日本の人手不足は、働く人の総数が足りないというより、人が集まる仕事と足りない仕事がずれている問題だ。厚生労働省によると、2026年8月の有効求人倍率は1.18倍で、求職者1人に1件余りの求人があるという緩やかな水準にとどまる。ところが職業別に分けると、建設の躯体工事は8.25倍、介護サービスは3.89倍に達する一方、一般事務は0.29倍で、仕事を探す人が求人の3倍を超えている。全体の数字、職業ごとの差、将来の推計、足りない現場の働き方、定着の難しさ、穴を埋めている人たちの順に、一次資料の数字で構造を追う。
全体の数字は緩やか 有効求人倍率1.18倍、失業率2.5%
全体の統計だけを見ると、労働市場はひっ迫というより横ばいに近い。厚労省の一般職業紹介状況によると、8月の有効求人倍率(季節調整値)は1.18倍で前月と同じだった。その月に新しく出た求人で見る新規求人倍率は2.06倍で、前月の2.10倍から下がった。正社員に限った有効求人倍率は1.00倍で、正社員の求人と、パートを除く常用の仕事を探す人がちょうど釣り合っている。
求人の出方にも勢いは無い。8月の新規求人(原数値)は前年同月より3.4%減り、産業別では宿泊業・飲食サービス業が11.1%減、卸売業・小売業が10.2%減と大きく落ち込んだ。増えたのは製造業の3.9%、情報通信業の3.3%などにとどまる。都道府県別(就業地別)では最高の福井県が1.72倍、最低の大阪府が0.95倍で、地域によっては求人が求職者を下回る。月々の動きは有効求人倍率、2026年8月は1.18倍で前月と同水準 正社員はちょうど1.00倍 都道府県別は福井1.72倍から大阪0.95倍まで 従業員1000人以上の新規求人は20.9%減で追った。
総務省の労働力調査でも、8月の完全失業率(季節調整値)は2.5%、完全失業者は180万人で、就業者は6849万人と前年同月より14万人増えた。
それでも企業の実感は「足りない」に大きく傾いている。日本銀行の9月短観で、雇用人員判断DI(人員が「過剰」と答えた企業の割合から「不足」の割合を引いた値)は全規模・全産業でマイナス38だった。規模別では大企業がマイナス29、中小企業がマイナス42で、12月までの先行きは全規模でマイナス41とさらに不足に傾く見通しだ(日銀9月短観、大企業製造業の業況判断はプラス24 6月調査のプラス22から上向き3か月前の予測プラス17も上回る 中小企業の借入金利「上昇」超は61から70へ)。倍率は1倍強なのに企業の大半が不足を訴える。この食い違いを解く鍵は、求人と求職を職業ごとに分けた数字にある。
不足は職業で桁が違う 建設躯体8.25倍、介護3.89倍、一般事務0.29倍
職業別に見ると、不足は一部の仕事に極端に偏っている。一般職業紹介状況の参考統計表は、パートを含む常用の職業別の数字を原数値で載せている(季節調整をしていないため、全体の倍率は1.06倍と、冒頭の1.18倍とは一致しない)。8月の有効求人倍率は、建設躯体工事従事者が8.25倍、警備員などの保安職業従事者が6.99倍、建設・採掘従事者全体が5.10倍、介護サービス職業従事者が3.89倍、自動車運転従事者が2.54倍だった。介護サービスは有効求人20万2780人に対して有効求職者は5万2183人、自動車運転は9万8541人に対して3万8750人しかいない。
反対側にあるのが事務の仕事だ。一般事務従事者は有効求人11万9803人に対して有効求職者が40万9453人で、倍率は0.29倍にとどまる。事務従事者全体でも0.37倍で、仕事を探す人の多くが事務職を望み、求人の多くは現場の仕事に出ている構図になる。1.06倍という全体の数字は、8倍を超える職業と0.3倍の職業を平均した結果にすぎない。
