日本銀行は10月23日、「金融システムレポート」の2026年10月号を公表した。日本の金融システムについて「全体として安定性を維持している」と評価し、企業の資金需要が増えるなかで金融機関が積極的な融資姿勢を続け、金融仲介活動は円滑に行われているとした。一方で、株価は引き続きトレンドから上に離れた状態にあると指摘した。今回は、AI関連投資の収益性への期待が縮み、海外のファンドなどノンバンク部門が保有資産を売ることで市場の下落が広がる状況を想定したストレステストを行い、その場合でも金融システムの安定は保たれるとの結果を示した。

金融システムレポートは、日銀が金融機関や市場の状況を点検し、金融システム全体の安定性を評価する報告書で、4月と10月の年2回公表している。今回の号は原則として2026年9月末までに得られた情報に基づく。日銀は、中東情勢、AI関連投資の収益性と資金調達、海外ノンバンク部門の動向を巡る不確実性は「引き続き高い」とし、これらが様々な経路で金融システムに及ぼす影響を「丁寧にみていく必要がある」と記した。

14指標のうち3指標が「赤」 株価の過熱を指摘

日銀は、金融活動の過熱や停滞を早めに捉えるため、貸出や資産価格などに関する14の「金融活動指標」を、トレンドからの乖離の大きさに応じて色分けした「ヒートマップ」で示している。指標が上限の閾値を上回れば「赤」、下限を下回れば「青」、どちらでもなければ「緑」となる。

今回は14指標のうち11指標が「緑」で、トレンドから大きく離れていない状態だった。「赤」は3指標で、「株価」と「機関投資家の株式投資の対証券投資比率」は前回の2026年4月号から「赤」が続いた。「株式信用買残の対信用売残比率」は2024年半ば以来の「赤」となった。3指標はいずれも株式に関わる指標である。14指標をまとめた「金融ギャップ」は、価格の要因を主因に、プラス幅がこのところ幾分広がっている。日銀は、多くの指標が「赤」になった1980年代後半のバブル期のような状況にはないとしている。

もっとも、株価の水準を企業の利益と比べた指標でみると、9月末時点のPER(株価収益率)は、分母の予想1株利益が増えたことで、概ね2008年以降の平均並みだった。日銀は、日本株の上昇はAI関連需要の恩恵が大きい電機、精密、非鉄、機械などの業績改善予想に引っ張られてきたと分析した。そのうえで、米国の巨大IT企業(ハイパースケーラー)などの大規模なAI関連投資に見合う収益の拡大が実現しない場合には、日本株にも調整の圧力が生じ得るとし、相応の株式を持つ金融機関にとって株価の動向には留意が必要だとした。

不動産価格は、景気回復と物価上昇を受けて全体として上がっている。賃料に対する比率は概ねトレンドに沿って動いているが、首都圏を中心に三大都市圏では上昇の速さが増している。日銀は、建設費の高騰や人手不足による供給の制約、投資用マンションの取引や海外投資家による商業用不動産の取引などが寄与している可能性を挙げた。東京の商業用不動産の利回りと金利の差(イールドギャップ)は、物件価格と金利の上昇によって縮まってきている。

海外ファンドとの結びつき、18年で拡大

今回の号で日銀が紙幅を割いたのが、海外のノンバンク部門との結びつきである。ノンバンク部門は、銀行以外で資金をやり取りする投資ファンドなどを指す。レポートによると、国内の銀行などから海外ノンバンク部門への投融資は2008年3月の8兆円から2026年6月には126兆円に増えた。海外のファンドなどによる日本の株式・債券への投資は、同じ期間に111兆円から408兆円に増えた。

国内金融機関と海外ノンバンク部門の投融資の結びつき(兆円)

2008年3月2026年6月

02004006008126邦銀→海外111408海外→日本
国内の銀行などから海外ノンバンクへの投融資は約16倍、海外ファンドから日本市場への投資は約3.7倍出典: 日本銀行「金融システムレポート(2026年10月号)」図表I-4
数値で見る(単位: 兆円)
項目2008年3月2026年6月
邦銀→海外8126
海外→日本111408

日銀は、日本のノンバンク部門が持つ金融資産の比率は他国より低めだとしたうえで、こうした双方向の結びつきが強まったことで、日本の金融システムは世界の市場の変動や海外ファンドの動きの影響を受けやすくなっている可能性があるとした。

