政府の「インテリジェンス機能の強化に関する有識者会議」は10月26日、首相官邸で第2回会合を開いた。警察庁は、外国政府などの指示や取り決めに基づいて日本の政策決定に働き掛ける「外国代理人」の活動を、事前の登録によって明らかにする「外国代理人登録制度」と、外国代理人による悪質な行為を対象とする罰則の二つを内容とする法制を「早急に整備すべき」とする検討の方向性(案)を示した。外国による影響工作を規制する法制は日本に存在しないとし、制度の射程や外国代理人に課す義務、権利・自由への配慮などを論点に挙げて有識者の議論を求めた。

警察庁「影響工作に対応する法制の整備が早急に必要」

会合は午後2時から4時まで官邸2階大ホールで開かれ、参考人からのヒアリングに続いて政府側が説明した。配付資料は国家情報局の資料1と、警察庁の資料2-1・2-2の3点である。

警察庁の資料2-1は、外国情報機関などの工作を三つに分けて日本の法制を整理した。一つは機密情報や技術情報の収集・取得で、特定秘密は特定秘密保護法、重要経済安保情報は重要経済安保情報保護活用法、公務員が職務上知る秘密は国家・地方公務員法や自衛隊法、営業秘密は不正競争防止法と、個別の法律の中に保護の規定がある。サイバー攻撃や国境を越えた抑圧なども、刑法などの法令に違反すれば処罰できる。

これに対し、政治・行政のプロセスに不当に影響を与えようとする「影響工作」については「規制法制は存在せず」と記した。そのうえで、日本でも影響工作が「近年活発化」しており、諸外国ではこれに対応する法制が「立て続けに制定」されているとして、「影響工作が活発化している現状を踏まえ、これに対応する法制の整備が早急に必要」と結論づけた。

検討の方向性(案)は、悪質な影響工作が世界各国で確認されている状況から対策は「喫緊の課題」とし、①外国代理人による影響力活動を透明化する制度(外国代理人登録制度)、②外国代理人による悪質な行為を対象とする罰則――の二つを内容とする法制を早急に整備すべきだとした。

有識者に議論を求めた論点は五つある。①影響工作の現状をどう認識し、現代的な課題は何か、②諸外国に倣って日本でも制度を整備すべきか、③規制の対象とすべき影響力活動とはどのようなものか、④外国代理人にどのような義務を課すべきか、⑤過度な規制とならないよう配慮すべき事柄は何か、民主的統制をどう図るか――である。資料には、法案の提出時期や所管官庁は書かれていない。

「外国代理人」とは誰か 登録で「誰のための活動か」を明かす

資料2-1によると、外国政府などは軍事、外交、経済、技術などの幅広い分野で自らの利益を図るため、相手国の政治コンサルタントやシンクタンク、広告代理店、ロビー会社などを関与させて、その国の政治・行政プロセスに影響を与える活動を展開している。こうした担い手が「外国代理人」である。

警察庁はまず、通常の外国代理人の活動は「民主主義社会における多角的な議論の促進に資するもの」だと位置付けた。例として、政治コンサルタントが外国の政党の代理人として、日本の政策決定者に外交や投資に関する同党の立場を説明する活動や、広告代理店が外国政府機関の代理人として、その国の大使館と共催でシンポジウムを開く活動を挙げている。

問題とするのは、外国政府などの代理人であることを隠して行われる活動だ。資料は、外国の意を受けた代理人が①公務員などへの接触によって政策の決定・実施に介入する、②情報の発信によって世論形成や選挙に影響を与える、③財産上の利益の供与によって恩義を感じさせ、政策変更を働き掛ける――という三つの経路を図示した。そして、接触や情報発信、利益の供与が外国の意思を受けたものかどうかを明らかにする仕組みが無い現状では、公務員や一般の人が「知らないうちに外国の意のままに行動・判断するおそれ」があり、投票行動や政策決定で自律的に判断するための条件が損なわれるとした。

登録制度は、活動を禁止するのではなく、誰のために行っているかを登録させて公表し、透明にする仕組みである。資料は、外国政府などとの取り決めや指示に基づいて相手国の政策決定などに影響を与える活動をする人に事前の登録を義務付け、登録事項の公表や活動時の身分開示を求め、監督官庁に報告を求める権限を持たせる――という諸外国の制度の骨組みを紹介した。罰則は別建てで、外国政府などのために行われる欺もうや脅迫といった一定の悪質な行為を犯罪とし、重く罰する方向を示している。

資料集が挙げた国内の事例

資料2-2(資料集)は、国内外の影響工作の事例を経路ごとに並べた。国内の事例は国名を伏せて記されている。

公務員などへの接触の例では、ある国の政党幹部の指示を受けて活動する同国出身者が、選挙の支援などを通じて国会議員や地方議員と関係を築き、日本の技術者の獲得も視野に入れた友好行事への参加を依頼した事例を挙げた。日本にある外国公館の関係者の指示を受けた同国出身者が、同国の自治体から日本のある市への物品の寄付を実現しようと、市の担当者が当初は受け取りに否定的だった中で、知り合いの市議会議員に働き掛けた事例もある。

