厚生労働省は10月27日、危険ドラッグに含まれる3物質を医薬品医療機器等法の「指定薬物」に新たに指定する省令を公布した。11月6日に施行し、これらの物質と、物質を含む製品について、医療などの用途以外の目的での製造、輸入、販売、所持、使用などを禁止する。3物質は前日の10月26日、薬事審議会の指定薬物部会で指定が適当とされた。厚労省は意見公募(パブリックコメント)の手続きを省き、部会の翌日に省令を公布した。
指定された3物質と施行日
指定したのは次の3物質で、省令名(化学名)と通称は厚労省が公表した別紙による。改正したのは、医薬品医療機器等法第2条第15項の指定薬物と、第76条の4の「医療等の用途」を定める省令で、今回の改正は令和8年厚生労働省令第150号。
| 通称 | 省令名(化学名) | |
|---|---|---|
| 物質1 | N-Desethyl Protonitazene | 1-(エチルアミノ)エチル-5-ニトロ-2-(4-プロポキシベンジル)ベンズイミダゾール |
| 物質2 | 5-MeO-MET | N-エチル-5-メトキシ-N-メチルトリプタミン |
| 物質3 | 2-F-tropacaine | 8-メチル-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-3-イル=2-フルオロベンゾアート |
公布は10月27日、施行は11月6日。施行日から、3物質を含む製品を医療などの用途以外で製造、輸入、販売、所持、使用すると罰則の対象になる。厚労省によると、3物質は海外でも流通している。同省は危険ドラッグが海外から輸入されて乱用されることのないよう、輸入の段階での対策を強める方針を示した。インターネットでの販売も含め、医薬品医療機器等法に基づく無承認無許可医薬品としての指導取り締まりも強めるとしている。
指定薬物とは何か 罰則は最高で拘禁刑5年
指定薬物は、医薬品医療機器等法が定める規制の区分の一つ。同法は、中枢神経系の興奮や抑制、幻覚の作用を持つ蓋然性が高く、人の体に使われた場合に保健衛生上の危害が生じるおそれがある物を指定薬物と定義し、厚生労働大臣が省令で物質名を定める。麻薬及び向精神薬取締法で規制する麻薬とは別の枠組みで、麻薬と同種の乱用のおそれや有害作用が確認された物質は、のちに麻薬へ指定し直される(後述)。
禁止されるのは、病気の診断・治療・予防の用途や、人の体に危害が生じるおそれのない用途以外での製造、輸入、販売、授与、所持、購入、販売目的の貯蔵や陳列など。罰則は3年以下の拘禁刑か300万円以下の罰金で、業として行った場合は5年以下の拘禁刑か500万円以下の罰金となる。厚労省の一覧によると、指定薬物は10月27日現在で2487物質に上る。
指定には通常、意見公募の手続きを経る。ただ、厚労省は部会で指定が適当とされた物質について、使用による健康被害を防ぐため、意見公募を省いて早急に指定するとしている。今回の3物質もこの扱いで、部会から公布まで1日だった。今年3月18日に公布した成分CBNの指定は、2025年10月28日の部会から公布まで約5か月、施行は今年6月1日だった。CBNは難治性の疾患などで使う必要がある患者が、所定の手続きを経れば医療の用途として使い続けられる仕組みを設けている。
施行前の販売も「無承認医薬品」 業者に警告
施行は11月6日だが、厚労省は施行前日の11月5日までの間であっても、3物質を含む製品は無承認無許可医薬品に当たる蓋然性が高いとしている。無承認無許可医薬品の販売は医薬品医療機器等法第55条第2項と第24条第1項に、広告は同法第68条に違反する。
同省は危険ドラッグの販売業者に向けて、これらの行為には法律に基づく指導取り締まりを徹底すると表明した。「直ちにこれらの物質を含む危険ドラッグの販売等を止めるように強く警告します」としている。報道発表でも、事業者に対し販売、購入、輸入などをしないよう強く警告した。
厚労省は、指定薬物とは別に、医薬品医療機器等法第76条の6の2に基づき、生産や流通を広い範囲で規制する「告示禁止物品(広域規制製品)」も定めている。2024年6月28日に14製品を加え、現在は計58製品となっている。個人輸入や危険ドラッグに関する事例、健康被害の情報を集め、相談を受ける「あやしいヤクブツ連絡ネット」も開設している。
指定薬物から麻薬へ 8月には3物質を格上げ
指定薬物は、作用や害が確かめられると麻薬に移されることがある。厚労省は今年8月7日、指定薬物だった3物質を麻薬に指定する政令を公布し、9月6日に施行した。麻薬と同種の乱用のおそれと有害作用が確認されたためで、麻薬に指定された物質は指定薬物から外れる。この指定で、麻薬の総数は法律で指定する77物質(大麻を含む)と政令で指定する171物質の計248物質になった。大麻は2024年12月施行の改正法で麻薬及び向精神薬取締法上の麻薬に位置づけられている(大麻の摘発7120人で過去最多 7割超が30歳未満 厚労省、10月から2か月の乱用防止運動)。
罰則の重さは大きく変わる。指定薬物の罰則は最高で5年以下の拘禁刑と500万円以下の罰金だが、麻薬は最高で無期か3年以上の拘禁刑と1000万円以下の罰金となる。
8月に麻薬へ移した3物質の一つは「N-Desethyl etonitazene」で、化学名は「2-(4-エトキシベンジル)-1-(エチルアミノ)エチル-5-ニトロベンズイミダゾール」。今回指定薬物に加えた物質1の「N-Desethyl Protonitazene」とは、化学名の骨格の「5-ニトロ」「ベンズイミダゾール」と「1-(エチルアミノ)エチル」が共通し、ベンジル基に付く部分がエトキシかプロポキシかの違いにとどまる。
2014年の事故を機に所持・使用も禁止
指定薬物の規制が今の形になったのは2014年。それまで禁止されていたのは輸入、製造、販売、授与、販売や授与を目的とした貯蔵や陳列で、所持や使用は規制していなかった。厚労省は、指定薬物を含む脱法ドラッグを安易に手に入れて使い、急性毒性や依存の症状が出た例や、交通事故などで他人に危害を加えた例が相次いだとして、2014年4月1日から所持、使用、購入、譲り受けも禁止した。
同年6月には東京・池袋で、危険ドラッグに起因して1人が死亡し6人が重軽傷を負う交通死亡事故が起きた。政府は7月に薬物乱用対策推進会議で「危険ドラッグの乱用の根絶のための緊急対策」を決め、議員立法による医薬品医療機器法の改正が11月27日に公布された。
厚労省によると、2014年3月時点で全国に215あった危険ドラッグの販売店は、2015年7月にすべて無くなった。2014年中には麻薬取締部が医薬品医療機器法違反などで92事件、148人を検挙した(警察などとの合同捜査を含む)。同年12月から翌年7月までに販売サイト235件の削除を要請し、189件が閉鎖するか販売をやめた。2014年7月以降は指定薬物部会を毎月開き、手続きを省くなどして指定を急いだ。指定薬物の数は2015年8月19日時点で2316物質だった。
店舗が無くなった後も、指定と麻薬への格上げは続いている。厚労省は今年5月と6月にも、麻薬や指定薬物を含む危険ドラッグが見つかったと公表した。今回の3物質について、同省は海外でも流通しているとして、輸入の段階での対策を強めるとしている。
