地方公務員が仕事中や通勤中の事故・病気で亡くなったとき、遺族に支払う「遺族補償年金」と、共済組合の「公務遺族年金」で、夫にだけ課されている年齢の要件をなくす改正案が10月30日、衆議院本会議で可決され、参議院に送られた。政府が10月9日に臨時国会へ提出した「地方公務員災害補償法及び地方公務員等共済組合法の一部を改正する法律案」(閣法5号)で、遺族が1人の場合の年金額を平均給与額の175日分にそろえることと、脳・心臓疾患など判断の難しい病気に限って補償の時効を2年から5年に延ばすことも盛り込んだ。総務省が公表した法案の概要によると、施行は2027年(令和9年)4月1日の予定だ。

衆院総務委で可決、本会議を経て参院へ

衆議院の議案審議経過情報によると、法案は内閣が提出し、10月9日に衆議院が受理した。10月27日に総務委員会に付託され、同委員会は10月29日に可決した。翌30日の本会議で可決され、参議院は同じ日に法案を受理した。11月3日時点で、参議院の付託委員会と審議結果の欄はまだ空いている。

本会議で賛成した会派として、経過情報には自由民主党・無所属の会、中道、日本維新の会、国民民主党・無所属クラブ、参政党、チームみらい、日本共産党、志士の会が載っている。反対会派の欄には記載がない。

総務省の「国会提出法案」のページでは、この法案は第222回国会(臨時会)の提出法案として「令和8年10月9日」の提出日で掲載され、所管は自治行政局公務員部福利課となっている。法律案に付けた理由は、「国家公務員災害補償制度及び国家公務員共済組合制度との均衡を図るため」、遺族補償年金と公務遺族年金の受給資格者要件の「男女差を解消する改正を行う等の必要がある」と説明している。

国家公務員について同じ見直しをする「国家公務員災害補償法及び国家公務員共済組合法の一部を改正する法律案」(閣法4号)も、同じ10月9日に提出された(国家公務員の遺族補償年金、夫にだけある年齢要件を撤廃へ 政府が改正法案を国会提出)。経過情報によると、こちらは10月22日に内閣委員会に付託され、28日に委員会で、30日に本会議で可決された。国家公務員と地方公務員の2本は、同じ日に衆議院を通ったことになる。

妻には無く、夫にだけある年齢の要件

遺族補償年金は、地方公務員が公務や通勤で亡くなったときに、その収入で生計を立てていた遺族に支払われる。地方公務員災害補償法の第32条は、受け取れる遺族のうち、妻には年齢や障害の要件を置いていない。一方で夫、父母、祖父母は、職員が亡くなった当時に「六十歳以上であること」が条件で、60歳未満なら総務省令で定める障害の状態にあることが必要になる。法律の附則には経過措置があり、夫などの年齢の要件は55歳以上に広げてある。総務省の概要は、現行の要件を「被災職員の死亡時に55歳以上又は一定の障害の状態にあること」と整理している。

つまり、共働きの夫婦で妻の職員が公務災害で亡くなっても、夫が50歳で障害が無ければ、遺族補償年金を受ける資格は無い。逆に夫の職員が亡くなった場合、妻は年齢を問わず受給できる。

改正案は、第32条の「妻」を「配偶者」に改め、夫を年齢要件の対象から外す。要綱は、夫について60歳以上とする要件と、該当しない夫に障害の状態を求める要件を「廃止する」とし、年齢を55歳以上とする経過措置も「廃止する」と書く。改正後に年齢や障害の要件が残るのは父母と祖父母で、夫と妻は同じ扱いになる。

共済組合の公務遺族年金でも、地方公務員等共済組合法の第2条第3項が、夫について組合員などの死亡当時に「五十五歳以上であること」を求めている。要綱はこの要件を廃止し、それに合わせて支給停止と失権の規定も改めるとしている。公務遺族年金は共済組合法に基づく年金で、災害補償法の遺族補償年金とは別の制度だ。改正案は二つの制度の男女差を同時になくす形をとる。

遺族1人の年金額は175日分に

遺族補償年金の年額は、年金を受ける遺族と、その遺族と生計を同じくする受給資格者の人数で決まる。地方公務員災害補償法の第33条は次のように定めている。平均給与額は、事故の前月末から過去3か月間に支払われた給与の総額を、その期間の総日数で割った1日あたりの額だ。

