飲食料品の消費税率を一時的に引き下げ、あわせて就業者負担軽減支援金を配る政府提出の法律案が、10月20日の衆議院本会議で議題となり、審議入りした。衆議院の議案審議経過情報によると、法案は同じ10月20日付で財務金融委員会に付託され、審議状況は「衆議院で審議中」となっている。本会議では国民民主党を代表して浅野哲税制調査会長(衆院茨城5区)が質疑に立ち、支援金の対象となる年収も金額も法案に書かれていないことを挙げて「2年後の中間層大増税を招きかねない」と述べた。同党は同じ日、対案となる法律案を衆議院に提出している。

2年間だけ1%、支援金の中身は政令に委ねる

法案の正式な名称は「租税及び社会保険料による負担の軽減のための飲食料品に係る消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の支給に関する法律案」。内閣官房と財務省が公表した概要によると、2027年4月1日から2029年3月31日までの2年間に限り、飲食料品にかかる消費税率を0.78%(地方消費税と合わせて1%)に下げる。地方消費税の減収分は地方特例交付金で補う。施行日は2027年4月1日だ。

事業者向けには、本則課税事業者へ移る際の届出の特例、飲食料品の販売に係る簡易課税制度の特例、中間申告制度の特例、総額表示義務の特例、定期供給契約による予約販売と通信販売の税率の経過的な取扱い、の5つの措置を置く。税率が2年で元に戻るため、値札や請求システムをその都度切り替える負担を和らげる狙いがある。

もう一方の柱である就業者負担軽減支援金は、4つの要件をすべて満たす人に年1回支給する。要件は、勤労所得が政令で定める額を超えること、合計所得金額が政令で定める額以下であること、税と社会保険料の負担額から公的年金等収入額を差し引いた額が政令で定める額を超えること、配偶者の合計所得金額が政令で定める額以下であること(2027年度と2028年度の支給を除く)の4点である。支給額も、前年の所得額や19歳未満の扶養親族の数(2027・2028年度は16歳未満)に応じて政令で定めるとされ、当分の間は社会保険料控除額も加味する。

つまり、誰がいくら受け取れるのかは法律の条文には書かれていない。金額の決定はすべて政令に送られている。費用は3分の2以上を国が負担し、残りを都道府県と市区町村が半分ずつ負担する。公金受取口座を登録している人については、市区町村長の職権で支給を認定できるようにする。内閣府には「租税・社会保険料負担に関する総合調整本部」を設ける。

提出から審議入りまで11日

衆議院の議案情報では、この法案が衆議院に受理されたのは2026年10月9日、参議院の予備審査としての受理も同じ10月9日である。本会議で議題となり財務金融委員会に付託されたのが10月20日なので、提出から審議入りまで11日を要したことになる。

この法案は、第222回国会に内閣が提出した法律案のうち番号1、つまり今国会の政府提出法案の筆頭にあたる。同じ10月9日には一般職の職員の給与に関する法律の改正案など複数の政府提出法案が受理されており、いずれも衆議院で審議中となっている。法案そのものの条文は衆議院の議案情報には掲載されていないが、内閣官房が「国会提出法案(第222回 臨時国会)」のページで、概要、要綱、法律案と提案理由、新旧対照表、参照条文をそれぞれPDFで公開している。担当部局は人口戦略本部・全世代型社会保障構築本部事務局である。

この間、政府側は実務の準備を先行させている。法案提出と同じ10月9日には、内閣官房を事務局とする13府省庁の連絡会議が発足した(食料品1%と支援金、13府省庁の連絡会議が初会合 レジ改修は詳細公表から5〜6か月)。参議院側の扱いについては、国民民主党が首相と関連大臣の出席を求める「重要広範議案」への指定を求めている(国民民主・榛葉幹事長、食料品減税法案は参院で「重要広範議案に」 首相と関連大臣の出席求める)。参議院では、この法案の先にある税率を問うた質問主意書に、10月16日付で答弁書が出ている(政府答弁書、食料品減税後の増税案「提案されたことはない」 将来の税率「検討していない」)。

国民民主党は「2年後の崖」を軸に15問

浅野氏の質疑は党の公式サイトに全文が掲載されている。冒頭で「国民民主党は、物価高に苦しむ国民の負担軽減に賛成です」とした上で、「私たちは減税に反対しているのではありません。2年後に押し寄せる『中間層大増税』に反対しているのです」と立場を説明した。

