障害のある人が18歳になったり、高校や特別支援学校の高等部を卒業したりした後も、福祉や教育の支援を切れ目なく受けられるようにする施策を国と地方自治体の責務とする議員立法が、衆議院で審議されている。法案名は「障害者及びその家族に対する福祉、教育等に係る支援に関する施策の総合的な推進に関する法律案」。衆議院が公表した要綱には「いわゆる『18歳の壁』対策法案」と副題が付いている。議案審議経過情報によると、提出者は国民民主党・無所属クラブの森ようすけ氏、日野紗里亜氏、西岡義高氏の3人で、令和8年(2026年)10月5日に文部科学委員会に付託された。

第221回国会に提出、文部科学委員会に付託

法案は第221回国会に衆法第6号として提出された。第222回国会の議案一覧では、審議状況が「衆議院で審議中」と記載されている。議案審議経過情報の「衆議院議案受理年月日」の欄は空欄で、付託年月日と付託委員会(文部科学)だけが入っている。委員会での審査や本会議の採決の日付はまだ無い。

提出者3人のほか、議案提出の賛成者として玉木雄一郎氏、古川元久氏、浅野哲氏、田中健氏、西岡秀子氏ら同会派の25人が名を連ねる。国会法第56条は、衆議院で議員が議案を発議するには議員20人以上の賛成を要し、予算を伴う法律案は50人以上の賛成を要すると定めている。

法案は全16条と附則からなる。第1章「総則」(第1〜5条)で目的・定義・基本理念・国と自治体の責務を定め、第2章「基本的施策」(第6〜16条)で、国と自治体が講じる措置を並べる。施行は公布の日とされている。個別の給付や事業の金額を定める法律ではなく、施策の方向を定め、国と自治体に措置を講じるよう義務づける形の法案である。

目的は「切れ目のない支援」

第1条は、18歳に達し、または高等学校や中等教育学校の後期課程、特別支援学校の高等部などを卒業した障害者について、「家族による養護を受けられない間における居場所の提供、多様な学習及び就労の機会の確保、その家族の負担の軽減等を図ることが喫緊の課題となっていること等に鑑み」と、法案を出す理由を書き込んだ。そのうえで、障害者とその家族が支援を「切れ目なく受けられるようにする」ための施策を総合的に進め、障害者の生涯にわたる自立と社会参加、障害者と家族の生活の質の維持向上を図ることを目的に掲げる。

「障害者」の範囲は障害者基本法の定義をそのまま使う。基本理念(第3条)は3項からなり、支援を切れ目なく提供して各般の問題に対応すること、社会全体で取り組む課題として国・自治体・関係機関・民間団体が密接に連携すること、個々の障害者の特性に配慮し、本人と家族の意向を十分に尊重することを定める。

第5条は、政府に「必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない」と義務づける。ただ、どの程度の予算をいつまでに充てるかは法案に書かれていない。

卒業後の居場所・学び・働く場

法案の中心は、18歳に達し、または高校などを卒業した障害者とその家族への支援を定めた第7〜9条だ。

第7条は居場所の支援で、日常生活の支援や就労支援などの福祉サービスについて「利用時間帯の拡充をはじめ、家族が家庭にいない間における障害者の居場所の提供」の充実を図るよう求める。家族が休息などで健康を保つのに必要な時間の居場所を確保する環境の整備も挙げた。第8条は学習の支援で、特別支援学校の高等部に置く専攻科の設置を促し、専攻科での教育にかかる経済的な負担を軽くする措置を求める。専攻科は、高校段階を終えた人がさらに学ぶ課程で、学校教育法第58条は高等学校の専攻科を、高校などを卒業した人に「精深な程度において」特別の事項を教える課程と定めている。第9条は就労の支援で、職業訓練の実施、就労の機会の確保、就労を続けるための支援を挙げる。

これらに先立つ第6条は、国に障害者と家族の実態調査を求める。調べる項目は、福祉サービスの利用状況、その需要、家族の就業状況、世帯の所得の4つで、障害の種類と程度、年齢ごとにきめ細かく調べて結果を公表する。18歳に達したことや高校を卒業したことが本人と家族にどう影響するかを明らかにするのが目的とされ、国と自治体は結果に基づいて制度を見直すものとされる。

