総務省は10月21日午後3時から6時まで、同省第二庁舎6階の特別会議室とWeb会議で統計委員会の第158回人口・社会統計部会を開き、労働力調査と就業構造基本調査の変更について審議を始めた。就業構造基本調査では、2027年10月1日現在で実施する次回調査から調査事項に「国籍」を加え、外国人世帯が10以上の調査区については抜き出しをせず全世帯を調査対象にする。労働力調査では、これまで「完全失業者数」で集計していた項目について、国際労働機関(ILO)の基準による「失業者数」も併せて公表する。
2つの基幹統計の変更を同じ部会で審議
審議の対象は、諮問第214号「労働力調査の変更について」と諮問第215号「就業構造基本調査の変更について」の2件である。いずれも10月19日付(総政企269号)で、藤井比早之総務大臣から津谷典子統計委員会委員長に諮問された。
手続きは統計法に沿う。労働力調査と就業構造基本調査はどちらも同法上の基幹統計調査で、調査計画を変えるには総務大臣の承認がいる(第11条第1項)。労働力調査については9月28日付(総統労第182号)で承認の申請が出ており、承認の適否を判断するにあたって、第11条第2項で準用する第9条第4項の規定に基づき統計委員会の意見を求める、というのが諮問の形である。統計を所管する総務省が、自ら実施する調査の変更を自らに申請し、第三者である統計委員会の審議にかける仕組みだ。
2つの調査はいずれも就業・不就業の実態を調べるが、周期と役割が違う。労働力調査は毎月実施し、全国約4万世帯・世帯員約11万人を対象に就業状態を調べる(母集団は約5000万世帯・約1億3000万人)。毎月発表される完全失業率や就業者数はこの調査の結果で、政府の月例経済報告では雇用面の景気分析の指標として使われ、国民経済計算の雇用者報酬の推計、ILO・国際通貨基金(IMF)・経済協力開発機構(OECD)による国際比較にも用いられる。
就業構造基本調査は5年ごとで、前回は令和4年10月1日現在で行い、結果は令和5年7月21日に公表された。毎月の労働力調査では取れない詳しい事項、たとえば転職や追加就業の希望、育児・介護の状況、職業訓練や自己啓発の有無までを把握する。「令和6年版労働経済の分析」の人手不足対策の基礎資料、第6次男女共同参画基本計画の基礎資料、高齢社会対策大綱の介護離職解消の指標などに使われている。
「国籍」と「副業の事業所数」を新設、「雇用契約の更新」は削除
就業構造基本調査の調査事項では、新設が2つ、削除が1つある。
新設の1つ目が「国籍」だ。総務省は、国内の外国人労働者数の増加を踏まえ、詳細な分析に資するため国籍を把握するとしている。これまでの調査では、回答者が日本人か外国人かを区別する事項がなく、外国人の就業・不就業の状態を切り出すことができなかった。
2つ目は「副業として雇われている事業所の数」である。国民経済計算では、雇用者報酬と雇用者数を推計するにあたって、本業以外に雇われている人の重複を補正する必要がある。就業構造基本調査の結果は、国民経済計算で雇用者数を推計するための副業者比率の算定に使われており、副業先がいくつあるかを直接尋ねることで推計の精度を上げるという説明だ。
削除されるのは「雇用契約の更新の有無・回数」である。有期雇用の契約が何度更新されているかを尋ねる事項で、総務省は結果表のアクセス件数が少なく、相対的に利用者のニーズが低下していると判断した。報告者の負担も考慮して削るとしている。審査メモは、削除する項目の利用状況と利用者への影響をどう評価したのかを論点に挙げた。
在留外国人は増え続けており、出入国在留管理庁の集計では6月末時点で428万1026人と過去最多だった(在留外国人、6月末で428万1026人 半年で15万5631人増え過去最多 特定技能は1年で3割増)。在留資格の人数は分かっていても、その人たちがどんな働き方をしているかを全国規模の標本調査で示す仕組みは手薄で、今回の追加はその穴を埋める位置にある。
外国人世帯が10以上の調査区は全世帯を対象に
国籍を尋ねるだけでは、標本に外国人が十分に入らない。そこで総務省は標本設計そのものを組み替える。
まず規模だ。1世帯当たりの人員が減ったため、前回と同じ約54万世帯では報告者数約108万人を維持できず、約101万人に落ちると見込まれる。そこで対象世帯を約58万に増やし、報告者数を前回水準で保つ。母集団も約5300万世帯から約5600万世帯に更新する。
抽出の手順も変える。第1次抽出の調査区数は前回の約3万4000から約3万2000に減らし、代わりに各調査区から抜き出す数を15住戸から17世帯に増やす。調査区の数を抑えれば、名簿づくりや調査員の確保にあたる自治体の事務が軽くなる。抽出の対象を、空き家を含む「住戸」から空き家を含まない「世帯」に変えることで、住民基本台帳の情報を使った名簿作成が容易になり、調査員による居住確認を省ける場合も出てくる。
