環境省は10月26日、水道水に含まれる農薬の検査で水道事業者が目安にしている「対象農薬リスト」を見直す案をまとめ、意見募集(パブリックコメント)を始めた。浄水場の原水や浄水で検出される可能性が高い13種をリストに加え、5年間にわたって目立った検出の無い20種をリストから外して「その他農薬類」に移す。どの農薬を入れ替えるかの選定には、全国の検出データと農薬の出荷量を学習させた機械学習の予測を使った。意見の締め切りは11月25日午前0時。2027年3月以降に通知を順次出し、同年4月1日以降、農薬ごとに定める日から適用する。

水道水の農薬はどう管理されているのか

水道法4条は、水道で供給する水が水質基準を満たすことを求めている。農薬はこの水質基準には入っておらず、基準とは別に「水質管理目標設定項目」の一つとして管理されている。2003年10月の厚生労働省健康局長通知が定めた仕組みで、今回の見直しは環境省がこの局長通知の別添2を改正する形をとる。

評価の方法は「総農薬方式」と呼ばれる。8月の検討会の議事録によると、検出された農薬ごとに濃度を目標値で割り、それを合計した値が1を超えないこととしている。どの農薬を測るかは各水道事業者が地域の状況を見て選ぶ。そのうえで国は、浄水で検出される可能性が高い農薬を局長通知の別添2に「対象農薬リスト掲載農薬類」として列挙し、名称と目標値を示している。現在の掲載数は115種だ。

環境省は目標値について「目標とする濃度ではなく、これを超えないことが望ましい濃度」と説明している。水道水ではなるべく低い濃度が望ましいという考え方に立つ管理の目安で、「水道水を作る過程で農薬を入れるという趣旨ではない」とも付け加えている。

農薬の分類はリスト掲載のほかにもある。検討会資料によると、2026年4月1日時点で「要検討農薬類」が15種、「その他農薬類」が86種、過去のリストから外れた「除外農薬類」が17種ある。浄水での検出状況が一定の水準を超えると水質基準に格上げする「水質基準農薬類」という区分もあるが、該当は0種だ。

新たにリストへ加える13種

改正案は、現在「要検討農薬類」のエチプロール、クロロピクリン、メタアルデヒドの3種と、「その他農薬類」のエンドタール、フラメトピルの2種をリストへ移す。さらに、これまでどの分類にも入っていなかったメソトリオン、フェンキノトリオン、アバメクチン、トプラメゾン、オキサジアゾン、トルピラレート、イミシアホス、ランコトリオンナトリウム塩の8種を新たにリストに載せ、目標値を設ける。

農薬名 いまの分類 目標値(mg/L)
エチプロール 要検討農薬類 0.01
クロロピクリン 要検討農薬類 0.003
メタアルデヒド 要検討農薬類 0.06
エンドタール その他農薬類 0.02(新たに設定)
フラメトピル その他農薬類 0.02
メソトリオン 分類なし 0.008
フェンキノトリオン 分類なし 0.004
アバメクチン 分類なし 0.002
トプラメゾン 分類なし 0.008
オキサジアゾン 分類なし 0.009
トルピラレート 分類なし 0.02
イミシアホス 分類なし 0.001
ランコトリオンナトリウム塩 分類なし 0.003
対象農薬リストへ移す・加える13種と目標値(案)出典: 環境省「水道水中における農薬類の分類の見直し(案)について(概要)」、水質基準逐次改正検討会資料2

目標値は、農薬ごとの1日許容摂取量(ADI)から計算している。検討会資料によると、体重50キロの人が1日2リットルの水を飲み、ADIのうち10%を水道水に割り当てるという前提で試算した。新たに加える8種で最も低いのはイミシアホスの0.001mg/Lで、最も高いのはトルピラレートの0.02mg/Lだ。

