政府は10月16日付の答弁書で、首都直下地震などに備えて災害対策本部の予備施設を立川広域防災基地に置いた際、都心からの距離や交通アクセスをどのように評価したのかについて、「内閣府に現存する資料からは確認することができず、お答えすることは困難である」と答えた。副首都の整備を定めた法律に基づく副首都と、立川が既に担っているバックアップ機能との役割分担を問われた点では、両者は「想定する事態が異なり」、立地に関する条件を「単純に比較することは適当でない」との見解を示した。立憲民主党の石垣のりこ参院議員(宮城選挙区)が提出した質問主意書への答弁書で、高市早苗首相の名で参議院の関口昌一議長に送られた。

立川の立地評価「現存する資料からは確認できない」

答弁書によると、立川広域防災基地は、昭和54年11月19日の国有財産中央審議会(当時)の答申において、「本跡地の都心との距離、地盤の安定性、気象条件その他社会的、自然的条件を考慮して」設けることとされた。答申では、同基地に「国の災害対策実施本部、警察及び消防等の防災関係機関の施設」などを「集中的に配して、防災対策の効率化を図る」こととされている。

この答申を受け、昭和59年8月23日の「立川広域防災基地(仮称)建設計画の大綱」(立川広域防災基地(仮称)整備推進連絡会議申合せ)で、同基地に「災害応急対策活動の総合調整等を行う災害対策本部の予備施設」を設けることが決まった。答弁書はこれを「予備施設」と呼んでいる。

石垣氏は質問主意書で、立川の地理的位置、都心からの距離、交通アクセス、通信などのインフラ、都心との同時被災の可能性を政府がどう評価したのか、立川を選ぶ際に考慮した具体的な距離などの立地条件を示すよう求めた。これに対して政府は、「内閣府に現存する資料からは確認することができず、お答えすることは困難である」と答えた。

答弁書は、質問にある「首都中枢機能のバックアップ拠点」を予備施設と解するのであれば、予備施設は答申に掲げられた条件を考慮して整備された基地に配置されたものであり、「本跡地の都心との距離」も当該条件の一つだと説明した。ただし、その距離が何キロメートルだったのか、どの範囲が適当と判断されたのかという具体的な数値は示していない。答申から大綱まで5年、大綱から今回の答弁まで40年以上が経過しており、選定時の検討記録が政府の手元に残っていないことになる。

「一定の距離」は重要な条件としていない

石垣氏は、バックアップ拠点について「都心から近すぎても同時被災の可能性が高く、遠すぎても人員の移動、情報共有、交通、通信等の面で支障が生じ得ることを踏まえ、一定の距離を置くことが必要である」との考え方を政府が持っているかをただし、持っているなら具体的な基準を示すよう求めた。

答弁書は、この表現の「具体的に意味するところが必ずしも明らかではない」と前置きしたうえで、「政府業務継続計画(首都直下地震対策)」(平成26年3月28日閣議決定)における緊急災害対策本部の代替拠点と解すれば、として、令和5年3月13日の参院予算委員会での岸田内閣総理大臣(当時)の答弁を引いた。岸田氏は「大規模災害等の際にも首都中枢機能の継続性の確保を図るため、東京からの距離、これも勘案しつつバックアップ体制の整備を推進すること、これは極めて重要であると認識をしています」と述べていた。

そのうえで答弁書は、政府としては代替拠点の検討において「一定の距離」を重要な条件としているものではなく、近さの利点と遠さの利点について「整理したものはなく」、距離についての「具体的な基準」も「定めていない」と明記した。国会答弁では東京からの距離を勘案することの重要性に言及していたが、その距離を測る物差しは政府として持っていないという内容である。

副首都の立地要件は距離ではなく2つの警戒区域

答弁書は、副首都の側については法律の規定を具体的に示した。国家社会機能継続性確保施策及び副首都の整備に係る施策の推進に関する法律(令和8年法律第78号)の第2条第4項は、副首都を、大規模災害が発生して東京圏で首都中枢機能を維持することが困難となった場合に、必要に応じて一定期間、首都中枢機能の全部または大部分を代替する機能(代替機能)を担うものと定めている。

法第18条第1項は、副首都の指定の要件の一つとして、法第2条第3項の「東京圏との同時被災の可能性が低いものとして政令で定める要件」に該当する地域を含むことを挙げている。この政令で定める要件について答弁書は、現在実施中のパブリックコメントで、石垣氏が質問に用いた「都心から相当程度離れた地域」という表現ではなく、「首都直下地震緊急対策区域と富士山の火山災害警戒地域のいずれにも該当しない地域」とする案を提示していると説明した。

そして「いずれにせよ、当該政令で定める要件に該当するか否かによって『評価』することとなる」とした。副首都の立地は、都心から何キロ離れているかではなく、2つの災害区域に当たるかどうかという線引きで判断される建て付けである。この政令案は10月16日まで意見募集にかけられていた(「副首都」の指定要件、政令案を公表 国の出先機関14以上・指定都市の人口が全国の1.2%以上・道府県内総生産が2.1%以上 10月16日まで意見募集)。

