厚生労働省は2日、社会福祉施設職員等退職手当共済制度の在り方に関する検討会(第5回)の配布資料を公表した。同日午後に開く会合の議題は「これまでの御意見を踏まえた見直しの方向性について」で、退職手当を受け取れる加入年数の引き上げや給付水準の見直し、掛金の決め方の変更などを、厚労省が初めて方向性として文書にまとめた。検討会は4月に始まり、今回から取りまとめに向けた議論に入る。
社会福祉法人の約8割が加入する退職金の仕組み
この制度は、1961年(昭和36年)制定の社会福祉施設職員等退職手当共済法に基づく。社会福祉法人が経営する施設の職員の待遇を改善し、身分の安定を図ることを目的とする。創設当時、民間の福祉施設は小規模なところが多く、自前で退職金を積み立てる財源が無かった。公立施設の職員との格差を埋めるため、公費の助成が付いた制度として始まった。
運営するのは独立行政法人福祉医療機構で、加入するかどうかは各法人が任意で決める。2025年4月1日現在、社会福祉法人全体の約8割にあたる1万6678法人が加入し、加入職員は88万2826人いる。勤務先の内訳は、保育所や児童養護施設などの措置施設が45%、介護・障害分野の施設が49%を占める。制度の創設から延べ約248万人に退職手当を支給してきた。
退職手当の額は「退職前6か月の本俸の平均額」に、在籍期間に応じた法定の支給乗率を掛けて計算する。乗率は長く勤めるほど有利になるよう設定されている。厚労省の資料に載る支給額の例では、勤続10年で約115万円、20年で約572万円、30年で約1155万円、40年で約1676万円になる。計算の基礎になる額には36万円の上限がある。2025年度は8万2574人に計1452億2000万円が支払われ、1人あたりの平均は175万8622円だった。
人材紹介で就職した介護職の6か月以内の離職が増えていることは、介護職の人材紹介手数料は平均59万7千円 医師は107万8千円で1年に25万4千円上昇 紹介で入った介護職の19.9%が6か月以内に離職でも取り上げた。厚労省の資料は、この制度に加入する法人の離職率を10.9%とし、産業計の14.2%、介護職員計の12.4%より低いと示している。
掛金は3年連続の引き上げ、準備金は2027年度に尽きる推計
制度は「賦課方式」で運営されている。その年度の退職手当を、同じ年度に法人が納める掛金(と公費の補助)で賄う方式で、掛金は職員ごとに積み立てられない。このため法人が契約を解除すると、職員に退職手当は支給されず、納めた掛金も返ってこない。法律は、掛金を「おおむね5年を通じ財政の均衡を保つ」額に定めるよう求めている。
法人が負担する職員1人あたりの掛金は、2007年度から年13万4100円でほぼ据え置かれてきた。2024年度に3000円、2025年度と2026年度にそれぞれ6000円上がり、2026年度は年14万8500円になった。公費の助成がある保育所などは年4万9500円で、残りを国と都道府県が3分の1ずつ負担する。介護分野は2006年、障害分野は2016年に、株式会社などほかの経営主体との公平を理由に助成が廃止された(廃止前に加入した職員の分は継続)。
職員1人あたりの年間掛金(公費助成なしの施設)(円)
数値で見る(単位: 円)
| 項目 | 円 |
|---|---|
| 2007年度 | 134,100 |
| 2024年度 | 136,500 |
| 2025年度 | 142,500 |
| 2026年度 | 148,500 |
一方で支出は増えている。退職手当の支給総額は2021年度の1151億円から2025年度の1452億円へ1.26倍になった。退職者は2024年度に9万5958人で、平均年齢は44.2歳、平均の在籍期間は89か月と、いずれも10年前より延びた。介護保険制度ができた2000年前後に大量に加入した世代が退職期を迎えている。
厚労省は掛金の急な引き上げを避けるため、2022年度から支払準備金を取り崩してきた。残高は2021年度末の505億円から2024年度末には294億円に減った。7月の第4回検討会で示した推計では、準備金は2027年度に使い切り、支給額は2040〜41年度ごろに2025年度実績の1.4倍で山を迎える。今の給付水準のままなら、掛金は大幅に上がり、年度ごとの引き上げ幅もばらつくとしている。
