教科用図書検定調査審議会は10月13日、「教科書検定の改善について(第一次論点整理)」をまとめた。令和8年6月に成立した学校教育法等の一部を改正する法律(令和8年法律第37号)によって、教科書の形態に紙だけでなくデジタルな部分を含められるようになったのを受け、検定審査の方向性を整理したものだ。教科書に載せる動画は1本あたり3分程度までとし、教科書1点あたりの動画の総量にも教科ごとに20分から90分の上限を設ける。外部ウェブサイトのアドレスや、教科書ではない教材へ移る二次元コード・リンクは、掲載を認めない要件とする。

動画は1本3分まで 教科書1点あたりの総量にも上限

論点整理は、動画の長さに上限を設ける理由を2つ挙げた。1つは、動画は再生に要する時間が決まっており、再生している間は児童生徒が受動的に視聴することになる点だ。もう1つは、いまの紙の教科書の二次元コード先には「主たる教材としての教科書に掲載することにはそぐわないと考えられるものも含む多種多様な動画」が載っている点で、1点の教科書の二次元コード先に合計5時間を超える分量の動画を置いている例もあるという。中央教育審議会が次期学習指導要領の審議で教科書の内容・分量の精選を求めていることと合わせ、「望ましくない状況が散見される」と記した。

そのうえで、教師による授業づくりを妨げないようにする観点と、児童生徒の集中力の観点から、1本あたりの長さを3分程度までとするのが適当だとした。教科書1点あたりの総量は、技能の習得で動画の活用が特に有効と考えられる教科、観察・実験を通して学ぶことが重要な教科、言語活動の充実に動画の活用が効果的と考えられる教科、それ以外の教科に分けて定める。

教科 教科書1点あたりの動画の総量の上限
音楽、図工・美術、家庭、技術、書写 1学年で1冊なら30分、2学年で1冊なら60分、3学年で1冊なら90分
理科 小学4年以下は1冊40分、小学5年以上は1冊60分
生活 2学年で1冊60分
外国語 1冊80分
国語、社会、算数・数学、保健体育、道徳 1冊20分(中学校社会は1冊40分、中学校保健体育は3学年で1冊60分)
教科書1点あたりに載せられる動画の総量の上限出典: 教科用図書検定調査審議会「教科書検定の改善について(第一次論点整理)」(令和8年10月13日)

高等学校については、次期学習指導要領の改訂で科目構成の見直しや単位の計算方法の見直しが検討されていることから、小中学校の考え方に準じつつ、各科目の標準単位数も踏まえて定めるとした。上の表も、学習指導要領改訂の動きや「デジタルな形態を含む教科書の発行・採択等の指針に関する検討会議」の検討状況に合わせて見直すことがあり得ると注記している。授業時数そのものも、中央教育審議会の審議まとめで授業時数、標準より最大15%減らせる「調整授業時数制度」を創設へ 国への申請は不要に 小5で138コマ程度 次期学習指導要領の審議まとめという見直しが示されており、教科書の分量の議論はその枠組みの中で進む。

外部サイトへのリンクは不可 掲載を認めない例も並べた

デジタル部分に関する基本のルールとして、教科書に載せられるデジタルコンテンツは、教科書発行者の責任で編修し管理できるものに限る。論点整理は理由として、外部ウェブページへのリンクを載せた場合、リンク先に修正が必要な内容が含まれていても発行者の権限では編修できず、児童生徒が教科書を使っている間に発行者の知らないところで内容が改変されたり削除されたりし得る点を挙げた。検定を経た教科書の一部と、教科書ではない教材とを教師や児童生徒が混同しないようにする配慮も必要だとした。

掲載できるデジタルコンテンツの要件は、いまの検定基準の要件に加えて、その教科の本質的理解の獲得に資すること、学習における活用目的と活用方法が明確であること、原則として授業時数の中でそのコンテンツを使った学習活動を行うことが想定されていること、の3つになる。

