高市首相は10月21日、内閣総理大臣に就任してから1年の節目を迎えて記者会見した。首相官邸が公表した会見記録(速報版)によると、首相は冒頭発言で「公約を一つずつ着実に実現していくことこそが使命であるとの思いで、この1年間は走り続けてまいりました」と述べ、臨時国会と今年の特別国会を通じて政府提出法案74本を全て成立させたと説明した。2年目の最優先課題には「世界的な物価高」への対策強化を挙げた。一方、1年の反省点を問われると、対策の内容が伝わっていないとして広報のあり方を挙げた。

1年の総括に挙げた数字

冒頭発言で首相は、自民党総裁選挙に3回挑戦する中で、エネルギー資源安全保障や防災、健康医療安全保障といったリスクを小さくするための「危機管理投資」と、日本の技術を社会実装するための「成長投資」を一貫して訴えてきたと振り返った。今年2月の衆議院議員選挙では総理としての進退をかけ、この2つの投資を実行するための「責任ある積極財政」を政権公約に掲げたと説明した。

1年の成果として首相が挙げたのは、おおむね経済の数字だった。名目の国内総生産(GDP)について「700兆円経済が視野に入ってきました」と述べ、春季労使交渉の賃上げ率が3年連続で5%を超えたとした。株価は1年前の4万円台から6万5000円を超える水準になり、市況の上昇もあって国と地方自治体が保有する金融資産は1年間で80兆円増えて990兆円を超えたと説明した。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の2025年度の運用益は前年度から40兆円近く増え、昨年度の税収は前年度より約9兆円増えて過去最高の84兆2000億円になったとも述べた。これらの数値は、いずれも首相が会見で説明したものである。

政策面では、情報活動の体制として「国家情報会議」と「国家情報局」を設置したとした上で「これは第一歩にすぎません」と述べ、中長期の推進方策を「国家情報戦略」として取りまとめる考えを示した。安全保障の「三文書」も見直すとした。この1年は「令和8年熊本地震」をはじめ地震や台風、豪雨に見舞われたとして、亡くなった人への哀悼と被災者への見舞いを述べ、避難支援と生活再建、インフラの復旧に取り組むとした。

物価高対策は約10兆9000億円 内訳を示す

記者から1年間で注力した政策を問われた首相は、最優先課題として取り組んだのは「物価高対策」だと答えた。ロシアのウクライナ侵略によってエネルギーや穀物の価格が上がっている中での就任であり、今年2月には中東情勢の悪化で物価の上昇が加速したと説明した。

首相が挙げた個別の措置は、ガソリン・軽油の暫定税率廃止に1兆7000億円、子育て世帯への支援に3677億円、中東情勢を受けた燃料油補助に1兆4085億円、電気・ガス料金支援に1兆431億円である。このほか2兆1000億円を措置した重点支援地方交付金については「これから地方自治体により執行されるものもございます」と述べた。1兆8000億円規模の税制改正による所得税の負担軽減は、納税者1人あたり3万円から6万円を今年の年末調整で届けるとした。別の質問への答えでは、昨年10月の内閣発足以降の対策の合計を「約10.9兆円の規模」と説明している。

高市首相が会見で挙げた物価高対策の措置額(兆円)

交付金2.1000所得税1.8000ガソリン1.7000燃料油1.4085電気ガス1.0431子育て0.3677
重点支援地方交付金は一部が未執行。所得税は税制改正の規模出典: 首相官邸「総理就任1年の節目を迎えての会見」(令和8年10月21日・速報版)
数値で見る(単位: 兆円)
項目兆円
交付金2.1000
所得税1.8000
ガソリン1.7000
燃料油1.4085
電気ガス1.0431
子育て0.3677

飲食料品の消費税率引き下げと支援金については、「切れ目のない物価高対策」の手を緩めることなく「消費税・支援金法案」を今の国会に提出したと述べた。この法案は、飲食料品の消費税率を2027年4月から2年間1%に下げ、中低所得の働く人に支援金を支給するもので、10月9日に国会へ提出されている(食料品消費税1%と支援金の法案、国会に提出 支援金の額と所得の線引きは政令に委ねる)。

物価と賃金の数字は、どの系列を指すのか

首相は「物価上昇率」が1年前の2.9%から現在は1.9%に下がり、主要7カ国(G7)で最も低い水準に抑えられていると説明した。この1.9%は、総務省統計局が9月18日に公表した消費者物価指数(CPI)の2026年8月分と一致する。2025年を100とした全国の総合指数は102.2で、前年同月比1.9%の上昇だった。生鮮食品を除く総合指数は102.0で1.7%の上昇、生鮮食品およびエネルギーを除く総合指数は102.5で1.9%の上昇である。

首相は「飲食料品」が一般的な物価上昇率より高い「+3%程度」で上昇していると述べた。CPIの結果の概要では、生鮮食品を除く食料は8月に前年同月比2.7%の上昇で、7月の3.0%から上昇の度合いがやや小さくなっている。一方でエネルギーは8月に0.7%の下落となり、電気代が2.4%、ガソリンが2.6%それぞれ下がった。灯油は15.5%上がっている。食料が上がり、電気やガソリンが下がるという組み合わせで、総合指数の1.9%という数字ができている。

