不動産の売主から業者を経て最終の買主へ所有権を直接移す、いわゆる「三為(さんため)取引」について、政府は10月16日付の答弁書で、業者が買主に十分な説明をしなかった場合などの契約の効果は「一般に、個別具体的な事案に応じて裁判所において判断されるものであることから、お答えすることは困難である」と答えた。衆議院の緒方林太郎議員が10月5日に提出した質問主意書(第222回国会質問第2号)への回答で、内閣総理大臣の高市早苗氏の名前で衆議院議長の森英介氏に送られた。質問は、国土交通省が業者に求めている買主への説明が尽くされなかったとき、契約がどうなるのかを3つの場合に分けて尋ねていた。
三為取引とは何か
質問主意書は題名に「三為取引」と掲げ、本文で「第三者のためにする契約」を使った不動産取引を取り上げている。土地や建物の持ち主をA、間に入る業者をB、最終の買主をCとすると、BはAと売買契約を結ぶが、その契約で所有権はB自身ではなく「Bが指定する者」へ直接移ると定めておく。BはCと別に契約を結び、Cを指定する。所有権はAからCへ一度で移り、登記もAからCへの1回で済む。
民法第537条は、契約で当事者の一方が第三者に給付をすると約束したとき、その第三者は債務者に直接その給付を請求できると定める。同条は、契約の成立時に第三者が特定していなくても効力は妨げられないとしている。三為取引は、Bが契約の時点でまだ最終の買主を決めていなくても成り立つこの仕組みを使う。
質問主意書が取り上げた形はもう一つある。AB間で結んだ買主の地位そのものを、BがCへ譲り渡す方法で、民法第539条の2が「契約上の地位の移転」として定める。政府の規制改革会議が平成19年(2007年)5月30日にまとめた第1次答申は、第三者のためにする契約を使う場合、BC間の契約には、所有権はAからCへ直接移るとの特約を付けた「他人物の売買契約」と、民法の典型契約に当たらない「無名契約」の2通りがありうると整理した。地位の譲渡を使う場合と、BC間を無名契約とする場合は、BとCの間に売買契約は結ばれない。
宅建業法の規律と省令の例外
宅地建物取引業法は、業者が自分の物でない土地・建物を自ら売ることを原則として禁じている。同法第33条の2は「宅地建物取引業者は、自己の所有に属しない宅地又は建物について、自ら売主となる売買契約(予約を含む。)を締結してはならない」と定め、ただし書きで、業者がその物件を取得する契約を結んでいる場合など、取得できることが明らかな場合で省令が定めるときを例外としている。
その省令である宅地建物取引業法施行規則の第15条の6は、例外の一つとして第4号に、業者が買主となる売買契約その他の契約で、その物件の所有権を「当該宅地建物取引業者が指定する者(当該宅地建物取引業者を含む場合に限る。)に移転することを約するもの」を結んでいるときを挙げる。AB間を「第三者のためにする契約」にしても、Bが自分を指定できる余地を残していれば、BはCと他人物の売買契約を結べる。この第4号は平成19年国土交通省令第70号で加えられた。国交省の法令改正の一覧には、この省令に平成19年7月10日の日付が付いている。その1か月余り前の第1次答申は、Bが他人物の所有権の移転を実質的に支配していることが客観的に明らかな場合などは第33条の2の適用が除外されるよう「国土交通省令等の改正を含む適切な措置を講ずる必要がある」と求めていた。答申は、BC間を売買契約とする方式について「一般消費者の保護の観点からは」「十分な合理性がある」としていた。
BC間を他人物の売買契約にすれば、Bは売主として宅建業法の規律を受ける。一方で、BとCの間の契約が売買契約でなければ、宅建業法の売買に関する規律は及ばない。同法第35条は、業者が宅地建物取引士に、契約が成立するまでに重要事項を記した書面を渡して説明させるよう義務付けている。同法第40条は、業者が自ら売主となる売買で、物件が種類や品質の点で契約の内容に適合しない場合の責任について、引き渡しから2年以上とする特約を除き、民法の規定より買主に不利な特約を結ぶことを禁じ、反する特約を無効とする。BC間を売買以外の契約にすると、Cはこうした保護の外に置かれる。
国交省の通知が求めた「十分な説明」
