総務省統計局長は9月29日、令和7年国勢調査で富山市の人口を水増しした疑いがあるとして、統計法違反の疑いで富山県警察本部に告発したと発表した。被告発人は調査を実施した当時の富山市職員で、総務省は氏名不詳としている。国の基幹統計そのものを担う自治体の事務で、数字を作り替えた疑いが持たれている。

調査員が現地で消した世帯を「存在する」として扱った疑い

総務省が公表した告発の事実によると、被告発人は、令和7年10月1日現在で実施された国勢調査の事務において、国勢調査員らが作成して富山市に提出した「調査世帯一覧」の一部を書き換えた疑いがある。

具体的には二つの行為が挙げられている。一つは、国勢調査員が現地調査によって居住実態がないと確かめて抹消した世帯を、特段の根拠なく存在するものとして取り扱ったこと。もう一つは、一覧の末尾に居住実態のない世帯を追加したことである。そのうえでこれらの世帯の調査票を作成し、富山市の人口を水増しした疑いがあるとされる。

富山市は富山県で最も人口の多い市である。富山県が9月29日に公表した令和7年国勢調査の人口等基本集計結果によると、市の人口は39万9197人(男19万5482人、女20万3715人)、世帯数は17万5518。令和2年の41万3938人から1万4741人、3.6%減った。一方で世帯数は令和2年の17万1917から3601増えている。

国勢調査は、総務省統計局から都道府県、市町村、国勢調査指導員、国勢調査員へと下りる流れで実施する。調査員は担当する地域のすべての世帯を訪問して調査書類を配り、世帯はインターネット回答、郵送提出、調査員への直接提出のいずれかで答える。市町村はその間に立って書類を取りまとめる立場にあり、今回疑われているのは、調査員が足で確かめた結果が市の段階で覆されたという構図である。

統計法第60条第2号 基幹統計を真実に反するものにする行為

適用されたのは統計法第60条第2号である。「基幹統計の作成に従事する者で基幹統計をして真実に反するものたらしめる行為をした者」を罰する規定で、法定刑は6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金と定められている。

国勢調査は統計法第5条第2項に基づく基幹統計調査で、同法第2条は基幹統計の第1号に国勢統計を挙げている。国が作る統計の中でも最上位に位置づけられた調査であり、大正9年の第1回から数えて令和7年調査は22回目にあたる。

告発したのは総務省の一部局である統計局の長である。刑事訴訟法第239条第2項は、官吏または公吏は職務を行うことにより犯罪があると思料するときは告発をしなければならないと定めており、今回の告発はこの義務に基づくものと位置づけられる。

国勢調査の人口は交付税の算定と選挙区の線引きに使われる

国勢調査の人口は、統計表の中だけで完結する数字ではない。地方交付税法第12条は、普通交付税の基準財政需要額を算定するための測定単位の一つに「人口」を挙げ、その中身を「官報で公示された最近の国勢調査の結果による当該地方団体の人口」と定めている。同条の表には「市部人口」「十八歳以下人口」「六十五歳以上人口」など、国勢調査の結果を使う測定単位が並ぶ。人口が多く出れば、その自治体の基準財政需要額の算定も大きくなる関係にある。

選挙区の線引きにも使う。総務省は告発と同じ9月29日、統計局が令和7年国勢調査の人口等基本集計結果を公表し、自治行政局選挙部がその確定値に基づく選挙区別人口の計算結果を公表した。1票の格差、衆院小選挙区は2.2750倍 2倍以上が40選挙区 最多の福岡2区55万8760人、最少の石川3区24万5613人で伝えたとおり、この確定値は衆議院議員選挙区画定審議会が区割りの改定案を勧告するかどうかの判定にそのまま使われる。市町村ごとの人口は、国政の議席配分から自治体の財源まで幅広く波及する数字である。

公表資料が触れていないこと

総務省が9月29日に公表した資料は、告発の事実と適用条文、参照条文を示すにとどまっている。水増しされた疑いのある世帯の数、富山市の人口や集計結果への影響、同日公表した確定値でどう扱ったかについては記載がない。同じ日に出た人口等基本集計の「結果の要約」と「結果の概要」にも、富山市に関する注記は見当たらない。

統計局が調査結果の公表とは別に出す報道発表資料の一覧は平成20年分からさかのぼって載っているが、そこに「告発」を掲げた発表は今回の1件だけである。行為の有無と内容は、これから富山県警察本部の捜査で調べられることになる。