政府は10月20日付の答弁書で、競輪場や競艇場に子ども向けの遊具や遊び場を設けている公営競技の施行者の対応について、「地域の交流の場として設けられていると承知」しており、「専ら『子ども』を『賭博』に親しませることを目的としているものではないことから、不適切なものとは考えていない」と答えた。衆議院の西村智奈美議員が10月7日に提出した「ギャンブルの日常化の防止等に関する質問主意書」への回答で、内閣総理大臣の高市早苗氏の名前で衆議院議長の森英介氏に送られた。答弁書の番号は内閣衆質二二二第九号で、同日受領された。
個別の企画は「お答えする立場にない」
主意書は、公営競技の施行者が子どもを競技場に呼び込む企画が「近時エスカレートしている」と指摘し、二つの具体例を挙げていた。一つは福岡県の小倉競輪場で今年8月に開かれた「小倉けいりん夏祭り」で、来場した子どもに実際のレースの一着当てクイズに参加させ、自分が選んだ番号の選手を応援させて、当たった子どもにおもちゃなどの景品を渡したという。もう一つはボートレース尼崎の会場で8月にあった「納涼夏祭り&尼崎ボートフェスティバル」で、盆踊りや縁日などに加え、レース用のボートを模したボートに子どもを試乗させる企画があり、尼崎市公営競艇施行者協議会と尼崎教育委員会が後援していたとしている。
これらについて答弁書は、「御指摘の『施行者』である各地方公共団体の企画については、一義的には各地方公共団体の判断及び責任において実施されているものであることから、個別の企画の適否について政府としてお答えする立場にない」と記した。経済産業省が把握しているかという問いにも、個別には答えていない。
主意書は、同種の企画が他の施行者でも行われているおそれが高いとして、ギャンブル等依存症問題を統括する内閣官房が所管省庁に実態調査を求めるべきだとも求めた。答弁書は、内閣官房としては公営競技の運営は各所管省庁が適切に指導すべきものだとした上で、「子どもを公営競技に親しませようとする公営競技施行者の企画」の実態について、「現時点において、『所管省庁に実態調査を求める』ことは予定していない」と答えた。
教育委員会が企画を後援することの是非については、「当該行事の趣旨、内容等を総合的に勘案して、当該教育委員会において適切に判断されるべきものであることから、お尋ねについて、政府として見解を述べることは差し控えたい」とした。文部科学省としての見解も示していない。
公営競技では20歳未満の投票券購入が禁じられている。主意書は、子どもを競技場に呼び込んで競技に親しませることが、政府自身が禁止の理由として挙げてきた「射幸心や遊び癖を醸成あるいは助長する」ことにつながると主張した。答弁書は、挙げられた施設と企画について「政府として把握している限りでは、関係法令に違反するものではなく、政府として直ちに二十歳未満の者の『射幸心や遊び癖を醸成あるいは助長する』ものとして対策を講ずる必要はないものと考えている」と答えた。
広告指針の改定は「必要があるとは考えていない」
公営競技の広告・宣伝については、全国公営競技施行者連絡協議会が令和4年(2022年)3月に「公営競技広告・宣伝指針」を策定し、令和8年(2026年)1月に改訂している。この指針は、児童向けのテレビ番組・ラジオ番組・雑誌などで広告・宣伝を行わないこと、屋外広告について空間を過度に占拠しないこと、交通広告について車内や駅構内などの空間を過度に占拠しないことといった配慮を定めている。各競技の事業者はこれを踏まえて自前の指針を作る仕組みになっている。
主意書は、児童が触れる時間帯の放送では全面的に広告をやめるべきだ、動画広告の表示頻度や時間帯も制限すべきだとして、政府が協議会の指針そのものの改定を促す必要があると求めた。答弁書は、「まずは現行の連絡協議会指針に基づく取組が着実に実施されることが重要であると考えており、現時点において、お尋ねのように『改定を促す必要がある』とは考えていない」と答えた。
