厚生労働省は10月23日、労働政策審議会労働条件分科会(第213回)を厚労省講堂で開き、裁量労働制の見直しについて「本日ご議論いただきたい論点」を示した。論点は、長時間労働や不十分な処遇をどう防ぐかという「濫用防止措置」と、制度の対象をどこまでとするかという「対象の在り方」の2つ。対象については、拡充を求める意見と、2024年4月に施行されたばかりの改正の適正運用を優先すべきだとする意見を併記した。

成長戦略が「対象の在り方」の見直しを明記

議題は「労働基準関係法制について」の1件で、厚労省労働基準局が資料No.1-1(論点)と資料No.1-2(これまでの意見と実態データ)を配った。

論点資料はまず、政府が7月21日に閣議決定した「日本成長戦略」の記述を引いている。成長戦略は労働市場改革の項で、労働時間法制について「2026年夏以降の労働政策審議会において議論を行う」とし、裁量労働制は「健康確保、長時間労働防止、適切な処遇確保などの濫用防止措置を前提に裁量労働制の対象の在り方について、見直しの検討を行う」と明記した。変形労働時間制、連続勤務規制や勤務間インターバル制度の法的位置付け、「つながらない権利」、副業・兼業での健康確保、テレワークも、あわせて検討するとしている。

労働時間法制の見直し全体の審議の進め方は、労働時間法制の見直し、月2〜3回の審議へ 過半数代表者の規定を労基法本体に移すか議論で伝えた。今回は、裁量労働制を単独で取り上げた資料が示された。

論点の1つ目の濫用防止措置について、資料は「不適切な運用がなされると長時間労働になりやすいという意見がある中で」長時間労働をどう防ぐか、また「適用にふさわしい処遇が確保されない」ことをどう防ぐかを問うている。2つ目の対象の在り方では、「非対象業務の混在や、他社の事業の運営の場合の適用を認めるなど」制度を拡充すべきだという意見と、「拡充や緩和は行うべきではなく、まだ施行されたばかりの令和6年の改正内容をはじめ、適正運用の徹底に取り組むべき」という意見を並べ、「濫用防止措置を前提に、どのように考えるか」と委員に投げかけた。

実際の労働時間にかかわらず「みなし」で計算する制度

裁量労働制は、仕事の進め方や時間配分を働き手の裁量に大きく委ねる業務について、実際に何時間働いたかにかかわらず、あらかじめ決めた時間を働いたものとみなす制度だ。労働基準法に2つの型がある。

専門業務型(第38条の3)は、省令と大臣告示で定めた専門的な業務が対象で、新商品や新技術の研究開発、人文科学・自然科学の研究、情報処理システムの設計、コピーライター、新聞記者、大学で主に研究に従事する教授などが含まれる。導入には、過半数労働組合または過半数代表者と労使協定を結び、労働基準監督署へ届け出る。

企画業務型(第38条の4)は、事業の運営に関する企画、立案、調査、分析の業務が対象で、企画部門で経営計画を立てる社員や、財務部門で財務計画を立てる社員が例に挙がる。労使で構成する労使委員会で5分の4以上の多数により決議し、届け出る必要がある。

厚労省の令和7年就労条件総合調査によると、裁量労働制を導入している企業の割合は専門業務型が2.1%、企画業務型が1.0%。適用されている労働者の割合は専門業務型が1.1%、企画業務型が0.3%にとどまる。法定労働時間を超えるみなし労働時間を設定する場合は、通常の働き方と同様に36協定の締結・届け出と時間外割増賃金の支払いが必要になる。

2024年4月1日に施行された前回の改正では、専門業務型の対象に銀行・証券会社のM&Aアドバイザリーの業務を加えた。一方で、専門業務型でも本人の同意を労使協定で定める事項とし、両方の型で同意を撤回する手続を整えた。健康・福祉確保措置の選択肢には、勤務間インターバルの確保、深夜業の回数制限、一定時間を超えた場合の適用解除、医師の面接指導を加えた。労使委員会は6か月以内ごとに1回開くことになった。

