政府は10月23日、「令和7年度エネルギーに関する年次報告」(エネルギー白書2026)を閣議決定した。2026年2月末の米国・イスラエルとイランの攻撃の応酬をきっかけにホルムズ海峡が通航困難になった事態について、価格や海上輸送への影響と日本の対応を検証した。海峡を通る船舶は一時約99%減り、日本は4月に中東からの原油調達量が前年同月の約3割まで落ちた。政府は民間備蓄と国家備蓄を段階的に放出し、7月末時点の備蓄は国家・民間・産油国共同を合わせて約206日分としている。

エネルギー白書は、エネルギー政策基本法第11条に基づき、政府が前年度にエネルギーの需給に関して講じた施策の概況を国会に報告する法定白書だ。2004年から毎年作成しており、今回が23回目になる。第1部が各年度の動向の分析、第2部が講じた施策の一覧という構成で、今年の第1部は「福島復興の進捗」と「中東情勢を踏まえた各国の動向と日本の政策対応」の2章を立てた。

海峡を通る船は一時約99%減 アジアの中東依存が際立つ

白書の概要資料によると、2026年2月28日から3月1日にかけて米国・イスラエルがイランの軍事施設などを攻撃し、イランは周辺国の軍事施設やエネルギー関連施設、商業船舶などを攻撃した。ホルムズ海峡は通航困難な状況になり、国際エネルギー機関(IEA)の加盟国は3月11日、過去最大となる4億バレルの石油備蓄の協調放出に全会一致で合意した。

その後、米国とイランは4月7日に一時停戦し、6月17日には戦闘終結などに関する覚書に署名した。しかし7月にはイランが海峡を通る民間船舶を攻撃し、米国が対抗措置を取った。覚書で定めた60日の交渉期限(8月16日)までに最終合意には至らず、白書は通航困難な状況が続いていると記している。

この間、原油価格は一時約6割上昇した。国際通貨基金(IMF)と英オックスフォード大学のデータによると、ホルムズ海峡を通る船舶の隻数は一時約99%減った。覚書の署名後に回復の兆しが見られたものの、続かなかったという。

白書は、この事態がアジアに偏って打撃を与える構造を示している。米エネルギー情報局(EIA)の分析では、2025年上期にホルムズ海峡を経由した原油などの約9割はアジア・オセアニア向けで、行き先別では中国が日量540万バレル、インドが200万バレル、日本と韓国がそれぞれ170万バレルだった。原油輸入に占める中東の比率は、日本が93%、韓国が70%、インドが48%、中国が42%となっている。

日本は二度の石油危機を経て調達先の多角化や省エネを進め、一度は中東依存度を下げた。ただ、アジアの産油国が経済成長で国内の需要を増やして輸出の余力が落ちたことや、ロシアのウクライナ侵略などで、近年は再び高まっていたと白書は指摘する。エネルギーの中東依存がどう積み上がってきたかはエネルギーの中東依存の全体像 石油は減らしたが原油の95.9%が中東で詳しく扱った。

備蓄は3段階で放出 7月末の残りは計約206日分

日本の対応の柱は石油備蓄の放出だった。白書によると、高市首相が3月11日に放出の方針を表明し、3月16日に民間備蓄15日分の放出を始めた。民間に義務づけている備蓄の量を70日分から55日分に引き下げる形で行った。3月26日には国家備蓄1か月分(約850万キロリットル)と、産油国共同備蓄約6日分の放出を始めた。5月1日には国家備蓄の第2弾として約20日分(約580万キロリットル)の放出に入った。

白書は「その後、追加の国家備蓄放出の決定は行っていない」と記し、民間備蓄義務量の引き下げは10月1日時点でも続いているとした。7月末時点の備蓄量は、国家103日分、民間98日分、産油国共同4日分で、合計約206日分という。

日本が「世界に先駆けて」放出を決められた理由について、白書は石油備蓄制度を安定的に運用してきたことを挙げる。JODI(国際機関の共同石油データ)を基にした比較では、中東依存度の高いアジア各国で原油の輸入量と処理量が軒並み減るなか、日本は4月時点で原油輸入量の減少に対して備蓄の放出などで処理量の減り幅を抑えたとしている。

資金面では、燃料油の価格を抑える「緊急的激変緩和措置」の経費として、政府は3月24日に一般会計の予備費から7948億円、9月1日に中東情勢等対応予備費から6136億円の使用をそれぞれ閣議決定した。

調達は7月に前年並みに戻る ガソリンは補助で170円程度

備蓄で時間を稼ぐ間に、政府は中東以外からの調達を広げた。サウジアラビアの紅海側のヤンブー港やアラブ首長国連邦(UAE)のフジャイラ港など、ホルムズ海峡を通らずに積み出せる港の利用を増やし、3月28日にはヤンブー港を出た原油タンカーが初めて日本に着いた。3月20日の日米首脳会談を踏まえ、アラスカ産を含む米国産原油の輸入も拡大した。調達先はアジア太平洋、中南米、中央アジア、アフリカにも広げた。

