情報通信研究機構(NICT)とシャープは10月8日、地上で普及している5Gの技術を衛星通信に当てはめる通信規格「5G NTN」の技術検証や通信試験ができる衛星通信設備を、茨城県鹿嶋市にあるNICTの鹿島宇宙技術センターに構築したと発表した。衛星通信に必要な免許は取得済みで、2026年内の運用開始を目指す。国内ではこの規格を確かめられる環境が限られ、海外の設備を使う例が多かったという。運用が始まれば、自動車やドローンに端末を積んだ通信試験を国内で行えるようになる。
衛星と地上の通信網をつなぐ設備
両者が整えたのは、衛星と地上の通信網を接続する設備だ。発表によると、センター内の建物の屋上にKa帯のパラボラ型ゲートウェイアンテナを置き、ネットワークを制御する機器と組み合わせた。ゲートウェイアンテナは、衛星との信号を送受信し、衛星通信の仕組みと地上の通信網をつなぐ地上側のアンテナを指す。自動車やドローンに載せる利用者側の端末とは違い、決まった場所に据え付けて使う。
Ka帯は、NICTの用語解説によると、衛星通信などに使われる約26.5〜40GHzの高い周波数帯である。
設置場所に選んだ鹿島宇宙技術センターについて、NICTは、宇宙通信の研究開発や衛星通信実験の拠点として長く使われてきたと説明している。周辺に高い建物が無く上空が開けているため、衛星との通信に適した環境だという。
役割は、NICTがセンターの運用と宇宙通信の研究開発、シャープがゲートウェイアンテナの調達・設置と利用者側の端末の開発を受け持ち、実証環境は両者で共同して整えた。設備はNICTの助成を受けて構築した。
5G NTNとは何か
NTNは「Non Terrestrial Network」の略で、日本語では非地上系ネットワークと呼ぶ。NICTの用語解説では、地上の基地局でつくる通信網に対し、衛星や高高度プラットフォーム(HAPS)など、空や宇宙にある設備を使う通信網を指す。
発表は背景として、いまの衛星通信は事業者ごとに異なる通信方式を採っていると指摘した。5G NTNは、地上の携帯電話網で使われている5Gの技術を衛星通信に当てはめる規格で、標準化が進んでいる。共通の仕様が固まれば、それに対応した端末を作りやすくなり、さまざまな通信網へつなぎやすくなる。一つの端末で複数の衛星通信サービスを使える可能性も広がると、NICTとシャープは説明している。
規格を実用に移すには、端末と衛星、地上の設備の間で実際に電波を飛ばし、仕様どおりに通信できるかを確かめる作業が欠かせない。国内にはその検証環境が少なく、海外の設備を使う例が多かった。今回の設備は、この試験を国内で行えるようにするためのものだ。
車とドローンで走行中の通信を試す
運用開始後は、利用者側の端末を自動車やドローンに搭載し、移動している状態での通信の品質や安定性を調べる。あわせて、携帯電話網などの地上の通信網と衛星通信の間で、通信を途切れさせずに接続先を切り替える「ハンドオーバー」の技術も検証する予定だ。
NICTなどは、衛星通信は山間部や海上、離島、被災地など、地上の移動通信が難しい場所でも高速通信を可能にすると説明している。地上の基地局の電波が届く場所と届かない場所をまたいで移動する車やドローンでは、通信を保ったまま接続先を切り替えられるかが実用の条件になる。発表は、自動運転をはじめとする移動体の分野での活用に向けて技術検証と実証を進めるとしている。
想定する使い道は、6月の4者の発表に具体的に書かれている。山地や災害の被災地で通信回線を確保すること、車やドローンなど移動体の位置情報をリアルタイムで送ること、自動運転に使うこと、の3つである。災害時の通信については、総務省も周波数再編アクションプランの案で、東日本大震災などの災害時に衛星携帯電話などが非常時の通信手段として重要な役割を果たしてきたと記し、衛星ダイレクト通信などNTNの充実が災害時の通信手段を増やすことにつながると期待を示している。