建設の不足は別の統計でも続いている。国土交通省の建設労働需給調査では、主な8職種の過不足率が8月に1.3%の不足で、7月の1.2%、前年同月の0.9%から不足が広がった(建設現場の職人不足、8月は1.3%の不足で今年最大 資材13品目の価格は横ばい 3か月先はH形鋼で29都道府県が値上がり予想)。介護職の不足は厚生労働白書がテーマに据えており、令和8年版厚生労働白書を公表 介護職の有効求人倍率3.98倍、病院の58.0%が経常赤字 テーマは「医療・介護・福祉の現場で働くこと」に詳しい。
このずれは、景気の一時的な波で生じたものではない。将来の推計でも同じ形が広がっていく。
ずれは将来も広がる 2040年に事務職約440万人余剰、現場人材約54万人不足
政府の推計は、事務の仕事が余り、現場の仕事が足りなくなる方向を示している。厚労省の令和8年版「労働経済の分析」(労働経済白書)は、経済産業省の「2040年の就業構造推計(改訂版)」を引き、2040年には事務職が約440万人余る一方、「現場人材」が約54万人、AI・ロボット等を使いこなす人材が約340万人不足するとの見通しを載せた。大学の理系卒は約120万人の不足、文系卒は約80万人の余剰とされる。
白書は、AIが大きな雇用減少をもたらしている証拠は確認されないとしつつ、管理・専門職、事務職、現場職で影響が異なる可能性を指摘している。そのうえで、現場人材の育成の場となる専門学校や工業高校の卒業就職者は大学に比べて規模が限られ、公共職業訓練でも現場職に関連するコースの応募倍率が低い傾向にあると書いた。足りない仕事に向かう人の流れが、教育と訓練の段階から細い。
欠員の偏りを職種の側から見た分析は医療・運輸・接客など「社会インフラ関連職」の欠員率は約5% ほかの職種は1.7% 年間所得は約436万円、ほかの職種は約541万円で追った。今年版のAIとの関係はAIと協働する訓練を受けた労働者、日本の製造業は33.3%で米国の62.7%の半分 令和8年版労働経済白書 実質賃金は4年連続で減少にまとめた。
では、なぜ人は足りない現場に向かわないのか。手がかりの一つは、その現場での働き方にある。
足りない現場ほど働き方が重い 運輸交通業は監督先の54.7%で違法残業
人が足りない業種ほど、労働時間の法令違反が多く見つかっている。厚労省は令和7年度、時間外・休日労働が月80時間を超えていると考えられる事業場や、過労死等の労災請求があった事業場など、長時間労働が疑われる2万9150事業場に監督指導に入った。このうち1万1228事業場(38.5%)で違法な時間外労働を確認し、実際に月80時間を超えていたのは4991事業場、月100時間超は2842事業場、月200時間超は111事業場あった。残業代を払わない賃金不払残業は1901事業場(6.5%)、過重労働による健康障害を防ぐ措置を取っていなかった事業場は5919事業場(20.3%)だった。
業種別の表から違法な時間外労働が見つかった割合を計算すると、運輸交通業は監督した2423事業場のうち1326事業場で54.7%と、全体の38.5%を大きく上回った。接客娯楽業は3116事業場のうち1431事業場で45.9%、製造業は41.2%、保健衛生業は38.3%、建設業は35.7%だった。結果の詳細は違法な残業、1万1228事業場で確認 月200時間超の労働者がいた職場も111 厚労省が令和7年度の監督指導結果で伝えた。
運輸と建設は、時間外労働の上限規制が遅れて適用された業種でもある。2019年4月施行の改正労働基準法は原則を月45時間・年360時間としたが、建設の事業、自動車運転の業務、医師は2024年4月1日から特例つきで適用された。自動車運転の業務は、特別な事情がある場合でも年間の時間外労働の上限が960時間とされている。トラック輸送では、荷待ちの長さや運賃の据え置きを荷主側の問題として監視する動きも広がっている(トラックの荷主監視、10月から公取委・中小企業庁・警察も加わる 国交省が2か月の「集中監視月間」 長時間の荷待ちや運賃の据え置きを指導対象に)。
働き方が重い職場では、人を採れても続かない。その結果は、採用にかかる費用と早期の離職に表れている。
