農林水産省は10月20日、インドネシア政府が海外からの飲食料品などに関するハラール認証義務化の適用開始日を延期したと公表した。当初は2026年10月18日に始める予定だったが、延期後の適用開始日は2028年10月18日になる。同省は「今回の延期は、制度を廃止するものではありません」として、輸出事業者に2028年10月18日の義務化へ向けた対応を続けるよう求めた。

延期を決めたのはインドネシア政府で、経済担当調整大臣府が10月16日に公表した。義務化の2日前の方針転換である。農水省は、企業や業界団体から「準備期間が足りない」との声が寄せられたためだと説明している。日本からインドネシアへの農林水産物・食品の輸出は2025年に173億円あり、このうち77億円が水産物、47億円が加工食品で、いずれも義務化の対象となる飲食料品に当たる。

適用開始日は2028年10月18日 制度は廃止しない

農水省が10月20日に公表した内容は、適用開始日の付け替えに絞られている。「予定されていた適用開始日」を令和8(2026)年10月18日の日曜日、「延期後の適用開始日」を令和10(2028)年10月18日の水曜日と並べて示した。差は2年である。

同省は延期の意味を限定して書き添えた。「なお、今回の延期は、制度を廃止するものではありません。輸出事業者の皆様におかれましては、2028年10月18日のハラール認証義務化に向けて、引き続き対応を進めていただくようお願いいたします」。認証を取らなくてよくなったのではなく、取るまでの期間が2年伸びただけだという整理である。問い合わせ先には輸出・国際局規制対策グループを示した。

ハラール認証は、製品がイスラム法で許された(ハラールな)ものであることを第三者が確認し、証明する仕組みである。豚肉やアルコールを原材料に使っていないかだけでなく、製造ラインや輸送、保管の過程でそれらと混ざらないかまでを見る。インドネシアでは、認証の取得が任意の表示ではなく、流通させるための要件に変わりつつあった。その要件がいつから海外製品にも及ぶのか、という日付が動いた。

適用2日前の方針転換 8日には「準備は整った」と説明していた

インドネシア経済担当調整大臣府が10月16日に公表した文書(番号 HM.02.04/361/SET.M.EKON.3/10/2026)によると、同府は同日、関係省庁、ハラール製品保証実施庁(BPJPH)、業界団体などに向けた政策の周知をオンラインで実施し、その場で猶予期間の延長を示した。同府のスシウィヨノ・モギアルソ事務次官は「ハラールのエコシステムの準備状況を考慮し、政府は2024年政令第42号を改める政令によって、ハラール認証義務の猶予期間を延長する」と述べた。

注目されるのは、その8日前の説明である。同府は10月8日の文書(番号 HM.02.04/340/SET.M.EKON.3/10/2026)で、義務化は2024年政令第42号のとおり2026年10月18日に正式に始まると明言していた。ドラジャッド経済担当調整副大臣は「調整大臣とBPJPH長官の会談に基づき、準備状況を考慮しつつ2026年10月18日に施行することで合意した。段階的な取り扱いは後にBPJPH長官規則で定める。時間が差し迫っているため、技術的な規定の整備は遅くとも2026年10月11日までに終える必要がある」と語っていた。

同じ10月8日の文書は、態勢が整っていることの根拠として具体的な数字を並べている。発行済みのハラール認証はおよそ440万件、取得した事業者は347万、認証を受けた製品は1468万に達した。認証の相互承認(MRA)は39か国と結んでいる。制度を支える人員は、検証員587人、ハラール監査人2036人、ハラール製品製造工程の支援員(P3H)10万8211人、ハラール屠畜の技能者(JULEHA)5561人で、認証を受けた家畜・食鳥の処理場は5745か所あるとした。

それだけの数字を示した8日後に、義務化の開始は2年先送りされた。10月16日の文書は理由を「評価の結果と、産業界・業界団体から寄せられた意見に基づき、政府は、エコシステムの強化と関係者すべての準備のために十分な余地を与えるため、猶予期間の調整が必要と判断した」と書いている。

根拠は2014年のハラール製品保証法 区分ごとに猶予が異なる

義務の根拠は法律にある。10月16日の文書は、ハラール認証義務が2014年法律第33号(ハラール製品保証法)に基づくもので、2023年法律第6号で改正され、実施に関する規定は2024年政令第42号(ハラール製品保証分野の運営に関する政令)に置かれていると説明した。今回動いたのは法律ではなく、この政令の条文である。