「官邸、内閣府、市ケ谷、そして立川」 提案者の説明

答弁書は、立川と副首都の立地条件を比較できない理由として、法案の提案者が国会で行った説明を引用した。令和8年7月24日の参院沖縄・北方問題及び地方に関する特別委員会で、提案者は次のように述べている。

「官邸、官邸が使えない場合は内閣府、内閣府が使えない場合は防衛省市ケ谷、そしてそれでも駄目な場合は立川、そういった防災拠点も定められていることはもちろん承知をしております。我々のこの副首都法案の目的というのは、その東京圏内における災害拠点すらも使えない、そういった災害が、大災害が起きた場合に、東京圏外でバックアップ拠点を設けておこうということ」

答弁書はこの説明を踏まえ、立川広域防災基地と副首都は「想定する事態が異なり」、両者の「立地」に関する「条件」を「単純に比較することは適当でない」と結論づけた。

石垣氏は、副首都が立川も同時に被災した場合に首都中枢機能を代替するものなのか、それとも立川とは異なる目的で代替するものなのかも尋ねていた。これに対し答弁書は、「立川広域防災基地も同時に被災するなど、東京圏で首都中枢機能が維持できない場合」は法第2条第4項の「東京圏において首都中枢機能を維持することが困難となった場合」に当たることから、副首都が首都中枢機能の「全部又は大部分を代替する」機能を担うこととなる、と答えた。立川が倒れた後に副首都が立つ、という順序は答弁書の上では明確にされた形である。

項目 立川広域防災基地の予備施設 副首都
根拠 昭和54年11月19日の国有財産中央審議会答申、昭和59年8月23日の建設計画の大綱 令和8年法律第78号
位置づけ 災害応急対策活動の総合調整等を行う災害対策本部の予備施設 東京圏で首都中枢機能の維持が困難となった場合に全部または大部分を代替
立地の考え方 都心との距離、地盤の安定性、気象条件その他社会的・自然的条件を考慮(答申) 東京圏との同時被災の可能性が低いものとして政令で定める要件に該当する地域を含む
立川広域防災基地の予備施設と副首都の位置づけの違い出典: 参議院議員石垣のりこ君提出立川広域防災基地と副首都における首都中枢機能のバックアップに関する質問に対する答弁書(内閣参質二二二第五号)

重複・費用・平時の配置は「基本方針の策定過程で検討」

質問主意書は、国会議員が議長を経由して内閣に文書で質問する制度で、今回の質問主意書も国会法第74条に基づいて提出された。参議院の質問主意書情報によると、今回は第222回国会(臨時会)の質問第5号にあたり、石垣氏が令和8年10月6日に提出した。参議院議長から内閣への転送日は10月13日、答弁書の受領日は10月16日である。答弁書は「内閣参質二二二第五号」として、高市首相の名で関口議長に送られた。

石垣氏の質問のうち五から八までは、副首都に整備するバックアップ機能と立川の既存機能の重複をどう避けるのか、立川では代替できない機能は何か、災害時に使う専用施設を平時から整備するのか、その整備と維持にいくらかかる見込みなのか、平時から国の機関や職員をどの程度配置するのか、災害時にどのような手続きで機能を移すのか、を具体的に問うものだった。

答弁書はこれらをまとめて扱い、立川と副首都は想定する事態が異なるため施設などの「機能」についても両者を単純に比較することは適当でないとしたうえで、検討の場と時期を示した。法の施行日から1年以内に法第9条第1項の基本方針を定め、それに即して副首都ごとに法第20条第1項の副首都整備方針を定めることとされており、基本方針では「副首都が担うべき機能に関する事項」を定めることになっている。

このため、副首都に整備するバックアップ機能、副首都を整備することで新たに確保しようとしている機能、災害時に首都中枢機能を代替するための専用または優先的に使用する施設などを平時から整備すること、その整備と維持に必要となる費用、平時から国の機関・職員・情報システム・業務などの機能を副首都に配置または分散しておくことの要否と内容、それらに関わる手続きと体制の確保のあり方については、いずれも「基本方針及び副首都整備方針の策定の過程において検討してまいりたい」と答えた。現時点での費用の見込みは示されなかった。

副首都をめぐっては、法案の段階から、災害時に東京を代替する仕組みの中身や、どの地域を指定するのかが論点になってきた(「副首都」法案が審議入り 災害時に東京を代替、大阪を念頭 与党は今国会成立目指す 審議欠席続ける野党の責任も問う)。今回の答弁書は、新しく作る副首都の制度設計を説明する一方で、40年以上前から首都機能のバックアップを担ってきた立川の選定根拠については記録の不存在を理由に答えておらず、既存の拠点と新制度を突き合わせた説明は、基本方針の策定を待つことになる。