米国が求めている一般流通用の生鮮ばれいしょ(ジャガイモ)の輸入解禁をめぐり、国民民主党の農林水産調査会は10月22日、農林水産省を訪れ、武部新農林水産相に申し入れを行った。申し入れ書は「輸入解禁は断じて認められないことを前提に」、農水省が特定した病害虫21種のそれぞれについて慎重かつ厳格に検討するよう求めている。武部氏は翌23日の記者会見で、同じ22日に国民民主党、立憲民主党、民主改革の会・中道改革連合の各党から要請を受けたと明らかにし、「毅然とした姿勢で、協議に慎重に対応していきたい」と述べた。
申し入れは5項目、「次元が異なる重大なリスク」
申し入れ書は、米国が2020年(令和2年)に一般流通用生鮮ばれいしょの輸入解禁を要請したことを出発点に置く。日本が世界貿易機関(WTO)の衛生植物検疫措置の適用に関する協定(SPS協定)や国際植物防疫条約(IPPC)を守るのは当然としたうえで、協議は「輸入解禁ありきではなく」、日本の病害虫の発生状況や気候、流通の実態を加味して進めるべきだとした。
理由として挙げたのが、今回の協議対象の性格だ。米国産の生鮮ばれいしょはすでにポテトチップの加工用として輸入されているが、こちらは閉鎖された施設の中で管理されている。一般流通用は消費者の手元まで届くため、申し入れ書は「家庭等から生じる廃棄物等も含め、病害虫の侵入経路について、これまでとは次元が異なる重大なリスクを抱えている」として「断じて容認できない」と記した。
具体的な要求は5項目ある。①特定された21種の病害虫を一つずつ慎重に検討し、重要な科学的不確実性が残る場合は予防原則に基づいて解禁しない②家庭からの廃棄物や自家栽培を含め、想定し得るすべての侵入経路を評価する③協議状況とリスク評価の根拠を生産者・産地・消費者に十分に説明する④他国がすでに輸入していることや、米国内に病害虫の無発生地域があることだけで安全と判断しない⑤国内のシストセンチュウ類の防除・封じ込めを強め、種ばれいしょの安定供給と生産体制を強化する――の5つだ。
党の発表によると、申し入れには舟山康江調査会長(参院・山形)、村岡敏英事務局長(衆院・秋田3区)、臼木秀剛事務局次長(衆院・北海道1区)、かごしま彰宏事務局次長(参院・神奈川)が出席した。臼木氏は「北海道の現場ではシストセンチュウとの戦いが長年続いており、一度発生してしまうと封じ込めが極めて困難」と述べた。党は、武部氏が「他国が解禁しているからといって安易に妥協するつもりはない」と応じたとしている。
農水相「節目節目で情報提供」、協議の中身は明かさず
23日の記者会見で武部氏は、協議の現状について、9月にリスク管理措置が必要な病害虫21種を特定して公表し、「病害虫に対するリスク管理措置の検討の段階に移行したところ」だと説明した。病害虫ごとの具体的な措置は「米国との間で議論をこれから詰めていく」としたが、米国側の要求や日本側が求める対策の中身は「相手がある話」だとして明らかにしなかった。
一方で、国会審議や主産道県への説明会で国内から強い不安や懸念の声が寄せられていることは「しっかりと米国側にも申し伝えます」と述べた。22日の各党の要請については、科学的根拠に基づく厳格な検討、毅然とした協議、情報の随時公開と関係者への説明、種いもの安定供給を含む生産振興策などを求められたと整理し、生産者の不安や懸念を改めて伝えられたものと受け止めていると語った。
武部氏は北海道選出で、10月15日の就任会見でもこの協議に触れていた。北海道はばれいしょの8割を生産する地域だと述べ、地元ではシストセンチュウが発生しているため生産者が「非常にセンシティブに」なっていると説明。病害虫の侵入を許さないことを「大前提に」協議に臨むと語っていた(武部新農水相が就任会見 備蓄米21万トン買い戻し「着実に」、米は「需要に応じた生産」継続)。
約300種から54種、さらに21種へ 農水省の評価