| 項目 | 令和4年調査 | 令和9年調査(案) |
|---|---|---|
| 対象世帯数 | 約54万世帯 | 約58万世帯 |
| 報告者数 | 約108万人 | 約108万人 |
| 母集団 | 約5300万世帯・約1億1000万人 | 約5600万世帯・約1億1000万人 |
| 第1次抽出の調査区数 | 約3万4000 | 約3万2000 |
| 各調査区からの抽出 | 15住戸 | 17世帯 |
| 調査票 | A3判単票(1枚表裏) | A3判2枚二つ折りの冊子型(計8ページ) |
そのうえで新設するのが、外国人世帯が一定数以上いる調査区を1つの層として扱う仕組みである。統計局はこれを「層5」と呼び、該当する調査区では17世帯の抜き出しをせず全世帯を調査する。基準は「外国人世帯が10世帯以上の調査区」で、令和2年国勢調査の結果を使った試算では全国で約800調査区になった。この条件は令和7年国勢調査の結果で再計算するため、変更の可能性がある。
全数にする効果は数字で示されている。令和2年国勢調査による日本の外国人比率1.99%に対し、調査全体で2.57%を把握できることを目安とし、層5から約800調査区を抜き出して全体を約3万2000調査区とすれば2.59%を把握できる。一方、層5を他の層と同じ17世帯抽出にとどめた場合は1.42%にしかならない。統計局は「層5の調査区内を全数把握することの外国人の捕捉への効果が非常に高いことが確認できた」としている。
就業構造基本調査で調査対象に入る外国人の比率(令和2年国勢調査の結果による試算)(%)
数値で見る(単位: %)
| 項目 | % |
|---|---|
| 国勢調査 | 1.99 |
| 把握目安 | 2.57 |
| 今回案 | 2.59 |
| 全数なし | 1.42 |
調査区を減らす分、全体の精度は理論上下がる。統計局は「就業者数」について前回と今回の標本設計で標準誤差率を試算し、今回の誤差率は前回の1.02倍にとどまったとして、影響は限定的だと判断した。前回と同じ抽出方法で約108万人を確保しようとすれば約3万6000調査区が必要になり、その分だけ調査員を増やさなければならない。
国籍別の結果をどこまで細かく出すかは、まだ絞られていない。15歳以上の外国人は令和7年国勢調査の結果で人口全体の3%程度で、就業構造基本調査の標本規模は約1%抽出である。このため令和9年調査では年齢階級や有業・無業の別といった基本的な事項での集計にとどめ、都道府県別や国別の集計は精度を検証し表章できる国の数を精査したうえで、参考表として公表する予定だとしている。回答を得るための手立てとしては、7か国語以上のメッセージを載せた外国人向けリーフレットの配布、キャンペーンサイトの外国人向けページ、調査員指導用動画での対応場面の収録が挙げられた。
調査票は冊子型へ、郵送提出は督促用に限る
調査票の様式も変わる。前回まではA3判1枚の表裏に項目を詰め込んだ単票形式で、報告者や自治体から文字の読みにくさとレイアウトの圧迫感を指摘されていた。令和9年調査では文字を大きくし行間を広げるため、A3判2枚を二つ折りにして重ねた冊子型とし、表紙を含めて計8ページになる。全員が回答する事項を見開きにまとめるなど、配置も組み替える。
提出方法の扱いも整理された。令和4年調査は新型コロナウイルスの流行もあって非接触型の郵送提出が全体の60%以上を占めたが、郵送提出は調査員に直接渡す場合よりも補筆・訂正の率が高く、市区町村の審査負担が増えたことが確認された。そこで令和9年調査では、市区町村の審査を要しないオンライン回答を推奨し、オンラインが難しい場合は調査員への提出を基本とする。郵送提出は主に、期限内に回収できなかった世帯への督促の手段として使い、督促時に返信用封筒を配る形に改める。
審査メモは、様式を大きく変えたことで調査員の配布・回収事務や市区町村の審査にどんな影響が出るか、オンライン回答を進めるためにどんな方策を取るかを論点として挙げた。
前回答申(令和3年12月24日付、統計委第21号)で課題とされたフリーランスの集計については、令和9年調査でも令和4年調査と同じ定義(実店舗がなく雇人もいない自営業主または一人社長で、その仕事で収入を得る者)を使う。あわせて、令和5年に成立した特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号)の定義には実店舗の有無に関する記述がないため、同法の定義に基づく集計もできるよう集計区分を追加する。
