茂木敏充外相は10月30、31日(現地時間)、米ジョージア州アトランタで開かれた20か国・地域(G20)外相会合に出席し、「地政学的課題」「エネルギーと経済成長」「サプライチェーン」の3つのセッションでそれぞれ発言した。外務省が発表した。茂木氏は、中東情勢の不安定化でホルムズ海峡とバブ・エル・マンデブ海峡の航行が妨げられ、世界のエネルギー供給に負の影響が出ているとして、両海峡の自由で安全な航行の回復を求めた。重要物資のサプライチェーン(供給網)については、恣意的な輸出規制と、非市場的な政策による過剰生産能力を課題に挙げた。

2日間で3つのセッション、議長国は米国

外務省によると、会合は2日間で3つのセッションに分けて開かれた。セッション1は10月30日午前10時40分から約2時間、セッション2は同日午後2時5分から約1時間30分、セッション3は31日午前10時5分から約1時間40分だった。日本時間ではいずれも深夜から未明にあたる。

セッション 現地時間 所要 主な議題
1「地政学的課題」 10月30日 午前10時40分 約2時間 中東、ウクライナ、インド太平洋
2「エネルギーと経済成長」 10月30日 午後2時5分 約1時間30分 エネルギー危機への対処、エネルギー安全保障
3「サプライチェーン」 10月31日 午前10時5分 約1時間40分 重要鉱物・食料・肥料の供給網の強靱化
G20外相会合の3つのセッション

出典: 外務省「G20外相会合」セッション1〜3の発表

議長国は米国。外務省がセッション1の発表に付けた参加国・機関の一覧は、日本、米国、アルゼンチン、豪州、ブラジル、カナダ、中国、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、イタリア、韓国、メキシコ、ロシア、サウジアラビア、トルコ、英国、アフリカ連合(AU)、欧州連合(EU)で、招待国としてポーランドが加わった。外務省が出張前の10月27日に発表した資料では、G20メンバーとして南アフリカも挙げていたが、この参加国・機関の一覧には南アフリカの名前は無い。

外務省のG20のページは、2008年の米ワシントンから、19年の大阪を経て、25年の南アフリカ・ヨハネスブルグまでの首脳会合を掲げている。茂木氏はセッション3の発言で、12月のG20マイアミ・サミットの成功に向けて日本として最大限の貢献をしたいと述べた。

地政学:2海峡の航行回復、イランに「最大限の柔軟性」

セッション1では、中東、ウクライナ、インド太平洋などの国際情勢を議論した。茂木氏は中東について、ホルムズ、バブ・エル・マンデブの両海峡は物流の要だとした上で、「今、重要なのは、軍事的緊張の緩和と両海峡における自由で安全な航行の回復である」と述べた。日本はイランに最大限の柔軟性を発揮するよう強く求めるなど、事態の早期沈静化に向けた外交努力を続けてきたと説明した。

ウクライナについては、公正かつ永続的な平和に向けて支援を続けると表明し、厳しい冬を前に大型発電機の供与などエネルギー分野の支援も行うとした。黒海沿いの港湾からの穀物輸出の確保は、世界の食料安全保障の観点から重要だと指摘した。

インド太平洋では、北朝鮮について「完全な非核化」の原則を堅持することが重要だとし、悪意あるサイバー活動への対応も急務だと述べた。拉致問題の即時解決にも理解と協力を求めた。さらに、中東、欧州、インド太平洋の情勢は深く連関しているとして、日本が進化した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の下で、港湾整備による連結性の向上や、マラッカ・シンガポール海峡の航行援助施設の整備、海峡通航のルール整備に取り組んでいると説明した。東シナ海・南シナ海を含め、力や威圧による一方的な現状変更の試みは「決して認められない」と述べた。

エネルギー:備蓄・貿易・産消連携、パワー・アジアを説明

セッション2では、中東情勢などを背景とするエネルギー危機への対処を中心に議論した。茂木氏は、世界の国内総生産(GDP)とエネルギー消費の8割以上を占めるG20には、危機への対処で共通の責任と役割があると述べた。

