富士通、名古屋大学、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、情報通信研究機構(NICT)を中心とする研究グループは10月21日、太陽から飛来する高エネルギー粒子の到来を計算する物理シミュレーションについて、計算に必要な値(パラメータ)を探査機の観測データから自動で決める技術を開発したと発表した。これまで専門家が経験と試行錯誤で決めていた19個の値を数理最適化で絞り込み、2021年10月に起きた現象では、5機の探査機の観測をいずれもおおむね再現した。研究グループは、人工衛星の故障や宇宙飛行士の被ばくを防ぐ予測の実用化につなげるとしている。

観測との誤差が小さくなるよう19個の値を自動設定

対象となったのは、太陽高エネルギー粒子(SEP)と呼ばれる陽子や電子だ。太陽表面で起きるフレアや、太陽大気のプラズマが大規模に噴き出すコロナ質量放出(CME)に伴い、光速の数十%に達する速さまで加速されて惑星間空間へ放出される。今回の研究は、このうち陽子を対象とした。

研究グループは、粒子の量と到達時刻を計算するシミュレーションに、水星探査機「BepiColombo(ベピコロンボ)」を含む5機の探査機の観測結果を突き合わせ、計算と観測の差が小さくなるよう19個のパラメータを自動で設定することに成功したという。発表は、複数の探査機の同時観測を条件とすることなど3つの条件を同時に満たす点を挙げ、富士通の調べ(2026年10月時点)で「世界初」としている。

中核となるのは、富士通が構築した「SEITEN(セイテン)」という仕組みだ。名古屋大学宇宙地球環境研究所(ISEE)が開発しNICTが運用する磁気流体力学(MHD)シミュレーション「SUSANOO(スサノオ)」と、JAMSTECが開発した粒子の加速・輸送モデル「SEPIF(セップイフ)」を連携させる。SUSANOOは太陽風やCMEが惑星間空間を伝わる様子を計算し、NICTの宇宙天気予報で日々の太陽風の乱れの到来予測に使われている。SEPIFは、CMEの前面にできる衝撃波で粒子が加速され、磁力線に沿って運ばれる過程を計算する。名称の「SEITEN」は日本語の「晴天」にちなむという。

値が少し変わるだけで粒子の量が桁違いに

太陽高エネルギー粒子は電気を帯びており、太陽から渦巻き状に伸びる磁力線に沿って進みながら散乱される。このため、到来を予測するのは非常に難しい。物理法則に基づくシミュレーションは有力な手段だが、観測から直接測れない値が数多く含まれる。

代表的なのが、衝撃波の上流にある粒子のうち加速に取り込まれる割合を示す「注入効率」と、粒子が散乱されるまでに磁力線に沿って進む距離の目安を示す「平均自由行程」だ。発表によると、これらの値がわずかに変わるだけで、予測される粒子の量が桁違いに変わることがある。

これまでは、過去の現象の観測を再現できるよう、専門家が経験と試行錯誤で値を決めてきた。発表はこの方法について、値の根拠を客観的に示し、同じ手順で再現することが難しかったと説明する。人手で調整できる範囲に収めるため扱う値の数を少なく抑えることが多く、本来は磁力線ごとに異なると考えられる値も、磁力線ごとには決められていなかった。

今回対象とした19個は、平均自由行程が磁力線ごとに7個、注入効率が方向ごとに12個。19個をそれぞれ10通りずつ試すだけで、組み合わせは10の19乗通りに達する。

1480回の試行で絞り込み、5機の観測を同時に再現

1回の試行ごとに時間のかかるシミュレーションを丸ごと実行するため、試せる回数には限りがある。研究グループは「ブラックボックス数理最適化」と呼ばれる手法を使った。計算の中身を仮定せず、試行と評価を繰り返して良い解を探す方法で、まず準モンテカルロ法で広く1000通りを試し、次にベイズ最適化の一種で有望な範囲を集中的に480通り、計1480回で絞り込んだ。実装にはオープンソースの最適化ソフト「Optuna」を使った。