情報の発信の例では、外国公館の関係者の指示を受けた同国出身者が、登録者数100万人を超える在日同国人向けのポータルサイトで、2か月から3か月に一度公館に呼び出されて受けた指示に沿った記事を掲載していたとした。第51回衆院選では、SNS上で3000件規模のアカウント群が協調して日本政府の政策を批判する投稿を拡散していたと報じられたほか、政府も外国のものと疑われる不審なアカウントが選挙に関する内容を投稿している事例を「一定数把握した」と記した。

財産上の利益の供与の例では、ある国の政党の地方組織の指示を受けた同国出身者が、日本語学校の新設計画の申請を却下されたあと、行政機関に便宜を図らせる目的で国会議員事務所に支援を求め、財産上の利益の供与を試みた事例を挙げた。

海外の事例には、米国で中国の国務大臣らの代理人として反体制派の送還を米政府に働き掛けた米国人実業家(2020年10月)、ロシア政府の指示と資金でニューヨーク州に拠点を設けて活動した二重国籍者(2022年3月)、米大統領選に際してロシア国営メディアの従業員2人がペーパーカンパニーを通じて米国の動画制作会社に資金を出し、分断をあおる動画を投稿させた事例(2024年9月)などを載せた。米国の事例はいずれも、登録をせずに活動したものである。

米英仏加豪の5か国が運用 英国はイランとロシアに上乗せ

資料2-1は、外国代理人登録制度を運用している国として米国、オーストラリア、英国、フランス、カナダの5か国を挙げた。米国の制度は1938年に始まり、オーストラリアは2018年12月、英国は2025年7月、フランスは2025年10月、カナダは2026年8月に運用を始めている。

国 根拠法 運用開始 所管機関
米国 外国代理人登録法 1938年 司法省
英国 国家安全保障法 2025年7月 内務省
フランス 公的活動の透明性に関する法律 2025年10月 公的活動の透明性に関する高等機関(HATVP)
カナダ 外国影響力透明化及び説明責任法 2026年8月 公安省
オーストラリア 外国影響力透明化制度法 2018年12月 司法省
各国の外国代理人登録制度の根拠法・運用開始・所管機関

出典: 警察庁「第2回説明資料(資料集)」(2026年10月26日)

資料集によると、各国の制度は、外国政府などの指示や取り決めに基づいて、閣僚や国会議員などの公務員への接触、公衆への情報発信、資金の供与といった活動をする人に登録を義務付ける点で共通している。登録を怠って活動した人には、各国で2〜5年以下の拘禁刑を科す。活動記録の作成・保存や定期報告、活動時に外国代理人であることを示す義務を定める国もある。外交官などは登録の対象から外れ、報道機関や弁護士、宗教・芸術・人道活動の従事者を外す国もある。

違いもある。対象とする「外国政府等」の範囲は、米国が外国に所在する人や外国の法人まで含めて「極めて広範」なのに対し、英国は政党については外国政府の与党だけに絞るなど「限定的」だという。フランスは欧州連合(EU)加盟国以外の外国の政府・政党に限っている。英国は2段階の仕組みを持ち、内務大臣が指定した特定の国(イランとロシア)の代理人には、接触・発信・資金供与の3類型に限らず、あらゆる活動に登録義務が生じる。オーストラリアは、元閣僚の活動や、過去15年以内に指定の職にあった人がその職で得た人脈を使う活動にも登録を求める。カナダは違反に対し、250〜100万カナダドル(資料の換算で約3万〜1億円)の過料を科せる。

第1回から「外国による不当な干渉」を先に議論

有識者会議は9月25日の内閣総理大臣決裁で設けられ、9月28日に初会合を開いた。第1回の議事要旨によると、座長には渡部俊也構成員が選ばれ、全体に通じる議論として「国家情報戦略」を、各論として「外国による不当な干渉」の防止策を、まず議論する進め方が了承された。高市首相は締めくくりの発言で、「外国による不当な干渉の防止策の強化」と「対外情報機能の充実」を進める必要があると述べている。

第1回では有識者から、「外国勢力の代理人の登録を義務付ける外国代理人登録制度を設けるなど、外国による不当な干渉を防止する制度の整備が必要」とする意見が出ていた。一方で、「国籍や主張の内容ではなく、行動とネットワークを把握すべき」との指摘や、影響工作対処のための情報収集を強めつつ「その過程に関する情報の透明性と説明責任をきちんと担保していくことが、外国勢力の干渉に耐えうる社会を形成する上で重要」とする意見、現行の制度や運用で対処できる範囲と限界を整理すべきだとする意見もあった。

国家情報局の資料1は、第1回の意見を整理したうえで、国家情報戦略の論点として、情報活動の必要性と目標、情報部門と政策部門の関係、自由と安全のバランスの確保などを挙げた。参考として、米国の国家情報戦略(2023年8月)、フランスの国家情報戦略(2025年1月)、カナダの情報優先事項(2024年9月)の内容も紹介している。

政府は7月31日、情報活動の司令塔として国家情報局を発足させた。有識者会議の議論は、その次の段階として、外国からの働き掛けを法律でどう扱うかに進んだことになる。登録制度は、外国のための活動そのものを禁じるのではなく、誰の意を受けた活動かを明らかにする仕組みである。何を登録の対象とし、報道や学術、市民の発信の自由との線をどこに引くかが、今後の議論の中心になる。