政府は10月26日、首相官邸で第1回「サイバーセキュリティに関する関係閣僚会議」を開いた。国内の企業などを狙ったサイバー攻撃で大規模な情報漏えいが相次ぎ、漏えいした情報を悪用した二次被害も出ていることを受けて設けた会議で、高市首相は議論を踏まえ、来週中をめどに政府としての「緊急対策パッケージ」を取りまとめると表明した。各閣僚には、財政措置を含めて必要な対策を早急に検討・調整するよう指示した。

首相の指示は、被害企業への支援、情報の収集と発信、攻撃者への対処、システムの弱点を事前に見つける取り組みの4分野にわたる。中小企業の相談窓口の抜本的な拡充や、高性能AIを使った政府システムの脆弱性(ぜいじゃく)点検の前倒しも盛り込んだ。

9閣僚が出席、開催は当日朝に発表

会議の開催は、木原官房長官が26日午前の記者会見の冒頭で発表した。木原氏は、同日午後6時から首相官邸で開くとしたうえで、企業などを狙ったサイバー攻撃で大規模な情報漏えい被害が相次ぎ、二次被害も発生していることについて「国民の皆様の安全・安心な暮らしを脅かす深刻な事態となっており、この対策が急務となっております」と説明した。会議の目的は、これまでの取り組みに加え「今後の更なる対策について検討するため」としている。

出席を予定する閣僚として木原氏が挙げたのは、高市首相と木原氏のほか、古川サイバー安全保障担当相、葉梨国家公安委員長、片山財務相兼金融相、藤井総務相、赤沢経済産業相、井林国土交通相、小泉防衛相の計9人。官邸の閣僚名簿では、古川俊治氏はデジタル相で、サイバー安全保障担当と内閣府特命担当相(サイバー安全保障)を兼ねる。警察を所管する国家公安委員長、金融機関を監督する金融相、通信を所管する総務相、中小企業政策を担う経産相、交通インフラを所管する国交相、自衛隊を持つ防衛相がそろった形だ。

首相官邸の発表によると、会議では「サイバー攻撃による情報漏えい等」について議論した。木原氏は会見で、現状を関係閣僚で共有し、関係省庁の連携方策を含む今後の対策を話し合うとしていた。官邸の発表は会議名に「第1回」と付けており、続けて開くことを前提にしている。

被害企業の支援と、所管業界からの情報集約

首相が最初に挙げたのは被害企業への支援だ。情報処理推進機構(IPA)と警察の相談対応を充実させ、民間機関や地方自治体との連携も強めて「どこに相談しても必要なサポートを得られる体制」を整えるよう求めた。政府のサイバー政策の司令塔である国家サイバー統括室には、経産省の協力を得て、初動から復旧までの「民間の高度な専門能力を活用するための仕組み」をつくるよう指示した。

赤沢経産相には、中小企業や小規模事業者が「サイバーセキュリティお助け隊」を十分に使えるよう、体制と支援策の拡充を速やかに検討するよう求めた。お助け隊は、IPAが2021年度から運用している中小企業向けの支援サービスの制度で、IPAによると累計の導入企業数は2026年3月末時点で約1万900社。経産相にはあわせて、中小企業向けの相談窓口の抜本的な拡充と、プッシュ型の情報提供も指示した。

相談の需要は増えている。IPAが2025年4月に開設した「サイバーセキュリティ相談窓口」の相談対応件数は、2025年7〜9月期の162件から、2026年7〜9月期には309件に増えた。

IPA「サイバーセキュリティ相談窓口」の相談対応件数(四半期ごと)(件)

010020030040016225年7-922425年10-1228326年1-330226年4-630926年7-9
2025年7〜9月期の162件から、2026年7〜9月期は309件になった出典: 情報処理推進機構「サイバーセキュリティ相談窓口の相談状況[2026年第3四半期(7月~9月)]」
数値で見る(単位: 件)
項目件
25年7-9162
25年10-12224
26年1-3283
26年4-6302
26年7-9309

情報の集め方も変える。首相は、古川氏に対し、官民で情報を共有する「サイバー協議会」にセキュリティーベンダー企業などの参加を広げて情報収集力を高めるよう求めた。各閣僚には、基幹インフラ・重要インフラに限らず「所管業界の被害企業から迅速に情報を収集」し、国家サイバー統括室に集約するよう指示した。統括室は集めた情報を分析し、経営層、専門家、国民など「対象を明確にした情報発信」を強めるとしている。

