片山財務大臣は10月20日の閣議後記者会見で、就業者負担軽減支援金の対象者と支給水準について「これまでにない制度である『支援金制度』の対象者について新たに推計を行う必要があります」と述べ、総務省の「全国家計構造調査」と足元の賃金の伸びの最新データに基づく分析を踏まえて設定する考えを示した。法案は10月9日に衆議院が受理し、20日に財務金融委員会へ付託されたが、支援金を受け取れる所得の範囲も支給額も条文には書かれていない。会見は、その数字がいつ、何を材料に決まるのかを政府が初めて具体的に挙げた場となった。
「今日この時点ではそういう段階」 20日の閣議後会見
会見では記者が、消費税の減税などに必要な年間5兆円程度の財源や支援金の対象者が明らかになっていない部分が多いとして、国会審議でどのように理解を得ていくのかを尋ねた。
片山財務大臣は、支援金制度を「諸外国との比較を通じて純負担率の改善が必要であるということが明らかになっている中低所得者の現役勤労者に着目した制度」と位置づけ、税・社会保険料による負担の軽減と、いわゆる「年収の壁」などによる「働き控え」の緩和を通じた就労促進が目的だと説明した。そのうえで「考え方や考慮要素については大綱を踏まえて法案にしっかり規定をしております」と述べ、今後の税・社会保障の制度改正に対応するために政令で定めることが適当だとの考えを示した。
具体的な水準については「恒久財源の確保状況ですとか物価や賃金の動向、国会でのご審議等も十分踏まえつつ」とした上で、対象者の新たな推計が必要だと述べ、「『全国家計構造調査』や足元の賃金の伸び等の最新のデータに基づく分析も踏まえた上で設定してまいりたい」と答えた。発言は「今日この時点ではそういう段階でございます」で締められている。会見の概要では、賃金についてどの統計を使うかは示されていない。
法案は4つの要件と支給額を政令に送っている
法律案要綱によると、支援金は4つの要件のいずれにも該当する人に支給する。いずれの要件も境目となる金額は条文に書かれておらず、政令で定めるとされている。支給額も同じで、第10条第1項は「前年の所得の額並びに扶養児童の有無及び数に応じて政令で定める額とする」と規定している。
| 政令で定める項目 | 法案が挙げる考慮要素 |
|---|---|
| 所得下限額(勤労所得がこれを超えること) | 税制及び社会保険制度の状況、支援金による就業の促進等の効果 |
| 所得上限額(前年の合計所得金額がこれ以下であること) | 我が国及び諸外国の純負担率・純負担額の状況、類似制度の状況、扶養児童の有無と数 |
| 純負担基準額(税・社会保険料負担額から公的年金等の収入額を引いた額がこれを超えること) | 我が国における純負担率の状況 |
| 配偶者の合計所得金額の上限(令和9・10年度の支給を除く) | ― |
| 支援金の額 | 我が国及び諸外国の純負担率の状況、就業の促進等の効果、前年の所得の額、扶養児童の有無と数 |
要綱は、所得下限額・所得上限額・純負担基準額について、政府が定期的に考慮すべき事情の変動と法律の施行状況を検証し、必要があると認めるときは改定すると定めている。支給額も同様に検証と改定の対象となる。法案が通っても金額は固定されず、政令の改正で動く仕組みである。法案提出時点の全体像は食料品消費税1%と支援金の法案、国会に提出 支援金の額と所得の線引きは政令に委ねるで整理している。
推計の材料は5年ごとの基幹統計
財務大臣が名指しした全国家計構造調査は、総務省統計局が実施する統計法に基づく基幹統計調査である。家計における消費、所得、資産及び負債の実態を総合的に把握し、世帯の所得分布や消費の水準・構造を全国的および地域別に明らかにすることを目的としている。1959年以来5年ごとに実施されており、最新の令和6年調査は14回目に当たる。
令和6年調査は、全国から無作為に選定した約9万世帯を対象に、2024年10月と11月の2か月間実施された。調査票は「家計簿」「年収・貯蓄等調査票」「世帯票」の3種類で、日々の収入と支出、年間収入、預貯金などの金融資産、借入金、世帯構成、世帯員の就業・就学状況などを調べている。結果は集計が終わったものから順次公表され、家計収支に関する結果が2025年12月19日、所得に関する結果と家計資産・負債に関する結果、年間収入・資産分布等に関する結果が2026年8月28日に公表された。
