政府は10月23日の定例閣議で、商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律案を決定した。海上輸送で貨物の引き渡しを請求する権利を表す「船荷証券」、倉庫に預けた物品についての「倉荷証券」、海と陸など複数の手段をまたぐ運送の「複合運送証券」の3種類について、紙の証券に代わる電磁的記録の制度を新たに設ける。法務省は第222回国会(臨時会)に提出する主要法案の一つとして公表している。施行は一部を除き、公布の日から1年を超えない範囲で政令で定める日とする。

紙の証券に代わる「電子船荷証券記録」

法案に付いた「理由」は、「近年の情報通信技術の進展に伴う電子商取引の拡大に対応するため」、倉荷証券、船荷証券及び複合運送証券に代わる電磁的記録の制度の創設等の措置を講ずる必要があると説明している。

船荷証券は、運送人が貨物を受け取ったことや船に積んだことを記載し、その貨物の引き渡しを請求する権利を表す有価証券だ。証券の譲渡によって権利を移したり、質権を設定したりできる。法案は電子の記録にも、紙と同じ方法で権利を移す仕組みを用意した。

法案は商法に、電子船荷証券記録を扱う節を新設する。電子船荷証券記録は、船荷証券に記載すべき事項を記録した電磁的記録のうち、法務省令で定める技術的な措置が取られた「特定情報処理システム」で作成・管理され、記録が改変されていないかを確認できる措置などによって、運送人または船長が作ったものであることを確実に示せるものと定義した。

紙の証券では「所持人」が権利を行使する。電子の記録ではこれに当たる概念として「電子船荷証券記録の支配」を置いた。情報処理システム上で、特定の者だけが権利者として記録を利用できる状態を指す。記録を他人に移す行為は「電子船荷証券記録の提供」と呼び、支配の権限を指定した相手に移すための措置と位置づけた。

電子化の対象は船荷証券にとどまらない。法案は倉荷証券と複合運送証券にも、同じ仕組みの「電子倉荷証券記録」「電子複合運送証券記録」を設ける。

紙の証券 新設する電磁的記録 発行する者
船荷証券 電子船荷証券記録 運送人または船長
倉荷証券 電子倉荷証券記録 倉庫営業者
複合運送証券 電子複合運送証券記録 運送人または船長
法案が電子化の対象とする証券出典: 法務省「商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律案」

発行には荷主の承諾、譲渡は「電子裏書」で

電子の記録を使うかどうかは当事者が選ぶ。法案は、運送人または船長が荷送人または傭船者の承諾を得て、電子船荷証券記録の提供をすることができると定めた。倉荷証券でも、倉庫営業者は寄託者の承諾を得て電子倉荷証券記録の提供ができる。

紙の船荷証券と同じく、貨物を船に積んだことを記録した「船積電子船荷証券記録」と、受け取ったことを記録した「受取電子船荷証券記録」の2種類を設ける。受取の記録を受けた荷送人などは、船積み後、受取の記録を使えなくする措置と引き換えに、船積の記録の提供を求めることができる。

権利の移し方も紙に合わせた。指図式の電子船荷証券記録で権利を譲渡したり質権を設定したりするには、記録に「電子裏書」をした上で、譲受人や債権者に記録の提供をしなければ効力が生じない。記名式(支配の権限を持つ者に引き渡す旨が記録されたもの)と無記名式は、記録の提供だけで効力が生じる。条件を付けた譲渡は条件が無いものとして扱い、権利の一部だけの譲渡は無効とする。

譲り受ける相手の名前を記録しない「白地式電子裏書」も認めた。権利者が電子裏書の連続によって権利を証明する仕組みも置いた。法案は民法の有価証券に関する規定の多くを電子船荷証券記録に準用するとしている。

記録を持つ権利者は、支配の権限を持つ者に対し、記録の提供を請求できる。権利を差し押さえた債権者も同じ請求ができ、差押命令に基づいて強制執行もできる。

紙と電子は途中で切り替えられる

法案は、紙の証券と電子の記録の間の転換を両方向で認める。運送人または船長は、船荷証券の所持人の承諾を得て、紙の証券を回収するのと引き換えに、同じ内容を記録した電子船荷証券記録を提供できる。逆に、支配の権限を持つ者の承諾を得れば、電子の記録を使えなくする措置と引き換えに紙の船荷証券を交付できる。

転換の前に裏書や電子裏書があった場合は、転換後の証券や記録を受けた者まで裏書の連続があるものとみなす規定も置いた。数通の船荷証券が発行されている場合は、その全部と引き換えでなければ電子の記録に転換できない。

貨物の引き渡しについて、法制審議会の要綱案は、権利者は記録を権利者として使えなくする措置と引き換えでなければ運送品の引き渡しを請求できないとしている。同じ記録で二重に引き渡しを求められないようにする規律だ。

国際海上物品運送法も通知を電子で

同時に改正する国際海上物品運送法は、船積港または陸揚港が日本の外にある船舶による物品運送に適用される法律だ。改正案は、運送品の一部が失われたり傷んだりした場合に、荷受人などが運送人に送る通知を、書面に加えて電磁的方法でもできるようにする。運送人に対して権利を主張できる者として、船荷証券の所持人と並べて電子船荷証券記録の支配の権限を持つ者を加える。

商法と同法の改正に合わせ、鉄道営業法、地方税法、商品先物取引法、動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律なども、電子の記録を紙の証券と同様に扱うよう改める。

貿易取引の電子化をめぐっては、金融庁が9月29日、貿易取引の資金決済でステーブルコインを使う実証実験を支援案件に決めている(貿易の代金支払いにステーブルコイン、金融庁が実証実験の支援を決定 メガバンク3行とトレードワルツなど6社 紙のやり取りを減らし輸出代金の回収を早める)。

法制審議会の答申から2年、施行は公布後1年以内

法案は、法務大臣の諮問第121号「船荷証券等の電子化」を受けた法制審議会の答申に基づく。商法(船荷証券等関係)部会がまとめた要綱案は、2024年9月9日の第200回総会で全会一致で原案どおり採択され、直ちに法務大臣に答申された。閣議決定は答申から約2年後になった。

施行は公布から1年以内の政令で定める日で、政令への委任を定めた附則第4条だけは公布の日から施行する。記録が運送人によって作られたことを確実に示す措置や、特定情報処理システムに求める技術的な措置など、制度の中核になる要件の多くは法務省令に委ねられており、施行までに具体的な内容を定めることになる。

経過措置として、施行日より前に結んだ匿名組合契約、運送取扱契約、寄託契約、物品運送契約は従前の例による。施行日より前に出航した船舶の共同海損(船舶と積み荷に共通する危険を避けるための処分で生じた損害と費用)も、その航海に限って従前の例による。

同じ日の閣議では、重要土地等調査法の改正案や、法人等の実質的支配者に係る情報の把握等に関する法律案など、ほかに3本の法律案も決定された(重要施設周辺の土地取得を許可制に 政府、重要土地法改正案とBO透明化法案を国会提出)。