なぜ、今日の日中関係は冷え込んでいるのか?
日中関係が冷え込んでいる最大の理由は、単一の外交問題ではなく、安全保障上の警戒感と経済面での相互依存、さらに台湾や歴史認識などをめぐる政治的な不信が重なっていることにある。
日中両国は1972年に国交を正常化し、その後、貿易や投資、人の往来を拡大させてきた。一方で、東シナ海の尖閣諸島をめぐる対立や、中国の軍事力の増強、日本周辺での中国軍・海警船の活動などを背景に、日本側では中国に対する安全保障上の警戒感が強まってきた。中国側にも、日本の防衛力強化や日米同盟の深化に対する警戒が存在する。
近年、その構図をさらに複雑にしているのが台湾問題である。2025年11月、高市早苗首相が台湾有事をめぐり、日本が集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」に該当し得るケースについて国会で答弁したことを契機に、中国側の反発が強まった。中国は日本側に発言の撤回を求め、日本への渡航自粛を呼びかけたほか、日本産水産物や重要鉱物などをめぐる措置も打ち出した。2026年には、レアアースなどの輸出管理をめぐる問題も日中間の緊張要因となっている。
ただし、現在の日中関係を「台湾問題だけ」で説明するのは適切ではない。中国の経済・軍事両面での台頭に伴い、日本では経済安全保障の観点から中国への過度な依存を避けようとする動きが強まっている。半導体や重要鉱物、サプライチェーンなどをめぐる競争が激しくなる一方、中国にとって日本は依然として重要な経済相手であり、日本にとっても中国は巨大な市場である。このため両国関係は、単純な「対立」ではなく、競争と協力が同時に存在する複雑な関係となっている。
実際、高市首相も2026年10月の所信表明演説で中国を「重要な隣国」と位置付け、対話を通じて建設的かつ安定的な関係を構築する方針を示している。中国側も日中関係の改善の必要性を認識している。
つまり、今日の日中関係が冷え込んでいる背景には、台湾をめぐる安全保障上の対立だけでなく、中国の台頭、日本の安全保障政策の変化、経済安全保障、東シナ海をめぐる対立、そして相互不信の蓄積がある。だからこそ、両国にとって必要なのは、対立をなくすことではなく、競争や懸案を抱えながらも、偶発的な衝突を防ぎ、経済・人的交流などの協力分野を維持する「管理された関係」を構築することである。
現在、なぜ良好な日韓関係がこれほどまでに必要なのか?
現在の日韓関係が重要なのは、単に隣国同士だからではない。日本と韓国を取り巻く安全保障環境が、過去に比べて大きく変化しているためである。日韓両国は1965年の国交正常化以降、経済や人的交流を拡大させてきた一方、歴史認識や旧朝鮮半島出身労働者問題、慰安婦問題、竹島をめぐる対立などを抱え、関係が悪化する時期も繰り返してきた。しかし、現在はこうした懸案を抱えながらも、両国が協力する戦略的必要性が以前より高まっている。
最大の要因の1つは北朝鮮である。北朝鮮は核・ミサイル能力の向上を続けており、日本と韓国はいずれもその直接的な影響を受ける。さらに近年は、北朝鮮とロシアの軍事協力も進展している。こうした環境では、日本と韓国が個別に対応するだけでは限界があり、米国を含む日米韓3か国の情報共有や抑止力の強化が重要になる。日本政府も、北朝鮮の核・ミサイル問題や露朝軍事協力、サイバー活動などへの対応で日米韓の連携を重視している。
さらに重要なのが、中国やロシアを含む大国間競争の激化である。日本と韓国はいずれも米国の同盟国であり、インド太平洋地域の安定を維持するうえで重要な位置にある。台湾海峡や東シナ海、朝鮮半島など複数の安全保障上の問題が相互に関連するなか、日韓間の意思疎通が途切れれば、地域全体の危機管理能力が低下する可能性がある。
経済安全保障の面でも事情は変わった。半導体、重要鉱物、エネルギー、先端技術などでは、日本と韓国が競争するだけでなく、サプライチェーンの強靱化に向けて協力する必要性が増している。2026年1月の日韓首脳会談でも、経済安全保障やサプライチェーンでの協力、北朝鮮問題、日米韓連携の重要性が確認された。5月の首脳会談でも、エネルギー安全保障や日米韓の情報共有などで協力を進める方針が確認されている。
もちろん、歴史認識や領土問題が消えたわけではない。むしろ、これらの問題を無理に解決しようとするのではなく、意見の違いを抱えたままでも安全保障、経済、人的交流などで協力できる関係を維持することが現実的である。
かつての日韓関係では、関係悪化が主として二国間の外交問題として捉えられる面が強かった。しかし現在は、北朝鮮の核・ミサイル、米中対立、露朝接近、経済安全保障などが絡み合っている。だからこそ、現在の日韓関係には地域の危機を管理し、日本と韓国双方の安全と経済的利益を守るための戦略的な安定性が求められている。要は、良好な日韓関係は日本の国益を守るためにマストなものと言えよう。