適用したのは、2021年10月9日に発生し、5機の探査機が同時に観測した現象だ。5機は太陽からの距離が0.33〜1.0天文単位(1天文単位は太陽と地球の平均距離で約1億5000万キロ)、太陽から見た角度で約50度の範囲に散らばっていた。

探査機 運用機関 主な目的
BepiColombo ESA・JAXA 水星探査
Solar Orbiter ESA・NASA 太陽観測
Parker Solar Probe NASA 太陽探査
STEREO-A NASA 太陽・地球観測
SOHO ESA・NASA 太陽観測
計算に観測データを使った5機の探査機出典: NICTなど4機関の発表(2026年10月21日)

その結果、5機すべてで、粒子が届き始めてから立ち上がり、ピークに達するまでの時間変化をおおむね再現した。衝撃波の形や強さは太陽から見た方向によって異なり、粒子が受ける散乱の強さも方向ごとに変わると考えられる。観測点が1か所ではこの違いを見分けられず、従来は値を空間的に一律と仮定せざるを得なかった。今回は値に方向ごとの分布を持たせて推定し、平均自由行程を方向によらず一律にすると誤差が悪化して5機の観測を同時には再現できないことも確かめた。手順と評価の基準はあらかじめ定めておき、独立に繰り返しても同じ傾向が得られることを確認したという。

研究には4機関のほか、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、ポルトガルの計測・実験素粒子物理学研究所(LIP)とリスボン大学が加わった。

衛星の誤作動、乗員や宇宙飛行士の被ばくを招く

太陽高エネルギー粒子がどこに、どれだけ届くかは、社会のさまざまな場面に関わる。NICTは宇宙天気予報の専門サイトを運営し、米海洋大気庁(NOAA)のGOES衛星が静止軌道(高度約3万6000キロ)で観測する値を使って、10MeV(メガ電子ボルト)以上の陽子が10PFUを上回る状態を「プロトン現象」と呼び、発生時と終了時に臨時情報を出している。

NICTの解説によると、こうした粒子は衛星に搭載したコンピューターやメモリーに誤作動を起こすことがある。航空機では乗員の被ばく量が増える恐れがあり、文部科学省のガイドライン(2006年)は乗務に伴う追加の被ばくの管理目標を年5ミリシーベルトとしている。大規模な太陽フレアの際に推定される乗員の被ばくは約4ミリシーベルトで、年間の目標に近い。

宇宙飛行士への影響はさらに大きい。国際宇宙ステーション(ISS)の船内では通常1日0.5ミリシーベルトの被ばくだが、太陽高エネルギー粒子の現象が起きている数日間は、その数十倍になると予測されている。NICTの解説は、将来の月面や火星での探査ではシェルターへの避難などの方策が考えられるとしている。

予測の実用化と月面活動を見据える

発表は背景として、2023年6月に閣議決定された宇宙基本計画が、月面での持続的な有人活動に向けて電力や通信、測位などのシステムを段階的に整え、新たな産業の創出を目指していることを挙げた。日本が参加するアルテミス計画など、月面の有人活動に向けた国際的な取り組みも進む。発表は、月面での活動が本格化する中で、太陽高エネルギー粒子がいつ、どこに、どれだけ届くかを事前に把握することが重要だとしている。

研究グループは今回の成果を、粒子の量と到達時刻を高い精度で予測する技術の実用化に向けた「重要な一歩」と位置付ける。今後は技術を発展させて予測の確かさを高め、被ばくや衛星の故障の危険をより早く把握できるようにし、月面での建設や輸送といった産業、有人活動の安全性向上につなげるとしている。

一方で、今回の検証は2021年10月9日の1回の現象を対象にしたもので、過去の観測に計算を合わせる段階にとどまる。発表は、新たに起きる現象を事前に予測した精度は示していない。NICTの宇宙天気予報サイトも、予報は観測データや計算結果を予報担当者が総合的に解析したもので、「まだ発展途上の分野」と説明している。自動で決めた値を実際の予報にどう組み込み、どの程度先まで予測できるかが、次の課題となる。