会計検査院は9月28日、災害時の緊急輸送道路などにある重要度の高い道路橋について、橋脚を鉄筋コンクリートや鋼板で巻いて補強する工事の設計が適切でなく、62の事業主体が手がけた407橋・橋脚1128基で、大きな地震を受けても損傷が限定的で機能の回復が速やかに行える「耐震性能2」が確保されていない、または確保されていないおそれがあると公表した。指摘を受けた国土交通省は設計手法を全国に周知し、性能が足りない橋脚について毎年度の報告を求める処置を講じた。
巻き立てて重くなった分を基礎で受けられるか調べていなかった
「巻立て工法」は、既にある橋脚の柱に鉄筋コンクリートや鋼板を巻き付けて太くし、地震に耐える力を増やす工法である。ただし巻き立てた材料の重さで橋脚自体が重くなるため、地震のときに基礎やフーチング(荷重を地盤に伝える底盤)に伝わる力もその分だけ増える。国交省は平成27年6月の事務連絡で、この増加分を考慮して基礎部を照査するという考え方を示していた。
検査院が平成28年度から令和6年度までの工事を調べたところ、40事業主体が214橋・橋脚616基で、古い橋の設計図が保存されておらず基礎の構造がわからないなどの理由から、増加分を考慮した照査をしないまま設計し、工事を実施していた。検査院は、設計図が残っていなくても復元設計などで基礎の構造は把握できるとして、照査を実施する必要があったと指摘した。
応急措置が要る水準まで壊れてよい、とした設計
照査そのものの立て方が不適切な例も見つかった。23事業主体は96橋・橋脚278基で、基礎が変形して元に戻らなくなる「塑性化」を無条件に許してよいと解釈し、条件に当たらない、または当たるかどうか不明なのに、塑性化を許す場合の緩い照査項目で計算していた。
27事業主体は77橋・橋脚200基で、基礎の壊れ方の重さを表す区分(軽いⅠから重いⅤまで)のうち、応急措置が必要になる水準のⅣまで壊れてよいとして限界状態を設定していた。耐震性能2を満たすには、補修が不要とされるⅢにとどめる必要がある。兵庫県が令和5年度に補強した緊急輸送道路の工和橋(昭和62年築造)では、許される変形の比(許容塑性率)をⅣに対応する「4」と設定していたが、Ⅲに対応する値は「2」であり、計算上の値2.71は上限を超えていた。
さらに41事業主体は161橋・橋脚359基で、照査の結果として基礎に働くせん断力などが許容範囲に収まらず耐震性能2に届かないと把握していながら、柱の補強で足りると考えて設計を直さずに工事をしていた。三重河川国道事務所が平成30年度に補強した新愛宕橋(上り)の第2橋脚では、フーチングに働くせん断力2318.93キロニュートンが、これに耐える力1560.36キロニュートンを大きく上回っていた。
国交省は3月と6月に周知、毎年度の報告を求める
検査院は、事業主体側で基礎部の照査の重要性の理解が十分でなかったことに加え、国交省が照査手法や損傷度の区分の意味、性能が足りないと分かった場合に設計を変える必要性を十分に周知していなかったことが原因と認めた。
国交省は指摘を受け、令和8年3月と6月に地方整備局などを通じて国道事務所や都道府県に事務連絡を出した。設計図がない場合の照査手法や照査項目の選び方、限界状態を設定する際の損傷度の区分を示し、照査でせん断力などが許容範囲に収まらない場合は設計を変更してから工事をするよう求めた。そのうえで、改めて照査して耐震性能2が確保されていないと分かった橋脚については、許容範囲をどの程度上回っているかを把握し、緊急度に応じて補強の優先順位を定めた対応方針を作らせ、毎年度更新して報告するよう求める仕組みにした。
検査対象は1178億円分の工事
検査の対象は、9地方整備局等の管内にある13国道事務所等、15府県、6政令指定都市、35市町の計69事業主体が平成28年度から令和6年度に実施した496橋・橋脚1350基、工事契約718件・契約金額計1178億5943万円分である。このうち重複を除いて指摘されたのは593件・契約金額996億6603万円分で、巻き立て部分の直接工事費は111億3415万円、国の補助金などに相当する額は49億4646万円だった。
緊急輸送道路は、地震や豪雨のあとに救助や物資輸送のために優先して使う道路として指定されている。ここにある橋が落ちたり大きく傷んだりすれば救援そのものが遅れるため、道路橋示方書はこうした橋を「B種の橋りょう」として、発生確率は低いが強い揺れ(レベル2地震動)に対しても耐震性能2を確保するよう定めている。政府は災害対応の司令塔として防災庁、11月2日に発足 施行期日の政令を閣議決定 統括官4人・参事官15人を置く 地方機関「防災局」の施行日は決まらずを決めたが、救援が実際に通る道路と橋の点検・補強は、これまでどおり国交省と自治体が積み上げる仕事として残る。
