電子部品大手のアルプスアルパイン(東証プライム)は10月30日、顧客に納入した車載電動パワーステアリング用トルクセンサーの特定の製造ロットで品質上の問題が判明し、その製品を積んだ車両のリコール(市場措置)が実施されたと発表した。同社は顧客と協議し、リコールにかかる費用などの一部を負担する契約を結ぶことを同日の取締役会で決めた。負担額の88億8900万円は「製品補償損失」として2026年4〜9月期(中間期)の特別損失に計上した。原因は部品の製造委託先の製造工程の不備にあると判断しており、委託先に費用の負担を求めるとともに、保険の適用に向けて保険会社と協議している。
何が起きたのか
同社の開示によると、問題が見つかったのは、同社が「特定顧客」に納めた車載電動パワーステアリング用のトルクセンサーのうち、特定の製造ロットだ。そのロットの製品を搭載した車両についてリコールが実施された。同社は「本件品質問題は当該特定製造ロットに限定されたものであり、当該製品全般に及ぶものではありません」としている。
開示資料には、納入先の自動車メーカー名、リコールの対象となった車種や台数、品質問題の具体的な中身は書かれていない。決算短信も「車載用トルクセンサーの一部に品質上の問題が判明し」たと記すにとどまる。
電動パワーステアリングは、ハンドル操作をモーターで補助する装置で、トルクセンサーは運転者がハンドルを回す力を検出する部品にあたる。同社は車載市場向けに、完成車メーカーへ専用設計の製品を直接納める「Tier1」と、Tier1の部品メーカーに製品を供給する「Tier2」の二つの取引形態があると決算短信で説明している。今回の顧客がどちらに当たるのかは開示されていない。
リコールを実施したのは顧客の側で、部品を納めたアルプスアルパインは顧客との協議を経て、その費用などの一部を引き受ける契約を結んだ。
88億円の負担と委託先への請求
同社が負担する関連費用は88億8900万円で、中間期の連結決算に特別損失として全額を計上した。特別損失は通常の事業活動とは別に一時的に発生した損失を示す項目で、営業利益や経常利益には含まれず、最終的な純利益を押し下げる。
原因について同社は、調査の結果、トルクセンサーに使われる部品の製造を委託していた先の製造工程に不備があったと判断した。調査結果や契約関係、責任の分担を踏まえ、顧客から請求された額などについて、委託先に「その責任に応じた費用の負担を求める方針」だという。
あわせて、同社がかけている保険の適用に向けて保険会社と協議を進めている。保険金の受け取りと委託先からの回収は関係する契約に基づいて調整し、同じ損害について二重に補填を受けることはないとしている。委託先から回収できる額、受け取る保険金の額、それぞれの時期はいずれも現時点で決まっておらず、中間決算と通期予想には反映していない。
再発防止策として、自社と委託先の工程認定、品質管理、監査の体制を強化するとした。
中間期は大幅減益、それでも予想は上回る
10月30日に発表した2026年4〜9月期の連結決算は、売上高が前年同期比7.4%増の5429億6400万円、営業利益が37.8%減の132億600万円、経常利益が44.1%減の138億400万円、親会社株主に帰属する中間純利益は77.8%減の29億5200万円だった。
特別損失の合計は94億3800万円で、このうち製品補償損失が88億8900万円を占める。一方、保有する投資有価証券の一部を売って得た売却益60億4800万円を特別利益に計上した。この結果、税金等調整前の中間純利益は104億8200万円(前年同期は242億100万円)となった。製品補償損失の額は、最終的に残った中間純利益の約3倍にあたる。
減益の主な理由は本業にもある。データセンター投資の拡大を背景にメモリーの価格が上がり、原価が増えた。事業別にみると次のとおりだ。
| 事業 | 売上高 | 営業損益 | 前年同期の営業損益 |
|---|---|---|---|
| コンポーネント | 1976億円(4.5%増) | 156億円の黒字 | 178億円の黒字 |
| センサー・コミュニケーション | 464億円(10.2%増) | 12億円の赤字 | 29億円の赤字 |
| モビリティ | 2880億円(8.9%増) | 15億円の赤字 | 57億円の黒字 |
出典: アルプスアルパイン「2027年3月期 第2四半期(中間期)決算短信」
モビリティ事業は、日本と北米の主要顧客である自動車メーカー向けの販売が増えて売上高を伸ばしたが、メモリー価格の上昇による原価の増加で営業赤字に転じた。
もっとも、4月30日に公表していた中間期の予想と比べると、実績はすべての段階で上回った。予想は売上高5080億円、営業利益90億円、経常利益75億円、中間純利益10億円だった。同社は、北米を中心に主要顧客の生産・販売が計画を上回ったことと、為替が想定より円安で推移したことを理由に挙げ、中間純利益は特別損失を計上したものの、経常利益の上振れと株式売却益で予想を上回ったと説明している。
通期予想は据え置き、回収額は未定
2027年3月期の通期予想は、4月30日公表の売上高1兆450億円、営業利益485億円、経常利益455億円、純利益300億円をいずれも変えなかった。今回の特別損失とそれ以外の業績の増減を総合的に勘案した結果だとしている。年間配当の予想も1株64円(中間32円、期末32円)のまま据え置いた。
ただし、委託先からの回収額と保険金は金額も時期も決まっていないため、通期予想にも織り込んでいない。同社は、予想の修正が必要になった場合は速やかに公表するとしている。
中間期の現金の動きをみると、営業活動によるキャッシュ・フローは199億円の支出超過(前年同期は342億円の収入超過)となった。売上債権が403億円、棚卸資産が214億円増えたことが主な理由で、期末の現金及び現金同等物は前期末より664億円少ない869億円だった。自己資本比率は前期末の57.1%から54.8%に下がった。
同社が今回明らかにしたのは負担額と原因の判断までで、どの車種が対象で、利用者にどのような影響が出得る不具合だったのかは開示していない。半期報告書は11月9日に提出する予定だ。