実質賃金について首相は「直近では9か月連続プラスで、G7で最も高い水準の1.9%になりました」と述べた。厚生労働省が10月7日に公表した毎月勤労統計調査の2026年8月分結果速報を見ると、実質賃金指数には実質化に使う物価指数の違いで2つの系列がある。消費者物価指数の「総合」で実質化した現金給与総額は85.6で前年同月比1.9%の増加、9か月連続のプラスである。首相が挙げたのはこちらの数値だ。厚生労働省が同じ資料の先に掲げている「持家の帰属家賃を除く総合」で実質化した系列は83.7で、増加は1.5%、プラスは8か月連続にとどまる。名目の現金給与総額は事業所規模5人以上で31万1364円、前年同月比3.8%の増加だった。

指標 直近の数値 期間・公表元
消費者物価指数(総合) 前年同月比1.9%上昇 2026年8月分・総務省統計局
生鮮食品を除く総合 前年同月比1.7%上昇 2026年8月分・総務省統計局
生鮮食品を除く食料 前年同月比2.7%上昇 2026年8月分・総務省統計局
実質賃金(総合で実質化) 前年同月比1.9%増・9か月連続プラス 2026年8月分速報・厚生労働省
実質賃金(持家の帰属家賃を除く総合で実質化) 前年同月比1.5%増・8か月連続プラス 2026年8月分速報・厚生労働省
名目の現金給与総額(規模5人以上) 31万1364円・前年同月比3.8%増 2026年8月分速報・厚生労働省

表: 首相が会見で挙げた物価・賃金の数値と、公表統計で確認できる直近の数値 出典: 総務省統計局「2025年基準 消費者物価指数 全国 2026年8月分」、厚生労働省「毎月勤労統計調査 2026年8月分結果速報」

反省点に挙げたのは広報のあり方

記者から「この1年で得た教訓や反省」を問われた首相は、「非常に難しいご質問です」と述べた上で、中東情勢の悪化など国際情勢が目まぐるしく変わる中で「今打てる、最善の手を打ってまいりました」と答えた。週に何度も国家情報局長や外務省、国家安全保障局長から説明を受けており、世界の情勢が日本にどう影響するかを予想して政策を組み立てる重要性を認識したとした。

重ねて反省点を問われると、物価高対策について「十分じゃないというお声がたくさんあると承知をしております」と述べた。昨年10月の発足以降で約10兆9000億円の規模だとして「やれる限りのことは切れ目なくやってきている」と説明し、今年度中の給付を求める声があることには、既に決めた給付が届いていないところや年末調整で返る分があると指摘した。その上で「必要なときに、でも本当に必要な、緊要性のあるときには躊躇なく予備費も活用させていただく」と述べた。

物価上昇率が低く抑えられている要因としては、ガソリンや軽油、重油、灯油、航空機燃料を対象とした燃料油補助を挙げた。日本のガソリンは1リットルあたり170円前後だが、国によっては300円台後半から、時には400円を超える先進国もあると述べ、車を持たない人にも輸送コストの低下という形で届いていると説明した。そのうえで「的確にそういった情報をお伝えしきれていない」として、「もう少ししっかりと国民の皆様への発信を強化しながら、今できること、そしてこれからやることを見通していただける、そういった広報のあり方というのも考えていかなきゃいけない」と述べた。これが反省点だという。

物価高対策の規模と手法は、国会でも論点になっている。野党は給付の速さを求めており、立憲民主党の水岡代表は補正予算の編成について「頭から否定しない」と述べて速やかな給付を求めている(立憲・水岡代表、補正予算の編成「頭から否定しない」 物価高対策へ「速やかな給付」求める)。

維新との連立「感謝してもしきれない」

共同通信社の記者から日本維新の会との連立について問われた首相は、「感謝してもしきれないぐらいの思いを持っております」と答えた。昨年は自民党総裁になっても総理にはなれないのではないかという状況で、衆参ともに自民党は少数であり、公明党の政権離脱もあった中で、維新が連立を組もうと言ってきたと振り返った。連立政権合意書の作成では、自身が総裁選挙で訴えた政策や著書、党機関紙「自由民主」に掲載された公約まで細かく読み込んでもらったと述べ、その配慮に感謝しているとした。

今後については、連立政権合意書に記された内容を一つずつ実行に移すとした上で、先の内閣改造で維新から初めて政務三役が入ったことに触れ、「ともにですね、責任をより重く担っていただくパートナーとして歩んでいきたい」と述べた。無駄を削り、現役世代の負担を減らす取り組みの推進力になっているとも評価した。

外交では、今年5月に発表した「進化したFOIP(自由で開かれたインド太平洋)」を挙げた。エネルギーや重要物資の供給網を強化するため、「パワー・アジア」を含めてインド太平洋諸国や中東諸国との協力を深めてきたものだと説明した。日米同盟を「更に揺るぎないもの」とし、東南アジア諸国連合(ASEAN)やアジア太平洋経済協力(APEC)、G20を含む一連の外交機会をとらえて各国との連携を深めるとした。

冒頭発言の締めくくりで首相は「今日から、高市内閣2年目の『挑戦』が始まります」と述べ、「日本列島を、強く豊かに。」という言葉で理解と協力を求めた。なお、首相官邸が公表しているのは速報版の会見記録で、確定版では表記が改められる場合がある。