為替介入で国庫に損失が生じていないかを問う質問主意書に対し、政府は10月16日の閣議で決定した答弁書で、介入に伴う外国為替資金特別会計(外為特会)の売却損益は、介入を行った日の基準外国為替相場に基づいて計上しており、「同操作後の事情に左右されるものではない」と答えた。米国の連邦準備制度が外国の通貨当局にドルを融通する「外国・国際通貨当局向けレポ・ファシリティ」(FIMA Repo Facility)の金利については、オーバーナイト物が10月14日時点で4.00%と同水準だと説明した。一方、日本が独自に資金を調達する場合との金利差が国庫の追加負担になるのではないかとの問いには、外為特会の運用の詳細に関わり「金融・為替市場に不測の影響を与えるおそれがある」として、「お答えすることは差し控えたい」とした。衆議院の緒方林太郎議員が10月5日に提出した質問主意書への回答で、内閣総理大臣の高市早苗氏の名前で衆議院議長の森英介氏に送られた。

質問主意書が問うた2点

緒方氏の質問主意書は2項目からなる。1項目めは、春の円買い介入の後始末を問うものだ。主意書は、政府・日銀が4月末から5月上旬に円買い介入を行い、対ドルで5円程度円高になったものの、1か月後には介入前の水準に戻ったと指摘した。そのうえで、①介入の結果として保有することになった円の実質的な価値が下がっていること、②ドル建て資産で持っていれば得られた金利よりも円建て資産の金利の方が低いこと、の2点で国庫に実質的な損失が生じているのではないかとし、介入の効果が剝落した場合に国庫にどのような利益や損失が生じるのかの説明を求めた。

2項目めは、片山財務相が8月3日に出した談話に関わる。談話が触れた米連邦準備制度の「外国・国際通貨当局向けレポ・ファシリティ」の適用金利がいまどの程度かを尋ね、日本が独自に資金を調達する場合の金利とこの適用金利との差は、国庫の追加的な負担になるのではないかと問うた。

主意書は末尾で、近年の答弁で「具体的に意味するところが必ずしも明らかでない」という言い回しが広く使われていると指摘し、「常識の範囲で意味を確定して答弁ありたい」と注文を付けていた。答弁書は、この言い回しを使わずに2項目に答えている。

答弁書「売却損益は操作後の事情に左右されない」

1項目めについて答弁書は、介入(正式には外国為替平衡操作)の会計処理を説明した。外為特会では、法令にのっとり、介入で売却した外国為替等の売却額と、介入を行った日の基準外国為替相場に基づく評価額との差額を「売却損益」として計上していると述べ、この売却損益は「同操作後の事情に左右されるものではない」と答えた。

円買い介入では、外為特会が持つドルなどの外貨を売り、円を受け取る。答弁書の説明に沿えば、ドルを売ったことによる損益はその日の相場で計算して確定させるため、後に円相場が介入前の水準に戻っても、記録される売却損益は変わらないことになる。

ただし、答弁書が説明したのは計上の方法で、主意書が挙げた2つの見方、つまり受け取った円の価値が後に目減りした点と、ドル資産で持ち続けた場合との金利の差については、それ自体を損失とみるかどうかには触れていない。

外為特会の仕組みは「特別会計に関する法律」が定める。同法第71条は、外為特会の目的を「政府の行う外国為替等の売買等を円滑にするために外国為替資金を置き、その運営に関する経理を明確にすること」と定める。外国為替資金に属する外貨の価額は、外国為替相場が変わったときに改定し、それに伴って生じる損益は「評価益又は評価損」として整理すると規定されている。答弁書が示した「売却損益」は、こうした相場の変動に伴う評価損益とは別に、介入で実際に外貨を売った時点で計上されるものだ。

FIMAレポの金利は4.00%、1週間物は「公表していない」

2項目めの前段について、答弁書は米連邦準備制度理事会(FRB)の公表資料を引いて説明した。FIMAレポ・ファシリティのオーバーナイト物の取引金利は、「常設レポ・ファシリティ」(Standing Repo Facility)の適用金利と同水準とされており、10月14日時点ではその日の適用金利である4.00%と同水準と承知していると答えた。1週間物は、1週間物の米ドルのオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)の金利に0.25%分を加えた水準とされているが、具体的な金利はFRBが公表していないとした。

