こども家庭庁は、乳幼児健診のあり方を見直す有識者検討会「乳幼児の健康診査等のあり方に関する検討会」の第1回会合の議事録を、10月20日付でホームページに掲載した。会合は8月19日午後2時から3時49分まで、会場とオンラインの併用で開かれ、座長には国立成育医療研究センター成育こどもシンクタンク副所長の山縣然太朗氏、座長代理には東京科学大学教授の岡田就将氏が選ばれた。事務局が示した令和6年度の調査では、公費負担で健診を実施している市町村の割合は年月齢によって1.5%から99.5%まで開いており、法律で全市町村に義務づけられているのは1歳6か月児健診と3歳児健診の2つだけだった。検討会は令和9年春頃に議論をとりまとめる。
年月齢ごとに1.5%から99.5%まで開く
事務局が資料3として示した「乳幼児健診等の実施主体、実施率、実施方法」によると、公費負担で健診を行っている市町村の割合は年月齢ごとに大きく違う。生後3〜5か月児の健診は99.5%の市町村が実施している一方、2か月児健診は7.0%、2週間児健診は3.3%、4歳児健診は1.5%、就学までの6歳児健診は2.1%にとどまる。令和5年度に国庫補助が創設された1か月児健診は57.1%、5歳児健診は18.8%だった。いずれの数値も、こども家庭庁成育局母子保健課の「令和6年度母子保健事業の実施状況等について」が元になっている。
公費負担で乳幼児健診を実施している市町村の割合(%)
数値で見る(単位: %)
| 項目 | % |
|---|---|
| 1か月児 | 57.1 |
| 2か月児 | 7.0 |
| 3〜5か月児 | 99.5 |
| 6〜8か月児 | 47.2 |
| 9〜12か月児 | 82.0 |
| 5歳児 | 18.8 |
健診の進め方も年月齢によって分かれる。市町村が日時と会場を指定してまとめて行う集団健診の割合は、3〜5か月児健診で73.4%、5歳児健診で90.2%を占めるのに対し、1か月児健診では0.8%しかなく、99.0%が委託先の医療機関で1人ずつ受ける個別健診だった。生まれた産科施設でそのまま受ける流れが定着しているためだ。乳幼児健診以外では、新生児マススクリーニング検査の実施率が100%、新生児聴覚検査が95.2%と高い。
法律が年月齢を定めているのは2つだけ
健診の根拠も一律ではない。1歳6か月児健診と3歳児健診は母子保健法第12条が対象年月齢を定めており、健診項目も同法施行規則に書かれている。残りの乳幼児健診と新生児聴覚検査は同法第13条に基づく任意の健診で、実施時期は法令ではなくマニュアルなどで示されているだけだ。新生児マススクリーニング検査にはそもそも母子保健法上の規定がなく、厚生労働省の課長通知を根拠に都道府県と指定都市が実施している。
| 健診・検査 | 母子保健法上の位置づけ | 実施主体 |
|---|---|---|
| 1歳6か月児健診・3歳児健診 | 第12条で義務 | 市町村 |
| 1か月児・5歳児健診など | 第13条で任意 | 市町村 |
| 新生児聴覚検査 | 第13条で任意 | 市町村 |
| 新生児マススクリーニング検査 | 規定なし(通知で実施) | 都道府県・指定都市 |
表: 乳幼児健診等の法令上の位置づけと実施主体 出典: こども家庭庁「資料3 乳幼児の健康診査等について」
義務づけられた2つの健診は全市町村が実施しているため実施率の調査自体が行われておらず、資料では実施方法だけが示された。1歳6か月児健診は94.9%、3歳児健診は97.3%が集団健診だった。財政面では、平成17年に1歳6か月児健診と3歳児健診が地方交付税措置の対象となり、令和5年に1か月児健診と5歳児健診への国庫補助が創設された。新生児マススクリーニング検査は当初の5疾患から対象が広がり、現在はフェニルケトン尿症や先天性甲状腺機能低下症など20疾患を対象に、検査費用が地方交付税で措置されている。
医師が1人、対象者が数人 健診を開けない事情
ほぼ全国で行われている3〜5か月児健診にも、実施していない自治体がある。母子保健課は令和6年度の調査で「実施していない」と答えた7自治体にヒアリングし、2つの理由を整理した。1つは健診に従事する医師の確保が難しいことで、「小児科を標榜する医療機関が1つしかない」「地域内で健診可能な医師が1名しかいない」という回答があった。県内の大学病院などへ医師派遣を依頼しても確保できない場合は、健診ではなく保健相談を実施して対応しているという。もう1つは年間出生数の少なさで、対象月齢によっては対象者が数人になってしまうため、集団の乳児健診の対象月齢の幅を広く取り、結果として乳児期の健診回数が少なくなっているとの回答だった。
