政府は10月16日付の答弁書で、地方議会の傍聴環境の整備や改善について、その必要性や方策は「普通地方公共団体の議会において、自主的に判断し、適切に対応すべきもの」と答えた。国が傍聴環境の調査をしたり、自治体を指導・支援したりすることは「現時点において……考えていない」とし、改善の費用を国費で支援することも考えていないと記した。参議院の奥田ふみよ議員が10月5日に提出した「地方議会の傍聴環境改善に関する質問主意書」への回答で、内閣総理大臣の高市早苗氏の名前で参議院議長の関口昌一氏に送られた。

調査も指導・支援も「考えていない」

答弁書の番号は「内閣参質二二二第四号」。参議院の質問主意書情報によると、質問主意書は10月5日に提出され、13日に内閣へ転送された。答弁書の受領日は16日だった。質問は四つあり、答弁書はそれを「一について」「二及び三について」「四について」の三つにまとめて答えている。

一つ目の質問は、地方議会の傍聴の権利を保障することの重要性について政府の見解を尋ねた。答弁書は、質問にある「地方議会の傍聴の権利を保障すること」の意味するところが「必ずしも明らかではない」と断ったうえで、地方自治法第115条第1項が「普通地方公共団体の議会の会議は、これを公開する」と定めていることを挙げた。そのうえで、議会での議論を住民などが適切に傍聴できるようにすることは「重要であると考えている」と答えた。

二つ目と三つ目の質問は、国が傍聴環境を調査し改善を促すべきではないか、傍聴環境を整え改善する責任は誰にあるのか、を問うた。答弁書は二つをまとめ、傍聴環境の整備や改善は「その必要性や方策について、普通地方公共団体の議会において、自主的に判断し、適切に対応すべきもの」とした。そのため調査の実施や「指導・支援する」ことは考えていないと答えた。

四つ目の質問は、良好な傍聴環境に必要な費用を国費で支援すべきではないかと尋ねた。答弁書は、良好な傍聴環境を整える方策は「議会によって様々」で、各議会が「地域の実情に応じて適切に対応すべきもの」だとした。国費での支援についても「考えていない」と答えた。責任の所在を問う三つ目の質問に、答弁書は「議会」という言葉以上の主体を示していない。

奥田議員は同じ10月5日、消費税率の変更についても質問主意書を出しており、政府はこれにも16日付で答弁している(政府答弁書、食料品減税後の増税案「提案されたことはない」 将来の税率「検討していない」)。

発端は福岡県議会の本会議での「聞き取りにくい」

質問主意書は前文で、質問に至った経緯を書いている。2026年9月16日、奥田議員の事務所の秘書と福岡県在住の後援会員らが福岡県議会の本会議を傍聴したところ、傍聴者から、マイクや音響設備が原因で「質疑や発言の内容が聞き取りにくい。」との意見が寄せられたという。

質問主意書はほかの県議会の例として、三重県議会が公表した傍聴者アンケートの集計結果(2023年7〜9月分)も挙げた。そこには「知事の声が聞こえにくい(音量が小さい)」、「人によっては声がこもって聞き取りにくい。」といった意見があると指摘している。

福岡県議会の「傍聴のご案内」によると、同議会の傍聴券は開会の1時間前から先着順で交付される。議場の傍聴席には車いす用のスペースと親子傍聴席があり、親子傍聴席は電話での事前予約も受け付けている。本会議の傍聴席では手話通訳を使うことができ、傍聴希望日の5日前までに申し込む。本会議はインターネット中継と後日の録画配信でも見ることができる。案内のページには、音声を聞き取りやすくする補聴の設備についての記載はない。

「会議は公開」と定める地方自治法、傍聴の規則は議長が設ける

地方議会の傍聴の土台は地方自治法にある。第115条第1項は「普通地方公共団体の議会の会議は、これを公開する」と定める。ただし書きで、議長か議員3人以上が発議し、出席議員の3分の2以上の多数で議決したときは秘密会を開けるとしており、それ以外の会議は公開が原則となる。

同法第130条は、傍聴人が公然と可否を表明したり騒ぎ立てたりして会議を妨害するときは、議長が制止し、従わなければ退場させることができると定める。そのうえで第3項で「議長は、会議の傍聴に関し必要な規則を設けなければならない」としている。傍聴席の定員や入場の手続き、傍聴人が守るべきことは、各議会の議長が定める傍聴規則で決まる。