要検討農薬類の3種は、環境省の調査で過去5年間に検出事例があったことが選定の理由になった。資料によると、メタアルデヒドは2020〜24年度の毎年、原水か浄水で目標値の100分の1を超えて見つかり、最も高かった21年度は目標値の20%に当たる濃度だった。エチプロールは21、22年度に、クロロピクリンは24年度に検出されている。クロロピクリンをめぐっては、本紙も「農薬による人の事故、令和7年度は16件で5年のうち最少 だが被害者は36人で前年度の18人から倍増 2人が死亡」で農薬事故の状況を伝えている。

リストから外す20種

一方、リストに載っている1,3-ジクロロプロペン(D-D)、アシュラム、イソプロチオラン(IPT)、イプロベンホス(IBP)、キャプタン、クロロタロニル(TPN)、ジクロルボス(DDVP)、ジメトエート、チアジニル、チオジカルブ、トリフルラリン、ピラゾリネート(ピラゾレート)、ブタミホス、プロピコナゾール、プロピザミド、ペンディメタリン、ベンフルラリン(ベスロジン)、ベンフレセート、マラチオン(マラソン)、メプロニルの20種は「その他農薬類」に移す。その他農薬類は「測定しても浄水から検出されるおそれが小さく、検討の優先順位が低い」農薬と位置付けられている。

資料によると、20種はいずれも2019〜23年度に原水でも浄水でも目標値の100分の1を超える検出が無かった。出荷量は2019農薬年度と23農薬年度の比較で横ばいか減少で、ジクロルボスとベンフルラリンは出荷が無くなっている。

外す候補を絞る過程では、機械学習で検出されにくいと予測された28種を出発点にした。このうち出荷量が上昇傾向にあったアラクロールと、水道事業者から検出事例の報告があったチオファネートメチルやカルタップなど8種の計9種は外す対象から除き、19種を残した。これとは別に、登録が失効して出荷が止まった9種を調べ、2019〜23年度に検出事例が無かったジクロルボスだけを加えた。

案どおりにすべて移行すれば、リストの掲載数は115種から108種になる計算だ。ただし環境省は、農薬類の検査法の調整を別に進めており、その状況を踏まえて農薬ごとに順次分類を変えるとしている。

機械学習で「検出されやすさ」を予測

環境省がリストを見直す理由は、事業者の検査がリストに沿って行われている点にある。改正案の概要は、農薬を検査している多くの水道事業者がリスト掲載の農薬を中心に検査対象を決めているため、定期的に見直さなければ「本来実施すべき必要な検査がなされない」一方で、「検出の可能性がほとんどない不必要な検査を実施し続けることになる」と説明する。農薬類を検査していない事業者も「一定数」あり、国が優先して検査すべき農薬を示す必要があるとしている。検討会の議事録によると、115種の顔ぶれはここ数年変わっていなかった。

選定に使ったのは、LightGBMという手法の機械学習モデルだ。日本水道協会の水道統計(2009〜23年度)と、環境省の委託調査の分科会が集めた実態調査(16〜24年度)の検出・不検出のデータを目的変数とした。説明する側の変数には、都道府県別の農薬出荷量を地域ごとに集計した使用量、土壌や水中での分解のしやすさ、土に吸着されやすさ、年間の測定回数などを入れた。全国を10の地域に分け、地域ごとに各農薬が検出される確率を推定した。

8月19日に開かれた環境省の水質基準逐次改正検討会では、外す農薬のその後の監視が論点になった。委員の1人は、いったんリストから外すと実際には測定されなくなりデータが無くなるとして、出荷量や使用量が増えた場合のフォローアップをどうするのかを尋ねた。環境省の水道水質・衛生管理室長は、事業者はリスト掲載の農薬を中心に測るため、外れると測る事例も少なくなると認めた。そのうえで、機械学習の精度を上げることや委託研究の中で、注視すべき農薬は「できる限りフォローを進めていきたい」と答えた。座長は、出荷量は毎年見直すため急な増加は把握できるとの認識を示した。

提出先を含む意見募集要領は、e-Govパブリック・コメントの案件ページに掲載されている。環境省は寄せられた意見を踏まえて局長通知の別添2を改正し、2027年3月以降に順次通知する予定だ。