主な規定は次のとおり。

条 対象 国と自治体に求める主な措置
第6条 実態調査 障害の種類・程度・年齢ごとに、福祉サービスの利用と需要、家族の就業、世帯の所得を調べて公表
第7条 卒業後の居場所 福祉サービスの利用時間帯の拡充、家族が不在・休息中の居場所の確保
第8条 卒業後の学習 特別支援学校高等部の専攻科の設置促進、経済的負担の軽減
第9条 卒業後の就労 職業訓練、就労機会の確保、定着支援
第10〜12条 在学中の教育 個別の教育支援計画の活用、在学期間の弾力化、教員研修、支援員の配置
第13〜14条 環境の整備 特別支援学校や就労施設の放課後・休日の活用、通勤・通学の移動支援
第15〜16条 横断的な推進 情報提供と相談、福祉と教育の部局間の情報共有
「18歳の壁」対策法案の基本的施策(第6〜16条)

出典: 衆議院「障害者及びその家族に対する福祉、教育等に係る支援に関する施策の総合的な推進に関する法律案 要綱」

在学中の教育と、施設・移動の支援

法案は卒業後だけでなく、在学中の児童生徒への教育も扱う。第10条は「個別の教育支援計画」と「個別の指導計画」を適切に作って活用すること、教育課程や在学期間を弾力的に扱うこと、他者との関わりや消費者教育など日常生活と社会生活で自立するための教育を進めることを求める。第11条は教員の特別支援教育の体系的な研修の機会を確保し、特別支援学校の教員免許状の取得や、教員を目指す学生による特別支援教育・福祉の科目の履修を促す。第12条は、教員の負担を軽くするため、児童生徒を支える人や心理・福祉の専門家の配置を促すよう求める。

文部科学省が8月に公表した令和8年度の学校基本調査(速報)によると、特別支援学校の在学者は16万3169人で、前年度より約4000人増えて過去最多となった。

環境の整備では、第13条が、放課後や終業後、休業日に「十分に活用されていない」特別支援学校や障害者就労施設などの施設を、支援の場として生かすよう求める。第14条は、通勤・通学・通所の移動を支える体制を広げ、その担い手を確保するよう定める。第15〜16条は、福祉・教育・療育・労働・医療・保健の関係機関の連携と、国と自治体の福祉部局と教育部局の情報共有を進めるとしている。

「18歳の壁」はどこにあるのか

法案は第1条で、18歳に達した後や高校などを卒業した後の居場所・学習・就労と家族の負担を「喫緊の課題」と位置づけた。在学中と卒業後で使える制度が切り替わる例が、放課後や休日に障害のある子どもを受け入れる放課後等デイサービスだ。

児童福祉法は「児童」を満18歳に満たない者と定め、放課後等デイサービスを、学校(幼稚園と大学を除く)や専修学校などに「就学している障害児」に、授業の終了後や休業日に生活能力の向上や社会との交流の支援を行うものと定義している。同法第21条の5の13は、引き続き利用しなければ福祉を損なうおそれがあると市町村が認めるときは、本人の申請により満20歳まで給付を続けられるとするが、それより先には延ばせない。

つまり、放課後等デイサービスは学校に通っていることが前提の仕組みで、卒業すると対象から外れる。卒業後に通う先は、障害者向けの就労支援などの福祉サービスに移る。法案の第7条が、そうした福祉サービスの「利用時間帯の拡充」と「家族が家庭にいない間」の居場所を明記したのは、在学中に放課後や休日を過ごしていた場が卒業で途切れることへの手当てである。第13条も、支援を提供する「場所の一層の確保を図るため」として、放課後や休業日に十分に活用されていない特別支援学校や就労施設の活用を挙げている。

金額と期限の無い基本法、実態調査の中身が問われる

法案は、国と自治体に措置を「講ずるものとする」と定める条文が大半を占め、どの事業にいくらの予算を充てるか、いつまでに何を整えるかの数値目標は書かれていない。第5条で政府に財政上の措置を義務づけているものの、その中身は成立後の予算と個別の制度改正に委ねられる。

そのため、法案のうち最も具体的に読めるのは第6条の実態調査である。障害の種類・程度と年齢ごとに、福祉サービスの利用と需要、家族の就業、世帯の所得を調べて公表するよう国に求めている。卒業を境に家族が仕事を減らしたり辞めたりしているのか、夕方の居場所が地域にどれだけ欠けているのかが数字で示されれば、第7条の居場所の拡充にどれだけの予算が要るかを議論できる。

本紙は、法案が成立するかどうかにかかわらず、この調査を国が自ら行うべきだと考える。居場所をどれだけ増やすか、専攻科をいくつ設けるかは、卒業後の本人と家族の暮らしを数字でつかんだうえでなければ決められないからだ。法案は文部科学委員会に付託されたまま、審査の日程は示されていない。委員会で審査に入るのか、政府がこの課題にどう応じるのかを、委員会の議事日程と答弁で確かめていく。