端末は5.5キロから2.9キロに
車やドローンに積むには、利用者側の端末を小さく軽くすることが前提になる。シャープは2025年7月30日、三菱ケミカル、NICT、テックラボ(TECHLAB)の3者と、移動体向けの超小型・軽量な低軌道衛星通信の端末を共同で開発することで合意したと発表した。
シャープは2023年に低軌道衛星通信の端末の開発に着手し、当時開発中の船舶向けのモデルは約446×446×66ミリ、重さ約7キロだった。合意では、その約10分の1にあたる約200×200×30ミリ、約1キロ以下を目標に掲げた。
4者は2026年6月17日、途中の成果として、衛星通信端末に使う平面アンテナを5.5キロから2.9キロへ47%軽くしたと発表した。衛星を追いかけるこの種のアンテナは発熱が大きく、熱を逃がす部品が重くなる。そこで、アルミ製だった排熱部品を、炭素繊維とグラファイトシートを組み合わせた新しい複合材料で作り直し、部品単体で1キロ以下にした。約45センチ四方のアンテナは、広く普及している産業用ドローンが積める重さに収まり、モデムと組み合わせて端末として動くことも確かめた。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2023年 | シャープが低軌道衛星通信の端末の開発に着手 |
| 2025年7月 | シャープ・三菱ケミカル・NICT・テックラボが超小型・軽量端末の共同開発で合意。目標は約1キロ以下 |
| 2026年6月 | 4者が平面アンテナの47%軽量化(5.5キロ→2.9キロ)を発表 |
| 2026年10月 | NICTとシャープが鹿島宇宙技術センターに5G NTNの試験設備を構築したと発表 |
| 2026年内 | 試験設備の運用開始を目指す |
軽くした端末と、それをつなぐ地上側の設備がそろうことで、端末を載せた車やドローンを実際に動かして通信を試す段階に進む。
国の電波計画でもNTNに16.7GHz幅
衛星などを使う通信網は、国の電波政策でも扱いが大きくなっている。総務省が2026年9月に示した「周波数再編アクションプラン(令和8年度版)」の案は、2040年末までに確保が必要な電波の幅を携帯電話網・NTN・Wi-Fiの合計で73.1GHz幅とし、このうちNTNに約16.7GHz幅を割り当てる見込みを示した。内訳はローバンドが約0.2GHz幅、ミッドバンドが約14.2GHz幅、ハイバンドが約2.3GHz幅である。経緯は2040年に必要な電波は73.1GHz幅、確保済みは26.5GHz幅 総務省が周波数再編の計画案 6G候補帯の共用検討は2027年度からで伝えた。
2040年末までにNTNで確保を目指す電波の幅(GHz幅)
数値で見る(単位: GHz幅)
| 項目 | GHz幅 |
|---|---|
| ローバンド | 0.2 |
| ミッドバンド | 14.2 |
| ハイバンド | 2.3 |
案によると、令和7年度にはKa帯の非静止衛星システム向けに3.25GHz幅を確保した。今後については、Ka帯の衛星通信で、静止衛星向けと高度約600キロの軌道を使う非静止衛星向けの高度化、高度約8000キロの軌道を使う非静止衛星システムの導入に向けて、既存の無線と電波を分け合う技術的条件の検討を令和8年度中をめどに始めるとした。700MHz帯を使う衛星ダイレクト通信の導入に向けた制度整備は2026年中に行う予定だ。
総務省の情報通信白書が示した、衛星と直接通信する端末の統計は無線局が3億7,588万局に 衛星と直接つながる「携帯移動地球局」が2年で14万局から3,584万局へ 総務省の情報通信白書で取り上げた。今回の設備は、地上の5Gと同じ仕組みで衛星につなぐ規格を、移動する車やドローンで確かめるための国内の試験拠点となる。
