総務省は10月21日、10月20日にオンラインで開かれたG7デジタル・技術大臣会合の結果を公表した。議題は「AIセキュリティ」と「デジタル空間における青少年保護」の二つで、前者について議長声明が発出された。声明は、高い性能を持つ「フロンティアAIモデル」のリスクと事案について、G7メンバーが協調し収れんしたアプローチを取る必要があると指摘し、G7内の調整を強める方策として専門のハイレベルグループを設ける選択肢を挙げた。日本からは藤井比早之総務大臣が出席した。

議長声明、「制御喪失」や悪用のリスクを挙げ、開発の全段階での措置を議論

会合はフランスのAI・デジタル担当大臣が主催した。議長声明の仮訳によると、会合ではまず、重要な分野にわたるAIの急速な進展と大規模な展開が、生産性の向上、公共サービスの改善、特に科学および医療分野における進歩といった「変革的な機会」をもたらし得ることが強調された。

そのうえで声明は、フロンティアAIモデルおよびシステム(声明はこれを「フロンティアAIモデル」と呼ぶ)が伴うリスクを二系統で整理した。一つは、サイバーセキュリティの問題と、制御喪失のシナリオにつながり得る意図しない挙動に起因するリスクである。もう一つは、悪意ある主体による悪用で、悪意あるサイバー活動の分野と、化学・生物・放射性物質に係る能力の開発の分野が名指しされた。

フランスG7議長国は、フロンティアAIモデルは開発・展開・影響のいずれにおいても国境を越えるものであり、したがってその機会とリスクは「本質的に世界的なもの」であることを認識したと声明は記した。開発の停止ではなく、国をまたぐ管理の仕組みをどう組むかに議論を置いた形である。国内では、共産党国会議員団、政府に「最先端AIの開発を一時停止・禁止するよう各国に求めよ」と申し入れ 自衛隊の指揮統制システムへのAI導入計画の中止も要求のように開発そのものの停止を求める主張も出ているが、G7の議論はそこには立っていない。

声明によると、議論ではG7メンバーのそれぞれの管轄区域内で収れんしている複数のアプローチが明らかになった。これを踏まえ、デジタル・技術担当大臣と代表は、ライフサイクル全体を通じてリスクを特定・評価・緩和するために、フロンティアAIモデルの提供者がその開発の全段階で講じ得る様々な適切な措置について議論した。声明はこの「全段階」に、展開および市場投入の前と、その期間中を含むと明記している。公開後の監視だけでなく、世に出す前の段階を対象に含めたことになる。

もう一つの柱は情報の共有である。声明は、フロンティアAIモデルに関連するリスクおよび事案の理解、特定、情報共有について、G7メンバー間で協調し収れんしたアプローチが必要だとした。あわせて、フロンティアAIモデルのセキュリティという課題について、G7が同志国間の適切な調整の場として果たし得る「独自の役割」が強調された。

具体の手段としては、新しい機関を一から作るのではなく、既存の作業を使う方向が示された。声明は、フロンティアAIモデルの開発者および独立した専門家との自主的な連携の下で、G7メンバーの国内機関・組織や関連する国際機関・イニシアティブの作業を活用することが有益だとし、先進AIの計測・評価・科学に関する国際ネットワーク、国際標準化団体(特にISO-IEC、ETSI、CEN-CENELEC)、OECD AIガバナンス作業部会、広島AIプロセス報告枠組みを挙げた。

調整の強化策に「専門のハイレベルグループ」 既存は4つのチャネル

声明によると、議論を通じてG7メンバーは、既存のG7のチャネルに基づいて調整を強化するための複数の潜在的な方策を検討することができた。その中には、深刻かつ急速に進展する分野横断的なフロンティアAIモデル関連の開発が発生した場合を含め、関連するG7トラック間の調整を円滑化する観点から、専用のハイレベルグループを設置するという選択肢も含まれる。

ここで言う「既存のチャネル」は、声明の脚注に4つ並んでいる。AIの安全を扱う窓口がデジタル分野だけでなく、サイバーセキュリティ、金融監督、外交の各トラックに分かれているため、横をつなぐ必要が生じているという構図である。

チャネル 構成・所属
デジタル・技術作業部会 声明に構成の記載なし
サイバーセキュリティ作業部会 各国のサイバーセキュリティ機関・センターで構成
サイバー専門家グループ 財務省および中央銀行を含む各国金融監督当局のサイバー専門家で構成。フランス議長国の下では財務トラックに属する
伊勢志摩サイバーグループ フランス議長国の下では外務トラックに属する
議長声明が「既存のG7のチャネル」として脚注に挙げた4つの枠組み出典: 総務省「フロンティアAIモデルのセキュリティに関するG7デジタル・技術大臣会合 議長声明」仮訳

設置は決まっていない。声明の書き方は、複数の方策を「検討することができた」であり、ハイレベルグループはそのうちの一つの選択肢という位置づけにとどまる。

藤井総務相、広島AIプロセスの機敏な対応と3つの貢献策を説明

会合には総務省から藤井比早之総務大臣が出席した。総務省の公表資料によると、藤井大臣はAIセキュリティに関して、G7がフロンティアAIモデルについて議論を深めることは非常に重要であることと、国際社会におけるAIガバナンスの共通基盤として機能している広島AIプロセスが新しいリスクや技術の進展に機敏に対応できるよう取り組んでいくことが重要であることを述べた。