基幹インフラについては、2025年に成立した「重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律」(サイバー対処能力強化法)が、特別社会基盤事業者に対し、特定侵害事象の発生などを認知したときは所管大臣と首相に報告しなければならないと定めている(基幹インフラのサイバー被害、10月1日から国への報告が義務に 電気・鉄道・金融など258者が対象 認知後30日以内に詳細報告)。今回の指示は、この枠の外にある業界の被害についても、所管省庁を通じて統括室に情報を集めることを求めたものだ。

攻撃者への対処と、AIを使った弱点の点検

攻撃者への対処について、首相は「実態を解明したサイバー攻撃に対しては、『アクセス・無害化措置』も含め、あらゆる『対処オプション』を戦略的に選択し、実行いたします」と述べた。古川氏の調整の下で、同盟国・同志国や海外の関係機関と連携し、「攻撃主体の特定」など国際社会と一体となった取り組みを進めるよう求めた。

自民党の提言は、アクセス・無害化措置を「攻撃元サーバーに対して能動的にアクセスし、脅威を取り除く」措置と説明している。内閣官房によると、能動的サイバー防御の実現に向けたサイバー対処能力強化法と、関連法を改める整備法は2025年5月16日に成立し、同23日に公布された。

被害を未然に防ぐ取り組みとして、首相は赤沢氏に、IPAの知見と人材を生かした2つの事業の前倒しを指示した。一つは、高性能AIも使いながら、システムの弱点を見つける「トップガン人材」が模擬的な攻撃テストを行い、見つかった脆弱性に対策を講じるもの。もう一つは、サプライチェーン(供給網)全体でサイバー攻撃の観測網を整え、中小企業を含めて迅速な対策につなげるものだ。古川氏には、これらを横展開する方策の検討を求めた。

政府自身のシステムも対象になる。首相は各閣僚に対し、古川氏を中心に、AIセーフティ・インスティテュート(AISI)の知見も活用し、「高性能AIを用いた脆弱性チェック」を前倒しで実施するよう指示した。担当する府省庁のシステムの安全確保を改めて徹底することも求めている。

自民の提言から3日、「対処本部」には触れず

会議は、自民党の国家サイバーセキュリティ戦略本部が首相に提言を申し入れてから3日後に開かれた。首相官邸によると、首相は10月23日、官邸で同本部から「サイバーセキュリティ対策の抜本的強化に関する提言」の申し入れを受けた(自民サイバー戦略本部、高市首相に提言 官邸主導の「サイバー対処本部」設置を要求)。

10月20日付の提言は、企業へのサイバー攻撃と個人情報の流出が相次ぐ現状を「『サイバー有事前夜』とも言うべき重大な危機」と位置づけた。重要インフラ業種として法的に高度な対応を求められている会社以外で、重要な情報を大量に持つ企業に広く不正アクセスが行われている実態があると指摘し、そうした企業の対応水準を上げることも急務だとしている。政府全体への基本提言としては、官邸主導で「サイバー対処本部(仮称/事務局NCO)」を立ち上げ、司令塔として重大な被害が生じた場合に迅速に本部会議を開くことを求めた。

首相の指示には、提言と重なる項目が多い。提言は、政府・公的機関が民間の「トップガン」人材を確保できるよう新たな人事・給与制度の創設を求め、防衛省に対しては「アクセス・無害化措置」のための能力の強化を求めていた。基幹インフラ以外の企業の被害を統括室に集める指示も、提言の危機認識に沿う。

一方、首相が26日に述べた内容には、提言が基本提言の柱に据えた「サイバー対処本部」の設置への言及はなかった。今回の枠組みは関係閣僚会議で、官房長官が開催を発表し、首相が議論を締めくくる形をとった。提言は、各項目に必要な予算措置を直ちに講じるよう政府に求めており、首相も各閣僚に財政措置を含む検討を指示している。

来週中に緊急対策、問われる中身と規模

首相は会議の最後に「来週中を目途に、政府としての『緊急対策パッケージ』を取りまとめます」と述べ、「とにかく、政府の総力を結集して、取組を加速してまいりましょう」と締めくくった。

26日の指示は、相談体制の拡充、お助け隊の支援策の拡充、所管業界からの情報集約、模擬攻撃テストと観測網の前倒し、政府システムの脆弱性チェックの前倒しと多岐にわたる。ただ、首相の発言では、相談窓口をどこまで増やすのか、お助け隊の支援をどう広げるのか、前倒しをいつまでに終えるのかといった具体的な規模や時期は示されていない。財政措置についても、補正予算に計上するのか、既存の予算で手当てするのかは明らかになっていない。

基幹インフラ以外の企業の被害情報を集める指示は、法律上の報告義務がない分野で、各省庁が所管業界からどのように情報を受け取るのかという運用の問題を伴う。緊急対策パッケージが、こうした点にどこまで答えを出すかが焦点になる。