茂木敏充外相は10月31日午前(現地時間)、20か国・地域(G20)外相会合が開かれた米ジョージア州アトランタで、オーストラリアのペニー・ウォン外相、インドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相、マルコ・ルビオ米国務長官と日米豪印外相会合を約40分間開いた。外務省が同日発表した。4か国は会合にあわせて「経済的繁栄及び経済安全保障に関する日米豪印共同プレスリリース」を出し、インド太平洋で信頼できる人工知能(AI)を使えるようにするため、8500万ドルを超える技術・資金支援を拠出する意向を示した。日米豪印の外相がそろうのは、5月、7月に続いて今年3回目となる。

地域情勢と経済的威圧で認識をすり合わせ

会合は現地時間午前9時過ぎ(日本時間同日午後10時過ぎ)に始まった。外務省の発表によると、茂木外相は冒頭、1年で3回目の外相会合が開かれたことを歓迎し、G20外相会合の機会に開く今回の会合は、経済分野を含む実践的な協力の成果を示す機会だと述べた。4人は「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向け、日米豪印の具体的な協力を進めていくことを改めて確認した。

議論は東シナ海・南シナ海を含むインド太平洋の情勢と中東情勢に及び、4人は認識をすり合わせた。茂木外相は、力または威圧による一方的な現状変更の試みに強く反対すると表明した。4人はそろって、恣意的な輸出規制や、重要産業の世界的な供給網を乱す過剰生産につながる非市場的な政策・慣行を含む「経済的威圧」に深刻な懸念を示した。

茂木外相は北朝鮮の完全な非核化に向けた関与と、悪意あるサイバー活動への対処の重要性を強調した。拉致問題の即時解決に向けて米豪印の政府が一貫して支持していることに謝意も伝えた。

4人は協力の柱として、海洋・越境安全保障、経済的繁栄・経済安全保障、重要・新興技術、人道支援・緊急対応の4分野を確認した。次の首脳会合と外相会合への期待を示し、引き続き4か国で緊密に連携することで一致した。

共同プレスリリース、AI支援と海峡の航行を明記

共同プレスリリースは英文が正文で、外務省が仮訳を付けて公表した。まず経済安全保障を国際的な安定と繁栄の柱に位置づけ、信頼できる開かれた供給網と、強靱なインフラを築くことへの関与を改めて示した。

海上交通では、重要なシーレーンや途切れない通商、エネルギー安全保障の大切さに触れ、通航料を課されずに船と船員が安全に通れることの重要性を認めた。そのうえで、国連海洋法条約(UNCLOS)に反映された国際法に沿って、ホルムズ海峡、紅海、バブ・エル・マンデブ海峡で航行の権利と自由を守る「絶対的な必要性」を強調した。

AIについては、「パックス・シリカ」のような取り組みが将来の経済成長に重要だとし、「日米豪印AI(SI)アクセラレータ」などを通じて8500万ドルを超える支援を出す意向を表明した。英文は「Super Intelligence(SI、超知能)」と書き、注で豪州、インド、日本では「SI」は「AI」を指すと断っている。仮訳も「AI(SI(超知能))」と併記した。用語の扱いに米国と他の3か国で違いがあることを、文書の中で明示した形だ。

オンライン詐欺にも触れた。4か国は、詐欺拠点を運営し、人身取引の被害者に自国民を狙う詐欺を強いている犯罪組織を非難した。こうした組織が各国民の資産を年間数百億ドル規模で奪っているとし、組織と指導者の責任を追及すると約束した。8月26日のネパールの洪水で亡くなった人々への哀悼も表し、初動で救助にあたったインドの役割と、4か国によるネパール支援を挙げた。

重要鉱物の回収やフィジーの港湾整備

共同プレスリリースは後半で、分野ごとの進み具合を並べた。経済分野で最も具体的なのは重要鉱物だ。5月に発表した「日米豪印重要鉱物イニシアティブ枠組み」のもとで、4か国は電気・電子機器の廃棄物(e-waste)やスクラップから重要鉱物を回収する取り組みを共同で進めている。特定の供給源への依存を減らすのが目的で、米国は回収のためのインフラや施設の整備に向け、インドと東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国に1000万ドルを拠出する。4か国は、リサイクル可能な素材が国境を越えて動きやすくなるよう、輸出入手続きの合理化も検討する。