日本の貢献策としては3点を挙げた。①他のG7諸国やOECDなどとのリスク評価や情報共有といった安全性に関する協力、②フレンズグループを活用したG7の価値観のグローバルな共有、③同志国やグローバルサウス諸国との「安全、安心で信頼できるAI」エコシステムの共創である。③について日本政府は地域ごとの働きかけを進めており、日本、ASEANとのAI協力の進み具合を説明 「バーティカルAI」「フィジカルAI」を売り込むでも同じ枠組みの説明が行われている。

青少年保護については、偽・誤情報や誹謗中傷対策をはじめとするオンライン空間の諸課題への対応の一環として、子どもを含む幅広い世代のリテラシー向上対策に取り組んでいることと、引き続きG7各国と緊密に協力しながら、こどもの権利の擁護と健全な成長の実現に向けて取り組むことを述べた。

青少年保護は招待5か国も参加 フランスが国際プラットフォームを提案

会合に参加したのは、G7構成国・地域のフランス(議長国)、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、カナダ、EUと、国際機関のOECDである。これに加えて、議題(2)の青少年保護にのみブラジル、エジプト、インド、ケニア、韓国の5か国が招待国として参加した。AIセキュリティはG7とOECDで、青少年保護は輪を広げて議論する形が取られた。

青少年保護では、「青少年のオンラインリスクに関する科学的協力のための国際プラットフォーム」の創設がフランスから提案された。総務省によると、今後、このプラットフォームの立ち上げに向けて議論が行われる予定である。

今回の会合は、令和8年5月29日にフランス・パリで開かれたG7デジタル・技術大臣会合と、6月15日から17日までフランス・エビアンで開かれたG7サミットのフォローアップとして開催された。5月の会合には堀内詔子総務副大臣が出席し、「安全なAIの推進」「経済成長のためのAI導入の促進」「デジタル分野の強靭性と資源効率の確保」「青少年のためのより安全・安心なデジタル空間の構築」の4テーマを扱って閣僚宣言などを発出している。この宣言で、青少年の身体的・精神的・認知的な健康と発達を保護するための「青少年のためのより安全・安心なデジタル空間を定義するG7共通原則」が支持され、年齢確認、セーフティー・バイ・デザイン、ペアレンタルコントロール・ツールの利用などを含む7つの原則が示された。

土台の広島AIプロセス 報告枠組みは2.0で31組織に

議長声明は、広島AIプロセスと5月29日のG7デジタル・技術閣僚宣言を「基盤として」協力強化の方策を探求したと記している。広島AIプロセスは、高度なAIシステムに関する国際的なルールづくりのために立ち上げられた枠組みで、総務省が運営するサイトで状況が公表されている。

その中核にあるのが「報告枠組み」である。生成AIの開発における透明性と説明責任を促進するため、「国際行動規範」の遵守状況をAI開発者自らが自主的に報告し公表する手法で、令和7年2月に正式に運用が始まった。同年4月には日本企業7社を含む19組織が初回の回答を提出し、OECDのウェブサイト上で公表された。令和8年10月2日には「報告枠組み2.0」について、日本企業7社を含む31組織の回答が公開されている。開発者に報告を義務づけるのではなく、自主的な報告をそろえて比べられる形にするのが仕組みの骨格である。

広島AIプロセス報告枠組みに回答した組織数(組織)

01020304019初回312.0
初回公表は2025年4月の19組織、報告枠組み2.0は2026年10月の31組織。日本企業はいずれも7社出典: 総務省「広島AIプロセス」報告枠組み
数値で見る(単位: 組織)
項目組織
初回19
2.031

参加国の輪も広がっている。広島AIプロセスの精神に賛同する国々の自発的な枠組みである「フレンズグループ」は2024年5月に立ち上がり、総務省が公表する2026年8月時点の一覧には69か国と欧州連合の計70の国・地域が並ぶ。民間のAI関連企業や国際機関などが参画してフレンズグループの活動を支援する「パートナーズコミュニティ」の一覧には、2026年10月時点で52の企業・組織が載っている。総務省は10月8日にPartnership on AI(PAI)、10月19日に株式会社AIアシュアランスが同コミュニティに参加したと公表した。

5月の閣僚宣言では、報告枠組みの改訂が称賛され、広島AIプロセスが重要なマルチステークホルダー・プラットフォームであることが認識された。フレンズグループの開発途上国などへの更なる拡大と、2026年3月に発表された「広島AIプロセス・アクションプラン2026」も歓迎されている。今回の議長声明が、調整の強化策を検討する際に活用し得る既存の作業として広島AIプロセス報告枠組みを挙げたのは、この延長線上にある。

日本にとっての損得は、この一文の位置にある。声明はフロンティアAIの安全を扱う土台として広島AIプロセスと5月のG7閣僚宣言を据えており、日本が2023年に立ち上げた枠組みが、G7が協調の基準を置く場所として残った。新しい国際機関を作る方向であれば、設計と主導権の取り合いが一から始まる。既存の作業を活用する方向であれば、日本は運営している枠組みをそのまま持ち込める。

残るのは中身の側である。報告枠組み2.0に回答した31組織のうち日本企業は7社で、初回の19組織のときと同数にとどまる。回答組織が12増えた分は国外の開発者で埋まった形で、国内の開発者がどれだけ加わるかは別の課題として残っている。藤井大臣が貢献策に挙げたフレンズグループの拡大も、裾野が広がるだけでは報告の実務につながらない。

ハイレベルグループが実際に設置される場合、関わるのは総務省だけではない。声明が脚注に挙げた既存のチャネルは、デジタル・技術、サイバーセキュリティ、金融監督(財務トラック)、外交(外務トラック)に分かれている。横をつなぐ場に日本が人を出して議論の初期から入るには、省庁をまたぐ体制を先に決めておく必要がある。