農水省が9月に示した説明資料によると、評価は3段階で絞り込んだ。まず文献調査などから、一般流通用の生鮮ばれいしょに寄生する疑いが排除できない病害虫を約300種挙げた。このうち米国で発生していて日本では発生していないものなど54種を「潜在的病害虫」とした。さらに侵入とまん延の可能性、まん延した場合の経済的被害を評価し、目視を中心とした通常の検査で対応できる33種を除いた21種を、米国と管理措置を協議する必要がある病害虫として特定した。資料では、この21種の一覧に「(案)」と付している。
21種には、葉や塊茎を食害するコロラドハムシ、土の中で寄生して定着するジャガイモシストセンチュウとジャガイモシロシストセンチュウのほか、センチュウ類、菌類、細菌、ファイトプラズマ、ウイルス、ウイロイドが含まれる。資料は、シストセンチュウについて「シストの状態で長期間生存可能」と特性を記している。
農水省は輸入解禁の要請を受けた場合の「標準的手続」を公表しており、協議はこれに沿って進む。
| 段階 | 内容 | 進み具合 |
|---|---|---|
| ステージ1 | 解禁要請の受付、潜在的病害虫の特定 | 済み |
| ステージ2 | 病害虫リスク評価、協議が必要な病害虫の特定 | 科学的検討は終了(21種を特定) |
| ステージ3 | 管理措置案の策定、植物防疫検討会での意見聴取、相手国の実施体制の評価、解禁条件の策定 | 実施中 |
| 国内手続き | 関係省令の改正案、パブリックコメント | ステージ3の後 |
ステージ3では、学識経験者や利害関係者から意見を聴く植物防疫検討会を公開で開くほか、農水省の植物防疫官が相手国の実施体制や施設を現地で確認する。資料は、管理措置の例として、病害虫の無発生地域での生産、誘引剤を入れたトラップでの発生調査、一定の温度で一定期間保つ温度処理、遺伝子診断などによる輸出検査を挙げている。
加工用は「130度以上の油に2分」、一般流通用は前提が違う
米国産の生鮮ばれいしょは2006年から、ポテトチップの加工用に限って輸入が認められている。主な条件は、ジャガイモシストセンチュウとジャガイモシロシストセンチュウの無発生地域で生産すること、密閉型コンテナで輸入して港の区域内にある加工施設へすぐに運ぶこと、摂氏130度以上の油に2分以上浸すことだ。資料は、搬入から加工まで「一度も施設外部に開放されることなく」閉鎖施設の中で行われると説明している。
一般流通用はこの前提が成り立たない。資料は、一般流通用は加工用と違って「栽培に使われる可能性もあり得る」とし、種いもへの転用のリスクを加味した措置が必要だと記す。そのうえで、病害虫が侵入しないよう十分なリスク管理措置を米国側で実施させる必要があるとしている。国民民主党が家庭からの廃棄物や自家栽培に触れたのは、この点を指している。
米国は東アジアでは韓国と台湾に一般流通用の生鮮ばれいしょを輸出できる。資料が示した両国・地域の措置を見ると、ジャガイモシストセンチュウについては韓国、台湾とも無発生地域での生産を求めている。一方、コロラドハムシについては韓国が通常の輸出入検査、台湾が切開などの綿密な輸出検査か殺虫処理と、扱いが分かれる。申し入れ書の4項目めは、他国の例だけで安全と判断しないよう求めている。
国際ルールの下での協議、今後の手続き
輸入を禁止している農産物の解禁を求められた場合、農水省はSPS協定に従い、科学的知見に基づいて相手国と協議する立場をとる。説明資料は、SPS協定が検疫措置を科学的な原則に基づいてとることや、十分な科学的根拠なしに維持しないこと(第2条2)、恣意的または不当な差別をしないこと(第2条3)を求めていると紹介している。手続きを不当に遅らせてはならないとの規定(附属書C1)もある。これらに従わない場合は、WTOの紛争解決手続きに付されるおそれがあるという。
標準的手続では、解禁に至るまでに、管理措置案の策定、植物防疫検討会での意見聴取、米国の実施体制の評価、解禁条件の策定、関係省令の改正案とパブリックコメントが残る。いずれの段階も、結果を農水省のホームページで公表するか関係者に説明する手順になっている。農水省は8月28日の発表で、協議の進み具合を「節目節目で公表する」としており、武部氏も23日の会見で同じ考えを繰り返した。21種それぞれにどの措置を求めるかは、まだ示されていない。