後段の、日本が独自に資金を調達する場合との金利差が国庫の追加負担になるかとの問いには、外為特会の運用の詳細に関するものであり、金融・為替市場に不測の影響を与えるおそれがあるとして、答えを差し控えた。

FIMAレポ・ファシリティは、FRBが2020年3月31日に臨時の制度として設置を発表した資金供給の枠組みだ。ニューヨーク連邦準備銀行に口座を持つ外国の中央銀行などの通貨当局が、手持ちの米国債をFRBに売り、満期に買い戻す約束をすることで、一時的にドルを手に入れられる。期間はオーバーナイト(翌日物)か7日間。FRBは、米国債を市場で売らずにドルを調達できる手段を用意することで、世界のドル資金市場の逼迫が米国の金融市場に及ぶのを防ぐ狙いだと説明している。

FRBは、この制度の金利は米国債市場が正常に機能しているときは民間のレポ金利を通常上回るため、主に市場が異例のストレスにさらされたときに使われるとしている。利用残高は、FRBが毎週公表する統計(H.4.1)に載る。

4月30日から3日で11兆7349億円、7月末には日米協調介入

主意書が取り上げた春の介入について、財務省の公表資料で中身を確かめた。財務省が8月7日に公表した4〜6月の日次の実施状況によると、介入は4月30日に6兆2787億円、5月4日に7802億円、5月6日に4兆6759億円の3回で、いずれも米ドル売り・日本円買いだった。4〜6月期の合計は11兆7349億円になる。

その後、財務省は7月31日(米国東部時間)に米国財務省と協調して円買い介入を実施した。片山財務相は8月3日の談話で、この協調介入は2025年9月に出した「日米財務大臣共同声明」に基づくもので、「最近見られた円の過度な変動や無秩序な動きに対処したもの」だと説明し、「今後、更なる協調介入を実施することも躊躇しない」と述べた。そのうえで、日本は将来的にFIMAレポ・ファシリティの「活用を予定している」と表明した。緒方氏の主意書の2項目めは、この一文を受けたものだ。

月ごとの介入額の推移は次のとおりだ。財務省は月次の合計額を毎月末に公表しており、春と夏の2回を除けば、介入額は0円が続いている。7月30日から8月26日までの15兆3993億円を合わせると、4月末以降の介入額は27兆1342億円に上る。協調介入の前後の動きは9月の為替介入は0円、7〜8月は15兆3993億円 片山財務相「日米協調介入の方針は一切変わらない」で伝えた。

期間 介入額
3月30日〜4月27日 0円
4月28日〜5月27日 11兆7349億円
5月28日〜6月26日 0円
6月29日〜7月29日 0円
7月30日〜8月26日 15兆3993億円
8月27日〜9月28日 0円
9月29日〜10月28日 0円
外国為替平衡操作(為替介入)の月次の実施額(2026年)

出典: 財務省「外国為替平衡操作の実施状況」(月次)

答弁が示さなかった点と、11月9日の日次公表

月次の公表で分かるのは期間の合計額だけで、どの日にいくら介入したかは四半期ごとの日次の公表を待つ必要がある。財務省の公表予定によると、7〜9月の日次ベースの実施状況は11月9日午前8時50分に公表される。7月30日から8月26日までの15兆3993億円が、7月31日の協調介入の1日分なのか、複数の日に分かれていたのかは、この公表で確かめられる。

10月29日から11月26日までの月次の介入額は、11月30日午後7時に公表される予定だ。

今回の答弁書は、介入した日の相場で売却損益を確定させるという会計上の扱いは示したものの、介入で得た円の価値の変化や、ドル資産との金利差をどう評価するかには踏み込まなかった。FIMAレポ・ファシリティについても、FRBが公表している金利の水準を示すにとどまり、日本が実際に使った場合の費用の見通しは示していない。