外務省は10月22日、AIに関する第2回日韓課長級協議が10月21日に韓国・ソウルで開かれたと発表した。双方はAIを巡る情勢について幅広く意見を交わし、AI分野での具体的な協力の強化に向けて議論した。今後もこれらの分野で緊密に連携し、定期的な協議を続けることで一致した。2月に東京で開いた前回は外務省の発表で「外交当局間」の協議とされていたが、今回は日本側から総務省、経済産業省、文部科学省、内閣府などの関係者も出席した。

フロンティアAIや第三国との協力を議題に

外務省の発表によると、協議ではまず、現下のAIを巡るさまざまな情勢について幅広く意見を交わした。そのうえで、今後のAI分野における日韓間の具体的な協力の強化に向けて議論した。

意見交換の対象として発表が挙げたのは4つの分野である。一つは「安全、安心で信頼できるAI」のエコシステムを築くための両国の取り組み。二つ目は、高い性能を持つ最先端の「フロンティアAI」を巡る対応。三つ目は、広島AIプロセスを始めとする、AIの安全性・セキュリティを含むガバナンス(統治の仕組み)。四つ目は、グローバル・サウス諸国を含む第三国との協力である。

協議の結論として発表に書かれているのは、これらの分野で今後も緊密に連携し、定期的な協議を継続することで一致したという点である。合意文書や共同声明の発出、具体的な共同事業の決定については、発表には記載がない。次回の時期や場所も示されていない。

初回は「外交当局間」、今回は技術・産業の省庁も

今回の協議で前回から変わったのは、出席した省庁の顔ぶれである。外務省の発表によると、日本側からは外務省、総務省、経済産業省、文部科学省、内閣府などの関係者が出席した。韓国側からは外交部、科学技術情報通信部、産業通商資源部、文化体育観光部、国家人工知能戦略委員会などの関係者が出席した。

これに対し、2026年2月5日に東京で開かれた前回の協議は、外務省の発表で「AIに関する日韓外交当局間課長級協議」と題されていた。発表には出席者の内訳は書かれていない。今回の発表では名称が「第2回日韓課長級協議」となり、「外交当局間」の語が外れた。

日本側で加わった総務省は、広島AIプロセスの公式ページを運営している省である。韓国側も外交部のほか、科学技術、産業、文化を担う各部と、AI戦略を扱う委員会の関係者が席に着いた。外交当局どうしの意見交換から、技術や産業を担う省庁を交えた協議へ広がった形である。ただし、各省庁が協議で何を発言したかは発表に書かれていない。

首脳会談から委員会、課長級協議へ

この協議は、2025年秋の首脳会談を起点にしている。外務省によると、2025年9月30日に韓国・釜山で石破茂首相(当時)と李在明(イ・ジェミョン)大統領が会談し、AIを含む科学技術分野の協力について議論するため、日韓科学技術協力委員会を開いていくことで一致した。

これを受けて2025年11月27日、東京で第14回日韓科学技術協力委員会が開かれた。委員会は1985年12月に結ばれた日韓科学技術協力協定に基づく政府間の場で、前回の第13回は2009年10月にソウルで開かれていた。16年ぶりの開催となった第14回では、AI、宇宙政策、量子技術、バイオ技術などの協力の現状と今後の展望が話し合われた。

AIに関する課長級協議は、この委員会での議論を踏まえて2026年2月に始まった。初回では、AI分野での双方の関心事項や協力の展望、広島AIプロセスなど二国間・多国間の国際協力、第三国との協力の強化について意見を交わし、定期的な協議を続けることで一致していた。今回の第2回は、その合意どおり場所をソウルに移して開かれた。

時期 出来事 場所
2025年9月30日 日韓首脳会談。科学技術協力委員会の開催で一致 釜山
2025年11月27日 第14回日韓科学技術協力委員会(16年ぶり) 東京
2026年2月5日 AIに関する日韓外交当局間課長級協議 東京
2026年10月21日 AIに関する第2回日韓課長級協議 ソウル
AIを巡る日韓の政府間協議の経過出典: 外務省の報道発表・首脳会談の結果ページ

日本のAI外交、各国と枠組み

外務省は「AI外交」のページで、AIを国力を左右する技術と位置づけ、同盟国・同志国と連携してグローバル・サウスを含む各国で「安全、安心で信頼できるAI」のガバナンスとエコシステムを共に作ることが不可欠だとしている。韓国との協議は、この方針の下で進む二国間協力の一つになる。

同じページによると、インドとは2025年8月に「日印AI協力イニシアティブ」を立ち上げ、2026年4月に第1回の日印AI戦略対話を開いた。フランスとは2026年4月、AIの安全性、安全保障のためのAI、第三国での能力構築を柱とする共同声明を出し、AIに関するハイレベル対話を立ち上げた。東南アジア諸国連合(ASEAN)とは2025年10月に「日ASEAN・AI共創イニシアティブ」を、中央アジア諸国とは同年12月に「日本・中央アジアAI協力パートナーシップ」を始めている。ASEANとの協力の進み具合は、日本、ASEANとのAI協力の進み具合を説明 「バーティカルAI」「フィジカルAI」を売り込むで伝えた。

多国間の場でも日韓は接点が多い。外務省によると、AIの安全を首脳級で話し合う国際会議の流れでは、2023年11月の英国主催の会合に続き、2024年5月に韓国と英国が共催で「AIソウル・サミット」を開いた。総務省によると、広島AIプロセスの精神に賛同する国々が2024年5月に作った「フレンズグループ」には、2026年8月時点で韓国も加わっている。主要7か国(G7)では10月20日にデジタル・技術大臣会合が開かれ、フロンティアAIのセキュリティについて議長声明が出た(G7デジタル相会合、フロンティアAIの安全で議長声明 専門ハイレベルグループ設置も選択肢)。

安全研究の機関どうしも交流

政府間の協議と並行して、AIの安全性を研究する機関どうしの交流も進んでいる。日本のAIセーフティ・インスティテュート(AISI)によると、日韓のAISIは2026年10月8日と9日の2日間、初の合同技術ワークショップを開いた。両機関の研究者や技術者など計30人が参加し、多言語・多文化を踏まえた評価手法やAIセキュリティなどについて意見を交わした。韓国側はマルチモーダル(文章や画像など複数の形式の情報を扱うAI)のレッドチーミング(攻撃役となって弱点を探る試験)を紹介した。

今回の協議の議題にあったフロンティアAIへの対応や安全性・セキュリティは、こうした研究機関の作業とも重なる。ただし、外務省の発表は協議と研究機関の交流との関係には触れていない。

定期的な協議を続けるという合意は初回と同じで、今回の発表にも具体的な協力事業の名前は出ていない。協議の参加省庁が広がったことが、両国の共同事業や第三国での協力といった具体的な成果に結びつくかどうかは、次回以降の協議で示されることになる。