政府は10月9日、国家公務員災害補償法と国家公務員共済組合法の一部を改正する法律案を臨時国会に提出した。国家公務員が仕事中や通勤中の事故・病気で亡くなったとき、遺族に支払う「遺族補償年金」と、共済組合の「公務遺族年金」の受給資格には、妻には無い年齢の条件が夫にだけ付いている。改正案はこの男女差をなくし、夫も妻と同じく年齢を問わず受け取れるようにする。内閣人事局がまとめた法案の概要によると、施行は2027年(令和9年)4月1日の予定だ。

夫だけに「55歳以上」 改正案は年齢要件を外す

内閣官房が公開している第222回臨時国会の提出法案一覧には、この法案が「R8.10.9」の提出日、担当部局「内閣人事局」で載っている。概要は法案の目的を「人事院の意見の申出に鑑み、国家公務員災害補償法による遺族補償年金の受給資格者要件についての男女差を解消する改正等を行う」と説明する。あわせて共済組合法の公務遺族年金も、遺族への補償と給付の制度を「一体的に見直す」ため、同じように男女差をなくす。

概要の表によると、遺族補償年金で「被災職員の死亡時に55歳以上又は一定の障害の状態にあること」という年齢や障害の要件が課されているのは、いまは夫、父母、祖父母だ。妻にはこの要件が無い。改正後は要件が課されるのは父母と祖父母だけになり、夫は妻と同じ「要件なし」の側に移る。

共済組合法の公務遺族年金も同じ組み立てになっている。「職員の死亡時に55歳以上であること」という年齢の要件が夫、父母、祖父母に課されており、改正後は父母と祖父母だけに残る。夫と妻はどちらも年齢を問われなくなる。

遺族補償年金は、公務災害や通勤災害で職員が亡くなったとき、その収入で生計を立てていた遺族に国が支払う年金だ。法律は「遺族補償として、職員の遺族に対して、遺族補償年金又は遺族補償一時金を支給する」と定める。公務遺族年金は、国家公務員共済組合の年金のうち、公務で亡くなった組合員の遺族に支給する年金で、共済組合法が定める「退職等年金給付」の一つに数えられている。

現行法では「60歳まで支給停止」も

現行の国家公務員災害補償法の条文を見ると、夫の扱いはもう一段複雑だ。第16条は、遺族補償年金を受けられる遺族を配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹で職員の収入によって生計を維持していた人としたうえで、「妻以外の者にあつては」要件を満たす場合に限ると定める。夫、父母、祖父母の要件は本則では「六十歳以上であること」だ。

これを附則が緩めている。附則第18項は、職員の死亡当時に55歳以上60歳未満だった夫、父母、祖父母、兄弟姉妹も遺族補償年金を受けられる遺族とする。ただし附則第20項で、この人たちへの年金は60歳に達する月までは「その支給を停止する」とされ、受け取る順位も本則の遺族より後に回る。

共済組合法も同じ形だ。第2条第3項は、遺族の範囲を決めるにあたって「夫、父母又は祖父母は五十五歳以上の者」に限ると定め、公務遺族年金の規定では「夫、父母又は祖父母に対する公務遺族年金は、その者が六十歳に達するまでは、その支給を停止する」とする。

つまり、いまの制度で職員の妻が亡くなった場合、夫が54歳以下なら障害の状態でない限り年金は受けられず、55歳から59歳なら受給資格はあっても60歳までは支払われない。妻の側にはどちらの制約も無い。改正案はこのうち、夫に課された年齢の要件を取り除く。

遺族1人の年金額、153日分と175日分の差もなくす

改正案は、受給資格に加えて年金額の男女差にも手を入れる。

遺族補償年金の年額は、年金を受ける遺族と、その遺族と生計を同じくする受給資格者の人数で決まる。現行法第17条は、1人なら平均給与額の153日分、2人なら201日分、3人なら223日分、4人以上なら245日分と定める。平均給与額は、事故の前月末から過去3か月間に支払われた給与の総額を、その期間の総日数で割った1日あたりの額だ。