主意書は事業者の自主的な取り組みの中身も問題にした。全国公営競技施行者連絡協議会が提供する「ギャンブル依存症セルフチェック」が、依存症の段階にあることを示す回答をした利用者に対し「もう少し軽い気持ちでギャンブルをできたらいいですね」といった助言を返すこと、全国モーターボート競走施行者協議会などが「ボートレースは自分の考えで楽しめる健全な知的ゲームです」と掲げていることを挙げ、所管省庁がこの実態を把握しているかを尋ねた。答弁書は「御指摘のような記載があることは承知しているが、これらの記載が直ちに問題であるとは考えていない」と記した。
競馬は農林水産省、競輪とオートレースは経済産業省、競艇は国土交通省が所管する。主意書は、振興を担う省庁が依存症対策の監督も行う仕組みを問題視し、監督権限の行使に適した行政の在り方を検討すべきだと求めた。答弁書は、ギャンブル等依存症対策基本法(平成30年法律第74号)第24条に基づくギャンブル等依存症対策推進本部の下で関係省庁が連携すると述べるにとどまり、所管の見直しには触れなかった。ウェブ閲覧者への執拗なターゲティング広告や「あと○分でボーナス終了」のような表示についても、各事業者の指針で射幸心を過度にあおらないよう留意するとされていることを挙げ、「消費者保護の観点も含め、当該指針に基づいた適切な運用がなされるよう促してまいりたい」とした。
WHOの文書は「重要な記載も含まれている」
前回の答弁書(令和8年7月31日・内閣衆質二二一第三八号)は、「WHO等の提言その他のギャンブルの日常化を防止すべきとする国際的な潮流」の意味するところが明らかではないという趣旨の記述を繰り返していた。主意書はこれを、国際的な動向を参考にする姿勢の欠如だと批判し、政府が国際的な場で「我が国としては、ギャンブルの日常化の問題があるという認識は持っていない」という立場をとるつもりなのかを問うた。
これに対し答弁書は、「政府としては、射幸心を過度にあおる広告及び宣伝がギャンブル等依存症を誘発する可能性があるとの立場に立って、国際的な場での議論に参加してまいりたい」と答えた。広告と依存症の関係について、政府の立場が文書で示された部分である。
WHOが2024年12月2日付で公表したファクトシート「Gambling」についても、主意書は、厚生労働省が入手する「国際的な情報」に含まれるのか、どう評価しているのかを尋ねた。答弁書は「お尋ねの『ファクトシート』は、『国際的な情報』に含まれるものである」と認め、評価については「どのように評価しているか」の意味するところが明らかでないため一概に答えるのは困難だとしながら、「『ファクトシート』には、重要な記載も含まれていると考えている」と記した。
このファクトシートは、世界の成人人口の1.2%がギャンブル障害を抱えていると推計されるとし、世界全体で女性の約5.5%、男性の約11.9%が何らかの害を受けていると記している。害を受ける水準で賭けている人が、ギャンブル事業者の収入(利用者の損失)の約60%を生んでいるとの推計も載せている。治療や支援を求める人は人口の0.14%と推計され、業界が好む「責任あるギャンブル」という規制手法は、害を受けた本人を責めることで負担を増やし、おおむね効果がないとも書いている。
依存が疑われる者は1.7% 令和8年度に2つの調査
答弁書は、令和8年度(2026年度)に独立行政法人国立病院機構久里浜医療センターが、厚生労働省の補助事業「依存症に関する調査研究事業」として、ギャンブルに関する広告に暴露された量とギャンブルに関する行動との関連を調べる調査を実施する予定だと説明した。実施に当たっては、国際機関による提言や諸外国の先行研究も踏まえるとしている。
基本法第23条に基づく3年ごとの実態調査も令和8年度に行われる。答弁書は「近年のギャンブル等依存症に関する課題及び知見を踏まえ、調査内容の見直しについて検討しているところである」と記した。調査体制については、久里浜医療センターの事業の一部を関連する研究機関に委託して実施することもできるとして、「必要な体制の確保に努めている」と答えた。
前回の実態調査は令和5年度(2023年度)に「国民の娯楽と健康に関するアンケート」として実施された。住民基本台帳から層化二段無作為抽出で選んだ1万8000人を対象に自記式のアンケートを行い、9291人(回答率51.6%)が回答し、8898人(有効回答率49.4%)が有効回答だった。ギャンブル等依存が疑われる者(PGSI8点以上)の割合は年齢調整後で全体1.7%(95%信頼区間1.4〜1.9%)、男性2.8%、女性0.5%だった。年代別では40代が2.4%で最も高く、30代が2.1%で続いた。
