古川俊治デジタル相は10月20日の記者会見で、コンテンツ戦略担当相として「一元的なコンテンツ産業支援法人の設立検討タスクフォース」を設置し、第1回会合を10月22日に開くと発表した。アニメやマンガ、ゲームへの政府の支援は現在、総務省・経済産業省・文部科学省に分かれている。これを1つの法人に集め、予算の配り方と使い方をまとめて決める体制に組み替えられるかを検討する。

新法人は官民ファンドではなく「支援に特化した体制」

古川氏は冒頭発言で、タスクフォースの目的を「予算配分の全体最適化や予算執行の一元化、官民の叡智の結集に向けて、一気通貫の新たな支援体制として新法人の在り方を検討すること」と説明した。根拠として挙げたのは、令和8年7月に閣議決定した日本成長戦略と、戦略17分野の官民投資ロードマップである。「支援体制の構築につきましては、総理から指示をいただいている」とも述べ、内閣府を中心に関係省庁と連携して進める方針を示した。

会見の質疑で、記者から既存のクールジャパン機構や経産省との役割分担をどう整理するのかを問われた古川氏は、新法人の性格をこう区別した。「これは官民ファンドではなくて、支援に特化した体制でございまして、そのために、まずは一元的に、例えば個社では取り組みにくい海賊版対策ですとか、重点国への売込みのサービス提供、こういうことを考えております」。

つまり、企業に出資して株主として配当や売却益を狙う官民ファンドの形は取らない。1社では費用に見合わない海賊版の削除要請や訴訟、特定の国を絞った売り込みのように、まとめてやった方が1社あたりの負担が下がる仕事を代わりに引き受ける組織として構想している。クールジャパン機構が食品や小売りなど幅広い分野を扱ってきたことにも触れ、「今回はコンテンツに限る」と対象を限定した。クールジャパン機構そのものについては「経産省がおやりになるということで、所管外」とし、「今、経産省において、これから総括に向けて整理をしていると承知しています」と述べるにとどめた。

支援が総務・経産・文科に分かれていた

古川氏が一元化の理由として挙げたのは、支援の窓口が複数の省庁に分散している現状である。「今まで支援が総務省、経産省、文科省と分かれておりましたので、それを一元的に最適化して、なるべく効果を上げられるように、そういう体制にしていく」と説明した。

分散は役所の都合ではなく、所管法令の切り分けから生じている。放送と通信は総務省、産業政策と輸出振興は経産省、文化芸術と著作権は文化庁を抱える文科省が担う。1つの作品が放送され、配信され、海外でライセンスされ、著作権侵害に遭うという流れをたどるだけで、3つの省庁の所管をまたぐことになる。事業者から見れば、同じ作品の支援を受けるために別々の制度へ別々に申請する必要が生じる。

一元化の対象として会見で示されたのは、予算の配分と執行である。制作費の補助、人材育成、海外見本市への出展支援といった施策が省庁別に積み上がると、同じ分野に重複して配る一方で、手薄な部分が残る事態が起こりうる。タスクフォースはその全体を1つの法人に通す形を検討する。

地方からも支援の使いにくさは指摘されてきた。全国知事会、コンテンツ産業の新チームが初会合 41都道府県が出席 ロケ誘致の支援や海外クルーの入国手続きを課題に 11月の知事会議で提言決議めざすでは、国の補助金の対象下限額が高く該当する作品が限られることや、海外のロケ隊の入国・在留手続きに時間がかかることが課題に挙がっていた。

2033年に海外売上げ20兆円という目標

新法人の検討は、閣議決定された数値目標の実行手段として位置づけられている。日本成長戦略は17の戦略分野の17番目にコンテンツを置き、「コンテンツ産業は、2033年に海外売上げ20兆円を目指す日本の基幹産業である」と明記した。そのうえで「作品製作、人材確保・育成、流通網拡大、海賊版対策といった成長投資を、大規模・長期・戦略的に後押しする。このために官民連携して一気通貫の支援体制を構築する」と書いている。古川氏の言う「一気通貫の新たな支援体制」は、この一文に対応する。

20兆円の内訳は分野別に割り振られている。

コンテンツ分野別の2033年の海外売上げ目標(兆円)

05101512.0ゲーム6.0アニメ1.0マンガ0.7音楽0.5実写
出典: 内閣官房「日本成長戦略」(令和8年7月閣議決定)(17)コンテンツ
数値で見る(単位: 兆円)
項目兆円
ゲーム12.0
アニメ6.0
マンガ1.0
音楽0.7
実写0.5