その上で、世界のエネルギー安全保障には、自由で透明なエネルギー貿易の確保、石油備蓄の強化に関する国際協調、生産国と消費国の連携強化の「3つが鍵である」と主張した。日本の取り組みとして、エネルギー供給の不安定化の影響を強く受けるアジア各国を支えるため4月に立ち上げた「パワー・アジア」を挙げ、当面の供給確保、中長期的な地域の備蓄体制の強化、エネルギー源の多様化を進めていると説明した。中東・湾岸諸国とは、経済・エネルギーの強靱化に向けた包括的な協力計画の策定を進めているという。

茂木氏は、日本が産油国の中東と消費国のアジアを結ぶ「結節点」として主体的な役割を担うと述べ、これまでもアジアでの備蓄拡大の推進や、中東諸国の海水淡水化施設、液化天然ガス(LNG)の液化施設への融資とエンジニアリング協力を行ってきたと紹介した。日本は10月にサウジアラビアの首都リヤドで開かれた閣僚会合でも同じ「結節点」の考え方を示している(産油国と消費国の閣僚会合、8年ぶりにリヤドで 米国がIEF復帰を表明 日本は「結節点」を掲げる)。

会合の合間には、サウジアラビアのファイサル外相とも30分間会談し、湾岸協力理事会(GCC)諸国の経済・エネルギー強靱化に向けて日本がまとめている包括的な協力計画の進み具合を説明した。ファイサル氏は、GCC諸国の強靱化に向けて日本と緊密に協力したいと応じた。トルコのフィダン外相との会談でも、両海峡の自由で安全な航行の回復は世界のエネルギー安全保障の観点から急務だとの点で一致した。

供給網:輸出規制と過剰生産、WTO補助金協定の改革を提案

セッション3では、重要鉱物、食料、肥料などの重要物資の供給網の強靱化を議論した。茂木氏は、恣意的な輸出規制が多くの産業の供給網の核となる重要鉱物の安定供給を脅かしていると指摘した。不透明で過剰な補助金などの非市場的な政策・慣行による過剰生産能力が、他国の産業の健全な発展を阻害し、世界の供給網を脆弱にしているとも述べた。

対処の方向として茂木氏は3点を挙げた。第一は、ルールに基づく自由で公正な国際経済秩序の強化で、経済的な依存関係の「武器化」に立ち向かう必要があるとし、日本が世界貿易機関(WTO)の補助金協定のアップデートを含む改革提案を行ったと紹介した。第二は重要鉱物で、供給源の多角化と需要側の行動変化に加え、精錬・加工といった中流での協力も重要だとした。日本は「RISEパートナーシップ」を通じ、ザンビアやマラウイなどでクリーンエネルギー製品に必要な重要鉱物の供給網の多様化を支援してきたという。第三は食料で、紛争やエネルギー価格の高騰が食料の供給網も脅かしているとして、スーダンで農家の研修や灌漑施設の改修を支援している例を挙げた。

外相会見「過剰生産能力、多くの国が問題視」

茂木氏は31日の会合終了後、アトランタで臨時の記者会見を開き、成果として3点を挙げた。1点目は、G20が協調する必要性を確認できたこと。ホルムズ海峡の不安定化を含むエネルギー危機を受け、G20が協調して対処する必要性を確認できたのは「大きな成果」だと述べた。2点目は、FOIPの下で各国の自律性と強靱性の確保に向けた日本の具体的な取り組みを説明できたこと。過剰生産能力の問題については「多くの国が、やはりこの過剰生産能力の問題については大きな問題で、対処しなければならない、こういう意見だったと思います」と語った。

3点目は、同盟国・同志国との連携やグローバル・サウスとの関係強化に向けた個別の会談で、日米豪印、日米韓の外相会合のほか、トルコ、米国、サウジアラビア、豪州と会談などを行い、ロシアのラブロフ外相とは5年ぶりに外相会談を開いたと説明した。日米豪印の会合は今年3回目、日米韓は4回目で、それぞれ別に発表された(日米豪印外相、アトランタで今年3回目の会合 AI支援に8500万ドル超の意向、茂木外相がラブロフ外相と会談 サハリンで拘束の記者の即時解放を要求)。

航行の自由について記者から今後の協力の進め方を問われた茂木氏は、両海峡などの自由で安全な航行の回復が不可欠だという点は「基本的に認識の一致するところ」だとする一方、紅海の問題など個別の論点にはG20に参加していない国に関わるものもあると述べた。その上で、パワー・アジアや湾岸諸国との包括的な協力を通じて、アジアでの備蓄の強化や中東諸国のエネルギー関連インフラの整備を進める考えを示した。