背景にはAI関連の設備投資の急増がある。米国を中心にハイパースケーラーの設備投資が大きく増えており、従来は自己資金で賄っていたデータセンター投資について、近年は社債などで外部から資金を集める動きや、長期のリース契約で外部のデータセンターの利用権を確保する動きが目立っている。自己資金で賄えない部分では、プライベートファンドなど海外ノンバンク部門が資金の出し手として存在感を増している。世界の株式に投資するヘッジファンドでは、AI関連銘柄の保有割合が高まっている。日本の大手行の海外貸出のうち、海外ファンド向けやデータセンター向けの割合は大きくないものの、上乗せ金利が厚いことなどから注力分野になっており、日銀は貸出の質の管理に留意する必要があるとした。

ストレステスト 米国株5割安でも資本は規制水準上回る

日銀は、景気や市場が大きく悪化した場合に金融機関の自己資本がどこまで減るかを試算する「マクロ・ストレステスト」を3つのシナリオで行った。①市場の見方に沿った「ベースライン・シナリオ」、②リーマン・ショック期並みの市場の調整が起き、内外の経済も大きく悪化する「金融調整シナリオ」、③地政学的リスクの顕在化に伴う原油価格や世界の物価の上昇を背景に海外金利が上がり、海外経済も減速する「海外金利上昇シナリオplus」である。③は前回も考慮したAI関連投資の収益期待の縮小を精緻にしたうえで、そのショックが内外のノンバンク部門の資産の入れ替えで増幅される状況を想定した。

③の主な想定は次のとおり。

変数 ベースライン対比の最大の乖離幅 想定の方法
日米の長期金利 1.5%程度上昇 前回と同じ上昇幅
米国株価 ▲50%程度 AI関連銘柄はITバブル後の下落率をもとに想定
日本株価 ▲40%程度 同上
米国社債スプレッド(BBB格) +1,100bps程度 ノンバンクの増幅で前回より上昇幅が約600bps拡大
ファンド価格 ▲35%程度 関係する資産価格の想定から試算
実質GDP 米国▲5%、アジア▲7%、日本▲4%程度 計量モデルで試算
「海外金利上昇シナリオplus」の主な想定出典: 日本銀行「金融システムレポート(2026年10月号)概要」

結果をみると、試算の最終時点の2028年度末の自己資本比率は、どの業態でもベースライン・シナリオより下がった。③では、外貨の調達コストが上がって海外の資金利益が減るため、海外向けの比率が高い国際統一基準行(海外で業務を行う銀行)を中心に、基礎的な収益力を示すコア業務純益が減る。信用コスト(貸倒れに備える費用)は、国内向けでは金利低下による利払い負担の軽減が無いなかで原油高が企業収益を押し下げるため、①の金融調整シナリオより増え方が大きい。海外向けでは、AI関連の製造業の比重が高いアジア向けを中心に増え、海外のプライベート・クレジット(PC)ファンドやデータセンター向け貸出の損失も加わる。国際統一基準行は保有有価証券の評価損益が規制上の資本に反映されるため、株価と債券価格が同時に下がるストレスでは自己資本比率が大きく下がる。

それでも、自己資本比率は全体として試算期間を通じて規制水準を上回り、有価証券の評価損益を加味した経済価値ベースでも、平均的な自己資本比率は規制水準を上回った。規制水準は、国際統一基準行が普通株式等Tier1(CET1)比率4.5%、国内基準行がコア資本比率4%で、国際統一基準行には資本保全バッファーとして2.5%が上乗せされている。日銀は、リーマン・ショック以降に金融機関が自己資本を積み増してきたことと、貸出先の企業が全体として良好な財務基盤を保っていることを、耐性の背景に挙げた。

35年超の住宅ローン、地方銀行で新規の過半に

企業と家計の借り手側についても点検した。企業の倒産件数やデフォルト率は、新型コロナウイルス感染症の拡大前を上回る水準ながら横ばい圏で推移している。中小企業の売上高営業利益率は企業間の格差が大きく、上位は着実に改善する一方、下位は赤字圏で横ばいが続く。中東情勢の影響については、代替調達が進んでサプライチェーンの大規模な混乱は避けられているものの、原材料やエネルギー価格の上昇が中小企業を中心に収益を押し下げているとみられる。原油価格が2倍(100%上昇)になる場合を試算すると、デフォルトの確率が上がる中小企業の割合は総じて限られるが、原油高の影響を受けやすいコスト構造の企業群では確率が相応に上がる先が一部ある。