遺族の人数 現行の年額 改正案
1人 平均給与額×153日(55歳以上の妻か一定の障害の状態にある妻は175日) 平均給与額×175日
2人 平均給与額×201日 変更なし
3人 平均給与額×223日 変更なし
4人以上 平均給与額×245日 変更なし
地方公務員災害補償法の遺族補償年金の年額

出典: 地方公務員災害補償法第33条(e-Gov法令検索)、総務省「法律案の概要」

1人の場合だけ但し書きがあり、55歳以上の妻と一定の障害の状態にある妻には175日分を支払う。夫が1人で受け取る場合や、55歳未満の妻には153日分が適用される。改正案は但し書きを削り、1人の場合の額を一律に175日分とする。

仮に平均給与額が1万2000円の職員が亡くなり、遺族が配偶者1人だけだった場合で計算すると、153日分は年183万6000円、175日分は年210万円になる。いまは55歳以上の妻なら210万円、55歳未満の妻なら183万6000円で、改正後は夫と妻のどちらが残されても、年齢にかかわらず210万円になる計算だ。

附則の経過措置によると、受給資格の要件の見直しは施行日以後に亡くなった職員の遺族に適用し、施行日より前に亡くなった職員の遺族には従来の規定を当てはめる。これに対して年金額の見直しは、「施行日以後の期間に係る遺族補償年金の額」に適用すると書いてある。施行日より前に亡くなった職員の遺族でも、すでに遺族補償年金を受けている人の2027年4月以後の分は、新しい額の規定で計算されることになる。

脳・心臓疾患などは時効を5年に

3つ目の柱は時効の見直しだ。地方公務員災害補償法の第63条は、補償を受ける権利は行使できる時から「二年間(障害補償及び遺族補償については、五年間)」行使しないと消滅すると定めている。療養補償、休業補償、介護補償、葬祭補償は2年で請求できなくなる。

要綱によると、改正案は、事故による病気が補償の対象に当たるかどうかを「容易に判断することができない疾病」として政令で定めるものに限り、療養補償などの時効を5年にする。総務省の概要は、対象として脳・心臓疾患、精神疾患、石綿関連疾病を「想定」していると注記している。過労による脳・心臓疾患や、職場の出来事による精神疾患、石綿を吸ってから長い年月を経て発症する病気は、本人や家族が公務との関係に気づくまでに時間がかかることがある。対象の疾病は今後、政令で決まる。時効の見直しは、施行日以後に生じた補償を受ける権利に適用する。

施行日は一部を除き2027年4月1日で、施行に必要な経過措置を政令に委ねる規定(附則第4条)だけは公布の日から施行する。

民間の労災保険と同じ日にそろえる

公務員の災害補償は、民間の労災保険とは別の法律で定められている。民間の制度が変わっても公務員の制度は自動的には変わらないため、国家公務員と地方公務員のそれぞれで法律を改める必要がある。

民間側では、労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律案(第221回国会閣法56号)が4月7日に国会へ提出され、衆議院本会議で6月2日、参議院本会議で7月10日に可決された。公布は7月17日だ。参議院の議案要旨によると、この法律は遺族補償年金などの遺族の要件から「夫にのみ課された要件を削る」とし、遺族1人の場合の額を「一律で給付基礎日額の百七十五日分とする」。一部を除いて施行は令和9年4月1日で、地方公務員の改正案と同じ日になる。

同じ臨時国会には、公立学校の学校医、学校歯科医、学校薬剤師の公務災害補償に関する法律の改正案(閣法8号)も提出されている。経過情報によると、10月27日に衆議院の文部科学委員会に付託され、同委員会は30日に可決した。本会議の審議結果の欄は11月3日時点で空いている。

地方公務員の改正案が参議院で可決され成立すれば、2027年4月1日以後に公務や通勤で亡くなった地方公務員の遺族は、夫か妻かを問わず同じ要件で遺族補償年金と公務遺族年金を受け取れるようになる。民間、国家公務員、地方公務員の3つの制度で、配偶者の年齢による男女差が同じ日に解消されることになる。