令和8年熊本地震の被災者支援を巡る国会議員の質問に、政府は10月16日付の答弁書で、自衛隊が避難所で給食の支援をしなかった理由を「当該要請の内容に含まれていなかったため」と説明した。熊本県知事が出した災害派遣の要請には給水や入浴の支援はあったが、給食は入っていなかったという。国は県の要請を待たずに避難所へ食料を送り、県などと連携して弁当や炊き出しで食事を出しているとした。

答弁書は、奥田ふみよ参院議員が10月5日に出した2本の質問主意書への回答で、高市早苗首相の名で参議院に送られた。奥田氏は8月に2回被災地を訪れ、首相と防災担当相に要請書を出していた。質問は要請書に挙げた計14の事項について、政府がどう検討し、どう対応したかを尋ねた。答弁書は項目ごとに国の指針や補助金の仕組みを挙げて答えたが、要請の表現の一部には「具体的に意味するところが必ずしも明らかではない」と記した。

自衛隊の給食支援、知事の要請に無く

1本目の質問主意書は、8月9日の被災地訪問を基に同月10日に出した要請書の8項目を取り上げた。3番目が「炊き出し支援の拡充(政府調達で自衛隊による炊き出し支援の大幅拡充)」だった。

答弁書によると、自衛隊の部隊は、熊本県知事が自衛隊法第83条第1項に基づいて出した派遣要請を受けて派遣され、要請の内容を踏まえて給水や入浴などの支援をした。給食の支援は要請に含まれておらず、行わなかった。

自衛隊法第83条は、都道府県知事などが災害の際に「人命又は財産の保護のため必要があると認める場合」、部隊の派遣を防衛相に要請できると定める。防衛相は要請を受けて部隊を派遣するのが原則で、同条第2項のただし書きは、特に緊急で要請を待ついとまが無いときに限り、要請を待たずに派遣できるとしている。今回の答弁は、派遣された部隊が何をするかも知事の要請の中身に沿って決まったことを示した。

食事については、国が災害対策基本法第86条の16第2項に基づき、熊本県などの要請を待たずに避難所へ食料を供給したと答えた。同項は、自治体の備蓄が不足し、緊急で要請を待ついとまが無いと認められるとき、国などが「要請又は要求を待たないで」物資を供給できると定めている。答弁書は、避難所にいる被災者に加え、やむを得ない理由で避難所にいられない被災者にも、弁当の提供や炊き出しで食事を出しているとし、「引き続き、必要な支援を行っていく」と記した。自衛隊による炊き出しを今後増やすかどうかには触れなかった。

避難所の環境と冷暖房は「自治体が措置」

避難所のプライバシーと住環境の改善(1番目)について、答弁書は内閣府の「避難生活における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」や「避難所運営等避難生活支援のためのガイドライン(チェックリスト)」を挙げた。いずれも2024年12月に改定され、都道府県や市町村に必要な措置を講じるよう促している。熊本地震でも、これらを踏まえて避難所の生活環境を整える措置が「講じられているものと承知している」と答えた。

高齢者や障害者など特別な支援が要る人への配慮(2番目)も同じ組み立てで、「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」を挙げ、福祉避難所で見守りや相談援助が行われていると「承知している」とした。入浴支援(4番目)は、避難所への簡易シャワーの設置や公衆浴場の無料開放で入浴の機会を確保していると答えた。要請にあった「被災者が生活する場所に近いところ」については意味が明らかでないとした。

冷暖房の「早期百%完備」(8番目)にも、答弁書は「具体的に意味するところが必ずしも明らかではない」と記した。その上で、指定避難所の空調整備に緊急防災・減災事業債などの地方財政措置があること、公立学校施設には学校施設環境改善交付金で財政支援していることを挙げ、自治体で「必要な措置が講じられているものと承知している」とした。

国が指針を示し、実際の整備は自治体が担うという分担が、避難所に関する答弁の多くに共通する。国として避難所の環境を独自に調べた結果は答弁書に示されていない。

2本目の質問主意書は「無理な避難所の集約をしなくてすむように手厚い細やかな避難者支援」も求めた。答弁書は「無理な避難所の集約」の意味が明らかでないとしつつ、長期の避難者を受け入れる拠点となる避難所を県などが開くに当たり、被災者に適切な情報を出すよう国が助言したと説明した。県などは被災者に丁寧な説明と意向確認をしてきたと「承知している」と答えた。高市首相は9月4日の非常災害復旧復興本部の会合で、バスなどで移動手段を確保した上で環境を整えた「拠点避難所」の整備を進めていると述べていた。

井戸・水道の復旧と子どもの学習環境

水道について、1本目は「宅地内漏水対策への公的支援」を含む早期復旧の支援を求めた。答弁書は、国土交通省と日本水道協会が全国から技術者を派遣し、県内の被災した水道事業者が管理する水道管の応急復旧が8月28日に終わったと答えた。宅地内の給水装置の復旧に向けては、同省が問い合わせを一元的に受け付けて工事業者を紹介するコールセンターを開いた。県などが災害救助法に基づいて行う住宅の応急修理のうち、給水装置を含む日常生活に最小限必要な部分の修理には、国庫負担をするとした。

2本目は、井戸の被害を含む宅地内断水の全戸調査と早期復旧計画を求めた。答弁書によると、政府は県などと連携して非常災害現地対策本部などに「井戸水対応チーム」を置き、井戸の洗浄などの要望を被災者へのアンケートや電子申請、電話で受け付け、支援が要る世帯を確かめている。県などはその結果を基に洗浄や修繕を進め、国は技術的な支援をする職員を派遣している。全戸調査をしたかどうかは答弁書に書かれていない。