採っても定着しない 介護は紹介で入った人の19.9%が半年以内に離職
人手が足りない職種では、採用に高い費用を払っても、入った人が早く辞める。厚労省が医療・介護・保育の分野についてまとめた資料によると、有料の職業紹介事業者を通じて採用した場合の平均手数料(令和6年度実績)は、介護が59万7000円、保育が66万8000円、看護が72万5000円、医師が107万8000円だった。
同じ資料で、紹介を通じて無期雇用で就職した人が6か月以内に辞めた割合(令和5年度実績)は、介護が19.9%で4分野のうち最も高かった。保育は14.5%、看護は12.9%、医師は4.8%。介護では、紹介で入った人の5人に1人が半年もたたずに職場を離れている計算になる。地域別では四国ブロックの介護が27.1%と高い。
手数料と離職率の推移は介護職の人材紹介手数料は平均59万7千円 医師は107万8千円で1年に25万4千円上昇 紹介で入った介護職の19.9%が6か月以内に離職に詳しい。
若い働き手が現場に集まらず、集まっても定着しにくい。その穴を埋めているのが、高齢者と外国人である。
穴を埋めるのは高齢者と外国人 65歳以上の就業者943万人、実習先の73.2%で法令違反
足りない現場を支える働き手は、高齢者と外国人へ移っている。総務省統計局によると、65歳以上の就業者は22年連続で増えて943万人と過去最多になり、就業者全体に占める割合は13.8%と過去最高だった。ただし、役員を除く65歳以上の雇用者のうち76.1%は非正規の職員・従業員で、多くは期間や時間を区切った働き方だ。産業別では卸売業・小売業や医療・福祉に多い(65歳以上の就業者943万人で22年連続増 働く人の7人に1人 雇われて働く高齢者の76.1%が非正規)。高齢化全体の中での位置づけは高齢化の問題は、高齢者が増えることではない 65歳以上は5年で17万人増なのに75歳以上は260万人増 支える側の不足を一次統計で追うにまとめた。
外国人の働き手を受け入れる職場では、法令違反が多く見つかっている。厚労省によると、2025年に労働基準監督署が技能実習生を使う1万3148事業場を監督したところ、9619事業場(73.2%)で労働基準関係法令の違反があった。主な違反は機械などの安全基準が22.8%、健康診断結果についての医師からの意見聴取が15.7%、割増賃金の支払いが15.6%で、重大・悪質な違反として26件を送検した。人手不足に対応する在留資格である特定技能の外国人を使う8082事業場でも、6179事業場(76.5%)で違反があり、9件を送検した(技能実習生を使う職場、73.2%で労働法令違反 特定技能は76.5% 建設業は8割超 厚労省が2025年の監督結果)。
結論 問題は人の総数ではなく、足りない仕事の働き方にある
一次資料の数字をつなぐと、人手不足の構造は一本の線で説明できる。全体の有効求人倍率は1.18倍と緩やかだが、建設躯体工事は8.25倍、介護は3.89倍、一般事務は0.29倍で、人は事務に集まり、現場には集まらない。2040年の推計でも事務職は約440万人余り、現場人材は約54万人足りないとされ、ずれは縮まる方向にない。
人が向かわない現場では、働き方が重い。長時間労働が疑われる運輸交通業の職場では54.7%で違法な残業が見つかり、介護では紹介で入った人の19.9%が半年以内に辞めている。その穴を埋める65歳以上の働き手は76.1%が非正規で、監督を受けた技能実習生の職場の73.2%で法令違反が見つかった。
このため、全体の求人倍率を見て「人が足りない」「足りている」と論じても、手の打ちようは決まらない。数字が指しているのは、足りない仕事の労働時間と定着の問題であり、事務の仕事を探す人が現場の仕事へ移るための訓練と条件の問題である。人の総数を増やすことが難しい以上、現場の仕事を人が選び、続けられるものにできるかどうかが、人手不足の行方を左右する。
