生成AIの開発・提供事業者に、学習データやクローラ(ウェブ上の情報を自動で集めるプログラム)の開示などを求める政府の「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード」について、内閣府知的財産戦略推進事務局は10月26日、事業者からの届け出の受け付けを始めた。事務局が27日に更新した届出事業者一覧によると、初日の26日に届け出たのは、Google、SB Intuitions、ABEJAなど5社。コードは原則を「実施するか、実施しないならその理由を説明するか」を事業者に選ばせる仕組みで、各社の開示を見ると、権利者から個別のURLについて照会を受けた際の対応が分かれた。
初日に届け出たのは5社 一覧に開示ページへのリンク
一覧に載ったのは、番号順に株式会社ABEJA、Google LLC、Truth-Science、By My Side Labs、SB Intuitions株式会社の5者で、届出日はいずれも10月26日となっている。一覧には各社が自社サイトなどに公表した開示資料のアドレスが並び、だれでも中身を読める。事務局は、届け出の後、掲載までに時間がかかる場合があるとしており、26日以降に届け出た事業者が一覧に加わる可能性がある。
届け出は、コードを受け入れると表明した事業者が、自社サイトで受け入れ表明と各原則の実施事項、実施しない原則があればその理由を公表したうえで、所定の様式を事務局にメールで送る形をとる。自社サイトでの開示が難しい事業者は、資料を送れば内閣府のサイトに載せてもらえる。
10月23日のデジタル庁の大臣記者会見では、古川デジタル相が記者からコードの意義を問われ、「生成AIの技術の進歩、これを促進するとともに、やはり知的財産権の適切な保護、これの両立を目指す」と述べた。そのうえで「届出いただく状況を確認しながらフォローアップしていき、また、適宜バージョンアップしていく必要がある」と話した。
3つの原則 何を開示し、だれが説明を求められるか
コードが事業者に求める原則は3つある。原則1は、事業者が自社サイトで透明性と知的財産保護の取り組みの概要を開示することだ。使っているモデルの名称や来歴、学習データの種類、クローラの名称と目的などを並べ、知的財産を守る措置としては、ペイウォール(有料の壁)や robots.txt(クローラへの機械可読な指示)に従うこと、海賊版サイトへのクロールを避けること、権利者の申し出を受ける窓口を設けることなどへの対応状況を示す。
原則2と原則3は、外部からの個別の照会に答えるものだ。原則2は、訴訟や調停などの法的手続きをしている、または準備している権利者や、その代理人の弁護士から、示したURLなどが学習・検証に使ったデータに含まれているかを問われた場合に回答するよう求める。原則3は、生成AIで作ったものが他人のコンテンツと同じか似ていると気づいた利用者が、生成物とプロンプト(指示文)を示して同様の照会をした場合の回答を定める。生成AIの提供者が自ら答えられないときは、搭載しているモデルの開発者の名前を明かす。
| 原則 | 求める内容 | 照会できる人 |
|---|---|---|
| 原則1 | モデル・学習データ・クローラ・知財保護措置の概要を自社サイトで開示 | (照会ではなく常時の開示) |
| 原則2 | 示したURL等が学習データに含まれるかに回答 | 法的手続きをしている・準備している権利者、その代理人 |
| 原則3 | 生成物と同じか似たコンテンツのURL等が学習データに含まれるかに回答 | 生成AIで作ったものが他人の作品と似ていると気づいた利用者 |
いずれの原則も、営業秘密や安全性・セキュリティにかかわる機微な情報の強制的な開示は求めないと明記している。照会する側には、回答を目的以外に使わないと誓うことなどを求める。
Googleは原則2・3に「技術的現実を反映していない」
Googleは26日付の開示資料で、日本で公衆に提供している生成AIの基盤モデルとサービス全般を対象に、原則1の項目を説明した。クローラの一覧を公開しているほか、「Google-Extended」という管理機能により、サイトの運営者が自分のサイトの内容を学習などに使わせるかどうかを選べるとしている。