白書によると、代替調達率は7月に約10割に達した。5月以降の原油処理量は前年と同程度に戻っている。9月には、紅海のバブ・エル・マンデブ海峡を通る予定だったタンカーがスエズ運河経由に切り替えられ、到着が1か月程度遅れる見込みになったが、放出済みの備蓄で供給量を確保したという。10月は再び前年同月比10割を超える調達を見込む。石油化学製品の原料になるナフサは中東依存度が4割を超えるが、中間製品を含む代替調達が進み、供給は安定しているとした。

価格では、3月19日からガソリン、軽油、重油、灯油、航空機燃料を対象に補助を始めた。ガソリンの全国平均小売価格は措置前の3月16日に1リットル190.8円だったが、9月14日時点で169.9円まで下がった。補助が無い場合の価格は最も高いときで221.2円に達していた。

白書は日米欧のガソリン価格も並べ、9月14日時点では日本が最も安いとした。各国の税制や補助制度、為替が異なる点は注記している。

ガソリン小売価格の国際比較(9月14日時点)(円/リットル)

ドイツ437.3フランス403.0英国368.2日本実勢205.9米国182.3日本169.9
「日本実勢」は補助が無い場合の価格。各国の税制・補助制度・為替は異なる出典: 資源エネルギー庁「エネルギー白書2026 概要」
数値で見る(単位: 円/リットル)
項目円/リットル
ドイツ437.3
フランス403.0
英国368.2
日本実勢205.9
米国182.3
日本169.9

量は足りても流通が詰まる 次の課題は「平時の多角化」

白書は、備蓄の放出と代替調達で「日本全体として必要となる量は確保できていた」としながらも、原料や製品の調達に対する不安から、流通の目詰まりや供給の偏りが起きたと認めている。政府は相談窓口を設け、主要メーカーから需要家へ直接売る仕組みを新設した。燃料油や潤滑油、シンナーなどは、この窓口と直販の仕組みを通じて必要な量を届けた。潤滑油の直販は6月10日に始まった。目詰まりや偏りは、9月に受け付けた分を除き、10月1日時点で解消済みという。灯油の直販の仕組みは灯油高騰で経産相が対策強化 輸入価格との差額補助と元売の直販を新設で伝えた。

白書は石油危機との比較も示した。1970年代に一次エネルギー供給の約7割を占めた石油は、2024年度には約3割まで下がった。省エネと供給源の多角化、石油備蓄を進めた結果、今回は石油危機のときのような節電要請や営業制限などの大規模な需要抑制策を取るには至っていないと分析している。

そのうえで白書は、次の手立てとして「エネルギー需給構造の強靱化総合パッケージ(パワーGX)」を示した。原油などの特定の輸送経路への依存を下げるため、調達先と輸送路の多角化に向けた指針を作る。輸送費の差に着目した支援で、緊急時と平時のリスクとコストをならす。ホルムズ海峡を通らない代替パイプラインの建設も支援する。ナフサの利用を前提にした国家備蓄や、ナフサ以外の原料に対応した分解炉への投資支援も盛り込んだ。国内では原子力の活用、地域と共生した再生可能エネルギーの導入、水素・アンモニアなどの供給拡大を挙げる。政府はこのうち調達多角化の法制度を原油調達多角化など資源3法案を閣議決定 ホルムズ迂回に交付金、再保険停止は政府が肩代わりとして国会に出している。

アジアとの連携では、4月15日にエネルギーの強靱化をテーマとするアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)プラスのオンライン首脳会合を開き、高市首相が「POWERR Asia」の立ち上げを発表した。赤澤経済産業相らはサウジアラビア、UAE、カタール、クウェート、オマーンを訪れ、各国とこの枠組みでの連携に合意している。

福島第一の廃炉と住民の帰還

第1部のもう一つの章は、東京電力福島第一原子力発電所の事故からの復興を扱う。白書は燃料デブリ(溶け落ちた核燃料)の取り出しを「世界にも前例のない、技術的に難易度の高い作業」と位置づけ、2025年7月に3号機での大規模取り出しに向けた準備工程を具体化したと記した。2026年3月には小型の無人機(マイクロドローン)で3号機の原子炉格納容器の内部を調べた。1号機では、使用済み燃料プールからの燃料取り出しに向けた大型カバーの設置を2026年1月に終えた。

ALPS処理水については、モニタリングの結果や国際原子力機関(IAEA)の評価から放出の安全性が確認されているとし、2025年2月14日には処理水を貯蔵していたタンクの解体に着手した。空いた区画には、燃料デブリの取り出し作業に関わる施設などを置く予定だ。

住民の帰還では、帰還を望む全住民が戻れるよう2023年に創設した「特定帰還居住区域制度」に基づき、2025年7月までに大熊町、双葉町、浪江町、富岡町、南相馬市、葛尾村の復興再生計画が認定された。このうち南相馬市を除く5町村は、2026年3月までに計画の変更も認定された。2026年9月には、福島での再生可能エネルギーの導入拡大と水素の社会実装に向けた福島新エネ社会構想の「加速化プラン2026」も策定された。

白書の第2部は、2025年度に講じた施策を、資源確保、省エネ、再生可能エネルギー、原子力、水素・アンモニア、国際協力、技術開発など11章に分けてまとめている。