自動車用シートを製造するテイ・エス テック(埼玉県朝霞市、東証プライム)は10月30日、米国の連結子会社「TST NA TRIM, LLC.」で棚卸資産の会計処理に確認を要する事案が見つかったとして、社内調査委員会を設置したと発表した。帳簿上の在庫と実際に数えた在庫との間に差異があり、決算への影響額をまだ特定できていない。このため、11月13日に予定していた2027年3月期の中間期(4〜9月)の決算発表を延期した。新しい発表日と業績への影響は「確定次第速やかに公表する」としている。
帳簿と実際の在庫に差異
同社が東京証券取引所の適時開示で公表した資料によると、発端は、米州の事業を束ねる同社グループの地域統括会社に、TST NA TRIMの棚卸資産に関する情報が寄せられたことだった。統括会社は関係者への聞き取りや関連資料の確認を進め、2026年9月末に実施した実地棚卸の結果も踏まえて検証した。その結果、帳簿残高と実地残高との間に差異が認められ、10月に本社へ報告が上がった。
棚卸資産は、企業が販売や製造のために持っている原材料・仕掛品・製品などの在庫を指す。決算では期末に残っている在庫を資産として計上し、使った分や売った分を費用に回す。在庫を実際より多く計上すると、その分だけ費用が小さくなり、利益が大きく見える。実地棚卸は、帳簿の記録とは別に、倉庫や工場にある現物を実際に数えて照合する作業である。
開示資料は、現時点で精査が必要な点として、①廃棄済みの材料や使う見込みのない在庫が棚卸資産に計上され続けていた可能性②評価額の調整が適切に行われていなかった可能性――の2つを挙げた。同社は会計監査人と協議しながら確認を進めてきたが、事実関係、発生時期、影響範囲、類似事案の有無に確認を要する点が残り、中間期の連結財務諸表に及ぼす影響も特定できていないという。このため、専門的な知見を使った追加の調査が必要だと判断した。
調査委員会は社外取締役2人と外部専門家2人
社内調査委員会は、10月30日の取締役会で設置が決まった。調べる対象は、事案の事実関係、類似事案の有無、中間連結財務諸表などへの影響、発生原因の分析、調査結果を踏まえた対応策の提言としている。
委員は4人で、同社は「調査の客観性及び専門性を確保するため」に人選したと説明している。
| 役職 | 氏名 | 立場 |
|---|---|---|
| 委員長 | 林肇氏 | 弁護士、同社社外取締役(監査等委員・独立役員) |
| 委員 | 内藤憲一氏 | 同社社外取締役(監査等委員・独立役員) |
| 委員 | 工藤靖氏 | 弁護士、長島・大野・常松法律事務所パートナー |
| 委員 | 佐藤保則氏 | 公認会計士、合同会社デロイト トーマツ |
出典: テイ・エス テック「社内調査委員会の設置及び2027年3月期第2四半期(中間期)決算発表の延期に関するお知らせ」(2026年10月30日)
4人のうち2人は同社の社外取締役で、残る2人は社外の弁護士と公認会計士である。同社は、調査報告書を受け取り次第、速やかに結果を公表し、委員会の提言を踏まえて必要な対応をとるとしている。
TST NA TRIMとはどんな会社か
同社の2026年3月期の有価証券報告書によると、TST NA TRIMは米テキサス州にある連結子会社で、資本金は200万ドル、テイ・エス テックが間接的に全株式を持つ。主な事業は「四輪事業」で、本社から部品の仕入れや設備の購入、技術支援を受け、本社へ製品を販売する取引がある。本社からの出向者は2人と記載されている。
同じ報告書は、米州セグメントの主な関係会社として、TST NA TRIMを含む16社を挙げている。内訳は米国のオハイオ、アラバマ、インディアナ、テキサスなどの各州にある会社のほか、カナダ、メキシコ、ブラジルの会社で、主に二輪車用のシートと樹脂部品、四輪車用のシートと内装品を製造・販売している。2026年3月末の米州の従業員は8,086人で、連結全体の1万3558人の約6割を占め、日本の2,282人を大きく上回る。今回の事案は、こうした米州の拠点網のうち1社で見つかったもので、ほかの拠点に類似の事案があるかどうかは、調査委員会が調べる項目に含まれている。
テイ・エス テックは1960年設立で、四輪車用のシートや内装品、二輪車用のシートなどを製造・販売する。会社概要は主な取引先の筆頭に本田技研工業を挙げ、スズキ、ヤマハ発動機、独フォルクスワーゲン、独BMWなども並べる。2026年3月末の従業員は連結で1万3558人。決算短信は米州セグメントの対象をアメリカ・カナダ・メキシコ・ブラジルとしている。有価証券報告書の沿革によると、1986年に米オハイオ州で現地法人TS TRIM INDUSTRIESを設立した。
売上の約6割を占める米州事業
米州は同社の売上の大きな部分を占める。2026年3月期の決算短信によると、連結売上収益4,423億1600万円のうち、米州セグメントは2,613億2000万円で、約6割にあたる。一方、米州の営業利益は前の期の61億1100万円から14億6600万円に減った。決算短信は理由を「減収影響や諸経費の増加等」と説明している。連結の営業利益は前の期の164億2800万円から103億2500万円に減った。
今期に入ってからの第1四半期(4〜6月)は、連結売上収益が1,128億4500万円、営業利益が17億3200万円だった。米州は売上収益712億1600万円、営業利益9億9000万円で、前年同期の4億9800万円から増えていた。2027年3月期の通期予想は、売上収益4,400億円、営業利益130億円、親会社の所有者に帰属する当期利益80億円で、8月の時点では修正していなかった。グループ全体の棚卸資産は2026年3月末で439億5900万円だった。
テイ・エス テックの米州セグメント営業利益(億円)
数値で見る(単位: 億円)
| 項目 | 億円 |
|---|---|
| 2025年3月期 | 61.11 |
| 2026年3月期 | 14.66 |
今回の事案が、こうした過去の決算の数字に及ぶのかどうかは分かっていない。同社は2027年3月期の業績への影響について「現在のところ調査中」とし、影響が生じる場合は速やかに公表するとしている。発生時期は調査委員会が調べる項目に含まれている。
今後の焦点は発表日と半期報告書
同社は延期後の決算発表日について、調査の進み具合を踏まえて決まり次第公表するとしている。
上場会社は、決算短信とは別に、金融商品取引法に基づく半期報告書を国に提出しなければならない。同法第24条の5は、事業年度が始まってから6か月の期間が終わった日から45日以内の政令で定める期間内に提出するよう定める。同社の中間期は9月末に終わったため、期限は11月中旬にあたる。同条は、やむを得ない理由で期限内に提出できないと認められる場合には、あらかじめ内閣総理大臣の承認を受けた期間内に提出できるとも定めている。10月30日の開示は半期報告書の提出の扱いには触れていない。
株主と取引先にとっての焦点は、①差異の金額と、それがいつから生じていたのか②TST NA TRIM以外の拠点に類似事案があるのか③過去の決算を訂正する必要があるのか――の3点になる。いずれも調査委員会の報告書で明らかになる見通しで、同社は報告書の受領後に内容を公表するとしている。