要件を満たさないものとして、論点整理は具体例を並べた。全教科に共通するものでは、本来教材で扱うべき多様な情報まで広く載せるもの、膨大な情報量の資料やデータを載せるもの、類題の域を超えた大量の練習問題や入学試験・資格試験の過去問、教科の本質的理解と関わりの薄い娯楽の要素が多いゲームや漫画、文字や静止図画で書いた内容を教師に代わって単に説明する講義動画・解説動画である。教科ごとでは、社会で範囲や縮尺を任意に変えられる地図、理科で生物や物質の情報を網羅的に載せた図鑑データ、外国語で単語の詳細な意味や例文まで含む辞典が挙がった。

学習指導要領に示す「内容」と「内容の取扱い」の事項は、文字と静止図画で不足なく取り上げるのが基本となる。動画などのデジタルコンテンツは、文字と静止図画による記述と密接な関連を有することが要件になる。ただし外国語の「聞くこと」のための音声データのように、教科の特性から必要な場合は、文字と静止図画で記述せずデジタルコンテンツとして載せる例外を設ける。

AIの搭載は観点の整理から 機能は動作確認しない

教科書に載せられるデジタルコンテンツや機能は、児童生徒の入力や操作に対して出力される結果の適切さ・正確さを発行者が確実に説明でき、検定審査でそれを確認できるものに限る。入力や操作に対して応答や提案といった新たな内容の生成、評価、音声・画像認識を行うAIを教科書に載せられるかについては結論を出さず、当面は観点の整理が必要だとした。挙げたのは、教育や授業の在り方、教科書の役割と教材との役割分担も踏まえたAI搭載の必要性、どのようなAIが対象となり得るか、AI自体の性能や信頼性と出力結果の適切さ・正確さを担保する方法、教科書検定の意義・役割との関係、検定でどのような基準・方法・体制で審査し得るかの5点である。

一方、書き込み、拡大・縮小、ルビ表示、文字色や背景色の変更、音声読み上げといった、記述内容の変更を伴わない「機能」は、検定では動作確認をしない。確認するのは、その機能が記述内容それ自体の変更を伴わないものであること、搭載する目的と教科の学習のねらいに整合性があることの2点にとどめる。論点整理は、外国語の教科書で外国語の文章の和訳を表示する機能が搭載された場合は教科の学習自体を阻害するおそれがあると例示した。発行者が創意工夫で載せようとする機能については、機能とその目的の一覧の提出を求め、検定終了後に公開して採択の参考資料にすることが有用だとした。

動画の表現では、ごく短い時間だけ映像を差し込む、聞き取れないほど小さな音を入れるといった、視聴する者が通常知覚できない技法で潜在意識に働きかける表現を行わないことを要件とする必要があるとした。申請にあたってそうした技法を用いていないことの誓約を求めるなど、より実効的な対策を加えることも検討するとしている。

デジタル部分にもページ番号 申請は電子ファイルで

教科書は授業で教師と児童生徒が使うことが前提であり、双方が該当箇所を特定しやすい形式が求められる。このためデジタル部分の文字や図画の記述も、児童生徒がスクロールやクリック、拡大・縮小をしなくても端末の画面内に一度に表示して判読できる分量ごとに、ページ番号等を振って区切ることを要件とする。デジタル部分も系統的・発展的に構成され、網羅的・羅列的になっていないことを求め、紙とデジタルを含めた教科書全体の構成が分かるように教科書内に明示させる。紙とデジタルを組み合わせた形態では、どのページ・項目に関連する内容なのかを相互に表示させる。紙とデジタルに同一の文字・静止図画を重複して載せるのは、デジタルコンテンツを使うのに必ず表示する必要がある記述など、欠かせない内容に限って認める。

