経済産業省は10月27日、中小企業・小規模事業者向けの「サイバーセキュリティ特別相談窓口」を設置した。各都道府県にある「よろず支援拠点」と、独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)の「IT経営サポートセンター」に同日付で設け、無料で相談を受け付ける。あわせて、全国の商工団体や金融機関、税理士などの支援機関を通じ、窓口や支援策をプッシュ型で中小企業に知らせる取り組みも始めた。
経産省は設置の理由として、日本の企業などに対する相次ぐサイバー攻撃で、大規模な情報漏えいの被害などが多数生じていることを挙げている。
前日の関係閣僚会議で首相が指示
窓口の設置は、政府が前日の10月26日に首相官邸で開いた第1回「サイバーセキュリティに関する関係閣僚会議」を受けたものだ。官邸の公表によると、高市首相は会議で「漏えいした情報を悪用した二次被害への不安が高まるなど深刻な事態」だと述べ、対策の強化を各閣僚に指示した。
首相は被害企業への支援について、情報処理推進機構(IPA)や警察の相談対応を充実させ、民間機関や地方自治体との連携も強めて「どこに相談しても必要なサポートを得られる体制」を整えるよう求めた。そのうえで赤沢経済産業相に対し、中小企業・小規模事業者向けに「相談窓口」の抜本的な拡充をはじめ、プッシュ型での情報提供を行うよう指示していた。経産省の発表文が設置理由に挙げた「相次ぐサイバー攻撃によって大規模な情報漏えい被害等が多数生じている」という認識は、首相の発言とほぼ同じ言い回しになっている。
首相は赤沢氏に、IPAが運用する中小企業向けの支援サービス「サイバーセキュリティお助け隊」を中小企業が十分に使えるよう、体制と支援策の拡充を速やかに検討することも求めた。政府は来週中をめどに「緊急対策パッケージ」を取りまとめる方針で、首相は各閣僚に財政措置を含めた検討を急ぐよう指示している。閣僚会議の詳細はサイバー対策の関係閣僚会議が初会合 首相、来週中に「緊急対策パッケージ」で伝えた。
窓口は2系統、相談は何度でも無料
経産省の参考資料によると、特別相談窓口は相談者の状況に応じて2つの入り口を用意した。
よろず支援拠点は47都道府県に設置されている中小企業向けの経営相談所で、経営上のあらゆる相談に何度でも無料で応じている。特別相談窓口としては、「具体的になにをやってよいかわからない方」や「経営全般の悩みとあわせて相談したい方」を想定する。IT活用や情報セキュリティを含む経営課題に対応し、必要に応じて専門家や関係機関を案内する。
中小機構のIT経営サポートセンターは、ITの専門家と話せるオンライン面談の窓口だ。参考資料は、ITや情報セキュリティを専門家に相談したい企業向けと位置づけ、中立的な立場のIT専門家が、情報セキュリティ対策、リスクの整理、情報資産の管理、管理体制などについて助言するとしている。1回60分で、何度でも無料で利用できる。中小機構によると、中小企業を支援する機関の担当者も相談できる。
| 窓口 | 想定する相談者 | 相談の形 |
|---|---|---|
| よろず支援拠点(47都道府県) | 何から始めればよいか分からない、経営全般の悩みとあわせて相談したい | 何度でも無料。必要に応じて専門家・関係機関を案内 |
| 中小機構 IT経営サポートセンター | IT・情報セキュリティを専門家に相談したい | オンラインで1回60分、何度でも無料 |
出典: 経済産業省「(参考資料)サイバーセキュリティ特別相談窓口」、中小企業基盤整備機構の各ページ
問い合わせ先は中小企業庁で、窓口全体は総務課、中小機構分は総務課機構班、よろず支援拠点分は経営支援課が受け持つ。
商工団体・金融機関・税理士を通じて知らせる
発表のもう一つの柱が「プッシュ型の情報提供」だ。中小企業が自ら窓口を探しに来るのを待つのではなく、中小企業と接点のある支援機関を通じて、窓口や支援策の情報を届ける。経産省は、全国の商工団体、金融機関、税理士を経路に挙げた。商工会・商工会議所を通じた情報提供は、中小企業庁の小規模企業振興課が担当する。
参考資料は、届ける情報として相談窓口のほか、対策に使える国の支援制度を並べている。その一つがお助け隊だ。IPAによると、お助け隊は中小企業がサイバー攻撃に対処するのに欠かせないサービスを一つのパッケージにまとめ、民間の事業者が提供するもので、IPAが2021年春に制度を始めた。参考資料は、相談窓口、システムの異常の監視、緊急時の対応支援、簡易なサイバー保険などを安価に提供するサービスだと説明している。IPAは該当するサービスに「お助け隊マーク」を付与している。
お助け隊を導入する費用には、「デジタル化・AI導入補助金」のセキュリティ対策推進枠が使える。参考資料によると、サービス利用料を最大2年分補助し、補助上限は5万〜150万円、補助率は中小企業が2分の1、小規模事業者が3分の2となっている。
支援制度とあわせて、参考資料は何から手を付ければよいか分からない企業に向けて、IPAの「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」でまず自社の対策状況を確かめるよう勧めている。ガイドラインには、すぐに使える「情報セキュリティ基本方針」や規程類のひな形を収めているほか、「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」という診断ツールも用意されている。
ひな形は「SCS評価制度」の要求事項にも対応しているという。参考資料によると、SCS評価制度は、企業のサイバー対策の状況を共通の基準で評価・可視化し、サプライチェーン全体のセキュリティ水準を高めるための制度だ。
企業からの相談は四半期で309件
IPAが企業・組織向けに2025年4月に開いた「サイバーセキュリティ相談窓口」には、相談が増え続けている。IPAの公表資料によると、2026年7〜9月の相談対応件数は309件で、4〜6月の302件から約2.3%増えた。前年同期の2025年7〜9月は162件で、1年でほぼ2倍になった。
IPA「サイバーセキュリティ相談窓口」の相談対応件数(件)
数値で見る(単位: 件)
| 項目 | 件 |
|---|---|
| 25年7-9月 | 162 |
| 25年10-12月 | 224 |
| 26年1-3月 | 283 |
| 26年4-6月 | 302 |
| 26年7-9月 | 309 |
7〜9月の内訳は、被害を受けた後のインシデント対応が56件、平時の対策が41件、偽のウイルス警告で電話をかけさせる「サポート詐欺」が70件、その他が142件だった。IPAがインシデント対応の相談を被害の種類で分けた図では、不正アクセスが17件、マルウェア感染が6件、ランサムウェア感染が5件だった。個人向け窓口を含めた相談の傾向はIPAへの個人のセキュリティ相談、7〜9月は3369件 前年比19%増 偽警告が3分の1で詳しく伝えた。
IPAの窓口に加えて全国に特別相談窓口ができたことで、中小企業は地元のよろず支援拠点でも、中小機構のオンライン面談でも、サイバー対策を相談できるようになった。
政府が来週中にまとめる緊急対策パッケージでは、お助け隊の体制と支援策の拡充が検討される。今回の特別相談窓口は、パッケージの取りまとめより前に、既存のよろず支援拠点と中小機構の相談窓口を使って設けられた。