子どもの学習環境(1本目の5番目、2本目の2番目)について、答弁書は2本とも同じ文で答えた。文部科学省の職員を発災後すぐに派遣して学校施設が使えるかを判断し、教育委員会から聞き取って支援のニーズをつかんできたという。8月18日付の通知では、避難者と児童生徒が同じ施設を使う場合の動線を検討することや、登校できない子どもにICTを使った学習指導をすることを求め、教職員を追加で配置するための支援もしてきたと記した。要請にあった通学が難しい生徒の下宿の確保については、答弁書に記述が無い。

事業者の給付金は補助金、補正予算は予備費で答える

雇用と事業の継続(1本目の7番目)について、答弁書は雇用調整助成金の特例を挙げた。地震の影響で事業を縮小した全国の事業所は、休業を始めた後でも休業等実施計画届を出せる。熊本県内の事業所に限っては、時間外労働があっても助成額を減らさない。同じ特例を使い、被災企業の従業員を一時的に他社へ出向させる仕組みは熊本地震の被災企業から全国へ在籍型出向、賃金の最大5分の4を助成 厚労省が特例で伝えた。

「返済不要な給付金の創設」については、2本とも意味が明らかでないとした上で、「地方公共団体による小規模事業者等支援推進事業費補助金(令和八年熊本地震)」を挙げた。熊本県が行う被災事業者の施設・設備の復旧への支援を国が補助するもので、繰り返し起きた大規模災害で重複して被災した事業者を県が支援する場合は、費用の10分の10を補助することもできるという。重複被災した事業者の借金を巡っては、既往債務を買い取るファンドの設立も決まっている(熊本地震の被災事業者、既往債務を買い取る最大50億円ファンド設立へ 熊本商工会議所に相談センター開設)。

支援が要る人への訪問支援(2本目の5番目)には、内閣府の「災害ケースマネジメント実施の手引き」を挙げ、県などが個別訪問で高齢者や障害者のニーズを把握して支援していると「承知している」と答えた。

2本目の最後は「早急な災害対策に特化した補正予算編成」だった。答弁書は「早急な災害対策に特化した」の意味が明らかでないとし、予算面の対応として予備費の使用を挙げるにとどめた。8月4日に災害対応の強化に向けた予備費の使用を、同月28日に非常災害対策本部が前日に決めた「被災者の生活となりわい支援のためのパッケージ」を実行するための予備費の使用を、それぞれ決めたとした。補正予算を組むかどうかには答えていない。首相官邸の資料によると、高市首相は8月27日の本部会議で、8月4日の予備費は242億円だったと述べ、パッケージのための予備費は総額1478億円とした。

番号 要請事項(質問主意書の表現を要約) 答弁書の主な内容
1-1 避難所のプライバシー・住環境の改善 国の指針を踏まえ自治体が措置と「承知」
1-2 特別な支援が必要な避難者への配慮 福祉避難所で見守り・相談援助と「承知」
1-3 自衛隊の炊き出し支援の拡充 給食は知事の要請に無く不実施。国が食料を供給
1-4 生活の場に近い入浴支援 簡易シャワー・公衆浴場の無料開放
1-5 児童・学生の学習環境の整備 文科省職員の派遣、通知、教職員の追加配置支援
1-6 水道の早期復旧・宅地内漏水 水道管の応急復旧は8月28日完了、コールセンター
1-7 雇用維持・返済不要の給付金 雇用調整助成金の特例、自治体を通じた補助金
1-8 避難所の冷暖房の早期完備 地方財政措置・交付金。自治体が措置と「承知」
2-1 井戸を含む宅地内断水の全戸調査 井戸水対応チームで要望を受付、職員派遣
2-2 生徒・学生のニーズ把握と対策 1-5と同じ答弁
2-3 無理な避難所の集約をしない支援 拠点避難所の開設時に情報提供を助言
2-4 事業継続の返済不要の給付金 1-7と同じ補助金を挙げる
2-5 要支援者へのアウトリーチ 災害ケースマネジメントの手引き、個別訪問
2-6 災害対策に特化した補正予算 8月4日と28日の予備費の使用を挙げる
奥田ふみよ参院議員の質問主意書2本の要請事項と答弁書の内容(番号は「質問主意書の番号-要請事項の番号」)

出典: 参議院「第222回国会 質問主意書・答弁書」(質問第一号・第二号)

最大震度7、10年前に続く被災

令和8年熊本地震は、気象庁によると7月28日午後4時27分に熊本県熊本地方で発生し、地震の規模はマグニチュード7.1、最大震度は7だった。高市首相は8月27日の非常災害対策本部会議で、被災地は2016年の熊本地震、2020年7月豪雨、2025年の大雨に続く被災で「言わば『四重苦』に見舞われました」と述べた。官房長官は翌28日の記者会見で、2016年の熊本地震では死者278人のうち8割以上の228人が災害関連死だったとし、今回も多くの人が猛暑の下で避難していることから、関連死を減らすことが重要な課題だと述べた。

政府は9月1日に首相を本部長とする非常災害復旧復興本部を設け、支援パッケージの進み具合を追い、県の復旧・復興プラン作りを支えるとしている。

質問主意書は国会法第74条に基づき、議員が内閣に文書で質問する仕組みで、内閣は答弁書で答える。参議院の記録によると、今回の2本は10月5日に提出され、13日に内閣へ転送され、16日に答弁書を受け取った。2本は第222回国会で参議院に出された質問主意書の第1号と第2号に当たる。

今回の答弁書は、要請の一つ一つに対して新たな施策を示したものではなく、既にある指針や補助金、地震後に講じた措置を並べて答える形だった。自衛隊の給食支援を巡っては、今回の派遣で部隊が何をするかが知事の要請の中身に沿って決まっていたことが、答弁書の文言で示された。