エネルギーでは、9月に初の「日米豪印燃料セキュリティ・フォーラム」を開き、各国の戦略石油備蓄や在庫の強化について話し合ったと記した。インフラでは、フィジーのスバ、ラウトカ、ロコビリの主要港の近代化に、米国のミレニアム・チャレンジ公社や豪州政府が関わっている。大洋州、東南アジア、南アジアでは、これまでに2000以上のインフラ分野の研修(フェローシップ)を提供した。

民間との連携では、4か国の産業界の指導者や政府、政策専門家を集める初の「日米豪印ビジネス・リーダーズ・フォーラム」の立ち上げを発表した。4か国の輸出信用機関は2024年の協力覚書に基づき、11月18日に東京で会合を開き、実務的な協力の機会を探る。海底ケーブルについても、冗長性のある高速の経路づくりと、安全な管理の手法の共有を急ぐとした。

海の監視や半導体、災害対応の訓練

海洋・越境安全保障では、4か国の代表がインド沿岸警備隊の巡視船に同乗する2回目の「シップオブザーバー・ミッション」が、9月25日から10月7日にかけてインドのチェンナイから豪州のパースまで航海した。5月にニューデリーで発表した「インド太平洋海洋監視協力(IPMSC)」は、2027年に米海軍が主催する固定翼哨戒機の多国間訓練「シードラゴン」で初めての演習を行う予定だ。2027年初めには、海洋状況把握(MDA)について地域の国々と話し合うシンポジウムも初めて開く。

重要・新興技術では、5G・6Gやオープン無線アクセスネットワーク(オープンRAN)など信頼できる通信技術で協力する優先国を特定する。先端半導体とAI向けの機器については、混乱が起きる前に供給網の詰まりどころ(チョークポイント)を洗い出す取り組みを新たに始める。サイバー分野では、今月開いた日米豪印のサイバー上級事務レベル会合で、地域のサイバー環境を支える能力を強めることを確かめたと記した(日米豪印と日米比、シンガポールでサイバー会合 同じ日に2つの枠組みで協議)。

人道支援・緊急対応では、豪州、日本、米国が、11月にインドが実施する人道支援・災害救援の年次共同演習「AJHE-26」にオブザーバーを送る。9月には日本の防衛省が主催した「インド太平洋ロジスティクス・ネットワーク(IPLN)」の第2回机上演習で、標準手順書づくりが進んだ。次のIPLN演習は、米海軍主催の環太平洋合同演習(RIMPAC)で行う。

5月のデリー、7月のマニラに続く会合

日米豪印の外相は今年、相手国の会議の機会をとらえて集まりを重ねている。外務省の発表を並べると次のとおりだ。

開催日(現地時間) 場所 会合の時間 主な発出文書
5月26日 インド・デリー 約60分 外相共同声明、ファクトシート、エネルギー安全保障に関する声明、重要鉱物イニシアティブ枠組み
7月22日 フィリピン・マニラ(ASEAN関連外相会議の機会) 約60分 ASEANとの協力に関する共同プレスリリース
10月31日 米国・アトランタ(G20外相会合の機会) 約40分 経済的繁栄及び経済安全保障に関する共同プレスリリース
2026年の日米豪印外相会合出典: 外務省「日米豪印外相会合」(令和8年5月26日、7月22日、10月31日)

5月のデリーの会合では、4か国が「インド太平洋エネルギー安全保障イニシアティブ」と「重要鉱物イニシアティブ枠組み」を立ち上げた。今回の共同プレスリリースで並んだ重要鉱物の回収や燃料セキュリティ・フォーラムは、この2つの枠組みの下で動いている事業にあたる。7月のマニラではASEANの中心性を支持する姿勢を打ち出し、今回はG20の場で経済分野の成果を示すことに重点を置いた。3回とも、力または威圧による現状変更への反対と、重要鉱物などの輸出規制への懸念が発表に盛り込まれている。

茂木外相はアトランタ滞在中、日米豪印のほかにも日米韓外相会合や豪州、サウジアラビア、トルコ、ロシアとの外相会談などに臨んだ(日米韓外相、北極太平洋の協力覚書に署名 作業部会を設置へ 今年4回目の会合)。共同プレスリリースは末尾で、日米豪印首脳会合と次の外相会合に期待を示したが、開催の時期や場所には触れていない。