公正取引委員会は9月25日、「石油関連製品等の価格転嫁に関する緊急調査」の結果を公表した。受注者が発注者に値上げを要請したとき、要請した金額のうち実際に受け入れられた金額の割合(要請受諾率)は、エネルギー・原材料等のコスト全体で48.3%だった。要請した額のおよそ半分しか価格に反映されていない。

調査は、2026年2月以降の中東情勢を受けた石油関連製品の値上がりが、下請けなどの中小事業者にどこまで転嫁されているかを急いで把握するために実施した。対象は47業種の15万名で、6月26日から7月31日までウェブアンケートと電話調査を行い、2万7622名から回答を得た。回答率は18.4%。調べた行為の期間は2月28日から7月27日までで、立入調査は現在も続いている。

ここでいう「石油関連製品等」は幅広い。ガソリン・軽油・重油といった燃料のほか、ポリエチレンなどの樹脂・溶剤・ゴム・塗料といった原材料、出荷に使う石油由来のフィルムや包装資材、製造工程で消費する潤滑油や切削油までを含む。

4割は値上げ交渉を申し出ていない

受注者の立場で値上がりの「影響があった」と答えたのは64.1%で、製造業と流通業に限ると75%を超えた。具体的な影響としては「エネルギー、原材料、副資材、消耗品の価格が上昇し、利益が減少した」が約80%で最も多く、「調達難のため、出荷の抑制や納期の遅れが発生した」が約40%で続いた。

値上がりの影響を受けた受注者のうち、51.7%は発注者と協議したうえで一部でも価格転嫁を受け入れてもらえたと答えた。逆に「価格転嫁を申し出たが、協議に応じてもらえなかった」は0.8%にとどまる。公取委はこの数字について、受注者が協議を申し出れば発注者は協議に応じるという慣行が根付きつつある、とみている。

問題は、そもそも交渉の場に出ていない層だ。現時点で価格協議を申し出ていない受注者が38.5%にのぼった。理由として挙がったのは、発注者との力関係や、決まった時期にしか価格改定をしないという商慣習だった。業種別では放送業が82.8%、通信業が66.7%、不動産取引業が66.4%、各種商品小売業が62.9%と、6割を超える業種がある。協議に応じてもらえなかった割合が0.8%と低いのは、申し出ていない事業者がそれだけ多いことの裏返しでもある。

取引の下流にいくほど通らない

要請受諾率は業種によって開きが大きい。協議のうえで価格転嫁を受け入れてもらえたと答えた割合が70%を超えたのは、石油製品・石炭製品製造業(84.8%)、プラスチック製品製造業(78.1%)、建築材料・鉱物・金属材料等卸売業(74.8%)、印刷・同関連業(71.1%)だった。石油の値上がりが売値に直結し、交渉の材料にしやすい業種が並ぶ。

サプライチェーンのどの段階かでも差が出た。コスト全体の要請受諾率は、需要者から製造業者等への取引が48.9%、製造業者等から一次受注者へが49.1%、一次受注者から二次受注者へが49.4%と、ほぼ横並びで推移する。ところが二次受注者から三次受注者以降への取引だけは45.4%に落ちる。製造業に限るとこの段階は44.2%、エネルギー分野では33.6%まで下がる。発注元から遠い下流の取引ほど、値上がり分が止まってしまう構図だ。

要請受諾率の分布も二つの山に分かれている。「100%(満額)以上」が26.9%に達する一方、「0%超20%未満」や「20%以上40%未満」も一定数あり、全く通らない事業者と満額通る事業者に割れている。

発注者59名に注意喚起、年内に全都道府県で立入調査

公取委は、受注者から協議を申し入れられたのに協議せずに取引価格を据え置いたと回答した発注者59名に対し、注意喚起文書を送った。総合工事業者が、塗料や塩化ビニール管の高騰を理由とする十数名の工事業者からの要請に、契約済みを理由に一切協議しなかった事例などが挙がっている。

あわせて、今年1月に下請法から衣替えした取適法に基づく調査も実施した。下請法は今年1月に「取適法」へ 施行後の勧告14件のうち9件は「金型の保管費用」 トリドールには1億4741万円の返還指示で伝えたとおり同法は運用が始まったばかりだが、公取委は「取適法が浸透し、今般のような状況でも適切な価格交渉が一定程度行われるようになっている」と評価した。違反のおそれがあるとして指導したのは2件にとどまる。

今後は、実施中の「令和8年度価格転嫁円滑化・支払の適正化に関する調査」で、全都道府県の事業者に立入調査を行い、年内に結果を公表する。転嫁が進んでいない業種については端緒情報を集め、独占禁止法上問題となる事案には事業者名の公表を伴う措置を採るとしている。

「協議せず据え置き」は独禁法上の問題になりうる

今回の調査の物差しになっているのは、公取委が2022年2月16日にウェブサイトの「よくある質問コーナー(独占禁止法)」で明確にした考え方だ。取引上の立場が優位な事業者が、①コスト上昇分を価格に反映する必要性について明示的に協議しないまま従来どおり据え置く、②相手方が値上げを求めたのに、応じない理由を書面や電子メールで回答しないまま据え置く――のいずれかを行うと、優越的地位の濫用として問題となるおそれがある。値切ったかどうかではなく、協議や回答という手続きを省いたこと自体が問題になる点が特徴だ。

調査の背景には政府の方針がある。中東情勢の影響を重点的に調べて価格転嫁を徹底する方針が、5月の高市首相の記者会見での発言と、6月に開かれた内閣官房の「中堅企業・中小企業・小規模事業者の活力向上のための関係省庁連絡会議」などで示されていた。原油の調達そのものは8月の貿易赤字1兆1056億円、前年同月の3.8倍 米国産原油の輸入量は7倍に 中東産は3割減り、調達先が入れ替わるのとおり調達先の組み替えが進んでいるが、すでに上がった値段を誰が負担するかは、取引先どうしの交渉に委ねられている。