浅野氏が「二つの空白」と呼んだのは、減税が始まる2027年4月までの間に低所得者への対策がないこと、そして税率が8%に戻った後に支援金の対象から外れる中間層への支援がないことの2点である。質疑は15問にわたり、支援金の満額はいくらか、年収いくらまでなら満額を受け取れるのか、年収いくらを超えるとゼロになるのかを示すよう求めた。

浅野氏は、首相が海外の例から日本では約2,000万人が対象になると答弁したとし、公的統計から逆算すると対象となる年収の上限はおおむね210万円から280万円になると指摘した。下限についても、政府の会議で年収53万円、74万円、106万円の三案が示されており、106万円を採れば約1,100万人が対象から外れるとした。2027年度の先行支給分は総額6,000億円で、2,000万人で割れば1人平均3万円にすぎないとも述べている。これらはいずれも浅野氏が質疑で示した数字であり、政府が公表した確定値ではない。

費用についても、食料品の減税は年約4.3兆円、2年で約9兆円になるとし、レジ改修と農家支援だけですでに約3,000億円が見込まれているとして、総額の見通しを示すよう求めた。複数税率そのものへの疑問も示し、農家は肥料や燃料に10%の税を払いながら売上の税が1%になること、外食は店内で食べれば10%、持ち帰れば1%と扱いが分かれることを挙げた。

同じ日に対案 住民税の基礎控除を178万円へ

国民民主党は10月20日、「就業者の租税及び社会保険料による負担の軽減のために講ずべき措置に関する法律案」を衆議院に提出した。衆議院の議案情報によると、提出者は浅野哲氏ほか3名(近藤雅彦、玉木雄一郎、古川元久の各氏)で、提出会派は国民民主党・無所属クラブ、賛成者は24人。党は質疑の中でこの法案を「給付付き現役世代減税法案」と呼んでいる。

要綱によると、所得税については2027年分以後、基礎控除の最高控除額と給与所得控除の最低控除額の合計が178万円を下回らないようにし、所得の状況によって基礎控除の額に差が生じないようにする。扶養控除の対象に16歳未満の扶養親族を加えることも盛り込んだ。個人住民税については2028年度分以後、基礎控除の最高控除額を引き上げて合計178万円とし、これによる自治体の減収は補填する措置を政府に求めている。

給付の部分では、2028年度以後、個人住民税の基礎控除引上げだけでは恩恵が届かない層を補う「租税・社会保険料負担軽減給付」を置く。対象は、最低賃金で週10時間働いた場合の年間賃金を基本に定める基準額以上の収入があり社会保険料を納めている人のうち、年収が課税最低限に届かない人とし、費用は全額を国が負担する。制度が動き出すまでの間は、2026年の収入に基づいて2027年度に給付金を先に配るとしている。附則には、2028年度末までに法人税と消費税の抜本的な改革を検討する規定を置いた。

政府案と国民民主党案の主な違いは次のとおりである。

項目 政府案(閣法第1号) 国民民主党案(衆法第1号)
手段 飲食料品の消費税率を1%に下げ、支援金を配る 所得税・個人住民税の基礎控除を引き上げ、給付で補う
期間 2027年4月から2年間の時限 恒久措置として法制化を求める
給付の対象 4要件に該当する者。年収の線引きは政令 週10時間以上働き社会保険料を納め、年収が課税最低限未満の人
給付の財源負担 国が3分の2以上、残りを都道府県と市区町村 全額を国が負担
法案の提出日 2026年10月9日 2026年10月20日
政府案と国民民主党案の主な違い出典: 内閣官房・財務省「法律案の概要」、衆議院「議案審議経過情報」「法律案要綱」

争点は、政令に送られた数字

審議入りした段階で、法案の骨格のうち税率と期間ははっきりしている一方、支援金の対象と金額は決まっていない。首相は来春までに決めると答弁していると浅野氏は質疑で述べており、国会がこの数字を抜きに賛否を判断することになる構図が、最初の質疑から論点として示された形だ。

対案を出しているのは国民民主党だけではない。立憲民主党は10月8日に、食料品の減税ではなく給付を中心に据える対案をまとめている(立憲民主党、食料品減税から「給付中心」へ転換の対案 2026年度内に住民税非課税世帯へ給付、2027年4月に簡易版、2029年4月に給付付き税額控除 政府案には反対)。減税と給付のどちらを軸に置くかで各党の案が分かれており、政府案の審議はこの対立軸の上で進むことになる。

法案は財務金融委員会に付託された。委員会での質疑日程、採決の時期、政府が政令で定める年収の線引きをいつ示すかは、いずれも本稿の執筆時点では確認できていない。