一方、原則2と原則3については、URLごとの開示の枠組みは「現在の技術的現実を反映したものではない」として、実施せずに理由を説明する「エクスプレイン」を選んだ。理由として、基盤モデルは学習データをそのまま保持するデータベースではなく、元のデータやURLはモデル内に保存されていないこと、特定のURLが学習に使われたかを外部に確実に案内できる仕組みが現在は無いこと、公表すれば営業秘密や安全性にかかわる情報を明かす恐れがあることの3点を挙げた。
ABEJAも、原則2と原則3について「学習用データセットのクローリング先URLを保有していないため開示に応じない」と公表した。学習用データセットの一部は公開しているとして、必要に応じて各自で調べるよう求めている。
これに対しSB Intuitionsは、自社の「Sarashina3」シリーズなどを対象にコードを受け入れると表明し、権利者(原則2)からは照会されたURLが、利用者(原則3)からは生成物と同じか似たコンテンツのURLが、学習・検証のデータやその収集元に含まれているかどうかに、記録の保存・管理の状況を踏まえて「合理的と判断する範囲で」回答するとした。回答の範囲や期間の目安を定めた取扱ポリシーを公表し、問い合わせフォームを開示要求の窓口にしている。
海外の事業者も対象 法的拘束力は無く、事務局は審査しない
コードは、日本に本店が無い事業者でも、生成AIのシステムやサービスが日本向けに提供されていれば適用を受けるとしている。日本国民が利用できる場合もこれに含む。対象になるのは、生成AIシステムを作って公衆に提供する「開発者」と、それをアプリやサービスに組み込んで公衆に提供する「提供者」で、研究・開発をしているだけの者や、特定の企業や団体が自らのデータだけで作り、その内部の限られた範囲だけで使うシステムは外れる。
コードは自ら「法的拘束力を有する規範ではない」と書き、受け入れるかどうかは事業者の判断に委ねている。事務局は届け出の一覧とリンクを公表し、関係省庁や業界団体の協力を得て届け出を促すが、届け出の内容は審査せず、第三者からの照会にも答えない。受け入れた事業者には、原則として毎年、開示の内容を見直して更新することを求める。
また、開示しない項目があるという一事だけで事業者を直ちに批判することは慎むべきだとも記している。一方で、原則2・3を実施する体制ができていないと述べるだけでは「エクスプレイン」として不十分で、体制づくりが終わる時期を説明するよう求めている。Googleは仕組みが無い理由を技術面から説明しており、体制づくりの時期は示していない。
政府は生成AIの利用をめぐる指針の整備も並行して進めている。デジタル庁が政府機関向けに改定を検討している指針では、このコードを含む他の指針の内容を取り込むかが論点の一つになっている(政府の生成AI指針、AIエージェントのルール整備へ 送金など取り消せない操作に職員の確認案)。
2023年に検討会 意見募集を経て8月に策定
コードは、内閣府の「AI時代の知的財産権検討会」の議論から生まれた。検討会は2023年10月4日に初会合を開き、2024年4月22日までに7回の会合を重ねた。この間に論点整理と中間とりまとめを公表している。2025年10月24日に再開した会合で議論を重ね、事務局は同年12月26日から2026年1月26日まで、コードの案について意見を募った。直近の会合は8月18日の第13回だ。
小野田内閣府特命担当相(知的財産戦略)は8月25日の記者会見で、コードを同日策定したと報告した。根拠として、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI法、令和7年法律第53号)の趣旨を挙げ、手法はスチュワードシップ・コードでも用いられている「コンプライ・オア・エクスプレイン」に基づくと説明した。「国民が安心・安全に生成AIを利活用できる環境を確保し、利用・活用が進むことで開発そのものも進んでいく、そうした好循環が形成されることを期待しております」と述べている。
コードは、事業者の対応の状況や国際的な取り組みの動向を見て、必要があれば改定するとしている。原則1の学習データの透明性についても、当面この形で実施しつつ、国際的な整合性に配慮した取り組みがステークホルダーの間で進むことを期待すると記した。届け出た事業者がどの原則を実施し、どれを説明で済ませたかは、一覧のリンクから比べられる。