支給対象の加入年数を引き上げ、給付水準も見直す
今回の「見直しの方向性」は、制度を続けることを前提に「一定の掛金負担の増加や給付水準の見直しも視野に入れながら、負担と給付の双方について見直しを行う必要がある」とした。
給付の側では、まず退職手当の支給対象を見直す。いまは加入1年以上の職員に支給しているが、人材の定着と民間企業の状況を踏まえ、支給対象となる加入年数の引き上げを検討するとした。給付水準についても、掛金の引き上げ幅を抑えることや他制度との均衡を踏まえて見直すとしている。どの年数まで引き上げ、乗率をどう変えるかの数字は、資料には示されていない。
すでに加入している職員には経過措置を設ける。過去の制度改正と同じく、改正後の支給額が「施行日前日に退職したと仮定した場合の支給額」を下回らないよう保障する案だ。2006年の改正では給付水準を1割程度引き下げ、2016年には当時の国家公務員の乗率に合わせる見直しをした経緯がある。
長く勤めた人に向けた見直しも並ぶ。計算の基礎額の上限36万円は、近年の賃金上昇を踏まえて見直しを検討する。役職を降りたり職務が変わったりして給与が減る場合は、それまでの期間について減額前の給与で計算する案を示した。基礎額が退職前6か月の本俸で決まるため、給与が下がる前にいったん退職して手当を受け取る例があるとの指摘を受けたものだ。
いったん辞めた職員が加入法人に戻ったとき、前後の加入期間を通算できる「合算制度」の要件(退職後3年以内の復帰)も延ばす方向だ。2024年度の退職者のうち合算を申し出た人は3748人(3.9%)、実際に復帰して合算を使った人は2671人だった。
財政は2040年頃まで見据え、検証を法律に定める
負担の側では、掛金を決める際の「財政均衡期間」を、いまの5年から2040年頃までを見据えて設定するとした。高齢化と生産年齢人口の減少の影響が特に表れるのが2040年頃で、それより長い推計は不確実性が高いことを理由に挙げた。準備金が少ないときは福祉医療機構からの借り入れ(長期借り入れを含む)も使い、期間中に収支を合わせる。
法人の経営に配慮し、掛金の引き上げ幅をならすことや、一定期間の掛金の見通しを示すことも検討する。毎年5月末までの一括納付を分割にする案は、準備金が少ないと資金不足になるおそれがあるとして「慎重な検討が必要ではないか」とした。介護報酬の処遇改善加算を掛金に充てられるようにすべきだとの意見があったことも記した。
制度の運営では、中長期の財政推計を公表し、一定期間ごとに掛金と給付水準を検証する仕組みを法律に定める案を示した。外部有識者や関係者が加わる場で分析し、結果を審議会に報告する。将来に備える積立金を持つかどうかは、制度の基本に関わる課題として引き続き検討する。
もう一つの資料は、さらに踏み込んだ論点を並べた。給付水準に見合う追加の掛金を払えば上乗せの給付を受けられる「選択制」の導入や、いまは認められていない中小企業退職金共済制度(中退共)との重複加入を認める案などだ。中退共は積立方式で、掛金を従業員ごとに月5000〜3万円の16段階から選べる(中退共の仕組みは中退共の加入は約55万社 10月に加入促進強化月間 掛金納付が1年未満だと退職金はゼロ、掛金総額を上回るのは43か月目から)。
取りまとめは福祉部会へ 保育所の公費助成は別に結論
検討会は4月23日の初会合で制度の現状と課題を整理し、5〜6月に関係団体から聞き取りをした。7月16日の第4回で将来推計と論点を示し、今回の第5回から取りまとめに向けた議論に入った。次回以降にもう一度議論して取りまとめ、社会保障審議会の福祉部会に報告する予定だ。回数や議題は議論を踏まえて決めるとしている。
保育所と幼保連携型認定こども園への公費助成の在り方は、この検討会とは別に、こども家庭庁の審議会で2026年度までに改めて結論を出すことになっている。
方向性どおりに支給対象の加入年数が引き上げられると、加入から1年を過ぎて新しい基準の年数に満たないうちに辞めた職員は、いまの制度なら受け取れる退職手当を受け取れなくなる。すでに加入している職員には経過措置が設けられる一方、法人にとっては掛金の引き上げ幅と時期が経営計画を左右する。今回の資料は、引き上げ後の加入年数や掛金の水準をまだ示していない。