傍聴規則をめぐっては、国が助言を出した例もある。総務省の自治行政局長は2023年9月15日、各都道府県知事や議会議長に宛てて「多様な人材が参画し住民に開かれた地方議会の実現に向けた各議会における取組について」と題する通知(総行行第397号)を出した。地方自治法に基づく「技術的な助言」と位置付けたこの通知は、一部の議会の傍聴規則に「精神に異常があると認められる者」などの傍聴を認めない規定がある例を挙げ、障害者差別解消法第7条第1項に違反すると考えられるとして「規定の見直しを行うことが適当」と求めた。夜間・休日の議会開催や、議会中継の配信なども参考例として示している。

標準傍聴規則の見直し、子ども連れや帽子の制限を削除

各議会の傍聴規則には、議長会がつくる「ひな形」がある。全国都道府県議会議長会は1959年3月に「標準都道府県議会傍聴規則」を定め、現在のものは2024年10月24日が最終改正だ。現行の本文は、傍聴人の定員を各議会が書き込む形にしたうえで、傍聴券を電子的に交付できる規定(第10条の2)を置いている。傍聴席に入れない者として、ビラや幕、たすきなど威勢を示すために使われるおそれがある物を持つ者などを挙げ、傍聴人には携帯電話など音を発する機器を鳴らさないことを求めている。現行の本文に、子どもの入場や帽子の着用を制限する規定はない。

全国市議会議長会も2025年2月5日、「標準市議会傍聴規則」を改正した。同会の検討会議がまとめた報告書(2025年1月)によると、標準市議会傍聴規則は1959年に制定され、1991年に傍聴席に入れない者から「精神に異常があると認められる者」を削った後は改正されていなかった。報告書は、多様な人材の市議会への参画を促すため「傍聴環境を整備し開かれた議会とする」ことを見直しの目的に掲げた。

この改正で、「児童及び乳幼児は傍聴席に入ることができない」とした規定を削除した。理由として報告書は、この規定が「子育て世代が議会傍聴する上での障壁となっているとの意見」や主権者教育の推進を挙げている。傍聴中の「帽子、外とう、えり巻の類」の着用を禁じた規定も「性別、年齢、障害の有無等を理由に傍聴の機会を制限しないため」削除し、「異様な服装をしている者」の入場制限も、解釈が人によって異なるとして削った。ひな形はあくまで参考で、実際の規則を改めるかどうかは各議会が決める。

三重県議会のアンケート、音量や照明への声

質問主意書が引いた三重県議会は、本会議に加えて委員会など公開しているすべての会議の傍聴者にアンケートを行い、期間ごとの集計結果と、意見に対する議会の回答を公表している。

項目 2023年7〜9月 2026年4〜6月
回収数 52件 42件
傍聴が初めて 28件(53.8%) 15件(35.7%)
傍聴2〜5回目 13件(25.0%) 17件(40.5%)
傍聴10回以上 8件(15.4%) 7件(16.7%)
三重県議会の傍聴者アンケートの回収数と傍聴回数

出典: 三重県議会「議会傍聴者アンケート集計結果」(令和5年7月~9月分、令和8年4月~6月分)

2023年7〜9月分の自由記入欄には「人によっては声がこもって聞き取りにくい」「知事の声が聞こえにくい(音量が小さい)」といった意見が並んだ。議会事務局の議事課は、いずれにも「聴き取りやすい音量となるよう、マイクの音量調整に努めていきます」と答え、対応区分を「実施済み」とした。

最新の2026年4〜6月分では、回答者の40.5%にあたる17人が70歳以上だった。「マイクが悪いのか聞きづらい」との意見に、議事課は「議場の構造上の問題もあり、場所によっては聞き取りづらい場合があります」と認め、マイクの音量調整に努めると答えた。「傍聴席が暗い。アンケートなど読めない」との意見には、照明設備の改修には「多額の費用がかかり、ただちに対応することは困難」として「反映困難」とした。傍聴席で水分補給をしたいという要望も、会議規則で議場での飲食を禁じているとして通路などでの補給を求めた。土日や夜間の議会開催を望む声には、関係機関との日程調整や職員の対応が必要になるとして「参考とさせていただきます」と答えている。

傍聴席の音響や照明をどう改めるかは、答弁書が示したとおり、各議会が予算と設備の事情を踏まえて決めることになる。三重県議会のように意見と回答を公表する仕組みを持つ議会もあり、傍聴者の声を設備や規則に反映させる経路をどう用意するかも、議会ごとに異なる。