実労働9時間03分、みなし8時間14分

資料No.1-2は、国の「裁量労働制実態調査」(令和元年実施)の結果を改めて載せている。適用労働者が答えた1日の平均実労働時間は、外れ値を除く集計で9時間03分だった。これに対し、自分のみなし労働時間が「分かる」と答えた人の平均みなし労働時間は8時間14分で、実際の労働時間が49分長い。企画業務型では実労働9時間17分に対し、みなし8時間09分と、差は1時間08分に広がる。

区分 1日の平均実労働時間 1日の平均みなし労働時間
適用労働者・計 9時間03分 8時間14分
専門業務型 9時間01分 8時間15分
企画業務型 9時間17分 8時間09分
裁量労働制の適用労働者の1日の平均実労働時間とみなし労働時間(いずれも外れ値を除く集計)

出典: 厚生労働省「労働条件分科会(第213回)資料No.1-2」(裁量労働制実態調査・令和元年実施)

同じ調査で、制度が適用されていない人の1日の平均実労働時間は8時間39分だった。東京大学政策評価研究教育センターの分析では、性別や年齢、職種などの個人属性の影響を除いても、裁量労働制の適用によって1週あたりの労働時間が1.276時間長くなるとの推計が出ている。適用されていない人の1週あたり平均は43.89時間だった。1日あたりの睡眠時間への影響は0.040時間で、非適用の人の平均は6.52時間だった。

処遇の面では、裁量労働制の適用者に特別手当の制度がある事業場は、専門業務型で51.2%、企画業務型で64.0%だった。毎月支払っている事業場の平均額は、専門業務型が7万3545円、企画業務型が8万5401円だった。

一方、適用労働者の満足度は高い。専門業務型では「満足している」が41.3%、「やや満足している」が38.7%で、合わせて80.0%。企画業務型は45.1%と38.6%で、合わせて83.7%だった。

労使の主張は「拡充」と「適正運用」に分かれる

資料No.1-2は、これまでの分科会で出た意見を労働者側、使用者側、公益の別に整理している。

労働者側は、実態調査で「みなし労働時間よりも実労働時間のほうが1時間長いこと、長時間労働者の割合が高いこと」などが浮き彫りになったとして、「対象業務の拡充、導入手続等の要件緩和は行うべきではない」と主張した。非対象業務との兼務を認めると「会社の都合で恣意的に非対象業務の割合を高めることで、適用労働者の裁量が失われ」かねないとし、時期や繁閑に応じた働き方は「フレックスタイム制でも十分に対応できる」とも述べている。労使合意で対象業務を決める仕組みは「労働基準法の強行法規性を放棄することにも繋がりかねない」と反対した。

使用者側は、現行制度は対象業務が厳格で「企業で適用可否を判断することが難しく、また、手続も煩雑である」とする。労使の十分な協議や健康確保措置、適正な報酬を条件に、過半数労働組合との合意で「プロジェクト型業務や他社の事業に関する企画、立案、調査及び分析の業務」などに対象を広げられる仕組みの検討を求めた。中小企業では兼務が多く、「非対象業務との兼務が一部でもあると適用が認められない」との指摘や、AIの活用で「仕事の変化に労働時間法制が追いついていない」との意見もあった。

公益委員からは、厳密な分析によれば「裁量労働制の適用の有無だけでなく、現場レベルでの裁量の有無が労働時間や睡眠、満足度等を強く左右する」として、裁量の度合いがどう担保されるかに着目して議論すべきだとの意見が出ている。

新たな実態調査は2026年夏に実施

分科会が判断材料にしている実態調査は令和元年(2019年)の実施で、2024年の改正より前の状況を映したものだ。厚労省は改正後の運用を確かめるため、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)を実施主体として、新たな実態調査を2026年7月から8月にかけて行った。

新たな調査は、裁量労働制を導入している事業場と導入していない事業場、それぞれの労働者を対象とする。事業場には、みなし労働時間の設定、健康・福祉確保措置を実施した結果として適用を外した例の有無、同意撤回の申し出先や撤回後の配置・処遇、労使委員会や過半数代表への説明内容などを尋ねた。労働者には、同意を撤回したかどうかや撤回しない理由、業務遂行での裁量の程度、過半数労働組合の有無などを聞いている。

対象の拡充を求める使用者側も、適正運用を求める労働者側も、改正後の実態を判断の前提に置いている。今回の資料に新たな調査の結果はまだ載っていない。