外務省の中村仁威(きみたけ)欧州局長は10月20日、モスクワのロシア外務省で、リュドミラ・ヴォロビヨヴァ外務省第三アジア局長と会談した。外務省が21日に発表した。茂木外相は23日の記者会見で、ロシア当局に拘束された北海道新聞の記者について、中村局長が領事面会の早期実現と即時解放を求める日本の要求を改めて伝えたと説明した。外務省は22日、記者が拘束されている拘置所を訪れ、家族が希望した品を差し入れた。ただ、日本の領事が本人と会う領事面会は、拘束から10日がたった時点でも実現していない。

「日露間の諸問題」で申し入れ、意思疎通の継続で一致

外務省の発表によると、中村局長はモスクワを訪問中の20日、ロシア外務省でヴォロビヨヴァ局長と会った。中村局長は「現下の日露間の諸問題等について、日本政府の立場に基づいて申入れや主張を行いました」という。そのうえで両氏は、「日露関係が厳しい状況にある中、これらの諸問題に関する議論を含め、意思疎通を継続していくことで一致しました」としている。

発表は3項目だけの短いもので、記者の拘束には直接触れていない。何を申し入れたのかを説明したのは、23日の外相会見だった。時事通信の記者が、局長が直接モスクワに赴いて申し入れた意義と、ロシア側の回答を尋ねた。茂木氏は「日本側から、領事面会の一刻も早い実現、そして邦人の即時開放等を求めてきておりまして、今回、中村欧州局長がロシアを訪問して、ロシア外務省第三局長に対して、日本の要求を改めて伝えた」と答えた。

ロシア側がどう応じたかについては、「外交上のやり取りですので詳細は控えます」として明らかにしなかった。そのうえで「今後も強く領事面会の実現、そして早期の、即時の解放を求めていきたい」と述べた。

中村局長は、ロシアを担当するロシア課を置く外務省欧州局の局長だ。拘束が明らかになった翌日の14日には、東京で駐日ロシア大使を呼んで抗議している。同じ局長が今度はモスクワに出向き、ロシア外務省の担当局長と顔を合わせて要求を伝えたことになる。

差し入れは届いたが、本人には会えず

茂木氏は23日の会見で、領事面会とは別の動きも明らかにした。「昨日、邦人が拘束をされております拘置所を訪問しましたが、これはあくまで差入れを行うということであり、御家族等が御希望される差入れを実際に行いました」。ただ、続けて「領事面会はまだ行われておりませんので、これはしっかりと求めていきたい」と述べ、本人との接触には至っていないことを認めた。

差し入れができたことで、拘置所に物を届ける経路は開いた。しかし、本人の健康状態や、どのような容疑を突き付けられているのかを本人から聞き取る機会は、まだ得られていない。

20日の会見でも、茂木氏はこの点を強調していた。北海道新聞の記者から、拘束から1週間がたっても領事面会が実現していないことへの受け止めを問われ、「まずは一刻も早い領事面会を行い、本人の健康状態であったり、事実認識等の確認ができるようにすべく、先方指定の拘置所への往訪も含めて、ロシア側への働きかけや種々の調整を行ってきている」と答えた。

日ソ領事条約の「4日以内」を過ぎる

日本政府がロシア側の対応を問題視する根拠は、旧ソ連時代に結んだ条約にある。茂木氏は20日の会見で、現在も有効な「日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の領事条約の議定書」は、領事面会の権利を「逮捕又は拘禁の時から、遅くとも4日までの期間内に行使することができる」と定めていると説明した。

そのうえで「それにも関わらず、明確な理由が示されないまま、領事面会が実現されていない。このことは極めて遺憾だと考えております」と述べた。引き続き領事面会の早期実現、即時解放、人道的配慮と公正・公平な取り扱いをロシア側に強く求めるとし、「外務省としてできることを、今、全てやっている。このことは間違いありません」とも語った。

この条約の手続きのうち、拘束した国が相手国に知らせる「領事通報」は済んでいる。茂木氏は16日の会見で、日本時間の同日未明にロシア側から領事通報があったと明らかにし、通報は「基本的には拘束から3日以内ということになっております」と説明していた。通報の内容は、プライバシーに関わるとして公表していない。通報から面会までの経緯はロシアが北海道新聞記者の拘束を領事通報 首相「スパイ活動の事実ない」で伝えた。

日付 出来事
10月13日 FSBが北海道新聞の特派員をサハリン州で拘束し、モスクワへ移送したと発表
10月14日 中村欧州局長が駐日ロシア大使を召致し、一方的な発信に抗議。接触の機会を求める
10月16日未明 ロシア側から日本側へ領事通報(日本時間)
10月20日 中村局長がモスクワでヴォロビヨヴァ第三アジア局長と会談
10月22日 外務省が拘置所を訪れ、家族が希望した品を差し入れ。面会は実現せず
10月23日 茂木外相が会見で、局長が領事面会と即時解放を改めて求めたと説明
ロシアによる北海道新聞記者の拘束をめぐる主な動き

出典: 外務省の報道発表・外務大臣会見記録、ロシア連邦保安庁(FSB)の発表

FSBはスパイ容疑で刑事事件として立件

ロシア連邦保安庁(FSB)が13日付で公式サイトに掲載した発表によると、拘束されたのは、ロシア外務省に登録された北海道新聞のユジノサハリンスク支局の特派員で、日本国籍の人物だ。FSBは、日本の情報機関の一つのためにスパイ行為をした疑いがあると主張している。

発表では、特派員はロシアから出国する前日にサハリン州で拘束され、その後モスクワへ移送された。FSBの捜査部門はロシア刑法276条(スパイ行為)に基づいて刑事事件の捜査を始め、モスクワのレフォルトボ地区裁判所が勾留を決めたという。

日本側はこの発表の時点で、ロシアから何の説明も受けていなかった。外務省によると、中村局長は14日にニコライ・ノズドリェフ駐日ロシア大使を召致した際、速やかな情報提供と、拘束された邦人の人道的で公平・公正な取り扱いを求めた。そのうえで、日本政府が説明を受けていない中で、ロシア側が拘束とその発信を一方的に行ったことに強く抗議し、本人と接触する機会を迅速に設けるよう求めた。大使は、日本側の立場を本国に伝えると応じた。召致の詳しい内容は外務省、ロシア大使を召致 北海道新聞記者の拘束に抗議、択捉島への中国関係者訪問もで伝えた。

米国の発信に謝意、国際社会との連携は「状況に応じ」

23日の会見では、国際社会との連携も問われた。時事通信の記者は、米国務省の報道担当者とグラス駐日米大使がロシアによる邦人拘束を非難していると指摘し、米国をはじめとする各国と連携した対応を考えているかを尋ねた。

茂木氏は「米国の国務省、そしてグラス大使の発信については、感謝しているところであります」と述べた。各国との連携については「邦人保護に万全を期す観点から、様々なことが今後考えられると思います」としたうえで、「その時々の状況に応じて適切に対応していきたい」と述べるにとどめ、具体的な方策は示さなかった。

政府はこれまで、東京での大使召致、ロシア側からの領事通報の受領、モスクワでの局長会談、拘置所への差し入れと、段階を追ってロシア側に働きかけてきた。しかし、議定書が定める4日の期間を大きく過ぎても、日本の領事は記者本人に会えていない。外務省の発表にあるように、日露双方は意思疎通を続けることでは一致している。その経路を通じて、ロシア側が領事面会をいつ認めるのかが次の焦点となる。