検定申請では、デジタル部分を発行者のサーバに置いて文部科学省と委員がアクセスする方法ではなく、電子ファイルを提出する方法にする。申請内容が検定終了まで編修されずに維持されることを担保するためだ。提出できるファイル形式は汎用性の高いものを予め指定する。動画と音声は、目視や聞き取りだけでは正確性の確認が難しい場合があるため、外国語に限らずすべてについてスクリプトの提出を求める。デジタルコンテンツに関する資料の提出期限は申請書の提出から5週間程度、検定意見を受けて修正した動画・音声ファイルは修正表の提出から6〜7週間程度の猶予を設ける。

検定審査料は、文字や図画で構成しページ単価を適用する部分については、小学校用1ページ270円、中学校用440円、高等学校用540円という現在の額を維持する。動画や音声、シミュレーションはページ数に単価を掛ける方式では算定できないため、コンテンツの数に応じた審査料を加算し、総数に応じて段階的に設定することが考えられるとした。

訂正は承認後に随時反映 統計の更新は長期休暇中に

デジタル部分は印刷・製本の工程を要さないため、技術的には供給済みの教科書にもいつでも訂正を反映できる。論点整理は、誤記、誤植、客観的事情の変更に伴って誤りとなった事実の記載、学習する上で支障を生じるおそれのある記載などの訂正は、文部科学大臣の承認を得次第、児童生徒に供給しているデジタル部分へ随時反映することを認めるのが適当だとした。

これに対し、統計資料の更新や体裁の変更など、誤記・誤植以外の訂正は、単元の途中で資料が頻繁に変わると教師の指導と児童生徒の学習の双方に支障が生じ得るとして、夏休み・冬休み・春休みなどの長期休暇中の時期に限って反映する。年度途中に使用中の教科書へ直接修正が入ることになるため、訂正内容だけでなく反映時期も合わせて、インターネットなどで速やかに分かりやすく周知し、教科書を使っている児童生徒自身にも伝わるよう配慮することを発行者に求める。

誤記・誤植を減らす体制も論点整理の柱の1つに置かれた。検定済みの教科書の1年間の訂正申請は、令和7年度で箇所数がおよそ4万箇所に上り、本来は発行者の責任で事前に直しておくべき誤記・誤植・脱字の修正も依然として多いという。このため検定後の見本の提出に合わせて、採択・供給の間の編修校正関係者名簿の提出を求め、検定済み教科書の編修・校正体制を確認する。AIで文章の誤記や誤植を瞬時に見つけられるようになってきたことを踏まえ、発行者がデジタルツールの活用を検討し取り入れることも期待するとした。

制度改正から2年後が実施 審議会には追加の要請

デジタルな形態を含む教科書の制度は、令和7年9月に中央教育審議会のデジタル教科書推進ワーキンググループがまとめた「デジタル教科書推進ワーキンググループ審議まとめ~学びの可能性を広げる教科書を~」が起点である。紙に限定している教科書の形態を改める制度改正が提言され、令和8年6月の学校教育法等改正法で実現した。次期学習指導要領が実施される令和12年度から、動画や音声を含むデジタルの特性を生かしたコンテンツを教科書の内容にできるようになる。

教科書は、学習指導要領に基づいて指導するための主たる教材であり、使用義務があり、検定で質を担保され、義務教育段階では無償で給与される。論点整理は、形態にデジタルが加わってもこの位置付けと役割は変わらないことを繰り返し確認し、だからこそ情報量やコンテンツの数が過剰になることは適切ではないと述べた。審査体制についても、各部会にデジタルコンテンツに特化して確認を行う専門委員を追加して委嘱するなど、審議会の体制の充実を図る必要があるとした。

今回は第一次の整理で、検定基準の改正はこれからになる。文部科学省が審議会に審議を要請していたのは、令和8年4月14日の時点では「デジタルな形態を含む新たな教科書に対応した検定審査について」と「その他の教科書検定に関する諸課題について」の2件だった。10月13日の総会・総括部会の合同会議では、これに「次期学習指導要領の実施に向けた教科書の改善について」を追加で要請した。次期学習指導要領の審議状況を踏まえ、教科書の改善方策を検討するためである。