茨城県の大井川和彦知事は10月30日の定例記者会見で、フュージョン(核融合)発電の実証を目指すStarlight Engine(スターライトエンジン)社が募集した発電実証プラントの建設候補地に、県として応募したと発表した。候補地は常陸大宮市上村田にある国立研究開発法人・農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の放射線育種場跡地で、敷地は62万5257平方メートル(約62.5ヘクタール)。県の事務局によると、応募書類は10月5日に同社へ直接提出した。知事は「県北地域の未来を切り拓く大きな起爆剤となるものと確信して」いると述べた。
応募したのは県単独、所有者の承諾を得て提案
会見での説明によると、応募は県が単独で行い、常陸大宮市やほかの団体は加わっていない。知事は事前に常陸大宮市長へ誘致の方針を伝えて了解を得ており、市長からは、今後必要になる市民への説明などに「全面的に協力していきたい」との返答があったという。
候補地の土地は農研機構が所有している。県の事務局は、応募することについては農研機構の承諾を得たうえで応募したと説明した。一方、県の配布資料は注記で、今回の発表は農研機構による売却先やその他の土地処分の決定を意味するものではないとしている。土地をどう引き渡すかは、まだ決まっていない。
この場所を選んだ理由について、知事は、国の農研機構が持っていた土地で現在は使われずに空いていること、同社の要求を満たすこと、所有者が農研機構であるため交渉を一気に進められることなどを挙げ、「ここが適地だというふうに判断した」と述べた。
県によると、同社の発電実証プラントの総事業費は1兆円程度、運転開始後の雇用数は500人以上と同社から聞いているという。県の資料は「雇用創出や県内企業とのシナジー効果により、大きな経済波及効果が期待できます」と記している。
資金面について知事は、プラントの建設に県が直接補助することは「ないんじゃないかなと考えております」と述べた。同社は国の成長戦略の投資対象となる事業を行っており、国からの投資が基本になるとの見方を示した。県の融資枠を使ってもらうことも「今のところ、特に考えておりません」と答えた。
公募したのは京都フュージョニアリングの子会社
公募を行ったStarlight Engine社は、県の資料によると2025年4月の設立で、資金調達額は60億6000万円。核融合プラントの基盤技術を開発する京都フュージョニアリング(2019年10月設立、累計の株式による資金調達額329億8000万円)の子会社にあたる。
同社に出資した三菱UFJ銀行の7月15日の発表によると、同社の代表者は菊地清貴氏で、本社は東京都大田区。2030年代の核融合発電の実証を目指す民間主導の産学連携プロジェクト「FAST(Fusion by Advanced Superconducting Tokamak)」を進めている。同行は、今回の資金調達で同社が発電実証炉の建設を見据えた工学設計や研究開発、立地・規制への対応などを加速する予定だとしている。
県の資料によると、今回の公募は都道府県知事と政令指定都市の市長を申請主体とし、期間は2026年7月15日から10月15日まで。知事は会見で、同社が適地を選ぶにあたり、調査・検討の受け入れを希望する自治体から広く候補地の提案を募ったものだと説明した。
他の応募について知事は「今のところ、私が認識しているのは青森県とうちだけだと思う」と述べ、今後増える可能性は十分あるとした。そのうえで、茨城県には量子科学技術研究開発機構(QST)の那珂フュージョン科学技術研究所と関連産業があり、「優位性は非常に高い」との認識を示した。
候補地に求められる条件
県の資料が示した主なサイト要件と、県が提案した跡地の概要は次の通り。
| 項目 | 公募の主な要件 | 放射線育種場跡地 |
|---|---|---|
| 敷地面積 | 60〜100ヘクタール | 62万5257平方メートル(約62.5ヘクタール) |
| 時期 | 5年後に建設を始められること | 2025年9月末で施設を廃止 |
| 電力 | 大容量の受電・送電ができること | 資料に記載なし |