延期は一律ではない。製品の区分ごとに別の期日が設定されており、今回の調整もその一部に当たる。

対象 期限・開始日
海外からの飲食料品・と畜物・と畜サービス(第160条第3項) 2028年10月18日から義務化
飲食料品・と畜物に関するサービス(と畜サービスを除く/第160条) 2028年10月18日から義務化
小規模・零細事業者の飲食料品・と畜物・と畜サービス 猶予期間を2028年10月17日まで延長
天然原料医薬品、擬似医薬品、健康補助食品、化粧品、化学製品、遺伝子組換え製品、一部の使用物品(第161条のa・d・e・f・g) 猶予期間を2028年10月17日まで延長
一般用医薬品・指定一般用医薬品 猶予期間は2029年10月17日まで(変更なし)
向精神薬を除く処方薬 猶予期間は2034年10月17日まで(変更なし)
インドネシアのハラール認証義務化の猶予期間(2026年10月16日の発表による調整後)出典: インドネシア経済担当調整大臣府プレスリリース(2026年10月16日)

医薬品の猶予が長いのは、代替原料の調達や製剤の変更に時間がかかるためとみられるが、インドネシア側は期間設定の理由を公表資料に書いていない。化粧品や化学製品、遺伝子組換え製品が2026年から2028年へ動いた一方で、処方薬の2034年は据え置かれた。

海外製品は相互承認の進展も条件に BPJPH規則第4号は撤回へ

海外の事業者にとって重い意味を持つのは、第160条第3項の改め方である。10月16日の文書は、海外由来の飲食料品、と畜物、と畜サービスについての認証義務を2028年10月18日からとしたうえで、「ハラール認証の相互承認に関する協力の完了を考慮して」と条件を添えた。日付だけでなく、国と国の間で認証を認め合う枠組みが整うかどうかが、適用のあり方に関わる書き方になっている。

相互承認が成立していれば、輸出国側の認証機関が出した証明をインドネシア側が受け入れる形になり、事業者はインドネシアの機関に一から申請し直す必要が小さくなる。10月8日の文書が示した「39か国」との相互承認に日本が含まれるかは、公表資料から確認できていない。

あわせて同府は、2024年政令第42号の下位規定も改めるとし、インドネシア領域に入る海外のハラール製品の適合性確認を定めた2026年BPJPH規則第4号を撤回するとした。輸入品の確認手順を定めた規則をいったん取り下げ、政令の改正に合わせて組み直すことになる。日本の事業者が10月18日に向けて読み込んでいた手続きは、根拠規則ごと置き換わる。

日本からの輸出は173億円 水産物が77億円を占める

財務省「貿易統計」を基に農水省が作成した2025年の実績では、日本からインドネシアへの農林水産物・食品の輸出額は173億円で、前年比35.5%増だった。輸出先としては世界17位、輸出全体に占める割合は1.1%である。内訳は農産物86億円(50.0%)、水産物77億円(44.7%)、林産物9億円(5.3%)で、農産物のうち加工食品が47億円(27.1%)、その他農産物が26億円(14.9%)、畜産品が7億円(4.3%)、穀物等が5億円(3.0%)を占める。

2025年のインドネシア向け農林水産物・食品の輸出額(上位6品目)(億円)

いわし32ホタテ貝15錦鯉8緑茶8牛肉7たら6
出典: 財務省「貿易統計」を基に農林水産省が作成した令和7年(2025年)農林水産物・食品の輸出実績(国・地域別)
数値で見る(単位: 億円)
項目億円
いわし32
ホタテ貝15
錦鯉8
緑茶8
牛肉7
たら6

品目別では、いわしが32億円で最も多く、ホタテ貝15億円、錦鯉8億円、緑茶8億円、牛肉7億円、たら6億円が続いた。2024年の首位はホタテ貝(生鮮等)の9億円で、いわしはこの年の上位10品目に入っていなかった。水産物と加工食品を合わせた124億円は、義務化の対象となる飲食料品に当たる。牛肉はと畜の工程そのものがハラールかどうかを問われる品目で、認証の取得が最も重い区分に入る。

農水省は義務化を前提に事業者向けの説明会を開いていた。10月1日の公表によると、10月8日の午後3時半から1時間、オンラインでウェビナーを開催し、BPJPHのハイカル長官が「ハラール認証義務化の制度概要」を基調講演し、ハラル・ジャパン協会の佐久間代表理事が「輸出実務で事業者に求められる対応」を実務講演した。案内文は「本年10月18日(日曜日)から、インドネシアにおいて『ハラール認証』の取得が完全に義務化されることを踏まえ」と書き、「義務化後の輸出業務に支障が生じないよう、制度の概要や必要な対応についてご説明いたします」としていた。参加は無料の事前申込制だった。

同省はこの数年、品目ごとに輸出先の開拓を進めている。欧州では日本産米、ベルリンの百貨店で試験販売 ゆめぴりかなど6銘柄 農水省のように小売の店頭に置く取り組みを重ねてきたが、インドネシアのように制度上の要件が輸出の前提になる市場では、売り場より先に認証の取得が条件になる。今回2年の猶予が加わったことは、認証を取り切れていなかった事業者には申請の時間が増えることを意味する。ただし農水省が書いたように制度そのものは残るため、2028年10月18日という新しい期日に向けた手続きは必要になる。