1人の場合には但し書きがあり、「五十五歳以上の妻又は人事院規則で定める障害の状態にある妻」は175日分に上乗せされる。夫が1人で受給する場合には、この上乗せは無い。改正案は1人の場合の額を一律に175日分とする。

仮に平均給与額が1万2000円の職員が亡くなり、遺族が配偶者1人だけだった場合で計算すると、153日分は年183万6000円、175日分は年210万円になる。いまは55歳以上の妻なら210万円、55歳未満の妻なら183万6000円で、改正後は夫婦どちらが残されても、年齢にかかわらず210万円になる計算だ。

改正案にはもう一つ、時効の見直しも入っている。現行法では、療養補償、休業補償、介護補償、葬祭補償を受ける権利は、請求できる時から2年で時効により消える。改正後もこの2年は維持しつつ、「特定の疾病に係る補償」に限って5年に延ばす。傷病補償年金、障害補償、遺族補償は、現行法でもすでに時効が5年になっている。

起点は8月の人事院の意見の申出

公務員の災害補償は、民間の労災保険とは別の法律で定められている。民間の制度が変わっても公務員側は自動的には変わらず、国家公務員災害補償法を改める必要がある。その手続きの起点になったのが、人事院が8月7日、令和8年の給与勧告と同じ日に国会と内閣へ出した「国家公務員災害補償法の改正についての意見の申出」だ。

人事院の報告は、民間側の動きから説き起こしている。「令和8年7月、民間労働法制において、労働者災害補償保険の遺族補償年金における支給要件等の見直しを含む労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律(令和8年法律第60号)が成立した」。そのうえで、同法の内容も踏まえ、国家公務員災害補償制度が「共働き世帯の増加などの就労構造の変化を含め時代に即したセーフティネットとなるよう」措置を講じると書いた。

意見の申出の本文は、夫について「60歳以上であることとする要件及びこれに該当しない夫は人事院規則で定める障害の状態にあることとする要件を廃止すること」と求め、あわせて年齢を「55歳以上とする経過措置」も廃止するよう求めた。遺族1人の年金額を一律に平均給与額の175日分とすること、判断の難しい疾病に限って療養補償などの時効を5年とすることも盛り込み、実施時期を「令和9年4月1日」とした。時効を延ばす対象の疾病について、人事院は報告の注で「脳・心臓疾患、精神疾患等を想定している」と記している。

民間の改正法は、衆議院の議案情報によると4月7日に国会へ提出され、衆議院本会議で6月2日、参議院本会議で7月10日に可決された。公布は7月17日だ。参議院の議案要旨によると、この法律は遺族補償年金などの遺族の要件から「夫にのみ課された要件を削る」とし、遺族1人の場合の額を「一律で給付基礎日額の百七十五日分とする」。一部を除いて施行は令和9年4月1日で、今回の公務員の改正案と同じ日になる。同じ法律には、労災保険を当分の間適用しない事業を定めた暫定措置の廃止も入っている(農林水産業の小規模な事業も労災保険が強制適用へ 2031年4月1日から 労政審が施行期日の政令案を「妥当」と答申 いま任意で加入しているのは農業約2.3万・漁業約2千・林業約6百の経営体)。その前段として、厚生労働省の労働政策審議会は1月14日の建議で、遺族(補償)等年金について「夫にのみ課せられた支給要件を撤廃することが適当である」とし、「高齢や障害のある妻のみ特別に給付水準に差を設ける合理性はない」として遺族1人の給付を175日分とするよう求めていた。

今回の改正案は、この民間の見直しを人事院の申出を経て公務員の制度に移し、災害補償だけでなく共済組合の公務遺族年金にも広げる形になる。建議は一方で、生計維持の要件や給付期間を含めた遺族年金の在り方について「引き続き議論を行う必要がある」とも記しており、制度全体の議論はなお続く。法案は臨時国会で審議され、成立すれば2027年4月1日から新しい要件が適用される。