最大はゲームの12兆円である。成長戦略によると、ゲームは日本発コンテンツの海外売上げの約6割にあたる3.4兆円を占める。家庭用ゲーム機の市場は6兆円で日本勢のシェアは半分程度に達する一方、モバイルゲーム市場18兆円とPCゲーム市場7兆円でのシェアは数%に満たないと分析している。目標の12兆円は、この伸びていない2つの市場を取ることを前提にした数字である。

アニメは海外売上げの約3割強にあたる2.1兆円を占め、年平均成長率は15%と記されている。目標は6兆円で、現在の約3倍にあたる。マンガは1兆円、音楽は0.7兆円、実写は0.5兆円が目標となっている。マンガについて成長戦略は、ゲーム・アニメ・実写に原作を供給する「IPの源泉」と位置づけている。

官民投資ロードマップは、産業全体の規模感をさらに踏み込んで示している。コンテンツ産業は「国内投資を倍増させることで、2040年には貿易・サービス収支の黒字の半分に相当する4.8兆円を稼ぎ出す産業に成長する可能性」があるとし、戦略的な重要性としては「ソフト・パワー指数で世界4位に位置する」国際的な文化発信力の源泉だと書いている。アニメ分野に限っても、2033年度までの投資額を3.3兆円、それによる経済波及効果を93.5兆円と見込んでいる。

海賊版と成果報酬率 投資が回らない構造

古川氏が新法人の仕事として最初に挙げた海賊版対策は、金額の面で最も重い課題である。官民投資ロードマップは「海賊版が国際的に流布しており、海賊版被害額は映像分野で年間2.3兆円に達する」と記した。マンガについては、成長戦略が「海賊版による被害額が世界で年間2.6兆円にも及ぶ」としている。アニメの海外売上げ2.1兆円を上回る額が、正規の流通の外に流れている計算になる。削除要請や訴訟、現地機関との国際連携は1社では費用と手間が重く、個社では取り組みにくい代表例にあたる。

もう1つの課題は、売れても制作現場に資金が戻らない構造である。ロードマップはアニメ産業について、多くの作品が製作委員会方式で作られており「制作会社の出資機会・比率や制作印税が限定的であることから、成果に応じた収益還元は必ずしも十分とは言えない」と指摘した。その結果、制作会社では「海外展開を見据えた大型の新規IP開発や人材育成、制作設備への投資に必要な原資の確保が困難となっている」とも書いている。配信事業者への納品時の支払いが長期の分割払いになり資金繰りに影響が出ている点、制作費が人件費やサーバー費、円安による外注費増で高騰している点も課題に並ぶ。

ロードマップが挙げる政策パッケージには、大規模作品の製作支援や新規IP企画支援に加えて、支払期日の短縮による資金繰り改善、製作委員会と配信プラットフォームの間の取引条件の明確化、取引適正化指針の策定といった取引環境の整備が含まれている。補助金を配るだけでなく、収益の分け方に手を入れる想定になっている。新法人が担う範囲がどこまでかは、タスクフォースの検討結果を待つことになる。

設置要領と構成員は未公表

タスクフォースの設置要領、構成員名簿、第1回会合の配布資料は、会合当日の10月22日夕方時点でデジタル庁と内閣府のウェブサイトに掲載されていない。会合が非公開か、資料が後日公表されるかも確認できていない。会合の規模や、検討結果をいつまとめるかの期限も明らかになっていない。

コンテンツ分野では、すでに内閣府に別の検討体がある。令和8年1月20日の内閣府特命担当大臣決定で設置された「コンテンツ産業官民協議会」は、日本成長戦略会議におけるコンテンツ分野の検討を進めるための会議体で、議長を内閣府特命担当大臣(クールジャパン戦略)、副議長を内閣官房副長官、議長代行を内閣府知的財産戦略推進事務局長が務める。構成員にはアニメ特撮アーカイブ機構理事長の庵野秀明氏、日本動画協会理事長の石川和子氏、映画監督の是枝裕和氏らが名を連ね、第1回会合を1月26日、第2回会合を4月2日に開いている。新たなタスクフォースがこの協議会とどう役割を分けるのかも、公表資料からは分からない。

コンテンツ戦略は、第2次高市改造内閣でデジタル相の担務に加わった分野である。古川デジタル相、AI戦略と科学技術政策を一手に 「医療DXを医療AXに」と就任会見 所掌を知ったのは発表の直前のとおり、古川氏はデジタル改革、サイバー安全保障、宇宙政策、知的財産戦略とあわせてコンテンツ戦略を担当している。10月20日の会見でも、火星衛星探査機の打ち上げ成功、AI・デジタル改革推進会議の設置決定、マイナンバーカード機能のAndroid搭載と並べて、コンテンツ産業支援法人の検討が報告された。