背景には小児医療の偏りがある。資料3では、主たる診療科を小児科とする医師数が15歳未満人口1万人あたりおおむね10人から15人の範囲で分布していることが示され、青森県を例に、同じ小児医療圏の中でも小児科医が都市部に集中し、地方部では小児科以外の医師が小児科診療を担う例があると説明された。病院の診療科そのものも減っており、小児科がある病院は2397施設 2008年の2905施設から508減 産婦人科・産科は1230施設で6病院に1つ 病院数は8001で病床は1年に1万9523床減のとおり、小児科を持つ病院はこの十数年で500以上減った。
構成員からも現場の実情が語られた。長崎県波佐見町子ども・健康保険課長の石橋万里子氏は、町の人口が約1万4000人を切り年間の出生が80人前後だと説明し、以前は常勤の小児科医がいたが今後いなくなるため「幼児健診も集団健診でどうにかやっている状況」だと述べた。離島を抱える長崎県では都市部と離島の差が大きく、地理的な要因で小児科医の不足が生じているとも指摘した。三重県医療保健部の淀谷典子氏は、県内29市町のうち26市町が令和9年度までに5歳児健診を実施できる見込みだと報告した。
データは集めても、9割が他分野とつながっていない
検討会のもう1つの柱が母子保健のデジタル化だ。地方公共団体情報システムの標準化に関する法律に基づき、健診などの健康情報を一元的に管理できるシステムの導入は進んでおり、母子保健の情報管理システムを導入済みの自治体は1691に達し、約9割を占める。導入していない自治体は、導入予定ありが9、今後検討予定が27、検討の予定なしが14だった。
一方で、集めた情報は分野をまたいで使われていない。令和7年のこども家庭庁母子保健課の調査では、乳幼児健診のデータを福祉・教育・医療に関わるデータと連結していないと答えた自治体が約9割に上った。こども家庭庁は全国共通の情報連携基盤「PMH(Public Medical Hub)」を使い、住民・医療機関・自治体の間で健診結果を含む母子保健情報を共有する母子保健DXを進めている。令和5年度にデジタル庁がPMHを構築し、令和6年度には母子保健DXを実現するための改正母子保健法が成立、同年度からは複数の自治体で実証事業が始まった。令和8年度末からは全国展開に向けた取り組みに入る予定だ。医療分野のデジタル化の全体像は、デジタル庁、医療DXの進み具合を「見える化」 マイナ保険証や電子処方箋など5分野を公開で公開されたダッシュボードにも示されている。
日本小児科医会副会長で開業小児科医の松下享氏は、この点に危機感を示した。5歳児健診が始まってから、かかりつけ医が「健診でこう言われたがどうしたらいいか」と保護者に尋ねられても内容が分からず、行政に問い合わせても個人情報を理由に断られる例が多いという。「紙媒体のものをデジタルに変えただけでは何も意味がない」として、関係者が情報を共有できる仕組みを求めた。
「連れていく」から「届ける」へ 構成員が挙げた論点
事務局は会合の最後に、議論してほしい4つの観点を示した。地域の実情を踏まえてどの地域でも実施することが望ましい健診等の制度設計、継続的で安定的な実施を支えるために国・都道府県・市町村に期待される役割、他の子育て支援施策との連携、そして母子保健DXの進捗によって期待される効果である。
これに対し、日本小児科学会から参加した福岡大学小児科教授の永光信一郎氏は、健診の中で必須項目と推奨項目をはっきり示す必要があるとしつつ、「どこに標準を合わせるか」という議論も大切だと述べた。積極的に健診を実施している自治体からは水準を下げるように受け取られかねないためだ。市町村単独では限界に来ている地域があるとして、健診医がいない地域への広域調整やデータ管理で都道府県の役割を再考すべきだとも主張した。
ベネッセコーポレーションでたまごクラブ・ひよこクラブの編集ディレクターを務める倉石愛子氏は、共働き家庭の増加を踏まえると、平日に保護者が仕事を休んで子どもを会場まで連れて行き、待ち時間を含めて長時間拘束されることが負担になり得ると指摘した。健診は本来は権利であるのに義務と捉える保護者が出てくることを懸念し、「こどもを健診に連れていく」という考え方から「こどもと家庭の生活の場に健診を届ける」という考え方へ転換できないかと提案した。全国で保障すべき健診の内容と質は共通化しつつ、受診場所や受診方法は家庭や地域の事情に応じて選べる制度が望ましいとした。
検討会の構成員は、自治体職員、小児科医、産婦人科医、看護職、研究者、子育て雑誌の編集者など16人。月1回程度のペースで開き、第2回以降は関係者からのヒアリングも行いながら実施体制、他の子育て支援施策との連携、母子保健DXを踏まえた情報の利活用などを数回に分けて議論する。令和9年春頃に議論のとりまとめを行う予定で、次回の日程は追って連絡するとした。
