スペイン中部カスティーリャ・ラ・マンチャ州トレド県のウルダ駅の手前で、10月28日午前8時53分(日本時間同日午後4時53分)、マドリード発セビリア行きの高速列車2本が追突し、69人が死亡、200人以上が負傷した。スペインの事故調査機関AITATが29日付で公表した初期報告で明らかにした。日本の外務省は29日、乗客名簿に日本人2人が含まれているとスペイン政府から連絡を受け、安否を確認していると発表した。サンチェス首相は29日から31日までの3日間を国の服喪期間とした。

停車中の列車にAVEが時速160〜200キロで追突

AITATの報告によると、事故はマドリードとセビリアを結ぶ高速新線(010号線)の2番線、起点から118.8キロの地点で起きた。ウルダ駅の場内信号の手前で停車していた鉄道会社イリョの6076列車に、国鉄系レンフェの高速列車AVE2080列車が後ろから衝突した。追突時の速度は時速160〜200キロと推定され、正確な値は車上の記録装置のデータを取り出してから分かるという。

衝突でAVEの先頭車がイリョの最後尾車両にめり込み、2両とも横転して線路の盛り土の下まで落ちた。AVEは残りの車両もすべて脱線し、1両が盛り土の下へ転落した。客室の1両には、衝突で変形したレールの破片が突き刺さった。イリョは前の2両を除く全車両が脱線し、最後尾を含む3両が盛り土の下へ落ちた。

列車 運行会社 車両 乗客 乗務員
6076列車(停車中) イリョ 日立ETR1000形・8両 147人 5人
2080列車(追突側) レンフェ(AVE) シーメンス103形・8両 379人 7人
追突した2本の列車出典: AITAT初期報告(2026年10月29日付)

2本で計538人が乗っていた。死傷者について報告は「69人が死亡、200人以上が負傷」とし、数は確定していないと断っている。線路設備にも大きな被害があり、路線は運転を見合わせたまま再開の見通しは立っていない。

直前に信号保安システムが故障

報告は、事故の約20分前の午前8時31分に、信号保安システム「LZB」の故障が始まっていたと記した。故障の後、列車は線路脇の信号機に従って運転する方式(BSL)に切り替えて走っていた。この間、マドリード・アトーチャ駅にある鉄道インフラ管理機関アディフの運行管理センターと運転士は、電話で情報や指示をやり取りしていた。報告は「故障、指示、行動の連鎖が衝突に至ったとみられ、必要な事故防止の仕組みが働かなかった」との見方を示した。

一方で、調査は始まったばかりで、原因についての仮説はすべて残っているとも書いた。運転士や運行管理の担当者は、聞き取りに応じられる状態になく、まだ話を聞けていない。車上の記録装置は司法警察として捜査を担う治安警備隊が保管しており、データの取り出しは事件を担当するオルガスの裁判所が定める条件で行う。

AITATは事故の17分後の午前9時10分に通報を受け、調査官3人が正午すぎに現地に着いた。別の班は運行管理センターで、通話の録音や映像記録の写しを回収した。事故は重大事故に当たり、法律に基づき調査が義務付けられる。最終報告の期限は原則1年で、責任の所在を決めることは調査の目的に含まれない。

外務省「日本人2人の安否を確認中」

外務省は29日に出した外務大臣メッセージで、犠牲者への哀悼を表したうえで「スペイン政府からは、列車の乗客リストに日本人2名が含まれているとの連絡を受けています」と明らかにした。外務省は現地対策本部などを設けて2人の安否を確認しており、スペイン当局の協力を得ながら「邦人保護に全力で取り組んでまいります」としている。

11月2日朝の時点で、外務省のスペインの国別ページに載っている事故関連の発表は、この29日のメッセージだけだ。2人の安否について、日本政府の続報は確認できていない。外務省は1月のアダムスの事故の際にも、外務大臣のお見舞いメッセージを出していた。

サンチェス首相は30日、犠牲者が最大27の国籍にわたる可能性があると述べた。各国の領事館と連絡を取り合い、身元の確認が進むごとに家族へ伝えているという。カスティーリャ・ラ・マンチャ州のガルシアペヘ首相は29日、身元の確認は裁判所の管轄の下で進めると説明した。

69人の死亡を確認、救助に1300人

州政府は事故から22分後の午前9時15分に、州の緊急計画を発動した。現場には治安警備隊や消防、州の医療機関が入り、仮設の救護所で負傷者を振り分けて病院へ運んだ。午前10時半には計画の段階を一つ引き上げ、軍の緊急部隊(UME)の出動を要請した。家族や知人向けに無料の電話窓口を設け、レンフェとイリョもそれぞれ問い合わせ先を開いた。

国も中央政府の防災計画を発動し、UME、治安警備隊、国家警察を送った。サンチェス首相は29日、国の対応を「緊急事態への対応」「原因の解明」「被害者家族への補償」の3本柱で進めると説明した。レンフェは被害者と家族の支援計画に基づき、高速線沿いの複数の駅に家族の支援拠点を置いた。

ガルシアペヘ首相は29日、UMEや警察などを合わせ、1300人が救助と捜索に当たったと述べた。夜通しの捜索で死者が1人増え、69人になったという。州政府は30日、救助と行方不明者の捜索が主な段階を終えたとして、緊急計画の段階を下げた。消防とUMEは引き揚げたが、UMEの一部は法医学研究所の身元確認の支援を続けている。トレド市内には家族の支援センターを置き、移動や心のケアを手伝っている。

州政府が31日に発表したところでは、死者は69人のままで、州内の病院に運ばれた110人のうち76人が退院した。34人が入院を続け、うち15人が集中治療室にいる。病院別ではトレドが18人と最も多い。

政府は28日付の勅令で、29日午前0時から31日24時までを国の服喪期間とした。期間中は全国の公共の建物と海軍の艦艇で国旗を半旗にし、在外公館も対象とした。

1年に2度の高速鉄道事故

スペインでは今年1月18日にも、南部コルドバ県アダムスで、レンフェのアルビア2384列車とイリョの6189列車が絡む事故があった。運輸・持続可能モビリティ省の文書によると、乗客527人が巻き込まれ、46人が死亡、122人が負傷した。政府は1月27日の緊急政令で、アダムスと北東部バルセロナ県ジェリダの鉄道事故の被害者に支援金を出す制度を設けている。

サンチェス首相は28日に現地の指揮所を訪れ「同じ年に高速鉄道で2つの恐ろしい悲劇を経験した」と述べた。2つの事故の原因は「おそらく関係がない」としつつ、判断は調査機関と司法に委ねると話した。そのうえで「過失があれば明らかになり、安全の仕組みに不備があれば断固として対応する」と表明した。

30日には、国と州の合同調整会議を主宰した後に「高速鉄道への信頼が損なわれている」と語った。政府の役割は原因を突き止めるだけでなく、同じ規模の事故を繰り返さないための対策を示すことだとして、高速鉄道の安全を強める方針を示した。