この調査は、世帯の収入と支出を正確に計ることが難しいなどの理由で、一部の世帯を対象から外している。二人以上の世帯では料理飲食店・旅館・下宿屋を営む併用住宅の世帯、賄い付きの同居人のいる世帯、外国人世帯が、単身世帯ではこれらに該当する人と学生の単身世帯、15歳未満の単身世帯が除かれている。所得分布を見るための調査としては国内で最も規模が大きい一方、直近の調査が2024年秋の実施である点は変わらない。財務大臣が「足元の賃金の伸び」を併せて挙げたのは、この2年のずれを埋める必要があるためと読める。
大綱が示した金額の目安は「年収の壁」の節目
9月15日に閣議決定された大綱は、支援金の額を「恒久財源の確保と併せて検討し定める」としつつ、線引きの考え方に関わる具体的な金額をいくつか挙げている。いずれも給与収入に換算した数字で、就業調整が起きやすいとされる水準が並ぶ。
大綱が挙げた給与収入の節目(万円)
数値で見る(単位: 万円)
| 項目 | 万円 |
|---|---|
| 保険適用 | 106 |
| 住民税 | 119 |
| 第3号境 | 130 |
| 手取回復 | 160 |
大綱は、支援額が一定額となる「逓増開始額」を、個人住民税の所得割が課税される水準を踏まえて定めるとしている。注記では、単身者の個人住民税所得割の非課税限度額が所得45万円、給与収入では119万円だと示している。
「年収の壁」に直面する人への就業促進特例加算は、勤労所得が被用者保険の短時間労働者の適用ラインから、可処分所得の減少が回復する水準までの人を対象とする。大綱の注記によると、適用ラインは令和7年度における全国で最も低い地域別最低賃金である時給1,023円に、短時間労働者の適用労働時間である週20時間を乗じた給与収入106万円(所得32万円)で、この場合の社会保険料負担は約16万円程度とされる。また、国民年金第3号被保険者が年収130万円になって第1号被保険者となった場合、税・社会保険料負担を差し引いた手取りが回復する水準は年収約160万円程度だとしている。支援額は1,000円単位で、端数は切り上げる。
扶養児童がある場合は、児童の有無と数に応じた定額の「こども加算」を上乗せする。こども加算の額も、諸外国と日本の純負担率の差を踏まえ、支援基本額と併せて検討して定めるとされ、金額は示されていない。
最初の2年は消費税1%分が総額の上限
支給額を縛るもう一つの条件が、総額の上限である。大綱は、令和9年度および令和10年度中に支給される支援金について、支援金全体として要する費用が飲食料品に係る消費税1%相当分の範囲となるよう定めるとしている。要綱も同じ内容を条文に落とし込み、令和9年度分の額は、その総額が同年度に飲食料品の消費税率を特例の税率とすることによる消費税と地方消費税の収入見込額を超えないようにすることを考慮して政令で定めると規定した。特例の税率は国税0.78%で、地方消費税と合わせて1%である。
消費税率の引下げは令和9年4月1日から令和11年3月31日までの2年間で、その終了後に支援金へ円滑に移行するため、令和11年4月に令和10年度の受給資格者へ半年分相当額を先行して支給する。費用は3分の2以上を国が負担し、残りを都道府県と市町村が半分ずつ持つ。財源は特例公債に頼ることなく、歳出・歳入全般の見直しにより確保するとされ、制度を担う組織として内閣府に「租税・社会保険料負担に関する総合調整本部」を設置する。
つまり最初の2年は減税の規模が支援金の総額を決め、3年目以降は恒久財源の確保状況が水準を決める構図になる。財務大臣が水準の説明で恒久財源の確保状況を先に挙げたのは、この順序に沿っている。法案は食料品1%減税・支援金法案が衆院で審議入り 財務金融委へ付託、国民民主は対案を同日提出のとおり20日に財務金融委員会へ付託され、衆議院の審査は終わっていない。政令の中身が国会の審議でどこまで示されるかが、残された論点である。
