が長期に及ぶとき、地方自治法第152条第1項と公職選挙法第111条第1項第4号にある長が「欠けたとき(場合)」に、この状態を含めてよいかというものだ。答えは、医師の診断書その他の資料に基づき、客観的にみて「意識不明で近い将来に回復の見込みがないような場合」と判断されるなら、長が「欠けた」と解することは差し支えないとした。
「欠けた」は法令上、死亡や辞職、失職などで長がいなくなった状態を指す。いったん「欠けた」と扱えば、副知事・副市町村長などの職務代理者が選挙管理委員会に知らせ、後任を選ぶ選挙の手続きに入れる。
2つ目の問いは、その判断をどう進めるかだ。通知は、長が法定の期日より前に退職するには議会の同意が要るとする地方自治法第145条を引き、影響を慎重に考える必要がある点では同じだとした。そのうえで、事前に議長へ十分な情報を提供することや、議会に報告することなど「判断の妥当性を担保する手段」を採ったうえで、職務代理者が長が欠けたと判断し、その日から5日以内に選挙管理委員会へ通知するのが望ましいとした。
藤井総務大臣は同日の閣議後会見で、この通知を発出すると説明し、「今後、法律による制度化も視野にさらに検討を進める予定」と述べた。
八郎潟町、本人の意思を確かめられず不信任議決に
通知のきっかけは、秋田県八郎潟町の事案だ。町議会の会議録によると、畠山菊夫町長は2026年2月6日、公務中に倒れて救急搬送され、緊急手術を受けた後も入院を続けた。
4月28日の町議会第1回臨時会では、町長職務代理者の小野良幸副町長が、町長の妻から議長あてに出された4月20日付の「要請書」を読み上げた。要請書は、町長が「今なお、ほぼ意識不明の状態」で、医師から早期に意識が十分に回復するのは困難だと伝えられたと記していた。そのうえで「法令上、本人の意識が十分に回復していない状態では、家族であっても、辞任の手続きは取れない」と聞いたとして、町長の処遇を議会の判断に委ねたいと求めた。小野副町長も同じ臨時会で、本人以外からの辞職願は家族であっても法律上無効だと確認していると説明した。
町議会は5月8日の第2回臨時会で、決議第1号「畠山町長が病気により職を辞することについて」を審議した。決議は、畠山町長が4期と約1年7か月にわたり町政を担い、学校給食費の無償化などに取り組んだと功績を挙げたうえで、町政の停滞を避けるため「苦渋の選択として、地方自治法第178条第1項に基づき、町長の職を辞していただく通知を致す」とした。
質疑では、議員の1人が、成年後見人を通じた手続きや第145条による退職ができないか検討したのかをただした。小野副町長は、第145条は本人に意思がある場合の退職の手続きで、今回は当てはまらないと判断していると答えた。採決は1人が退席して出席11人で行われ、可決に必要な9人に対し、賛成10、反対1で可決した。柳田裕平議長は閉会にあたり、「全国的にみても例のないこと」と述べ、議決後に第178条第1項に基づく不信任議決の通知をすると説明した。
町長が欠けたことを受けた町長選挙は6月23日に告示、28日に投開票された。新人の佐藤友紀氏が1,927票を得て、京極幸村氏の1,466票を上回り当選した。投票率は75.27%だった。
本人が申し出ない限り辞められない仕組み
なぜ議会は不信任議決という手段を選んだのか。首長が任期の途中で職を離れる道は、法律上限られている。
地方自治法第145条は、長が退職しようとするときは、知事は30日前、市町村長は20日前までに議会の議長へ申し出なければならないと定め、議会が同意すれば期日前の退職もできるとしている。総務省が内閣府の地方分権改革の提案募集に示した回答によると、この申し出は「明確な意思表示としてなされるべき」と解されてきた。本人が意識不明であれば、この道は使えない。
もう一つの道が第178条の不信任議決だ。議員数の3分の2以上が出席し、その4分の3以上が同意すれば議決でき、議長から通知を受けた長は10日以内に議会を解散できる。解散しなければ、その期間が過ぎた日に職を失う。本来は長と議会が対立したときの解決手段で、意識不明の長は解散を選ぶこともできない。八郎潟町議会はこの規定を使い、町長を失職させた。
一方、第152条は、長に「事故があるとき」や長が「欠けたとき」は、副知事や副市町村長が職務を代理すると定める。八郎潟町でも、町長が倒れた後は小野副町長が町長職務代理者として議会に出ていた。ただ、長が「事故がある」状態のままでは、職務代理が続くだけで後任を選ぶ選挙は行われない。長が「欠けた」ことになれば、公職選挙法第111条により職務代理者が5日以内に選挙管理委員会へ通知し、第34条により50日以内に選挙が行われる。今回の通知は、回復の見込みがない意識不明を、この「欠けた」に含めてよいとする解釈を示したものだ。
全国知事会の意見を受け、法改正も検討へ
藤井総務大臣の会見によると、八郎潟町と町議会が6月に、7月に秋田県の鈴木知事が問題を提起し、全国知事会からは、長が意識不明などで意思表示できない場合に不信任以外の方法で退職が認められるよう、制度の整備を求める要望が出ていた。
内閣府がまとめた2026年の地方分権改革の提案募集の資料では、全国知事会が別の提案への意見の中でこの問題に触れている。長が不慮の事故や病気で意思表示できなくなったとき、議会が不信任議決を行うことの是非には議論があるとし、回復が見込めない状況が相当程度長期に及ぶ可能性が高い場合には「適切にその退職等が認められるよう、必要な制度の整備を早急に行うことを求める」とした。通知の冒頭も、この意見を引いている。
これに対する総務省の第2次回答は、意識不明で第145条による退職ができない事案が実際に起き、「不信任議決による失職しか現実的に採り得る方法がない」として、ほかの対応策を検討する必要があると認めた。そのうえで、選挙で選ばれた長を本人が意思表示できない状態で退職させることになるため、手続きや要件を現行制度との均衡や諸外国の事例を参考に検討するとしていた。今回の通知は、この法制上の検討を続けながら、当面は現行法の解釈で対応できる範囲を示したものとなる。
判断の重さを誰が負うか、法律で定めるべきだ
今回の通知で、意識不明となった首長の家族や議会が、功績のある首長に「不信任」を突きつける形を取らずに済む道が開けた。八郎潟町議会の決議が「苦渋の選択」と書いたように、職務を果たせない首長を辞めさせるために、本来は対立の解決に使う規定を当てはめるのは筋が違う。町政の停滞を避けるという職務の観点からも、総務省が早く運用を示したことは妥当だ。
ただし、通知は判断の担い手を職務代理者に置いている。副知事や副市町村長は、地方自治法第162条により長が議会の同意を得て選任する。選挙で選ばれた長の地位を終わらせる判断を、その長に任命された職員が、医師の診断書と議会への報告を頼りに下す形になる。通知は議長への情報提供や議会への報告を「望ましい」とするにとどまり、どの程度の期間や診断があれば「回復の見込みがない」といえるのかの基準も示していない。
判断を誤れば、後から長の地位をめぐる争いになりかねず、責任を負うのは現場の職務代理者と議会になる。総務省は第2次回答で、手続きと要件を検討すると明言している。誰が、どの資料で、どの手続きを経て判断するのかを法律で定め、現場の職員と議会が個別の判断で責任を抱え込まない仕組みにすることが、次の課題になる。