金利上昇への耐性では、実質的に借入金の無い企業が趨勢的に増えており、借入の多い企業でも利払い能力や負債比率は緩やかに改善している。

家計では、住宅ローンの大部分を占める変動金利型で適用金利が上がっているものの、賃金の上昇などが返済負担を和らげる方向に作用しているとした。一方、物件価格の上昇を主因に借入額が大きくなり、毎月の返済額を一定の範囲に抑えるため、返済期間が35年を超える超長期のローンが増えている。地方銀行では、35年超の住宅ローンが新規実行の過半を占め、残高でみても1割以上となった。こうしたローンは元本が減りにくい設計のため、金利が上がったときの利払い額の増え方が大きい。審査に使う金利と実際の貸出金利の差(金利バッファー)は多くの金融機関で2〜3%程度確保されており、日銀は相応の金利耐性があるとみる。そのうえで、長い返済期間のなかで返済能力が悪化し得ることを踏まえ、金融機関に利用者への十分な説明とリスク管理を求めた。

銀行の収益は改善、預金の「粘着性」に注意

金融機関の収益は、緩やかな景気回復で信用コストが抑えられているうえ、金利上昇の影響もあり、コア業務純益の改善がどの業態でも続いている。貸出金利と調達金利の差である貸出利鞘は、過去と比べ低い水準ながら、大手行を中心に拡大に転じた。

一方、金利の上昇で、円建て債券(円債)の保有比率が高い地域金融機関を中心に円債の評価損が膨らんでいる。もっとも、金利への耐性が比較的低い金融機関でも、多くの先で円債の残高を減らしたり、満期までの期間を短くしたりして金利リスクを減らしており、評価損の拡大を抑えている。

預金では、貸出に比べ預金が少ない(預貸率が高い)地域金融機関ほど定期預金の金利を高めに設定し、それが預金の増加につながっている。日銀は、高い金利で集めた預金は金利や経済の動向に敏感で、他行へ移りやすい可能性に注意が必要だとした。普通預金1口座当たりの振込件数も趨勢的に増えており、多様な決済・モバイルサービスの普及で預金を移す手間やコストが下がっていることが、預金の定着度に及ぼす影響にも留意が必要だとした。

日銀はより長い目でみた課題として、人口減少などで企業の借入需要が構造的に減り続けた場合、貸出市場の需給次第では金融機関の収益力や損失を吸収する力が低下し、金融仲介の停滞や、過度な利回りの追求による過熱につながる可能性があると指摘した。銀行から見た企業の資金需要の動きは企業の資金需要判断、プラス3に戻る 理由は設備投資 日銀の主要銀行貸出動向調査で伝えた。

「フロンティアAI」でサイバー攻撃の脅威高まる

レポートは、高度な能力を持つ最先端のAI、いわゆる「フロンティアAI」の発展に伴い、サイバー攻撃の速さや規模が増し得るとして、サイバーセキュリティを巡る脅威が高まっていると指摘した。インターネットバンキングの不正送金被害は、多要素認証の導入など対策の強化もあって最近は大きく減っているが、海外からの脆弱性探索などの不審なアクセスは増えている。

日銀は、サイバー事案は個々の金融機関や利用者にとってのリスクであると同時に、影響が他の金融機関に広がり得るため、金融システム全体の観点からも重要なリスクだと位置づけた。概要資料は、短期的な対応として「フロンティアAIへの対応を経営課題として扱う」「パッチ適用に係る人的リソースを追加する」「優先サービス/ITシステムの停止に備える」など9項目を示し、金融機関の経営層が新技術の便益とリスクを把握したうえで関与し、ガバナンスやリスク管理の態勢を整えるよう求めた。信用組合に向けたサイバー対策の話題は日銀・植田総裁、信用組合に3つの課題 取引先支援・預金戦略・AI時代のサイバー対策 全国信用組合大会で挨拶で伝えた。

日銀は、考査やモニタリングを通じてこうした潜在的な弱点への金融機関の取り組みを促すとともに、金融機関の多様なリスクテイクが金融システムに及ぼす影響を引き続き注視するとしている。