高市首相は10月29日、首相官邸で記者会見し、中東情勢を受けて続けているガソリンなど燃料油への補助(緊急的激変緩和措置)について、12月以降、原油価格の動向を注視しつつ、春先に向けて「基準価格」を毎月5円ずつ引き上げていくことを基本に対応すると表明した。補助単価が1リットル当たり50円を超えて過去最高の水準に達し、税金を1日あたり100億円を超えるペースで使っていることを理由に挙げた。

あわせて、冬の電気・ガス料金の負担軽減策を今季も実施し、前回より1か月早い12月から支援を始めると発表した。標準的な家庭では12月から2月までの3か月間で、電気・ガスあわせて「7,000円程度」の負担が下がるという。燃料油の当面の支援に必要な基金を確保するため、「中東情勢等対応予備費」の使用も指示した。一方、基準価格を引き上げる期間や補助の完全終了の見通しについては「予断をもって申し上げることはいたしません」と述べた。

10月23日の指示から6日で結論

首相は10月23日の会見で、燃料油補助の支援単価や「措置の出口」を含めた支援の在り方を検討するよう、赤澤経済産業相に指示していた(高市首相、燃料油補助の見直し検討を経産相に指示 「出口」も含め 基金確保も)。その際は「いきなり来月から変わるということではなく」と述べ、結論の時期は示していなかった。

29日の冒頭発言で首相は、与党の自民党と日本維新の会に加え、国民民主党、中道、立憲民主党などの野党からも「段階的な見直し」や「出口戦略」を考えるべきだとの指摘を受けてきたと説明した。前日の28日には自民党と維新から官邸に提言が届き、赤澤氏とともに検討を進めたという。

自民党の提言は、12月以降、春先に向けて基準価格を「毎月5円程度ずつ」段階的に引き上げることを基本とするよう求めていた(自民、ガソリン補助の段階縮小を首相に提言 12月から基準価格を月5円程度上げ 維新も同日申し入れ)。首相が表明した方針は開始の月と引き上げ幅がこの提言と同じで、表現は「程度」を外した「毎月5円ずつ」となった。

基準価格の引き上げで何が変わるか

今回の措置は、3月11日の首相指示で始まった。資源エネルギー庁の資料によると、ガソリンの全国平均小売価格が170円程度を超える見込みになった場合に、170円を超える部分を全額補助する仕組みで、軽油・重油・灯油にはガソリンと同額を、航空機燃料にはガソリンの補助額の4割相当を出す。支給は3月19日に始まった。

補助単価は毎週改定される。前週の支給単価に、今週のガソリン全国平均小売価格と原油価格の変動、元売事業者の調達費用に基づく「調整単価」を加え、そこから基準単価の170円を差し引いて算出する。10月29日以降の支給単価はガソリン、軽油、灯油・重油がいずれも1リットル52.4円、航空機燃料が41.9円。11月分の調整単価は7.2円となっている。

この算定式に当てはめると、基準価格が5円上がるたびに、ほかの条件が同じなら補助単価は5円小さくなり、補助で抑える店頭価格の目安は170円から5円ずつ上がっていく。軽油や灯油の補助もガソリンと同額のため、同じ幅で縮む。どの水準まで上げるかについて、首相は記者の質問に「こればかりはですね、今予断を持って申し上げることはできません」と答えた。

補助単価は過去最高、基金の支出は累計9.6兆円

首相は会見資料を示しながら、補助を縮める理由を説明した。資料によると、10月19日時点のガソリン価格は、補助のある日本が1リットル170.2円で、補助が無い場合の日本の価格は213.2円だった。米国は178.2円、カリフォルニア州は250.8円、英国は373.6円、ベルギーは361.5円、ドイツは396.1円、フランスは405.1円で、首相は日本の価格が「フランスやドイツと比べて『半分以下』」で、産油国の米国をも下回ると述べた。

主要国のガソリン価格(10月19日時点、1リットル当たり)(円)

日本補助後170.2日本補助前213.2米国178.2英国373.6ドイツ396.1フランス405.1
出典: 首相官邸「記者会見資料(令和8年10月29日)」スライド3
数値で見る(単位: 円)
項目円
日本補助後170.2
日本補助前213.2
米国178.2
英国373.6
ドイツ396.1
フランス405.1

一方で首相によると、補助単価は2022年(令和4年)1月に燃料油の激変緩和措置が始まって以降、最も高い水準にある。首相は、燃料油支援のための基金への支出額が開始以降の累計で約9.6兆円、高市内閣の下では約1.4兆円に達したと明らかにした。

記者から、見直しは政府の財政負担が限界に近づいているとの判断かと問われると、首相は「そういう判断ではございません。国がお金持ちになっても仕方がないわけで」と否定した。そのうえで「国民の皆様の貴重な税金でございますから、その使途について賢く考えて、そして、より必要なところにお金を入れていく」と述べた。

電気・ガス支援は12月から、灯油は輸入分に財政措置

電気・ガス料金の支援について、首相は「前回は1月からの支援でございましたが、今季は、寒さが本格化する12月に前倒しして支援を開始します」と述べた。電気料金は1キロワット時当たり、12月に1円、1月と2月に各4.5円を支援する。ガス料金も支援するとしたが、会見では単価を示さなかった。3月分は「気候の状況」や「エネルギー価格の動向」を見極めたうえで対応を検討する。政府は夏にも電気・ガス料金の支援を行っていた(政府、電気・ガス料金支援を7月から再開 猛暑の8月は上乗せ 予備費5135億円)。

寒さが厳しい地域の生活に欠かせない灯油については、「供給の偏り」や「流通の目詰まり」が起きないよう、特に価格が高い「輸入灯油」への財政措置をはじめとする「流通円滑化対策」を強化するとした。自民党の提言も、輸入灯油への支援を通じた灯油価格の抑制を求めていた。

首相は、燃料油への支援があくまで「激変緩和措置」であることに加え、今年の年末調整で納税者1人あたり3万円から6万円の所得税負担を軽減することや、来年4月以降の飲食料品の消費税率引き下げを挙げ、「切れ目ない物価高対策を講じたい」と強調した。消費税率の引き下げは国会で審議中で、首相は食料品の物価上昇率が各国と比べて高止まりしているとして「必要な措置だと、私は考えております」と述べた。

決まっていないこと

今回示されたのは、12月から基準価格を毎月5円ずつ上げるという「基本」である。いつまで引き上げを続けるのか、補助を完全に終えるのかは示されなかった。首相は「その価格の動向をしっかりと注視をしながら判断をしてまいります」と述べ、原油価格の動きを見ながら進める考えを繰り返した。

電気・ガス料金の3月分の扱いも未定で、ガス料金の支援単価は会見では示されなかった。燃料油の基金に充てる予備費は、首相が使用を指示した段階で、会見では金額に触れなかった。

会見資料は、物価高対策の成果として、日本の消費者物価上昇率が前年同月比2.1%とG7で最も低く、実質賃金の上昇率は2.0%でG7で最も高いと示している。ガソリン暫定税率の廃止や燃料油補助、電気・ガス料金の支援で物価上昇率を0.8%分押し下げたとの試算も載せた。補助が縮むことで、この押し下げ分がどれだけ小さくなるのかは、資料には書かれていない。

首相は10月23日の会見で、補助は軽油や重油、灯油にも適用されるため実感としては伝わりにくいかもしれないとしつつ、「輸送コストであったり、様々な産業を支えるコストであったり」を通じて暮らしに関わる物価を抑える役に立ってきたと述べていた。12月からの引き上げは、店頭のガソリン価格だけでなく、こうした燃料を使う事業者の費用にも及ぶ。