質問主意書は、国交省総合政策局不動産業課長が省令改正と同じ平成19年7月10日付で出したとする通知「いわゆる「中間省略登記」に係る不動産取引の運用改善について」の一節を引いている。通知の原文は、国交省のウェブサイトで確認できていない。
引用された通知の記述によると、BC間で買主の地位を譲渡する場合や、AB間を第三者のためにする契約としてBC間を「無名契約」(民法が名前を付けて定めた典型契約に当たらない契約)とする場合、BC間の契約は売買契約と異なるため、Bが業者であっても宅建業法の売買に関する規律を受けない。このためCには、重要事項説明や瑕疵(かし)担保責任の特例などの規制が及ばず、不適切な行為があっても宅建業法違反として監督処分ができない。通知はCが「消費者保護上不安定な地位にある」と認め、こうした契約形式は、規制が及ばないことなどをCが「自らの法的地位を十分に理解した上で行うことが前提となる」とした。そのうえで、Bは無名契約の前提についてCに十分な説明を行い、「両当事者の意思の合致のもとで契約を締結する必要があることに留意すること」と業者に求めている。
第1次答申にも、BC間を無名契約とする場合は丙(C)が「消費者保護上不安定な地位にある」とし、宅建業法で規律するものでない旨の「周知徹底を図るべきである」とする、ほぼ同じ文言がある。
通知の言う「瑕疵担保責任」は、物件に隠れた欠陥があった場合の売主の責任を指す当時の用語で、現行の宅建業法第40条は「種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合」の責任として定めている。
質問は3つ、答弁はまとめて「困難」
緒方議員は、通知が前提とした条件が満たされない場合に契約の効果がどうなるのかを尋ねた。問いは、一がCが自らの法的地位を十分に理解していない場合、二がBが無名契約の前提についてCに十分な説明を行っていない場合、三が両当事者の意思の合致がない場合である。
質問主意書は末尾で、「近年、「具体的に意味するところが必ずしも明らかでない」という答弁が広く使われているが、常識の範囲で意味を確定して答弁ありたい」と付け加えていた。質問の語の意味が明らかでないとして答えない答弁が広く使われているとの認識を示し、先回りして答弁を求めた形である。
答弁書は「一から三までについて」と3つの問いをまとめ、それぞれの場合における「契約の効果」は「一般に、個別具体的な事案に応じて裁判所において判断されるものであることから、お答えすることは困難である」と答えた。「具体的に意味するところが必ずしも明らかでない」という言い回しは使わなかったが、説明不足の契約が無効になるのか、取り消せるのか、有効のまま残るのかといった一般的な考え方も示さなかった。答弁書は本文1段落で終わっている。
同国会の質問主意書の内訳は第222回臨時国会の質問主意書は9本、うち8本が緒方林太郎議員 所属は2人会派の志士の会 召集日に一括提出も内閣への転送はまだで答弁期限は起算されずで伝えた。同じ日付の答弁書では、政府答弁書、百三万円の壁の見直しの効果「一概に評価することは困難」 就業率は61.8%から62.3%のように、ほかの問いにも評価を控える答えが返っている。
買主に残るものと与党の議論
答弁によって、通知が業者に求める説明が尽くされなかったとき、買主Cが契約の効力を争えるかどうかは、行政の解釈としては示されないままとなった。宅建業法の売買の規律が及ばない以上、Cが頼れるのは民法の一般的な規定と、個々の契約書に書かれた特約になる。通知自体は、物件の不適合への責任は「個別の合意に基づく特約による」ことをCが理解しておくよう求めている。
マンション価格をめぐっては、自民党の住宅土地・都市政策調査会(会長・松島みどり衆院議員)が10月21日、価格高騰の抑制に向けた議論を本格的に始めた。党機関紙「自由民主」11月3日号は、新築マンション価格の高騰の要因として資材費や人件費などの供給コストの上昇に加え、「投機を目的とした短期売買等」を挙げている。同調査会の議論で三為取引が取り上げられたかどうかは、機関紙の告知からは確認できていない。
三為取引は、業者から物件を買う形でも、BC間の契約を売買以外の形式にすれば宅建業法の重要事項説明が義務にならない取引の形式である。政府の答弁は、その場合の法的な扱いを裁判所に委ねる立場を改めて示した。