| 項目 | 令和2年度 | 令和5年度 |
|---|---|---|
| 調査対象者数 | 1万7955人 | 1万8000人 |
| 回答者数 | 8469人(47.2%) | 9291人(51.6%) |
| 有効回答者数 | 8223人(45.8%) | 8898人(49.4%) |
| 依存が疑われる者・全体 | 1.6% | 1.7% |
| 同・男性 | 2.8% | 2.8% |
| 同・女性 | 0.4% | 0.5% |
依存が疑われる者が過去1年間に最もお金を使ったギャンブルの種類は、公営競技よりパチンコ・パチスロに偏っている。
依存が疑われる者が最もお金を使ったギャンブル(%)
数値で見る(単位: %)
| 項目 | % |
|---|---|
| パチンコ | 46.5 |
| パチスロ | 23.3 |
| 公営競技 | 17.9 |
| 投資・FX | 5.4 |
| 宝くじ | 3.9 |
| その他 | 3.1 |
パチンコが46.5%、パチスロが23.3%で、二つで約7割を占めた。公営競技は競馬9.3%、競艇4.7%、競輪3.1%、オートレース0.8%で、合わせて17.9%だった。国民全体では最もお金を使ったギャンブルは宝くじが53.3%、パチンコが15.0%で、依存が疑われる層とは順位が入れ替わる。なお、令和5年度の調査ではゲーム課金(ガチャ)もギャンブルの集計に含めており、「その他」に入っている。
7月の答弁書への再質問という形
質問主意書は、議員が内閣に文書で問いを立てる制度で、国会法第74条は「質問は、簡明な主意書を作り、これを議長に提出しなければならない」と定める。第75条は、議長が承認した主意書を内閣に転送し、内閣は受け取った日から7日以内に答弁しなければならないと規定する。期間内に答弁できないときは、理由と答弁できる期限を明示する必要がある。答弁書は閣議決定を経て、内閣総理大臣名で議長に送られる。
今回の主意書は、7月31日付の前回答弁書に「不明確又は不十分な点がある」として出された再質問である。前回の答弁書は、日本中央競馬会が家族連れへの参加促進・販売促進を行っていることについて、競馬法改正案に対する衆参農林水産委員会の附帯決議(令和4年11月2日・同11月10日)が「家族連れで入場しやすい親しみのある競馬場づくり」などの来場促進を指導するよう求めていることを踏まえ、事業計画の認可は「問題ないと考えている」としていた。子ども向けの遊具や競輪を模した遊び場についても「問題であるとは考えていない」と答えていた。今回の答弁書は、表現を「不適切なものとは考えていない」に変えたが、結論は変えていない。
第222回臨時国会で衆議院に提出された質問主意書は9本で、このうち8本は2人会派「志士の会」の緒方林太郎議員が出したものだった(「第222回臨時国会の質問主意書は9本、うち8本が緒方林太郎議員 所属は2人会派の志士の会 召集日に一括提出も内閣への転送はまだで答弁期限は起算されず」)。9号は唯一それ以外の議員によるもので、西村議員は統一会派「中道」に所属する。この国会では、ほかにも「政府答弁書、立川防災基地の選定根拠は「資料が現存せず回答困難」 副首都との比較「適当でない」」のように、問いの前提の意味が明らかでないとして答弁を控える形の回答が続いている。
ギャンブル等依存症対策基本法は平成30年(2018年)に成立し、第15条で、国と地方公共団体は広告・宣伝や入場の管理といった関係事業者の事業の実施方法について、「関係事業者の自主的な取組を尊重しつつ」依存症の予防が図られるよう必要な施策を講ずるものとしている。これに基づく「ギャンブル等依存症対策推進基本計画」は令和7年(2025年)3月21日に閣議決定された。今回の答弁書は、この「自主的な取組を尊重しつつ」という文言を繰り返し引きながら、事業者への踏み込んだ要請や指針の改定を求めない姿勢を示した形になっている。