労働力調査はILO基準の「失業者数」も公表へ
労働力調査の変更は3つある。実施時期は、「使用する統計基準等」の変更が令和9年1月調査以降、それ以外が令和10年1月調査以降である。
1つ目は、毎月の基礎調査票ではなく、2年目の2か月目に当たる世帯だけが答える特定調査票(約1万世帯・15歳以上の世帯員約2万5000人)の見直しだ。これまで「転職希望」と「追加就業希望」を1つの調査事項でまとめて把握していたのを、独立して分かるよう2つに分ける。本業を変えたいのか、本業に加えて別の仕事もしたいのかが区別できるようになる。「追加就労希望就業者」を把握する設問文も、2013年のILO決議に準拠した定義と整合するよう書き改める。審査メモは、設問文の変更で時系列比較に支障が出ないか、利用者にどう知らせるかを論点に挙げた。
2つ目が集計事項の見直しである。労働力調査は失業の状況について2つの定義を併せ持つ。従来から使ってきた「完全失業者」は、①仕事に就いていない②月末1週間に求職活動をした③すぐに就業できる、の3条件を満たす人をいう。これに対しILO基準の「失業者」は、求職活動の期間を過去1か月以内まで広げて数える。1週間より前に求職活動をした人は完全失業者には入らないが、ILO基準の失業者には入るため、失業者は完全失業者を含むより広い区分になる。
これまで、世帯の種類や求職理由などで分けた表は「完全失業者数」だけで集計し、前年同月比較や季節調整値による前月比較ができるようになるまでは完全失業者の結果を公表するとの注記を付けていた。経年のデータが積み上がって季節調整値による比較が可能になったため、注記を削り、完全失業者数に加えて失業者数も公表する形に変える。審査メモは、2つの指標が並ぶことで利用者が取り違えないよう、どんな対応を想定しているかを問うた。
ILO基準の失業者は、2013年10月の第19回国際労働統計家会議で採択された決議に基づく「未活用労働」という考え方の一部だ。未活用労働は、働ける能力があるのに十分な仕事に就けていない状態を、現に失業している人以外も含めて幅広くとらえる概念で、労働力調査では「追加就労希望就業者」(週35時間未満の就業で、就業時間の追加を希望し、追加できる人)、「失業者」、「潜在労働力人口」の3区分を置いている。統計局は2018年1月調査から把握できるよう調査事項を改め、2018年1〜3月期平均の結果から未活用労働指標を公表してきた。
3つ目は季節調整プログラムの入れ替えである。これまで使ってきた米国センサス局の「X-12-ARIMA」は提供が終了しており、現行のプログラムは後継の「X-13ARIMA-SEATS」になっている。安定した保守管理と運用環境を確保するため、調査計画の記述を改める。季節調整の基本的な手法は変えず、従来と同じX-11コマンドによる季節調整を続ける。切り替えにあたって従来の設定を保ったまま主要30系列を比較検証したところ、26系列は表章単位で差異が認められず、差異が生じた4系列も最小単位程度の差にとどまったという。この扱いは8月27日の第19回評価分科会で、サポートが終了したプログラムから早期に切り替える必要性として整理されていた。
標本設計の見直しは国勢調査の結果待ち
労働力調査については、前回答申(令和4年1月26日付、統計委第159号)で、1世帯当たりの15歳以上の平均世帯人員が減る傾向を踏まえ、標本調査区ごとに選ぶ世帯の「基本数」の変更の必要性を含め、5年ごとの国勢調査の結果を踏まえて標本設計の見直しの要否を定期的に検討することが課題とされていた。基本数は令和4年2月の承認で、令和5年5月分以降の調査から標本調査区の交代の都度、15から16に順次変更されている。総務省は、令和7年国勢調査の結果を踏まえて検討を進める予定だと答え、審査メモはその検討状況を論点に挙げた。
就業構造基本調査の層5の基準も、令和7年国勢調査の結果で再計算する。2つの調査の設計がそろって国勢調査の結果を待つ形になっており、2025年の全数調査の確定値が、毎月の失業率から5年ごとの就業構造の調査まで、統計の土台を順に組み替えていくことになる。令和7年国勢調査では総人口の実測値が人口推計を24万6496人下回り、推計との差が確認されている(日本の人口は2026年9月時点で1億2265万人 1年間で54万人減 2025年国勢調査の実測は1億2297万2528人で、推計より24万6496人少なかった)。
統計委員会は部会での審議を経て答申をまとめ、総務大臣が承認の適否を判断する。就業構造基本調査の実施期間は令和9年9月下旬から10月下旬までで、調査期日は2027年10月1日現在となる。