| 地盤 | 地盤災害ハザードマップのレッドゾーンでないこと | 資料に記載なし |
| 所有者 | ― | 農研機構(応募は承諾済み) |
同社が公表している「FAST サイト要件について」は、これらに加えて、用地の取得方法を購入か100年規模の賃貸とすること、沿岸部付近で周辺に民家が無いこと、港湾や物流拠点が付近にあること、消費電力と発生エネルギーに相当する熱を海水か冷却塔で環境へ排出すること、を挙げている。建設を始められる時期が早い候補地を優先して検討するとも記している。県の資料と会見では、跡地がこれらの条件をどう満たすかについての説明は無かった。
60年余り続いた放射線育種の拠点
候補地の放射線育種場は、通称「ガンマーフィールド」と呼ばれる農研機構の常陸大宮研究拠点だった。県の資料によると、1960年に当時の那珂郡大宮町(現在の常陸大宮市)に設置され、ガンマ線などを使って作物に突然変異を起こさせる育種研究を主導してきた。病気に強いナシ「ゴールド二十世紀」のほか、リンゴ、コメ、ソバ、花きなどの突然変異品種の育成に貢献した。
その後、ガンマ線照射以外の方法で突然変異を起こす技術が進み、ガンマ線照射の利用が減ったことなどから、2025年9月末で廃止された。県の資料は、この経緯を農研機構のホームページに基づいて記している。
県は核融合を巡り、これまでも誘致に動いてきた。資料によると、2025年10月に国の発電実証プラントの誘致を他県に先駆けて表明し、2026年6月には国の発電実証プラントを県内に設置するよう国に要望した。今回の応募は、その誘致活動の一環と位置づけている。
会見では、県が経済産業省に誘致を求めている高温ガス炉の実証炉への影響も問われた。知事は影響は「ありません」と答え、高温ガス炉と核融合の両方の誘致を求めていく考えを示した。
核融合とは何か、県はどう説明したか
核融合(フュージョン)は、軽い原子核同士が融合して別の原子核になる際にエネルギーを放出する反応で、少量の燃料から大量のエネルギーを生み出せる。県の資料は、原子力発電に使われる核分裂との違いとして、核融合は温度や圧力などの条件を整えた場合にだけ起こり、連鎖反応が起きないこと、出る放射性廃棄物は低レベルのものだけであることを挙げている。燃料に使う三重水素(トリチウム)については、自然界にも広く存在し、出す放射線のエネルギーは紙1枚で遮ることができるほど弱いと説明している。
県の資料によると、核融合は国の成長戦略の17分野の一つに位置づけられ、2040年度までの官民投資額は3兆1000億円が見込まれている。県の事務局は会見で、この額は国が公表しているものだと説明した。三菱UFJ銀行の発表は、内閣府の「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」(2025年6月改定)で、2030年代に発電実証を目指す方針が示されていると記している。
会見では、知事が以前、高レベル放射性廃棄物の最終処分場を巡り、茨城県はすでに国のエネルギー政策に貢献し負担しているとの認識を示したこととの整合性も問われた。知事は「全く矛盾はしていない」と答え、核融合は核分裂とは原理が全く違い安全性が高いため、「負担と受益という話には当てはまらない」と述べた。
決定は2028年の見通し、住民説明は事業者が中心に
県の資料が示す今後の日程は、2027〜2028年にサイトの評価・決定と開発・実証、2028〜2029年に建設準備や先行調達、大型の資金調達を行い、2030年代に発電実証、2040年代以降に産業化・商用化と世界展開へ進むというもの。県の事務局は、同社の話では2028年には候補地を決定すると聞いていると説明した。
住民への説明について、知事は「基本はStarlight社になると思います」としたうえで、県と市が協力し、核分裂とは異なる仕組みであることや安全性について理解を得るプロセスが必要になる可能性が高いと述べた。県の事務局は、応募から決定まで時間があるため、同社や常陸大宮市と相談しながら、住民に丁寧に説明できるよう調整を進めるとした。
知事は将来の商用発電所まで見据えた誘致かと問われ、「実現はかなり先になるのかもしれません」としつつ、「未来の夢のエネルギーですので、是非実現していく拠点としていただければ」と語った。
